業務への組み込み例

病気の相談を受けた上司が迷わない。両立支援の社内ルールはAIで

この記事で変わる経営指標

この記事では、病気の治療と仕事の両立を支える。決まりと窓口を整え、準備はAIでの「社員に知らせる1枚」と「管理職向けの説明」を、一度作って毎年直せる形にする方法を説明します。

一言でいうと、社長が、会社で使える休み方と働き方、相談の窓口、相談した情報を見られる人を表で決める。AIは、その表だけから、社員に知らせる1枚、相談を受けた上司の手順カード、上司が確かめる3問を下書きする。社会保険労務士に確かめてもらってから配り、毎年見直すという形です。社員が「言ってもいい」と思える会社にし、相談を受けた上司が最初の一言で迷わないようにします。

指針は、申し出しやすい環境と、上司への研修を求めている

2026年4月1日から、治療と仕事の両立支援が事業主の努力義務になりました。厚生労働省は2026年2月10日に指針を公表しています(高知労働局と鹿児島労働局のページ、日本の人事部の解説による)。

指針は、両立支援は社員本人の申し出から始めるのが基本だとしたうえで、申し出しやすい環境を整えることが大事だとしています。そのために挙げているのが、次のことです(厚生労働省の指針による)。

指針が挙げること 中身
社内ルールの作成と周知 両立支援の基本方針と、具体的な進め方の社内ルールを作り、全員に知らせる
研修による意識の啓発 社員と管理職に、両立支援を知ってもらう。管理職には、申し出や相談を受けたときの対応の仕方を伝える
相談窓口と情報の扱いの明確化 相談の窓口と、申し出た情報をどう扱うかを決める
休み方と働き方の整備 時間単位の年休、病気の休暇、時差出勤、短時間勤務、在宅勤務、試し出勤などを、会社の実情に応じて整える

指針は、会社が一方的に判断せず、本人の希望を聞いて十分に話し合うこと、病気になったことだけで安易に仕事を止めさせないこと、病気や治療への誤解や偏見が生まれないよう上司や同僚も配慮することも求めています。病気に関する情報は、原則として本人の同意なく会社が取ってはならず、扱う人の範囲を決める必要があります。細かい中身は、厚生労働省の指針で確かめてください。2026年10月時点の情報です。

今は、相談を受けた上司が、その場の考えで答えている

多くの小さな会社では、病気の相談は次のように扱われています。

  1. 社員が、まず直属の上司に「実は通院が必要で」と打ち明ける
  2. 上司は、会社にどんな制度があるか知らず、その場の考えで答える
  3. 「無理しないで休んだら」「みんなには言っておくね」と、善意で言ってしまう
  4. 本人は「仕事を外されるかも」「みんなに知られた」と感じ、次から相談しなくなる

上司の最初の一言で、本人が相談を続けるかどうかが決まります。決まりを1枚にし、上司の手順をカードにして、前もって渡しておきます。

表で決め、AIが1枚とカードを書き、人が確かめて配る

社長が使える休み方と働き方、相談の窓口、情報を見られる人を表で決め、就業規則と照らす。AIが表だけから社員に知らせる1枚と上司の手順カードと確認の3問を下書きし、社会保険労務士が確かめてから配り、毎年見直す
社長が使える休み方と働き方、相談の窓口、情報を見られる人を表で決め、就業規則と照らす。AIが表だけから社員に知らせる1枚と上司の手順カードと確認の3問を下書きし、社会保険労務士が確かめてから配り、毎年見直す

仕組みは4つの段でできています。

1. 決める:使える制度と窓口を表にする。 社長が、会社で使える休み方と働き方(時間単位の年休、病気の休暇、時差出勤、短時間勤務、在宅勤務など)、相談の窓口(社長か総務の担当者)、相談した情報を見られる人を表にします。

2. 照らす:就業規則と表を照らす。 ここはAIの仕事ではありません。担当者が、表に書いた制度が就業規則に書かれているかを1つずつ照らし、「ある」「ない」「これから作る」に分けます。就業規則にない制度を、あるように書かないためです。

3. 下書きする:AIが1枚とカードと3問を書く。 AIに、照らしたあとの表だけを渡し、次のものを下書きさせます。

  • 社員に知らせる1枚:病気になっても治療と仕事の両立を相談できること、窓口、使える休み方と働き方、相談した情報を見る人と、それ以外には本人の了解なく伝えないこと
  • 上司の手順カード:相談を受けたときにすること(話を聞く、窓口につなぐ、本人の了解なく周りに話さない)と、してはいけないこと(病名や症状を詳しく聞き出す、その場で仕事を外すと決める、休むよう一方的にすすめる)
  • 確認の3問:上司が手順カードを読んだあとに解く、短い問題と答え

4. 配る:社会保険労務士が確かめてから配り、毎年見直す。 社会保険労務士に、1枚とカードを就業規則と照らしてもらいます。全員に1枚を配り、上司には手順カードを渡して3問を解いてもらいます。制度を変えたときと、年に一度、表を直してAIに作り直させます。

文の型をスキルにし、制度の判断はAIの外に置く

この仕組みが同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

文の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。

  • 1枚の型:見出し、窓口、制度の一覧、情報の扱い、相談の流れの順に、A4で1枚
  • 手順カードの型:「すること」3つと「してはいけないこと」3つ、窓口の連絡先。名刺大から A5 に収まる長さ
  • 3問の型:場面を書いた問いと、短い答えと理由
  • 書いてはいけないこと:表で「ない」とした制度、病名の例を並べて病気を推しはかる言い方、「休めば治る」のような医学的な判断、本人を責める言い方

制度の判断は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、使える制度と窓口を社長が決めること、就業規則と照らして「ある」ものだけをAIに渡すこと、社会保険労務士が確かめてから配ることがそれに当たります。AIは、それらしい制度を書き足すことがあるので、表にない制度は書かせません。

上司の最初の一言を、カードでそろえる

この仕組みでいちばん効くのは、上司の手順カードです。指針が、管理職に相談を受けたときの対応の仕方を伝えるよう求めているのは、最初の対応で本人の安心が決まるからです。

手順カードには、たとえば次のような中身を入れます(見本です)。

すること してはいけないこと
話してくれたことに礼を言い、仕事の話として聞く 病名や症状を詳しく聞き出す
窓口の担当者を紹介し、本人の了解を得てつなぐ その場で「その仕事は外れて」と決める
本人の了解なく、周りに話さないと伝える 「みんなに言っておく」と善意で広める

3問は、たとえば「部下から通院が必要だと聞いた。チームの朝礼で伝えてよいか」という場面に、「本人の了解なく伝えない。伝える範囲は本人と窓口で決める」と答える形にします。短い問題を毎年解くことで、異動してきた上司にも同じ対応が広がります。

社長の仕事は、制度と窓口を決め、毎年見直すことになる

仕組みが入ると、病気の相談の扱いは次のように変わります(想定です)。

今まで 仕組みが入ったあと
社員が知っていること 会社の制度を知らない 1枚で窓口と制度を知っている
上司の最初の対応 その場の考え 手順カードでそろう
相談した情報 善意で広まる 見る人を決めてある
制度の書き方 あいまい 就業規則と照らした「ある」制度だけ
見直し しない 年に一度、表を直して作り直す

経営への効果は、言い出せずに辞める人を減らすこと

効果は、前提を置いて考えます。

相談しやすい会社で守れるもの = 言い出せずに辞める人を防ぐこと + 早く相談されて配慮が間に合うこと + 採用と育成をやり直す費用

病気のことを言い出せない社員は、無理をして体調を崩すか、相談しないまま辞めてしまいます。相談しやすく、上司の対応がそろっていれば、早いうちに配慮を決められます。

費用はほとんど要らず、AIの利用料は年に10円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 使える制度と窓口と情報を見る人の表を作る(会社:社長、1時間)
  2. 就業規則と照らす(会社:担当者、1時間)
  3. 型をスキルにする(作る人、0.5人日。会社で契約したAIのチャットに型を保存して使うなら不要)
  4. 社会保険労務士に確かめてもらう(会社:担当者、顧問の契約の範囲で)

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

スキルにする場合で、作る側の目安は0.5人日です。

毎月の費用

費用 中身 想定の会社での目安
AIの利用料 1枚、手順カード、3問の下書きと、年に一度の作り直し 年に約10円(下の計算)
表計算 すでに使っているもの 追加0円の想定
社会保険労務士 1枚とカードの確認 顧問の契約による

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1枚と手順カードに、それぞれ表とスキルで3,000トークンを読ませ、1,500トークンを書かせると約3円ずつ、3問に2,000トークンを読ませ、800トークンを書かせると約2円、あわせて約8円です。年に一度作り直しても、年に約10円です(1ドル150円で計算)。

何か月で取り戻せるか

AIの利用料はわずかです。かかるのは、社長が制度と窓口を決める時間と、社会保険労務士の確認です。社員が少ない会社は、スキルにする手間をかけず、会社で契約したAIのチャットに表と型を貼って頼むだけで十分です。大事なのは、AIではなく、上司の対応を前もってそろえておくことです。

必要な人は3役で、窓口に立つのは決めた担当者

役 誰が すること 時間
決める人 社長 使える制度、窓口、情報を見る人を決める 年1時間
窓口の人 総務の担当者か社長 相談を受け、手順に沿って進める。表を直す 相談ごと
確かめる人 社会保険労務士 1枚とカードを就業規則と照らす 年1回

1か月で1枚とカードを配り、1年で上司の対応がそろう見込み

どこまでいけるかは、上司全員にカードを渡し、3問を解いてもらえるかで決まります。目安は次のとおりです(想定です)。

時期 見込み
最初の1か月 表を作って照らし、1枚とカードを配る。上司が3問を解く
半年後 異動してきた上司にもカードを渡し、3問を解いてもらう
1年後 表を見直し、制度を足したら1枚とカードを作り直す

効果を確かめるには、次の3つを記録します。

  • 窓口への相談の数:相談の中身は書かず、数だけを残します
  • 3問を解いた上司の割合:毎年残します
  • 病気を理由に辞めた社員の数:長い目で見ます

就業規則にない制度を書くと失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • 就業規則にない制度を書く。 AIの下書きに、会社にない制度が入ることがあります。就業規則と照らした「ある」制度だけを渡し、社会保険労務士に確かめてもらいます
  • 上司に配るだけで終わる。 カードを読んだだけでは、場面で迷います。3問を解いてもらいます
  • 情報を見る人を決めない。 相談の中身が、善意で広まることがあります。見る人を決め、1枚に書きます
  • 病名の例を並べる。 社員に知らせる1枚に病名を並べると、病気を推しはかる受け取り方をされることがあります。「治療が必要な病気」と書くにとどめます

AIを社内で使うときの決まりは、社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。申し出があったあとの書類の作り方は、主治医に渡す勤務の情報を、仕事の一覧から下書きする。両立支援はAIでで説明しています。

まとめ

  • 厚生労働省の指針は、申し出しやすい環境のために、社内ルールの作成と周知、管理職への研修、相談窓口と情報の扱いの明確化を求めている
  • 社長が、使える休み方と働き方、相談の窓口、情報を見る人を表で決め、就業規則と照らす
  • AIは、表だけから、社員に知らせる1枚、上司の手順カード、確認の3問を下書きする
  • 社会保険労務士に確かめてもらってから配り、上司には3問を解いてもらう
  • 制度を変えたときと年に一度、表を直して作り直す

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