経営課題×AI

病気の治療と仕事の両立を支える。決まりと窓口を整え、準備はAIで

この記事で変わる経営指標

この記事では、がんや糖尿病、心臓の病気などの治療を続けながら働く社員を、小さな会社でも支えられる仕組みの作り方を説明します。一言でいうと、会社の決まり(使える休み方と働き方)と相談の窓口を、社長が決めて全員に知らせる。社員から申し出があったら、AIは、仕事の中身の情報だけから、主治医に渡す勤務の情報と、両立支援プランの下書きを作る。病名や治療の情報はAIに渡さず、配慮は主治医の意見をもとに本人と話して決めるという話です。

AIの価値は、病気や働けるかどうかを判断することではありません。申し出があったときに慌てず、本人を待たせずに準備を進め、腕のある社員に働き続けてもらうことです。

経営への効果は、辞めずに働き続けてもらえること

治療と仕事の両立の支え方は、AIを使うと次のように変わります。

今まで 決まりは人が、準備はAIで
社員の申し出 言い出せず、黙って休むか辞める 窓口と決まりを知っていて相談できる
会社の対応 そのとき考える 決めた手順で進める
主治医に渡す情報 何を書けばよいか分からない 仕事の中身から下書きを作る
配慮の中身 口約束で、上司が変わると消える 両立支援プランに書いて残す
健康の情報 誰が見るか決まっていない 見る人を限って管理する
治療と仕事の両立の支え方の変化。今までは社員が病気を言い出せず、会社はそのとき考えていた。社長が決まりと窓口を決めて周知し、申し出があったらAIが仕事の中身の情報だけから主治医に渡す勤務の情報と両立支援プランを下書きし、配慮は主治医の意見をもとに本人と話して決める
治療と仕事の両立の支え方の変化。今までは社員が病気を言い出せず、会社はそのとき考えていた。社長が決まりと窓口を決めて周知し、申し出があったらAIが仕事の中身の情報だけから主治医に渡す勤務の情報と両立支援プランを下書きし、配慮は主治医の意見をもとに本人と話して決める

経営の効果は2つあります。

  • 経験のある社員に働き続けてもらう。 小さな会社では、一人が辞めると仕事が止まり、採用と育成をやり直すことになります。通院しながら働ける決まりがあれば、辞めずにすむ社員がいます
  • 採用で選ばれる。 病気になっても働き続けられる会社だと分かれば、長く働きたい人にとって安心できる勤め先になります

2026年4月から、両立支援が事業主の努力義務になった

厚生労働省は2026年2月10日に「治療と就業の両立支援指針」を公表しました。改正された労働施策総合推進法により、2026年4月1日から、職場での治療と仕事の両立支援が事業主の努力義務になっています(高知労働局と鹿児島労働局のページ、創業手帳、かいけつ!人事労務、日本の人事部の解説による)。

創業手帳の解説によると、対象の病気は限られておらず、反復して治療が必要な病気が広く対象になります。例として、がん、脳卒中、心臓の病気、糖尿病、肝炎などが挙げられています。

指針は、会社が整える環境として、次のものを挙げています(厚生労働省の指針による)。

整えること 中身
基本方針と周知 両立支援に取り組む方針と社内の決まりを作り、全員に知らせる
意識の啓発 社員と管理職に、研修などで両立支援を知ってもらう
相談窓口 申し出の窓口と、申し出た情報の扱い方を決める
休み方と働き方 時間単位の年休、病気の休暇、時差出勤、短時間勤務、在宅勤務などを、会社の実情に応じて整える
社内外の連携 主治医と情報をやり取りする様式を決める。両立支援プランを作る

進め方は、社員本人の申し出から始まるのが基本です。本人が主治医から必要な情報をもらって会社に出し、会社は主治医などの意見をもとに、働き続けられるか、どんな配慮をするかを決めます。指針は、配慮の中身と時期、その後の面談の予定をまとめた「両立支援プラン」を作ることが望ましいとしています。病気に関する情報は、原則として本人の同意なく会社が取ってはならず、扱う人の範囲を決めて管理する必要があります。様式の例は、厚生労働省が出しています。細かい中身は、厚生労働省と労働局の最新の資料で確かめてください。2026年10月時点の情報です。

小さな会社ほど、申し出があってから慌てる

治療と仕事の両立で、小さな会社が困るのは次の3つです。

  • 決まりがない。 時間単位の年休や病気の休暇がないと、通院のたびに1日休むことになり、本人も職場も苦しくなります
  • 何から始めればよいか分からない。 申し出を受けた社長や上司が、主治医に何を聞けばよいか、何を決めればよいかが分からず、本人を待たせてしまいます
  • 口約束で終わる。 「通院の日は早く帰っていい」と決めても、書いて残さないと、上司が変わったときに消えてしまいます

決まりと窓口は、前もって決めておけます。申し出のあとの書類は、型が決まっています。ここは、人が決めることとAIの下書きを分けやすい仕事です。

決まりと窓口は人が決め、AIは勤務の情報とプランを書く

人がすること(最初に)。 社長が、厚生労働省の指針から、会社で使える休み方と働き方(時間単位の年休、時差出勤など)と、相談の窓口(社長か総務の担当者)を決めます。申し出た情報を見られる人を決め、社会保険労務士に確かめてもらいます。決めたことは、A4で1枚にして全員に知らせます。

AIに頼むこと(決まりを作るとき)。 社長が決めた中身をもとに、次のものを下書きしてもらいます。

AIに頼むこと(申し出があったとき)。 病名や治療の情報はAIに渡しません。渡すのは、本人の仕事の中身(作業の内容、勤務の時間、立ち仕事か、重い物を持つか、運転するか、出張があるかなど)と、会社の決まりだけです。

  • 主治医に渡す勤務の情報:仕事の中身を、医師に伝わる形でまとめた文。厚生労働省の様式の例に沿って書く。作り方は、主治医に渡す勤務の情報を、仕事の一覧から下書きする。両立支援はAIでで説明しています
  • 両立支援プランの枠:配慮の中身、始める時期、面談の予定を書く欄をそろえた下書き。配慮の中身は空けておき、主治医の意見と本人との話し合いで埋める

人がすること(そのあと)。 本人が主治医に勤務の情報を渡し、意見をもらいます。社長と窓口の担当者が、主治医の意見をもとに本人と話し合い、配慮を決めて、両立支援プランに書き込みます。決めたことは、見る人を限った場所に保管します。

AIへの頼み方と、返ってくる勤務の情報はこんな形になる

AIに渡す指示(見本。内容は架空です):

下は、当社の社員の仕事の中身と、会社で使える休み方と働き方の一覧です。主治医に渡す「勤務の情報」を、厚生労働省の様式の例の項目に沿って下書きしてください。病名や治療については何も書かず、仕事の中身だけを、医師に伝わる言葉で書いてください。

返ってくる勤務の情報(見本の一部):

  • 仕事の内容:倉庫での商品の仕分けと出荷の準備。10kg程度の箱を運ぶことがある
  • 勤務の時間:8時30分から17時30分、週5日。繁忙期は1日1時間程度の残業がある
  • 通勤:自家用車で片道30分
  • 会社で使える制度:時間単位の年休(年5日まで)、時差出勤、病気のための休暇
  • お願い:働き続けるうえで避けるべき作業や、必要な配慮について、ご意見をいただけますと幸いです

窓口の担当者は、本人と一緒に中身を確かめてから渡します。

決まりと情報の管理はAIの外に置き、書類の型はスキルにする

ここまでの使い方は、そのつどAIのチャットに頼む場合です。社員が多い会社や、拠点が複数ある会社なら、もう一段の工夫をしておくと安定します。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

書類の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「社員に知らせる1枚の型」「管理職向けの説明の型」「勤務の情報の型(厚生労働省の様式の例の項目)」「両立支援プランの枠」「書いてはいけないこと(病名や症状を推しはかる言い方、働けるかどうかの判断、本人の同意のない情報)」をスキルにします。

決まりと情報の管理は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、会社の決まりを社長が決めて社会保険労務士に確かめてもらうこと、AIには仕事の中身と決まりだけを渡すこと、主治医の意見と両立支援プランは見る人を限った場所に保管することがそれに当たります。働き続けられるかどうか、どんな配慮をするかは、主治医の意見をもとに人が決めます。

明日からは、通院に使える休み方を確かめる

  1. 今の就業規則で、時間単位の年休、病気の休暇、時差出勤、短時間勤務が使えるかを確かめる
  2. 厚生労働省の指針と様式の例を読み、会社で整える休み方と働き方を1つ決める(まずは時間単位の年休など)
  3. 相談の窓口を決め、申し出た情報を見られる人を決める
  4. 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに決めたことを渡し、社員に知らせる1枚を下書きさせる
  5. 社会保険労務士に見てもらい、朝礼や社内の連絡で全員に知らせる

本格的にやるなら、休む人の仕事を引き継げる形にする

一度できたら、次の形に育てます。

病気の情報と、働けるかの判断はAIに任せない

  • 病名や治療の情報をAIに渡さない。 病気に関する情報は、とくに慎重に扱う個人の情報です。AIに渡すのは、仕事の中身と会社の決まりだけにします
  • 働き続けられるかは、主治医の意見をもとに人が決める。 AIに、働けるかどうかや、どんな作業を避けるべきかを判断させません
  • 本人の同意なく情報を集めない。 申し出は本人から行うのが基本です。周りの社員に伝える範囲も、本人と決めます
  • 決まりは専門家に確かめる。 休暇や勤務の制度を変えるときは、就業規則とあわせて社会保険労務士に見てもらいます。AIを社内で使うときの決まりは、社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています

まとめ

  • 2026年4月1日から、治療と仕事の両立支援が事業主の努力義務になった。厚生労働省は2026年2月に指針を公表している
  • 指針は、方針と周知、意識の啓発、相談窓口、休み方と働き方の整備、主治医との連携と両立支援プランを挙げている
  • 社長が決まりと窓口を決めて全員に知らせ、AIは社員に知らせる1枚と管理職向けの説明を下書きする
  • 申し出があったら、AIは仕事の中身の情報だけから、主治医に渡す勤務の情報と両立支援プランの枠を下書きする。病名や治療の情報は渡さない
  • 配慮は主治医の意見をもとに本人と話して決め、見る人を限って保管する

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