障害のある社員と配慮を定期的に見直す。面談の準備はAIで
この記事で変わる経営指標
この記事では、障害のある人の雇用を、仕事の切り出しから始める。準備はAIでの「定着の面談を続ける」を、決まった間隔で回る仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、面談の予定と、決めた配慮と、次に見直す日を表で持つ。AIは、本人の仕事の一覧と、前回決めた配慮だけから、面談で聞くことと、決めたことを本人に伝える文を下書きする。面談は上司か担当者が本人と行い、配慮は本人と話し合って決める。病名や体調の情報はAIに渡さないという形です。入社のときに決めた配慮を、そのままにしないための仕組みです。
配慮は入社のときだけでなく、定期的に見直すもの
障害者雇用促進法は、2016年4月1日から、事業主に合理的配慮の提供を義務づけています。合理的配慮は、障害のある人が職場で働くときの支障を改善するための措置です。対象はすべての事業主で、事業主にとって過重な負担になる場合は除かれます(厚生労働省と愛知労働局の資料、労働新聞の解説による)。
厚生労働省の資料と合理的配慮指針は、採用後の手続を次のように示しています。
| 段階 | 中身 |
|---|---|
| 確かめる | 事業主から本人に、職場で支障になっていることがあるかを確かめる |
| 話し合う | どんな配慮をするかを、本人と話し合う |
| 決めて伝える | 決めた配慮の中身と理由を、本人に説明する。時間がかかるときは、その旨も伝える |
指針は、障害の状態や職場の状況は変わることがあるため、必要に応じて定期的に、職場で支障になっていることがないかを確かめるよう求めています。本人が希望する配慮を具体的に言うのが難しいときは、何が支障かが分かれば足りるともしています。また、相談に応じる体制を整え、相談した人のプライバシーを守り、相談したことを理由に不利益な扱いをしないことも求めています(厚生労働省の資料と指針による)。
過重な負担かどうかは、事業への影響、実現の難しさ、費用、会社の規模、財務の状況、公的な支援があるかを合わせて、一つずつ判断します(厚生労働省の資料、労働新聞の解説による)。細かい中身は、厚生労働省の指針とハローワークで確かめてください。2026年10月時点の情報です。
今は、入社のときに決めた配慮が、そのままになっている
多くの小さな会社では、配慮は次のように扱われています。
- 入社のときに、本人と話して配慮を決める
- そのあとは、本人から言われない限り、見直さない
- 仕事の中身や上司が変わっても、配慮の中身は変わらない
- 本人は「言い出しにくい」まま、困りごとを抱える
指針が「事業主から確かめる」としているのは、本人が言い出しにくいことがあるからです。会社から決まった間隔で声をかける形にします。
表で予定を持ち、AIが聞くことを書き、人が本人と話す
仕組みは4つの段でできています。
1. 入れる:面談の予定と、決めた配慮を表に置く。 担当者が、本人ごとに、今の仕事の一覧、決めた配慮(例:作業の手順を絵と文で渡す、通院の日は休みを取りやすくする、業務量を少しずつ増やす)、次に見直す日を表に入れます。表を見られる人は、社長、上司、担当者に限ります。
2. 選ぶ:見直しの日が来た人を表で出す。 ここはAIの仕事ではありません。表で、見直しの日が近い人に印が付くようにします。仕事の中身や上司が変わったときも、印を付けます。間隔は、本人と話して決めます(たとえば3か月ごと)。
3. 下書きする:AIが面談で聞くことを書く。 AIに、本人の名前や病名、体調の情報は渡しません。渡すのは、仕事の一覧と、前回決めた配慮の中身だけです。AIに次のものを下書きさせます。
- 面談で聞くこと:仕事の場面ごとに、やりにくいことがないかを、答えやすい形で聞く問い(「朝の準備で困ることはありますか」など)。前回の配慮が役に立っているかを聞く問い
- 配慮の候補:本人が困りごとを話したときに、会社が示せる工夫の候補。厚生労働省の指針の例を参考にした一般的なもの
- 決めたことを伝える文:面談のあとに、決めた配慮の中身と理由、始める時期を本人に伝える短い文
4. 話し合う:上司か担当者が本人と決める。 上司か担当者が、本人と面談します。聞くことの下書きは参考にとどめ、本人の話を聞きます。配慮は本人と話し合って決め、決めた中身と次に見直す日を表に入れます。伝える文は、担当者が直してから本人に渡します。
聞き方の型をスキルにし、記録と判断はAIの外に置く
この仕組みが同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
聞き方の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 聞くことの型:仕事の場面ごとに、はい・いいえで終わらない問い。責める言い方にならない順番
- 配慮の候補の型:作業のしかた、時間、伝え方、場所の4つに分けた工夫の例
- 伝える文の型:決めた配慮、理由、始める時期、次に見直す日、相談の窓口
- 書いてはいけないこと:病名や体調を推しはかる言い方、本人の能力を決めつける言い方、本人が話していない困りごと、配慮をしない理由を一方的に書く文
記録と、配慮の判断は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、面談の予定と決めた配慮を見られる人を限った表で持つこと、AIには仕事の一覧と配慮の中身だけを渡すこと、配慮をどうするか、過重な負担に当たるかは社長と担当者が本人と話して決めることがそれに当たります。
仕事が変わったときこそ、見直しの面談を入れる
この仕組みでいちばん効くのは、決まった間隔の面談に加えて、仕事や職場が変わったときに面談を入れることです。
- 仕事の中身が変わったとき:新しい作業を任せる前に、やりにくいことがないかを聞きます。仕事の一覧を表で持っていれば、変わった作業がすぐに分かります
- 上司や席が変わったとき:前の上司が口頭で伝えていた工夫が、引き継がれないことがあります。決めた配慮を表で持ち、新しい上司に渡します
- 本人から相談があったとき:見直しの日を待たずに面談します。相談したことで不利益な扱いをしないと、前もって伝えておきます
本人が言葉にしにくいときは、ハローワークや地域の就労支援の機関の担当者に同席してもらう方法もあります。厚生労働省の資料も、本人の意向を確かめるのが難しい場合に、就労支援機関の職員などに補佐を求めてよいとしています。
上司の仕事は、聞くことと、決めたことを守ることになる
仕組みが入ると、配慮の扱いは次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 見直しの時期 | 本人から言われたとき | 決まった間隔と、仕事が変わったとき |
| 面談の準備 | 何を聞けばよいか分からない | 仕事の場面ごとの問いの下書き |
| 決めた配慮 | 上司の頭の中 | 見られる人を限った表に残る |
| 本人への伝え方 | 口頭だけ | 中身と理由と次の見直しの日を文で |
| 上司が変わったとき | 引き継がれない | 表で新しい上司に渡す |
経営への効果は、長く働いてもらえる職場に近づくこと
効果は、前提を置いて考えます。
配慮の見直しで守れるもの = 本人が辞めずに働き続けること + 採用と育成をやり直す費用 + 法定雇用率を保つこと
小さな会社にとって、障害のある社員を新しく迎えるには、仕事の切り出しと準備に時間がかかります。困りごとが積み重なって辞めてしまうと、その準備をやり直すことになります。法定雇用率を下回れば、ハローワークの指導を受けることもあります。決まった間隔で声をかけ、困りごとが小さいうちに手を打つことが、長く働いてもらうことにつながります。
費用はほとんど要らず、AIの利用料は年に40円ほど
作る順番と、かかる日数
- 面談の予定と決めた配慮の表を作る(会社:担当者、1時間。見られる人を限ります)
- 聞くことと伝える文の型を決める(会社:社長と担当者、1時間。厚生労働省の指針の例を参考にします)
- 型をスキルにする(作る人、0.5人日。会社で契約したAIのチャットに型を保存して使うなら不要)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
スキルにする場合で、作る側の目安は0.5人日です。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 面談で聞くことと、伝える文の下書き | 年に約40円(下の計算) |
| 表計算 | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 配慮にかかる費用 | 道具や席の工夫など | 中身による。公的な助成金を確かめる |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。面談で聞くことの下書きに、仕事の一覧と配慮とスキルで3,000トークンを読ませ、1,500トークンを書かせると約3円、伝える文に2,000トークンを読ませ、800トークンを書かせると約2円、1回の面談で約5円です。3か月ごとに年4回、2人分で約40円です(1ドル150円で計算)。
何か月で取り戻せるか
AIの利用料はわずかです。かかるのは、面談の時間と、配慮そのものの費用です。障害のある社員が1〜2人の会社は、スキルにする手間をかけず、会社で契約したAIのチャットに型を貼って頼むだけで十分です。大事なのは、AIではなく、会社から決まった間隔で声をかけることです。
必要な人は3役で、配慮を決めるのは本人と会社
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 表を保つ人 | 人事か総務の担当者 | 面談の予定と決めた配慮を表に残し、下書きを用意する | 面談ごとに30分 |
| 面談する人 | 上司か担当者 | 本人の話を聞き、配慮を話し合って決める | 面談ごとに30分 |
| 相談先 | ハローワーク、就労支援の機関 | 配慮の工夫や、面談の進め方に迷ったときに聞く | 必要なとき |
半年で面談の形が定着し、1年で配慮の記録がそろう見込み
どこまでいけるかは、面談を予定どおり続けられるかで決まります。目安は次のとおりです(想定です)。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の面談 | 入社のときに決めた配慮が今も合っているかを聞く。表に残す |
| 半年後 | 2回目の面談で、決めた配慮が続いているかを見る。面談の形が定着する |
| 1年後 | 仕事が変わったときの面談も含め、配慮の記録がそろう |
効果を確かめるには、次の3つを記録します。
- 予定どおりに開けた面談の数:表で数えます
- 見直した配慮の数と、その中身:表に残します
- 障害のある社員の勤続の長さ:長い目で見ます
本人の情報をAIに渡すと失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- 病名や体調をAIに渡す。 病名や体調は、とくに慎重に扱う個人の情報です。AIに渡すのは、仕事の一覧と配慮の中身だけにします
- 下書きの問いを読み上げるだけにする。 問いは準備のための下書きです。面談では本人の話を聞くことを優先します
- 会社だけで配慮を決める。 配慮は本人と話し合って決めます。できないことがあるときは、その理由を本人に説明し、できる範囲の工夫を一緒に考えます
- 記録を誰でも見られる場所に置く。 決めた配慮の表は、見られる人を限ります。ほかの社員に伝える必要があるときは、本人の了解を得て、必要な範囲だけを伝えます
AIを社内で使うときの決まりは、社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。任せる仕事の切り出し方は、任せられる仕事を1週間の記録から見つける。切り出しの案はAIでで説明しています。
まとめ
- 障害者雇用促進法は、すべての事業主に合理的配慮の提供を求め、指針は採用後も必要に応じて定期的に職場の支障を確かめるよう求めている
- 面談の予定と、決めた配慮と、次に見直す日を、見られる人を限った表で持つ
- AIは、仕事の一覧と前回の配慮だけから、面談で聞くことと、決めたことを伝える文を下書きする。病名や体調の情報は渡さない
- 上司か担当者が本人と話し合って配慮を決め、中身と理由を本人に伝える
- 仕事や上司が変わったときにも、見直しの面談を入れる