障害のある人の雇用を、仕事の切り出しから始める。準備はAIで
この記事で変わる経営指標
この記事では、障害のある人の雇用を、小さな会社が無理なく始める方法を説明します。一言でいうと、まず社内の仕事を一覧にし、障害のある人に任せられる仕事を切り出す。AIは、仕事の一覧から任せられる仕事の候補を出し、一つずつ分かりやすい手順書と、仕事の中身が伝わる求人票を下書きする。働き方と必要な配慮は、本人と話し合って決め、ハローワークや支援機関と一緒に進めるという話です。
AIの価値は、誰を雇うかを決めることではありません。任せる仕事と教え方を先に整え、入社した人が長く働ける準備を、少ない手間でそろえることです。障害の内容や健康の情報は、AIに渡しません。
経営への効果は、人手が増え、仕事の進め方が整うこと
障害のある人の雇用の準備は、AIを使うと次のように変わります。
| 今まで | 仕事の切り出しと準備はAIで | |
|---|---|---|
| 任せる仕事 | 「うちには任せる仕事がない」で止まる | 仕事の一覧から候補を出す |
| 教え方 | 先輩が口で教え、人によって違う | 一つずつ分かりやすい手順書に |
| 求人票 | 「軽作業」とだけ書く | 1日の仕事の中身を具体的に |
| 配慮 | 入社してから慌てて考える | 話し合いで聞くことを前もって用意 |
| 人数の確認 | 報告の時期に気づく | 社員数と必要な人数を表で毎月確認 |
経営の効果は2つあります。
- 人手が増える。 人手が足りない会社ほど、ほかの社員が本来の仕事に使えない時間を、細かい作業に取られています。その作業を切り出して任せられれば、職場全体の仕事が回りやすくなります
- 仕事の進め方が整う。 手順書を分かりやすく書き直すと、障害のある人だけでなく、新人やパート、外国人の社員にも教えやすくなります。人によって違う教え方が、一つにそろいます
2026年7月から、37.5人以上の会社に義務が広がった
障害者雇用促進法に基づく民間企業の法定雇用率は、2026年7月1日に2.5%から2.7%に上がりました。これに合わせて、障害のある人を1人以上雇う義務がある会社の範囲が、常用労働者40人以上から37.5人以上に広がりました(ジンジャー、オフィスステーション、かいけつ!人事労務の解説による)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法定雇用率(民間企業) | 2.7%(2026年7月1日から。それまでは2.5%) |
| 雇用の義務がある会社 | 常用労働者37.5人以上(それまでは40人以上) |
| 毎年6月1日時点の報告 | 37.5人以上の会社に2.7%で確かめるのは、2027年6月1日時点の報告から |
| 障害者雇用納付金 | 常用労働者100人を超える会社で、不足1人につき原則月額5万円 |
| 下回ったとき | ハローワークの指導、改善しなければ企業名の公表もありうる |
納付金がかかるのは100人を超える会社ですが、100人以下の会社でも、雇用の義務とハローワークの指導の対象からは外れません(ジンジャー、オフィスステーションの解説による)。社員の数え方(短い時間で働く人の数え方など)や、業種ごとの除外率は、ハローワークと厚生労働省の最新の資料で確かめてください。2026年10月時点の情報です。
小さな会社ほど、「任せる仕事がない」で止まる
障害のある人の雇用で、小さな会社が困るのは次の3つです。
- 任せる仕事が見つからない。 一人がいくつもの仕事を兼ねている会社では、「切り出せる仕事はない」と思い込みがちです。実際には、ほかの社員の仕事の中に、手順が決まった作業が埋もれていることがあります
- 教え方が決まっていない。 手順書がなく、先輩が口で教えている会社では、教える人によって言うことが違い、覚えにくくなります
- 何を準備すればよいか分からない。 求人の出し方、面接で聞くこと、入社後の配慮を、誰に相談すればよいか分からないまま、時間が過ぎます
仕事の一覧と手順書は、前もって作れます。ここは、AIで手伝いやすい仕事です。
人が仕事を一覧にし、AIが候補と手順書を下書きする
人がすること(最初に)。 社長と各部署の担当者が、社内の仕事を一覧にします。1週間、自分がした作業を書き出してもらうか、話して録音するのが早道です。作業ごとに、どのくらいの頻度か、どのくらい時間がかかるか、手順が決まっているかを書き添えます。
AIに頼むこと。 次のものを下書きしてもらいます。
- 任せられる仕事の候補:仕事の一覧から、手順が決まっている作業、ほかの社員の時間を取っている作業を拾い、まとめると1日の仕事になる組み合わせを出してもらう
- 分かりやすい手順書:候補の仕事ごとに、1行に1つの動作、短い文、写真を入れる場所を示した手順書を下書きしてもらう
- 求人票:1日の仕事の流れ、働く時間、職場の様子を具体的に書いた求人票を下書きしてもらう
- 話し合いで聞くこと:入社前の面談で、働き方の希望、必要な配慮、得意なことを聞くための質問の一覧
人がすること(そのあと)。 社長と担当者が、候補の仕事と手順書を確かめます。求人は、ハローワークの障害者の窓口や、地域の就労を支える機関に相談しながら出します。働き方と配慮は、本人と話し合って決めます。
AIへの頼み方と、返ってくる候補はこんな形になる
AIに渡す指示(見本。内容は架空です):
下は、当社の各部署の1週間の作業の一覧です(作業名、頻度、かかる時間、手順が決まっているか)。この中から、手順が決まっていて、まとめると1日4〜6時間の仕事になる作業の組み合わせを、3つ案として出してください。それぞれ、今その作業をしている部署と、まとめると浮く時間の合計も書いてください。障害の種類を決めつける書き方はしないでください。
返ってくる候補(見本の一部):
案1:書類と郵便の仕事(1日約5時間)
- 届いた郵便の仕分けと配布(総務、毎日30分)
- 請求書や納品書のスキャンとフォルダへの保存(経理、毎日1時間)
- 見積書や案内の封入と発送(営業、週3回各1時間)
- 会議室と共用の棚の整理(総務、毎日30分)
- 浮く時間:各部署で合わせて週約25時間
社長と担当者は、作業の量と時間が合っているかを確かめ、本人の希望を聞いてから、どの仕事を任せるかを決めます。
一覧と人数の計算はAIの外に、手順書の型はスキルに
ここまでの使い方は、そのつどAIのチャットに頼む場合です。続けて使うなら、もう一段の工夫をしておくと安定します。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
手順書と求人票の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「分かりやすい手順書の型(1行に1つの動作、短い文、写真の場所、終わりの確かめ方)」「求人票の型(1日の流れ、働く時間、職場の様子)」「話し合いで聞くことの型」「書いてはいけないこと(障害の種類を決めつける言い方、できないことを前提にした言い方、健康の情報を求める質問)」をスキルにします。
仕事の一覧と人数の計算は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、仕事の一覧を表で持つこと、社員数から必要な人数を表で計算すること、手順書を実際の作業と照らして直すことがそれに当たります。社員の数え方には細かい決まりがあるので、人数の判断はハローワークで確かめ、AIにはさせません。
明日からは、3つの部署に1週間の作業を書き出してもらう
- 総務、経理、営業など3つの部署に、1週間にした作業を、頻度とかかる時間と一緒に書き出してもらう
- 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに作業の一覧を渡し、上の見本の指示で任せられる仕事の候補を出させる。記録の形と集計の作り方は、任せられる仕事を1週間の記録から見つける。切り出しの案はAIでで説明しています
- 候補の仕事の手順書を1つ、AIに下書きさせ、今その作業をしている社員に読んでもらって直す
- 自社の社員数から、必要な人数をハローワークに確かめる
- ハローワークの障害者の窓口に、候補の仕事と手順書を持って相談する
本格的にやるなら、手順書を全員に使い、職場で支える
一度できたら、次の形に育てます。
- 手順書を全員に使う。 分かりやすい手順書は、新人やパートにも使えます。ベテランの仕事を手順書に残す考え方は、ベテランの技能をAIで手順書に残し、新人を早く一人立ちさせる方法で説明しています
- 任せる仕事を少しずつ広げる。 本人の得意なことが分かってきたら、仕事の一覧から次の作業を足します。仕事の一覧を作る考え方は、ベテランの仕事を1週間で一覧に。話した記録からAIが仕分けと渡す順番を出すで説明しています
- 定着の面談を続ける。 入社後は、決まった間隔で本人と面談し、困っていることと配慮を見直します。面談の準備と記録をAIで手伝う考え方は、小さな会社の新人の離職を減らす方法。聞きにくい質問はAIが受けるにもつながります
- 社員数の変化を毎月見る。 社員数と必要な人数を表で持ち、人数が変わったときに気づけるようにします
誰を雇うかと、配慮の判断はAIに任せない
- 採用は人が決める。 AIは、仕事の候補と書類を下書きするまでです。面接と採用の判断は、社長と担当者が行います
- 障害の内容をAIに渡さない。 障害の内容や健康の情報は、とても大事な個人の情報です。AIに渡すのは仕事の一覧と手順書だけにします
- 配慮は本人と話し合って決める。 必要な配慮は人によって違います。本人の話を聞き、支援機関の助言も受けて決めます
- 人数の数え方は専門家と確かめる。 社員の数え方や除外率、報告の手続きは、ハローワークや社会保険労務士に確かめます
- 社員の情報に気をつける。 社内の作業の一覧にも、取引先の情報が入ることがあります。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています
まとめ
- 2026年7月から、民間企業の法定雇用率は2.7%になり、障害のある人を1人以上雇う義務が、常用労働者37.5人以上の会社に広がった
- 100人を超える会社は、不足1人につき原則月額5万円の納付金がかかる。100人以下でも、雇用の義務と指導の対象になる
- まず社内の仕事を一覧にし、AIが任せられる仕事の候補、分かりやすい手順書、求人票を下書きする
- 障害の内容や健康の情報はAIに渡さない。採用と配慮は、本人と話し合い、ハローワークや支援機関と一緒に決める
- 分かりやすい手順書は、新人やパートにも使え、職場全体の教え方がそろう