導入とお金

AIの推進役は詳しい若手より業務を知る人に。社内に広げる担当の選び方

この記事で変わる経営指標

この記事では、社内でAIを広げる推進役を誰に任せ、どう支えるかを説明します。一言でいうと、推進役は、パソコンに詳しい若手ではなく、その業務をいちばんよく知っている人に任せる。週に決まった時間を仕事として取り、うまくいった頼み方を見本にして配ってもらう。社長は月に一度、話を聞いて、決めることを決めるという話です。

AIの価値は、詳しい一人が使いこなすことではありません。業務を知る人が「この仕事のこの部分はAIに任せられる」と見つけ、その頼み方が社内の誰でも使える形で残ることです。

経営への効果は、AIが一部の人の道具で終わらず、会社に広がること

推進役の任せ方を変えると、社内のAIの使われ方は次のように変わります。

詳しい若手に任せきり 業務を知る人に時間ごと任せる
選ぶ仕事 本人が面白いと思う使い方 毎日時間がかかっている業務
周りの社員 「あの人だからできる」と思う 同じ業務の見本を使って、自分でもできる
時間 本業の合間に、善意で 週に決まった時間を、仕事として
その人がいなくなったら 止まる 見本が残り、続く
社長 任せたきり、様子が分からない 月に一度聞いて、決めることを決める
社内のAIの推進役の選び方。今まではパソコンに詳しい若手に任せきり、業務が分からず使われないか、その人が辞めると止まった。業務を知る人を選び、週に決まった時間を仕事として取り、うまくいった頼み方を見本にして配り、社長が月に一度話を聞くと社内に広がる
社内のAIの推進役の選び方。今まではパソコンに詳しい若手に任せきり、業務が分からず使われないか、その人が辞めると止まった。業務を知る人を選び、週に決まった時間を仕事として取り、うまくいった頼み方を見本にして配り、社長が月に一度話を聞くと社内に広がる

AIの契約をしても、使うのが一部の人だけなら、効果は小さいままです。社内の多くの人が、自分の仕事でAIを使うようになって初めて、浮く時間が積み上がります。推進役の選び方と支え方で、その広がり方が変わります。

企業の懸念には、人材とノウハウの不足が挙がっている

帝国データバンクが2026年3月に行った調査では、業務で生成AIを使っている企業は34.5%でした。導入に伴う懸念としては、「情報の正確性」が50.4%で最も多く、ほかに「専門人材やノウハウの不足」「活用すべき業務範囲の不明確さ」なども挙がりました(ITmedia NEWS、ビジネス+ITの報道)。

小さな会社では、AIの専門の人を雇うのは簡単ではありません。それでも、「専門の人がいないから進まない」とあきらめる必要はありません。AIの使い方そのものは、AIに聞けば教えてくれます。足りないのは、AIの知識よりも、「どの業務のどの部分に使うか」を見つける力と、そのための時間です。その力を持っているのは、業務をいちばんよく知っている人です。

パソコンに詳しい若手に任せきると、業務に合わずに止まる

多くの会社で、AIの担当は、パソコンやネットに詳しい若手に任されます。自然な選び方ですが、次のことが起きやすくなります。

  • 業務の急所が分からない。 見積や請求、お客様への返事など、時間がかかっている業務の中身をよく知らないので、どこにAIを使えば効くかが分かりにくい
  • 周りが「あの人だからできる」と思う。 上手な使い方が、本人の工夫として閉じてしまう
  • 本業の合間の善意になる。 時間が取れず、忙しくなると止まる
  • その人が辞めると止まる。 頼み方が、その人の頭の中にしかない

若手の力が要らないわけではありません。AIの設定や、見本をファイルにまとめる手伝いは、詳しい人が得意です。推進役の中心に業務を知る人を置き、詳しい人には手伝いをお願いする形が、うまく回りやすくなります。

推進役は、時間がかかっている業務をいちばん知る人から選ぶ

選び方。 推進役は、次の条件に当てはまる人から選びます。

  • 会社でいちばん時間がかかっている業務(見積、請求、お客様への返事、報告書など)を、自分でやっている、またはよく知っている
  • 周りの社員から、仕事のやり方を聞かれることが多い
  • 新しいことを試すのを嫌がらない(パソコンが得意である必要はない)

人数。 最初は1人か2人です。部署が分かれている会社なら、部署ごとに1人を選ぶと、それぞれの業務に合った使い方が見つかります。

何が変わるか。 推進役が「この業務のこの部分」と具体的に見つけるので、社員が自分の仕事に引き寄せて考えやすくなります。

推進役の仕事は、業務を1つ選び、見本を作って配ること

推進役に任せることは、次の4つです。

  1. 業務を1つ選ぶ。 毎日時間がかかっていて、間違えても人が直せる業務から選びます
  2. 自分で1か月試す。 会社で契約したAIで、その業務の一部をAIに頼み、時間がどれだけ変わったかを記録します
  3. うまくいった頼み方を見本にする。 頼み方の文と、返ってきた下書きの良い例と、確かめるところを、1枚にまとめます
  4. 見本を配り、使い方を聞かれたら答える。 同じ業務をしている社員に配り、困ったことを集めます

見本の配り方は、契約したAIを社員が使わない会社にしない。研修より先に頼み方の見本を配るで詳しく説明しています。

週に決まった時間を、仕事として取る

推進役にとっていちばん大事なのは、時間です。本業の合間の善意では、忙しい月に止まります。

  • 週に2時間ほどを、推進役の仕事として予定に入れる。 社長が決めて、周りにも伝えます
  • その時間の分、本業を減らす。 誰かに手伝ってもらうか、締め切りを調整します
  • 評価に入れる。 推進役の仕事を、本人の評価の一つとして見ます

仮に、推進役が週2時間を使って、ある業務で社員5人が1日20分ずつ浮くようになれば、週に約8時間分です(5人×20分×5日)。推進役の2時間が、会社全体で何倍にもなって返ってくる計算です。

社長は月に一度話を聞き、決めることを決める

推進役に任せきりにせず、社長が月に一度、30分ほど話を聞きます。

  • 何を試して、どれだけ時間が変わったか
  • 社員から出た困りごと(使い方が分からない、入れていい情報か迷う)
  • 社長が決めること(次の業務、新しく契約するか、社内ルールの直し)

困りごとのうち、「入れていい情報か迷う」のようなものは、社長が決めて、社内ルールに書きます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。

推進役の1か月目は、時間を記録するところから始める

推進役が最初の1か月でやることを、もう少し具体的に書きます。

  • 1週目:今のやり方の時間を記録する。 選んだ業務に、1件あたり何分かかっているかを、1週間だけ記録します。比べる元がないと、AIで変わったかどうかが分かりません
  • 2週目:AIに頼んでみる。 会社で契約したAIで、業務の一部(下書き、要約、仕分けなど)を頼みます。うまくいかなかった頼み方も残しておきます
  • 3週目:頼み方を直す。 返ってきた下書きのどこを直したかを見て、頼み方に足します(「金額は書かない」「この言い方はしない」など)
  • 4週目:時間を比べ、見本にまとめる。 1件あたりの時間が、1週目と比べてどれだけ変わったかを書き、頼み方と良い例と確かめるところを1枚にまとめます

この記録があれば、社長が月に一度話を聞くときに、「この業務で1件10分が4分になった」と具体的に分かります。

推進役が作った見本はスキルにし、確かめる仕組みはAIの外に置く

推進役が作った見本を、会社の仕組みとして残す方法があります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

見本と手順を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。推進役が作った頼み方と良い例をスキルにしておけば、推進役がいなくても、誰が使っても同じ質の下書きが出ます。

確かめる仕組みを、AIの外に作る。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。推進役が見つけた「ここは必ず確かめる」(金額、日付、名前)を、表計算で照らす形にしておくと、確かめる人の経験に頼らずに済みます。

明日からは、時間のかかる業務とそれを知る人を書き出す

  1. 社長が、会社でいちばん時間がかかっている業務を3つ書き出す
  2. それぞれの業務を、いちばんよく知っている人の名前を書く
  3. その中から1人を推進役に選び、週2時間を仕事として予定に入れる
  4. 推進役に、業務を1つ選んで1か月試してもらう
  5. 1か月後に30分話を聞き、見本を配るかを決める

推進役を孤立させず、成果を急がせない

  • 任せきりにしない。 月に一度話を聞かないと、推進役は一人で抱え込みます
  • 最初から大きな成果を求めない。 1つの業務で、時間が少し減ることから始めます
  • 失敗を責めない。 AIの答えが外れることは当たり前にあります。確かめ方を決めておけば、大きな失敗にはなりません。確かめ方はAIの答えの間違いを社員が見つける。仕事で使う前に決める確かめ方で説明しています
  • 詳しい若手にも役を渡す。 設定や見本の整理など、得意なことで手伝ってもらいます

まとめ

  • 推進役は、パソコンに詳しい若手ではなく、時間がかかっている業務をいちばん知る人から選ぶ
  • 推進役の仕事は、業務を1つ選び、1か月試し、うまくいった頼み方を見本にして配ること
  • 週に2時間ほどを仕事として取り、その分の本業を減らし、評価に入れる
  • 社長は月に一度話を聞き、次の業務や社内ルールなど、決めることを決める
  • 推進役が作った見本はスキルにし、確かめる仕組みはAIの外に置いて、その人がいなくても続く形にする

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