AIの文が毎回ばらつくなら、良い見本を3つ見せる。言葉で説明するより早い
この記事で変わる経営指標
この記事では、AIに書かせたお客様へのメールや報告の文が、毎回調子も長さもばらつくときの直し方を説明します。一言でいうと、言葉で細かく説明するより、過去に評判の良かった文を3〜5本、場面の違うものを混ぜて「見本」として渡す。AIは見本の形と調子で書くので、文がそろうという話です。
AIの価値は、会社らしい文を一から考えてくれることではありません。会社にすでにある良い文の形を、毎回同じようにまねて書いてくれることです。
AIの文がばらつくのは、会社の「良い文」を知らないから
AIにお客様へのお礼のメールを頼むと、ある日は丁寧すぎる長い文、ある日は短くそっけない文が返ってくることがあります。社員によって頼み方が違えば、なおさらばらつきます。
これは、AIが会社にとっての「良い文」を知らないからです。「丁寧だが堅すぎず、5行くらいで」と言葉で説明しても、「丁寧」「堅すぎない」の受け取り方は人によってもAIによっても違います。
言葉で説明しきれないものを伝えるいちばん早い方法は、実物を見せることです。新人に仕事を教えるときも、説明より先に「この前のこのメールを見て」と見本を見せるはずです。AIも同じです。
公式の手引きでも、見本を見せることが勧められている
AIを作っている会社の公式の手引きでも、見本を見せることが勧められています。
Anthropic社の手引き(2026年10月15日時点)では、見本は、AIの出力の形・調子・構成をそろえるいちばん確かな方法の1つとされています。よく作られた見本をいくつか見せると、正確さとばらつきの少なさが上がるとし、3〜5本を勧めています。
Google社の手引き(同日時点)でも、頼むときには見本を入れることを常に勧めるとしています。見本のない頼み方は効果が下がりやすく、見本が十分に分かりやすければ、説明の言葉を減らしてもよいとまで書かれています。
どちらも、AIは見本から形や言い回しのくせを読み取り、それに沿って書くという考え方です。
経営への効果は、直す手間が減り、誰が頼んでも会社らしくなること
見本を渡すと、次の2つが変わります。
1つ目は、直す手間が減ることです。 AIの下書きを毎回大きく直しているなら、その時間は見本で減らせます。仮に、1通のメールの下書きを直すのに10分かかっていたものが、見本を渡して3分になれば、1通7分が浮きます。月100通なら月約12時間です(想定の計算です)。
2つ目は、誰が頼んでも会社らしい文になることです。 見本を社内で共有すれば、ベテランが頼んでも新人が頼んでも、同じ形と調子の文が出ます。お客様から見ると、担当者によって言葉づかいがばらばらな会社より、いつも同じ調子で丁寧に返事が来る会社のほうが安心できます。
見本は、会社が積み上げてきた「良い文」という財産を、AIを通して全員に配る方法でもあります。
見本は、評判の良かった本物の文から選ぶ
見本は、AIに一から作らせるより、会社に実際にある、評判の良かった文から選びます。
- お客様から「丁寧な返事をありがとう」と言われたメール
- 社長やベテランが「これはいい」と思った報告
- 取引先との関係がうまくいったきっかけになった連絡
Anthropic社の手引きでは、見本は実際の使い方に近いものにするよう勧めています。お礼のメールを書かせたいなら、見本もお礼のメールにします。報告書の見本で、お礼のメールを書かせることはしません。
見本は場面の違うものを混ぜ、名前と金額は消して渡す
見本を選ぶときに気をつけたいことが2つあります。
1つ目は、場面の違うものを混ぜることです。 Anthropic社の手引きでは、見本にばらつきを持たせ、AIが意図しないくせを拾わないようにすることを勧めています。Google社の手引きでも、具体的でばらつきのある見本が勧められています。たとえば、3本の見本がすべて「いつもお世話になっております。先日は」で始まると、AIはどの場面でもその書き出しを使います。初めてのお客様、長いお付き合いのお客様、お叱りを受けたお客様のように、場面を変えて選びます。
2つ目は、名前と金額を消すことです。 見本に残ったお客様の名前や金額を、AIが新しい文に書き写すことがあります。見本は、名前を「(お客様の名前)」、金額を「(金額)」のように置き換えてから渡します。お客様の情報を外に出さないためにも必要です。
見本は「見本1」「見本2」と区切り、指示と分けて渡す
見本を渡すときは、どこからどこまでが見本かがAIに分かるように区切ります。Anthropic社の手引きでは、見本を印で囲み、指示と見分けられるようにすることを勧めています。チャットで使うなら、次のような形で十分です。
次の見本と同じ形と調子で、下のお客様へのお礼のメールを書いてください。
【見本1】(初めてのお客様へ) (本文)
【見本2】(長いお付き合いのお客様へ) (本文)
【見本3】(お叱りを受けたあとのお客様へ) (本文)
【今回のお客様】 業種:(業種)/話したこと:(メモ)/約束したこと:(メモ)
見本を区切らずに指示の文の中に混ぜると、AIが見本の中身を今回のお客様のことと取り違えることがあります。
見本は一度作ったら、毎回貼らずにスキルやプロジェクトに置く
毎回見本を貼るのは手間です。Claude なら、会社で契約したプランのプロジェクトに見本を置いておけば、そのプロジェクトの中の会話で毎回使われます。社内の仕組みに組み込むなら、見本をスキル(AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたもの)に入れておきます。置き方は毎回会社の説明をしない。AIに会社の資料と決まりを一度だけ渡す方法で説明しています。
社員が使う頼み方そのものの見本を配る考え方は、契約したAIを社員が使わない会社にしない。研修より先に頼み方の見本を配るで説明しています。こちらは「頼み方」の見本、この記事は「出てくる文」の見本です。両方そろうと、誰が使っても同じ質になります。
良くできた文を見本に足し、見本を育てていく
見本は一度作って終わりではありません。
- AIの下書きを直したら、直したあとの良い文を見本の候補にします
- お客様から良い反応があった文を、見本に入れ替えます
- 新しい場面(値上げのお知らせ、休業のお知らせ)が出てきたら、その場面の見本を足します
Anthropic社の手引きでは、AIに見本が十分か(実際の使い方に近いか、ばらつきがあるか)を見てもらったり、最初の見本をもとに追加の見本を作ってもらったりすることもできるとしています。ただし、AIが作った見本を使う前には、人が読んで、会社として出してよい文かを確かめます。
見本があっても、事実と約束は人が確かめる
見本は、文の形と調子をそろえる道具です。中身の正しさを保証するものではありません。
- お客様の名前、金額、日付は、見本ではなく台帳から入れ、人が確かめます
- 見本にない約束(値引き、納期)をAIが書き足していないかを確かめます
- お叱りを受けたあとの連絡のように大事な場面は、上司が目を通してから出します
AIの答えを確かめる決まりは、AIの答えの間違いを社員が見つける。仕事で使う前に決める確かめ方にまとめています。
見本が効くのは形と調子が決まった文で、判断の仕事には効かない
見本がよく効くのは、形と調子が決まっていて、毎回中身だけが変わる文です。
- お客様へのお礼や近況のメール
- 問い合わせへの返事
- 作業や点検の報告
- 求人票や商品の紹介文
- 社内の連絡や議事録のまとめ
一方で、見本を渡しても良くならない仕事もあります。値引きをするか、どの取引先を優先するか、契約の条件を受け入れるか、のような判断です。見本は「どう書くか」をそろえる道具で、「何を決めるか」は教えられません。判断が要る仕事は、AIには材料を整理させるだけにして、決めるのは人が行います。
また、見本の文そのものに問題があれば、その問題もまねされます。誤字や古い会社の住所、今は使っていないサービスの名前が見本に残っていると、AIはそれを書き写します。見本を選ぶときは、今の会社の文として出してよいかを一度読み直します。
最初の一歩は、いちばん多く書く文の見本を3本選ぶこと
明日からできることは、次の3つです。
- 社内でいちばん多く書く文(お礼のメール、問い合わせへの返事、作業の報告)を1つ決める
- その文で、過去に評判の良かったものを、場面を変えて3本選び、名前と金額を消す
- 見本を区切って渡し、いつもの頼み方と比べて、直す手間がどれだけ減ったかを確かめる
3本で効果が分かれば、5本に増やし、ほかの種類の文にも広げます。
まとめ
- AIの文がばらつくのは、会社にとっての「良い文」を知らないから。言葉で説明するより、見本を見せるほうが早い
- AnthropicとGoogleの公式の手引きでも、見本を見せることが勧められている。Anthropic社は3〜5本を勧めている
- 見本は評判の良かった本物の文から、場面の違うものを混ぜて選び、名前と金額は消して渡す
- 見本は「見本1」「見本2」と区切って指示と分け、プロジェクトやスキルに置いて毎回使う
- 見本は良くできた文で育てていく。事実と約束は、見本があっても人が確かめる