災害の訓練を年1回30分で。AIが筋書きを作り、止まった所から計画を直す
この記事では、災害の翌日も取引先への供給を止めない。事業継続の計画をAIで1枚から作るの「本格的にやるなら、年1回の訓練と見直しを仕組みにする」を、仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、訓練の前に、想定する出来事と季節と時間帯を表から選ぶ。1枚の計画と連絡先や在庫の表をそろえ、AIが30分の訓練の筋書きと、そのときどきに誰が何を決めるかの問いを下書きする。訓練のあと、参加者が一言ずつ話した記録から、AIが計画の直す案を出し、直すかどうかは社長が決めるという形です。作って終わりになりがちな計画を、年に一度、実際に使って確かめる仕組みにします。
計画を作っても、使えなければ止まる時間は縮まない
帝国データバンクが2026年5月に行った調査(全国2万2,749社が対象、1万521社が回答)では、事業継続の計画を作っていない企業の理由の最多は「策定に必要なスキル・ノウハウがない」(42.2%)でした。次いで「策定する人材を確保できない」(33.5%)、「策定する時間を確保できない」(28.1%)です(LOGISTICS TODAY、@IT、HRプロの報道による)。
計画を作れた会社にも、次の壁があります。作った計画が、いざというときに使えるかです。社員の連絡先が変わっている、代わりの手段として書いた協力会社と話がついていない、誰が決めるかを社員が知らない。こうしたことは、実際に動かしてみないと分かりません。
@ITの記事によると、帝国データバンクは、最初から完璧な計画を目指すのではなく、優先度の高いリスクに絞った段階的な導入を提言しています。1枚の計画を作ったら、訓練で足りないところを見つけて足していく。これがその段階的なやり方です。
今は筋書きを作る人がおらず、訓練をしていない
多くの小さな会社では、事業継続の訓練は次のような状態です。
- 計画は作ったが、訓練はしていない。避難訓練だけはしている
- 訓練をしようとしても、筋書きを作れる人がいない。毎回同じ「地震が起きた」だけになる
- 訓練をしても、気づいたことがメモで終わり、計画に戻らない
- 連絡先の表は作ったときのまま。退職した人や、担当が替わった取引先が残っている
避難訓練は、命を守る訓練です。事業継続の訓練は、その翌日に仕事をどう続けるかを確かめる訓練です。会議室で30分、筋書きに沿って「このとき誰が何を決めるか」を話し合う形(机上の訓練)でも、計画の穴は見つかります。
選び、そろえ、AIが筋書きを書き、訓練して直す
仕組みは4つの段でできています。
1. 選ぶ:想定と季節と時間帯を表から選ぶ。 想定する出来事(地震、水害、停電、システムの停止、仕入先の停止など)と、季節、曜日と時間帯の組み合わせを表にしておきます。毎年、前の年と違う組み合わせを選びます。表に「やった年」の欄を作り、まだやっていない組み合わせを計算で並べます。
2. そろえる:計画と表をそろえる。 ここはAIの仕事ではありません。
- 1枚の計画(止められない仕事、最初の1日にすること、代わりの手段)
- 連絡先の表、在庫と材料の表、保険の一覧の「最後に確かめた日」
- 前の年の訓練の振り返りと、直したところ
3. 下書きする:AIが筋書きと問いを書く。 AIに、選んだ想定と、そろえた計画を渡し、30分の訓練の筋書きを下書きさせます。
- 始まりの状況(「11月の火曜日、朝8時40分。会社のある市で震度6弱。電話がつながりにくい」)
- 10分ごとに起きること(「出荷の担当2人と連絡が取れない」「取引先A社から納品の問い合わせ」)
- そのときの問い(「誰が出荷をするかを、誰が決めるか」「取引先への第一報は、誰が何時までに出すか」)
計画に書かれていない人の名前や連絡先、数量は書かせません。
4. 訓練して直す:社長と社員が訓練し、振り返りから計画を直す。 社長と主な社員が会議室に集まり、筋書きを読み上げながら、問いに答えていきます。終わったら、参加者が一言ずつ「止まったところ」を話し、それを文字にします。AIに、その記録と計画を渡し、直す案を出させます。直すかどうかは社長が決め、計画と表を直します。
筋書きの型をスキルにし、選ぶ順番と確かめた日はAIの外に置く
この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
筋書きと振り返りの型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 筋書きの型:始まりの状況、10分ごとの出来事3つ、それぞれの問い、の並べ方
- 振り返りの型:止まったところ、計画のどこを直すか、表のどこを直すか、の分け方
- 会社の言葉:拠点や仕事の呼び方、社員の役の呼び方
- 書いてはいけないこと:計画にない人の名前や連絡先、在庫の数量、被害の大きさの断定、保険で補償されるという判断
選ぶ順番と、確かめた日は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、想定の組み合わせの表と「やった年」の欄、連絡先や在庫の表の「最後に確かめた日」から、半年を過ぎたものを計算で一覧にすることがそれに当たります。訓練の前にこの一覧を担当者が直しておけば、訓練が古い表のまま進むことを防げます。
振り返りの一言が、計画の穴を見つける
この仕組みでいちばん効くのは、訓練そのものより、終わったあとの一言です。
- 「出荷の担当が2人とも来られないと、伝票の出し方を知っている人がいない」
- 「取引先への第一報の文がなく、誰も書けなかった」
- 「連絡先の表に、去年辞めた人が残っていた」
こうした一言は、計画を作ったときには見えなかった穴です。AIは、一言を計画の見出しごとに分け、直す案を出します。たとえば「伝票の出し方を2人目に教える」「第一報の文の見本を計画に足す」です。直す案は、社長が採るかどうかを決めます。採った案は、次の訓練のときに確かめます。
取引先への第一報の見本や、計画の5つの見出しの作り方は、災害の翌日も取引先への供給を止めない。事業継続の計画をAIで1枚から作るで説明しています。
社長の仕事は、問いに答え、直すかを決めることになる
仕組みが入ると、訓練と見直しは次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 筋書き | 作れる人がいない。毎回同じ | 表から選び、AIが下書きする |
| 想定 | 地震だけ | 季節、時間帯、出来事を毎年替える |
| 振り返り | メモで終わる | 一言から、AIが直す案を出す |
| 計画 | 作ったまま | 採った案で毎年直す |
| 連絡先と在庫の表 | 作ったときのまま | 確かめた日から、古いものが一覧になる |
経営への効果は、止まる時間を縮め、取引を守ること
効果は、前提を置いて考えます。
止まったときの損 = 1日あたりの粗利 × 止まった日数 + 取引先が離れた分
仮に、1日あたりの粗利が30万円の会社で、訓練で見つけた穴(伝票を出せる人がいない、第一報を出せない)をふさいでいたおかげで、仕事の再開が2日早まれば、粗利で60万円分です。取引先に早く第一報を出せれば、取引先がほかの会社に注文を移すおそれも小さくなります。訓練にかかるのは、年1回、数人で30分と、前後の準備です。
災害はいつ起きるか分かりません。毎年の訓練で計画を使える形に保っておくことは、起きたときの損を小さくする、保険に近い支出です。
費用は作る費用もほとんど要らず、AIの利用料は年に数円
作る順番と、かかる日数
- 想定の組み合わせの表と、筋書きと振り返りの型を決める(会社:社長と総務の担当者、2時間)。ここがいちばん大事です
- 連絡先と在庫の表に「最後に確かめた日」の欄を足し、半年を過ぎたものの一覧を作る(会社:総務の担当者、1時間。表計算で作れます)
- 筋書きと振り返りの頼み方をスキルにする(作る人、0.5人日。会社で契約したAIのチャットに型を保存して使うなら不要)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
スキルにする場合で、作る側の目安は0.5人日です。会社で契約したAIのチャットに、型と計画を貼って頼むやり方なら、作る費用はかかりません。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 筋書きと直す案の下書きごとにかかる | 年1回の訓練で10円もかからない(下の計算) |
| 表計算・会議室 | すでにあるもの | 追加0円の想定 |
| 人の時間 | 訓練30分と準備 | 年1回、数人で2〜3時間 |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。筋書きの下書きに、計画と表とスキルで4,000トークンを読ませ、2,000トークンを書かせると見積もると、0.028ドル、1ドル150円で約4円です。振り返りから直す案を出す分(3,000トークンを読ませ、800トークンを書かせる)は約2円です。
何か月で取り戻せるか
この仕組みは、時間を浮かせて取り戻すものではありません。かかるのは年に数人で数時間と、ほとんどかからないAIの利用料です。上の式のとおり、災害やシステムの停止が起きたときに、再開が1日早まれば、それだけで1日分の粗利が守られます。
必要な人は3役で、直すかを決めるのは社長
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 決める人 | 社長 | 訓練で問いに答え、直す案を採るかを決める | 年1回30分と、直す案を読む15分 |
| 準備する人 | 総務の担当者 | 想定を選び、表の古いところを直し、筋書きを頼む | 年1回1〜2時間 |
| 参加する人 | 主な社員(出荷、営業、事務の責任者) | 問いに答え、止まったところを一言話す | 年1回30分 |
いちばん大事なのは、訓練の日を予定表に入れることです。いつかやろうと思っているうちに、1年が過ぎます。
1回目で穴が見つかり、3年で計画が使える形になる見込み
どこまでいけるかは、毎年続けられるかで決まります。目安は次のとおりです。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 1回目 | 連絡先の古さや、決める人があいまいなところなど、大きな穴が見つかる |
| 2回目 | 1回目で直したところを確かめる。別の想定で、代わりの手段の穴が見つかる |
| 3回目 | 主な想定を一巡し、計画が社員の頭に入る |
効果を確かめるには、次の3つを記録します。
- 訓練で見つかった穴の数と、直した数:毎年記録します
- 問いに答えるまでにかかった時間:「誰が決めるか」で止まった時間を記録します
- 表の「最後に確かめた日」が半年を過ぎた件数:表を保つ習慣が根付いたかを見ます
筋書きを毎年同じにすると失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- 毎年同じ想定で訓練する。 想定の組み合わせの表から、まだやっていないものを選びます
- AIが計画にない人や連絡先を書く。 スキルの「書いてはいけないこと」に入れ、計画と表にあるものだけで筋書きを作らせます
- 振り返りをメモで終わらせる。 一言を文字にしてAIに渡し、直す案を社長が決めるところまでを訓練の一部にします
- 直す案をAIに決めさせる。 採るかどうかは社長が決めます。代わりの手段や費用のかかる対策は、取引先や協力会社と話してから計画に書きます
社員や取引先の連絡先は、外に出してはいけない情報です。訓練の筋書きをAIに頼むときは、連絡先の表そのものは渡さず、「連絡先の表を見る」とだけ書かせます。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。
まとめ
- 事業継続の計画は、作っただけでは使えるか分からない。年1回30分の訓練で確かめる
- 想定する出来事と季節と時間帯を表から選び、毎年違う組み合わせにする
- 計画と表をそろえ、AIが筋書きと問いを下書きする。人の名前や連絡先、数量は書かせない
- 訓練のあと、参加者の一言からAIが直す案を出し、採るかどうかは社長が決める
- 費用はほとんどかからず、AIの利用料は1回数円。かかるのは年に数人で数時間