経営課題×AI

災害の翌日も取引先への供給を止めない。事業継続の計画をAIで1枚から作る

この記事で変わる経営指標

この記事では、地震や水害、システムの停止が起きた翌日も、取引先への供給とお客様への仕事を止めないための計画(BCP、事業継続計画)を、小さな会社が作る方法を説明します。一言でいうと、最初から完璧な計画を目指さず、会社がいちばん困るリスクに絞った1枚から作る。社長と担当者が話した会社の情報(止められない仕事、主な取引先と仕入先、連絡の取り方)をAIに渡し、計画と訓練の筋書きを下書きさせる。連絡先や在庫の数、保険の中身は表で持ち、AIには作らせないという話です。

AIの価値は、立派な計画書を書くことではありません。「やり方が分からない」「人も時間もない」で止まっていた最初の1枚を、社長の話から下書きして、会社が動き出せるようにすることです。

経営への効果は、取引を守り、国の支援も受けやすくなること

事業継続の計画づくりは、AIを使うと次のように変わります。

今まで 1枚から、AIで下書き
作り始め ひな形の厚さに手が止まる 社長が30分話すところから
中身 一般的な防災の話 自社の止められない仕事と取引先
連絡先や在庫 計画書に書いたまま古くなる 表で持ち、計画書から参照する
訓練 やらない AIが筋書きを作り、年1回試す
見直し 作ったら終わり 訓練の振り返りから直す
事業継続の計画づくりの変化。今までは厚いひな形に手が止まり、作っても古くなっていた。社長が会社の止められない仕事と取引先を話し、AIが1枚の計画と訓練の筋書きを下書きし、連絡先や在庫は表で持ち、訓練の振り返りから直していく
事業継続の計画づくりの変化。今までは厚いひな形に手が止まり、作っても古くなっていた。社長が会社の止められない仕事と取引先を話し、AIが1枚の計画と訓練の筋書きを下書きし、連絡先や在庫は表で持ち、訓練の振り返りから直していく

経営の効果は3つあります。

  • 取引先への供給を止めない。 災害やシステムの停止で仕事が止まると、その間の売上が消えるだけでなく、取引先がほかの会社に注文を移すことがあります。止まる時間を短くできれば、取引を守れます
  • 取引先からの信頼。 大きな取引先ほど、仕入先が止まったときの影響を気にします。計画があり、訓練をしていると説明できることは、取引を続けてもらう材料になります
  • 国の支援を受けやすくなる。 中小企業庁の「事業継続力強化計画」は、中小企業が作った防災・減災の事前対策の計画を経済産業大臣が認定する制度です。認定を受けると、税制措置や金融支援、補助金の審査での加点などの支援があります。川崎市の案内では、補助金の加点は「申請中」ではなく「認定済」であることが条件とされています。補助金を使う予定があるなら、早めに認定を取っておくことに意味があります

支援の中身と条件は年度ごとに変わります。2026年10月時点で、使う前に中小企業庁と管轄の経済産業局の最新の案内で確かめてください。

中小企業の策定率は18.3%で、壁は「やり方が分からない」

帝国データバンクが2026年5月に行った調査(全国2万2,749社が対象、1万521社が回答)によると、事業継続の計画を「策定している」企業は21.4%でした。規模別では、大企業の39.9%に対し、中小企業は18.3%にとどまりました(LOGISTICS TODAY、@IT、HRプロの報道による)。

策定していない企業に理由を聞くと、次の順でした。

  • 策定に必要なスキル・ノウハウがない:42.2%
  • 策定する人材を確保できない:33.5%
  • 策定する時間を確保できない:28.1%

必要性が分からないのではなく、やり方が分からず、人と時間がないことが壁になっています。ここは、AIが下書きを手伝える部分です。

同じ調査で、事業が止まるリスクへの備えとして多かったのは、「従業員の安否確認手段の整備」(65.3%)と「情報システムのバックアップ」(59.5%)でした。

最初から完璧を目指さず、会社がいちばん困るリスクに絞る

@ITの記事によると、帝国データバンクは、最初から完璧な計画を目指すのではなく、優先度の高いリスクに絞った段階的な導入が有効だとしています。安否確認や大事なデータのバックアップのような、手を付けやすい対策から始めるやり方です。

小さな会社の最初の1枚は、次の5つが書けていれば十分です。

  1. 止められない仕事:止まると取引先やお客様がいちばん困る仕事を1〜3つ(例:毎日の出荷、月末の請求、保守の駆けつけ)
  2. 想定する出来事:会社の場所で起きやすいもの(地震、水害、停電、システムの停止など)。国や自治体のハザードマップの原本で確かめる
  3. 最初の1日にすること:社員の安否の確かめ方、誰が何を決めるか、取引先への第一報
  4. 代わりの手段:止められない仕事を、場所や道具や人を替えて続ける方法(別の拠点、手書きの伝票、協力会社)
  5. 連絡と資料の置き場所:社員、取引先、仕入先、保険会社の連絡先の表と、大事なデータのバックアップがどこにあるか

厚いひな形をすべて埋めようとすると、そこで止まります。まず1枚を作り、訓練をして、足りないところを足していきます。

社長が話した会社の情報から、AIが計画と訓練の筋書きを下書きする

AIに頼むこと。 社長と担当者が30分ほど話した内容(止められない仕事、主な取引先と仕入先、会社の場所と建物、社員の通勤、今ある備え)を文字にして、AIに渡します。AIには、上の5つの形に沿って、計画の下書きを作ってもらいます。あわせて、次のものも下書きしてもらいます。

  • 訓練の筋書き:「平日の朝9時に震度6強。電話がつながらない」のような状況と、30分ごとに起きることと、そのときに誰が何を決めるかの問い
  • 取引先への第一報の文:被害の様子、次の連絡の時刻、代わりの手段があるか。受注の表から取引先ごとに下書きする仕組みは、仕事が止まった朝、取引先への第一報を1時間で出す。受注の表からAIが下書きで説明しています
  • 事業継続力強化計画の申請の下書き:国の様式の項目に沿って、計画の中身を書き写す

人がすること。 社長と担当者が、下書きの中身が会社の実際と合っているかを確かめ、直します。想定する出来事は、ハザードマップの原本で確かめます。連絡先や在庫の数は、表から入れます。

何が変わるか。 「何から書けばいいか分からない」で止まっていた計画が、話したことを確かめて直す仕事になります。

AIへの頼み方と、返ってくる下書きはこんな形になる

AIに渡す指示(見本。内容は架空です):

下は、社長と総務の担当者が話した、会社の事業と備えについての記録です。これをもとに、小さな会社の事業継続の計画を、A4で1枚の形で下書きしてください。見出しは「止められない仕事」「想定する出来事」「最初の1日にすること」「代わりの手段」「連絡と資料の置き場所」の5つにします。記録に書かれていないことは書かず、決まっていないところは「要検討」と書いてください。電話番号や数量は書かず、「連絡先の表を見る」のように置き場所だけを書いてください。

返ってくる下書き(見本の一部):

止められない仕事

  1. 取引先A社への毎日の出荷(午後3時の締め)
  2. 月末の請求書の発行

最初の1日にすること

  • 社員の安否:社長が9時30分までに全員の無事を確かめる(方法は要検討)
  • 出荷の判断:工場長が10時までに、当日の出荷ができるかを決める
  • 取引先への第一報:営業の責任者が11時までに、主な取引先に連絡する(連絡先の表を見る)

社長と担当者は、「要検討」のところを埋め、会社の実際と合わないところを直します。

計画の型をスキルにし、連絡先と在庫はAIの外の表で持つ

ここまでの使い方は、そのつどAIのチャットに頼む場合です。毎年見直して続けるなら、もう一段の工夫をしておくと安定します。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

計画の型と訓練の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「1枚の計画の5つの見出しと書き方」「訓練の筋書きの型」「取引先への第一報の見本」「書いてはいけないこと(連絡先や数量、確かめていない被害の想定、保険で補償されるという判断)」をスキルにします。

連絡先、在庫、保険は、AIの外の表で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、社員と取引先と仕入先の連絡先の表、止められない仕事に要る在庫と材料の表、保険の証券の一覧を、計画書とは別に持つことがそれに当たります。計画書には「どの表を見るか」だけを書きます。AIが連絡先や数量を作ってしまうことを防ぎ、表を直せば計画も古くならずに済みます。

明日からは、止められない仕事を3つ書き出す

  1. 社長が、「この仕事が3日止まったら、取引先やお客様がいちばん困るもの」を3つ書き出す
  2. 社員、主な取引先、仕入先、保険会社の連絡先を、1つの表にまとめる。紙にも印刷して、会社の外にも置く
  3. 会社の場所のハザードマップを、自治体や国の原本で確かめる
  4. 社長と担当者で30分話し、文字にした記録を、会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに渡し、上の見本の指示で1枚の計画を下書きさせる
  5. 1か月以内に、AIに作らせた筋書きで30分の訓練をする。止まったところを計画に足す

本格的にやるなら、年1回の訓練と見直しを仕組みにする

1枚ができたら、次の形に育てます。

  • 年1回の訓練の日を決める。 予定表に入れ、AIに毎年違う筋書き(季節、時間帯、止まる設備を変える)を作らせます
  • 訓練の振り返りから直す。 訓練のあとに参加者が一言ずつ話した記録をAIに渡し、計画の直すところの案を出させます。直すかどうかは社長が決めます。筋書きの作り方と訓練の進め方は、災害の訓練を年1回30分で。AIが筋書きを作り、止まった所から計画を直すで説明しています
  • 表の見直しを知らせる。 連絡先と在庫の表に「最後に確かめた日」の欄を作り、半年を過ぎたものを計算で一覧にして、担当者に知らせます
  • 事業継続力強化計画の認定を取る。 計画が固まったら、国の様式に沿って申請します。補助金を使う予定があるなら、その前に認定を取っておきます

期限のある手続きを表で管理する考え方は、許可や資格の期限切れで仕事を止めない。更新の期限は表で持ち、準備はAIでで説明しています。社員が休んでも仕事を止めない考え方は、社員が休んでも仕事が止まらない会社にする。休む前の引き継ぎをAIで5分にで説明しています。

被害の想定と安全の判断はAIに任せない

  • 被害の想定は原本で確かめる。 会社の場所で起きやすい災害と、浸水の深さなどは、国や自治体のハザードマップの原本で確かめます。AIの一般論で決めません
  • 安全の判断は人がする。 建物に入ってよいか、社員を帰すか、仕事を再開するかは、その場の社長と責任者が決めます。計画には「誰が決めるか」を書きます
  • 保険と支援の条件は原本で確かめる。 何が補償されるかは保険の約款と保険会社に、国の支援の条件は中小企業庁と経済産業局の最新の案内で確かめます
  • 社員と取引先の情報に気をつける。 連絡先は大事な個人の情報と取引の情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています

まとめ

  • 帝国データバンクの2026年の調査では、事業継続の計画を作っている中小企業は18.3%。作らない理由の最多は「スキル・ノウハウがない」(42.2%)
  • 最初から完璧を目指さず、止められない仕事、想定する出来事、最初の1日、代わりの手段、連絡と資料の置き場所の5つを1枚に書く
  • 社長と担当者が話した記録から、AIが計画と訓練の筋書きと取引先への第一報を下書きし、人が会社の実際と照らして直す
  • 連絡先、在庫、保険はAIの外の表で持ち、計画書には置き場所だけを書く
  • 国の事業継続力強化計画の認定を取ると、税制や補助金の加点などの支援がある。条件は最新の案内で確かめる

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