介護の申し送りの伝え漏れを防ぐ。1日の記録からAIがまとめる
この記事で変わる経営指標
この記事では、介護の人手不足をAIで補う方法。記録の時間を減らし、利用者と過ごす時間を増やすの「申し送りは、1日の記録からAIがまとめる」を、仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、交代の前に、その日の介護記録を利用者ごとに集める。転倒、発熱、受診などの言葉を含む記録は、計算で「必ず口で伝える」一覧に拾い出す。AIが、記録だけをもとに「次の担当が気をつけること」「ご家族に伝えること」「明日やること」に分けて申し送りの下書きを作る。担当が確かめて足し、次の担当が読んだ印を付けるという形です。急いでいる交代の時間でも、大事なことが抜けないようにします。
職員は増やしにくく、伝え漏れの手戻りが重い
厚生労働省が2024年7月に公表した推計では、2026年度に必要な介護職員の数は約240万人で、2022年度の約215万人から約25万人の増加が必要です(企業実務サポートの解説でも同じ数字が紹介されています)。小規模な事業所では、職員を増やして交代に余裕を持たせるのは簡単ではありません。
人が少ないと、申し送りは短く、口頭だけになりがちです。伝え漏れがあると、次の担当が同じことを利用者やご家族に聞き直したり、気をつけるべきことに気づかなかったりします。聞き直しや確かめ直しの手間は、少ない職員の時間をさらに削ります。
国も、職員の間の連絡にICT機器を使うことを後押ししています。2024年度の介護報酬の改定でできた「生産性向上推進体制加算」(加算(Ⅰ)は月100単位、(Ⅱ)は月10単位)では、見守り機器や介護記録のソフトと並んで、職員の間の連絡のためのICT機器の活用が取り組みの例に挙がっています。取るには、委員会を開くことや、改善の効果のデータを出すことなどの要件があります。要件と単位は、自治体の最新の通知で確かめてください。
今は交代のときに、記憶とメモで伝えている
多くの小規模な事業所では、申し送りが次のように行われています。
- 交代の前に、その日の担当が記録やメモを見返す
- 伝えることを思い出しながら、口頭か、ノートに数行で書く
- 送迎や片づけで急いでいると、見返す時間がなく、記憶だけで伝える
- 次の担当が聞いたかどうかは、残らない
利用者が20人いれば、1人ずつ記録を見返すだけで時間がかかります。休みが続いた職員は、何日分かの申し送りを読まないと、今の様子が分かりません。
集め、大事な言葉を拾い、AIがまとめ、担当が確かめる
仕組みは4つの段でできています。
1. 集める:その日の記録を利用者ごとに集める。 介護記録のソフトや記録の表から、その日の記録を利用者ごとに1つにまとめます。食事の量、水分、排せつ、入浴、体温、職員のメモが並ぶ形です。
2. 拾う:大事な言葉を、計算で拾い出す。 ここはAIの仕事ではありません。
- 「転倒」「ふらつき」「発熱」「むせ」「受診」「服薬の変更」「けが」など、事業所で決めた言葉を一覧にしておき、含む記録を拾う
- 体温や食事の量は、看護職と決めた事業所の目安を超えたものを拾う
- 拾った記録は「必ず口で伝える」一覧に並べる。AIのまとめに入っていても、口頭で伝えることを省かない
3. まとめる:AIが申し送りの下書きを作る。 AIに、利用者ごとの記録を渡し、次の3つの欄に分けて短くまとめさせます。
- 次の担当が気をつけること:体調、食事、歩き方など、記録に書かれた様子
- ご家族に伝えること:連絡帳や電話で伝えると記録にあること
- 明日やること:持ち物の返却、記録に書かれた予定
記録にないことは書かせません。それぞれの行に、もとになった記録の時刻を添えさせます。
4. 確かめて伝える:担当が確かめて足し、次の担当が読んだ印を付ける。 担当が下書きを読み、記録にない様子で伝えたいことを足します。「必ず口で伝える」一覧は、次の担当に口でも伝えます。次の担当は、読んだら印を付けます。
まとめ方をスキルにし、大事な言葉の拾い出しはAIの外に置く
この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
まとめ方と事業所の言葉を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- まとめの型:3つの欄の分け方と、1つの欄は3行までという長さ
- 事業所の言葉:利用者の呼び方、記録で使う言葉、良いまとめの見本を3つ
- 書いてはいけないこと:記録にない様子、病名や原因の推測、「様子を見る」「受診をすすめる」などケアの判断、利用者を決めつける言い方
大事な言葉の拾い出しと読んだ印は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、言葉の一覧と目安の数字で記録を拾うこと、まとめの各行を記録の時刻と照らすこと、次の担当の読んだ印を残すことが、それに当たります。AIは要約の途中で大事なことを短く丸めてしまうことがあります。大事なことはAIのまとめに頼らず、計算で拾って口で伝えます。
「必ず口で伝える」一覧が、AIの要約の弱さを補う
この仕組みでいちばん効くのは、AIのまとめではなく、計算で拾う一覧です。
- 転倒や発熱のように命に関わることは、言葉で拾うので、AIがまとめの中で落としても一覧には残ります
- 一覧の言葉は、はじめは広めに作ります。拾いすぎても、担当が見て外せば済みます
- 拾い漏らしに気づいたら、その言葉を一覧に足します。1か月ほどで、事業所に合った一覧になります
ケアをどうするかは、一覧を見た職員と看護職が決めます。AIにも、拾い出しの一覧にも、判断はさせません。
担当の仕事は、確かめて足し、口で伝えることになる
仕組みが入ると、申し送りは次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 準備 | 記録やメモを1人ずつ見返す | 利用者ごとの下書きを確かめて足す |
| 大事なこと | 担当の記憶に頼る | 言葉で拾った一覧に並ぶ |
| 書き方 | 担当によって違う | 3つの欄でそろう |
| 休み明けの職員 | 何日分かを聞いて回る | 日ごとのまとめを読む |
| 伝わったか | 残らない | 次の担当の読んだ印が残る |
経営への効果は、伝え漏れの手戻りを減らし職員を守ること
効果は、前提を置いて計算します。仮に、朝と夕方の申し送りの準備が1回20分かかっていたものが、下書きを確かめて足す10分になれば、1日20分が浮きます。月22日の営業で約7.3時間、時給を仮に1,500円として月約1万1,000円分です。
ただ、大きいのは時間ではありません。伝え漏れがあると、次の担当が同じことを聞き直したり、気をつけるべきことに気づかずに動いたりします。ご家族に伝えることが抜ければ、事業所への信頼が下がります。申し送りがそろえば、休み明けの職員も安心して入れます。職員を増やしにくい中で、交代のたびの不安を減らすことは、職員が辞めにくい職場づくりの一つです。
費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月600円ほど
作る順番と、かかる日数
- まとめの型と、書いてはいけないことを決める(事業所:管理者、半日)。ここがいちばん大事です
- 「必ず口で伝える」言葉の一覧と、体温や食事の量の目安を、看護職と決める(事業所:管理者と看護職、1時間)
- 記録の集め方と、言葉の一覧での拾い出しを作る(作る人、1人日)
- AIの申し送りの下書きと、読んだ印の欄を作る(作る人、0.5人日)
- 1か月、実際の記録で試して直す(作る人、0.5人日)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
上の手順3〜5で、作る側の目安は合計2人日です。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の事業所での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 利用者1人1日のまとめごとにかかる | 利用者20人、月22日で600円ほど(下の計算) |
| 介護記録のソフト | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 保守 | まとめの型と言葉の一覧の更新 | 月1時間 |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。利用者1人1日あたり、記録とスキルで3,000トークンを読ませ、300トークンを書かせると見積もると、0.009ドル、1ドル150円で約1.4円です。利用者20人、月22日の440件で約600円です。
何か月で取り戻せるか
取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)
仮に作る費用が12万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を約2,100円とすると、月約1万1,000円分が浮く事業所でおよそ13.5か月です。時間だけで取り戻すには1年以上かかります。そのため、小さな事業所では、まず言葉の一覧とまとめの型だけを作り、事業所で契約したAIのチャットにその日の記録を貼って下書きさせるやり方から始めるのが現実的です。今使っている介護記録のソフトに、記録をまとめる機能が付いていれば、それを先に試します。
必要な人は3役で、ケアを決めるのは職員と看護職
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 確かめて伝える人 | その日の担当 | 下書きを確かめて足し、一覧を口で伝える | 1回10分 |
| 決まりを保つ人 | 管理者と看護職 | まとめの型と言葉の一覧、目安の数字を保つ | 週15分 |
| 作る人 | 社内の詳しい人か、外の作り手 | 記録の集め方、拾い出し、下書き、読んだ印の欄を作る | 最初の2人日 |
いちばん大事なのは、「必ず口で伝える」一覧を、AIのまとめがあっても口で伝えることです。読んだ印だけで済ませると、急ぎのことが伝わるのが遅れます。
1か月で型がそろい、半年で聞き直しの変化が分かる見込み
どこまでいけるかは、記録がどれだけ毎日そろって入るかで決まります。目安は次のとおりです。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の1か月 | 実際の記録で試す。拾い漏らした言葉と、まとめで丸められたことを型に足す |
| 3か月 | 3つの欄のまとめが定着し、休み明けの職員がまとめを読んで入れる |
| 半年 | 申し送りの準備の時間と、聞き直しの回数を、仕組みの前と比べられる |
効果を確かめるには、次の3つを記録します。
- 申し送りの準備にかかった時間:朝と夕方に分けて記録します
- 次の担当が聞き直した回数:週ごとに数えます
- 一覧の言葉で拾えなかった大事なこと:言葉の一覧を見直す材料にします
大事なことをAIのまとめだけに頼ると失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- 転倒や発熱をAIのまとめだけで伝える。 言葉の一覧で拾い、口でも伝えます
- 記録にない様子をAIが書く。 各行に記録の時刻を添えさせ、担当が照らします
- AIに「様子を見る」「受診をすすめる」と書かせる。 ケアの判断は職員と看護職がします
- 記録が入っていない日に、まとめを作る。 記録が空の利用者は、まとめに「記録なし」と出して担当が確かめます
利用者の名前や体の様子は、外に出してはいけない情報です。事業所で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、どこまでAIに渡すかを事業所の決まりに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。記録を声から下書きする仕組みは介護記録を話すだけで下書きにする。職員の残業を減らすAIの仕組み、ご家族への連絡帳の仕組みはデイサービスの連絡帳を毎日具体的に。介護記録からAIがご家族向けに下書きで説明しています。
まとめ
- その日の介護記録を、交代の前に利用者ごとに集める
- 転倒、発熱、受診などの言葉を含む記録は、計算で「必ず口で伝える」一覧に拾い出す
- AIが記録だけをもとに、「気をつけること」「ご家族に伝えること」「明日やること」に分けて下書きし、各行に記録の時刻を添える
- 担当が確かめて足し、一覧は口で伝え、次の担当が読んだ印を付ける
- 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は2人日。AIの利用料は月600円ほど