業務への組み込み例

社員への連絡を社長の言葉で毎月出す。箇条書きからAIが社長の口調で下書き

この記事で変わる経営指標

この記事では、社長の仕事を週10時間減らすAIの使い方。事務から先に手放すの「AIは社内の文章や挨拶文を、社長の口調で下書きできる」を、仕組みとして作る方法を説明します。

一言でいうと、社長が伝えたいことを箇条書きで残す。日付や数字や人の名前は社内の表から入れる。AIが社長の過去の文章を見本にして、社長の口調で社員への連絡や挨拶の文を下書きする。社長が言い回しを直して、自分の名前で出すという形です。白紙から30分かけて書いていた文章を、伝えたいことを決めて直す仕事にします。

社長の時間は、判断より書く仕事に消えている

親の記事で触れたとおり、ラクスルが2026年5月に公表した、従業員2〜100人の中小企業の経営者・幹部300人への調査では、戦略を考えることや重要な判断に、思うように時間を割けていないと答えた人が半数を超えました。時間を奪っている原因として、現場への介入と事務が挙がっています。

社長が書く文章は、思ったより多くあります。

  • 月初の全社への連絡(今月の目標、先月のふり返り、お礼)
  • 朝礼で話すことのメモ
  • 新しく入った社員への歓迎の言葉
  • 取引先への季節の挨拶や、お詫びの文章

どれも社長の名前で出すので、人に任せにくい文章です。そして、白紙から書くと1本30分はかかります。

今は書く時間がとれず、社員への連絡が途切れている

多くの小さな会社では、社長の文章が次のように扱われています。

  1. 月初に全社へ連絡しようと思うが、書く時間がとれない
  2. 夜に書き始めるが、言い回しに悩んで時間がかかる
  3. 忙しい月は連絡を出さずに終わり、社員は社長の考えを知る機会を失う
  4. お詫びの文章は、気持ちが先に立って書き出せず、出すのが遅れる

社長の考えが社員に届かないと、現場の判断がばらつきます。社員が社長の考えを知る機会は、思っているより少ないものです。

箇条書きを残し、表から入れ、AIが書き、社長が直す

社長が伝えたいことを箇条書きで残し、日付や数字や人の名前は社内の表から入れる。AIが社長の過去の文章を見本に、社長の口調で社員への連絡や挨拶の文を下書きし、社長が言い回しを直して自分の名前で出す
社長が伝えたいことを箇条書きで残し、日付や数字や人の名前は社内の表から入れる。AIが社長の過去の文章を見本に、社長の口調で社員への連絡や挨拶の文を下書きし、社長が言い回しを直して自分の名前で出す

仕組みは4つの段でできています。

1. 書き出す:社長が伝えたいことを箇条書きで残す。 移動の合間や、思いついたときに、スマートフォンで箇条書きを残します。話して残してもかまいません。

  • 「先月は〇〇の現場で、雨の中でも工期を守ってくれた。ありがとう」
  • 「今月から新しい見積の決まりを始める。理由はお客様を待たせないため」
  • 「来月の健康診断を必ず受けてほしい」

2. 確かめる:日付と数字と人の名前は社内の表から入れる。 ここは表の仕事です。

  • 売上や件数などの数字は、社内の集計表から入れます。箇条書きの数字は使いません
  • 日付、人の名前、部署の名前も、表から入れます
  • 社員の個人的なこと(病気、家庭の事情)は、箇条書きに入れません

3. 下書きする:AIが社長の口調で文にする。 AIが、箇条書きと社長の過去の文章の見本から、文章を下書きします。見本は、社長がこれまでに書いて評判の良かった連絡や挨拶を3〜5本選んでおきます。Anthropic社の手引きでも、見本は文の形や調子をそろえる確かな方法とされています。見本の選び方は、AIの文が毎回ばらつくなら、良い見本を3つ見せる。言葉で説明するより早いで説明しています。

4. 出す:社長が言い回しを直して、自分の名前で出す。 社長が下書きを読み、自分の言葉で言い回しを直して出します。社長が読まずに出すことはしません。

社長の口調と見本をスキルにし、数字と約束はAIの外で持つ

この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

社長の口調と見本を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。

  • 文章の種類ごとの見本:月初の全社への連絡、朝礼のメモ、歓迎の言葉、季節の挨拶、お詫び
  • 社長の口調:よく使う言葉、使わない言葉、呼びかけ方(「みなさん」か「みんな」か)
  • 会社の大事にしていること:経営の方針、社員に繰り返し伝えたいこと
  • 書いてはいけないこと:箇条書きにない約束(昇給、賞与、休みの約束)、社員の個人的なこと、ほかの社員と比べる書き方

数字と、約束は、AIの外で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、数字と日付と名前を表から入れること、下書きに箇条書きにない約束が入っていないかを確かめることがそれに当たります。社長の名前で出す文章に、社長が言っていない約束が入ることは、いちばん避けたい失敗です。

社長の仕事は、伝えたいことを決めて、言い回しを直すことになる

仕組みが入ると、社長の文章は次のように変わります(想定です)。

今まで 仕組みが入ったあと
書き始め 白紙から言い回しに悩む 箇条書きから下書きが出る
数字と名前 思い出して書き、間違うことがある 表から入る
出す時期 忙しい月は出さずに終わる 決まった日に出せる
お詫び 書き出せずに遅れる 落ち着いた下書きをたたき台にできる
社長の時間 1本30分 1本10分

経営への効果は、社長の考えが社員に届き続けること

効果は、前提を置いて計算します。仮に、1本30分かかっていた文章が、箇条書きを残して下書きを直す10分になれば、1本20分が浮きます。月10本なら月約3時間、社長の1時間の価値を仮に1万円として月約3万3,000円分です。

ただ、この仕組みの価値は時間だけではありません。社長の考えが毎月決まった時期に社員に届けば、現場の判断がそろいやすくなります。先月の頑張りへのお礼が届けば、社員は「見てもらえている」と感じます。人が足りない会社では、社員に長く働いてもらうことが何より大事で、社長の言葉はその支えの1つになります。社長宛てのメールを毎朝まとめる仕組みは、朝10分で社長の判断が済む。届いたメールと書類をAIが毎朝まとめる仕組みで説明しています。

費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月30円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 社長の過去の文章から、種類ごとに見本を3〜5本選ぶ(会社:社長、半日)。評判の良かったものを選び、名前や数字を消します。ここがいちばん大事です
  2. 社長の口調と、書いてはいけないことを書き出す(会社:社長、1時間)
  3. 箇条書きを受け取り、表から数字と名前を入れる仕組みを作る(作る人、0.5人日)
  4. AIの下書きと、社長への届け方を作る(作る人、0.5人日)
  5. 1か月、月初の全社への連絡で試して直す(作る人、0.5人日)

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜5で、作る側の目安は合計1.5人日です。

毎月の費用

費用 中身 想定の会社での目安
AIの利用料 1本の文章の下書きごとにかかる 月10本で30円ほど(下の計算)
チャット・表計算 すでに使っているもの 追加0円の想定
保守 見本と口調の更新 月30分

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1本あたり箇条書きと見本とスキルで5,000トークンを読ませ、1,200トークンを書かせると見積もると、0.022ドル、1ドル150円で約3.3円です。月10本で30円ほどです。

何か月で取り戻せるか

取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)

仮に作る費用が9万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を1,000円とすると、月約3万3,000円分が浮く会社でおよそ3か月です。仕組みを作らなくても、会社で契約したAIのプロジェクトに見本と口調を置き、社長が箇条書きを貼って下書きさせるやり方で十分に始められます。

必要な人は2役で、出すのは社長

役 誰が すること 時間
伝えたいことを決めて直す人 社長 箇条書きを残し、下書きを直して出す 1本10分
作る人 社内の詳しい人か、外の作り手 見本と口調のスキル、表からの差し込み、届け方を作る 最初の1.5人日

いちばん大事なのは、伝えたいことは社長が決めることです。AIは文の形を整えるだけで、何を伝えるかは考えません。

1か月で口調がそろい、半年で社員の反応が分かる見込み

どこまでいけるかは、見本がどれだけ社長らしいかと、社長が直したところをどれだけ見本に足すかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の1か月 月初の全社への連絡だけで試す。社長が直した文を見本に足す
3か月 朝礼のメモや挨拶にも広げる。直すところが減る
半年 社長の連絡が途切れず出せたかと、社員の反応を、仕組みの前と比べられる

効果を確かめるには、次の3つを導入の前と後で比べます。

  • 1本にかかる時間:社長の時間を記録します
  • 連絡を出せた月の数:途切れた月がないかを見ます
  • 社員の反応:返信や、面談で連絡に触れた社員の声を記録します

社長が言っていない約束をAIが書くと失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • 箇条書きにない約束をAIが書く。 「来期は賞与を増やします」のような約束をAIが足すことがあります。箇条書きにない約束が入っていないかを、社長が必ず確かめます
  • 社長が読まずに出す。 社長の名前で出す文章は、社長が読んで直してから出します
  • 数字を箇条書きのまま使う。 売上や件数は、集計表から入れます
  • 社員の個人的なことをAIに渡す。 病気や家庭の事情は、箇条書きに入れず、社長が直接伝えます

社内の情報は、外に出してはいけない情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内の決まりに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。

まとめ

  • 社長が伝えたいことを箇条書きで残す。何を伝えるかは社長が決める
  • 日付と数字と人の名前は社内の表から入れ、社員の個人的なことは入れない
  • AIが社長の過去の文章を見本に、社長の口調で下書きし、社長が言い回しを直して自分の名前で出す
  • 箇条書きにない約束が入っていないかを、社長が必ず確かめる
  • 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は1.5人日。AIの利用料は月30円ほど。プロジェクトに見本を置くやり方でも始められる

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