業務への組み込み例

整備記録を夕方に書かない。整備士が話したメモからAIが記録の形に下書き

この記事で変わる経営指標

この記事では、整備士が足りなくても車を回す。整備工場の事務をAIに任せる方法の「整備記録の清書は、整備士が話したメモからAIが下書きする」を、仕組みとして作る方法を説明します。

一言でいうと、整備士が作業の直後に、交換した部品、測った値、気になったことをスマホに話して残す。AIがそれを工場の整備記録の形に下書きし、話していない欄は空けておく。部品は部品の台帳と照らし、整備士が値と部品を確かめて記録として残すという形です。夕方に事務所で書いていた記録を、作業の直後に終わらせ、整備士がピットにいられる時間を増やします。

整備士は簡単には増えず、書きものの時間がそのまま作業を減らす

親の記事で触れたとおり、共同通信の報道では、自動車整備・修理工の有効求人倍率は2024年度に5.09倍で、全職種の平均1.14倍を大きく上回っています(秋田魁新報、OANDAに掲載)。2020年度の4.50倍から毎年上がっています。整備士を新しく採るのは、簡単ではありません。

人が増えないなかで、整備士が記録を書くのに使う時間は、そのまま車を見る時間を減らします。1台あたりの記録の時間を減らせれば、同じ人数で受けられる台数が増えます。

今は整備記録が、作業のあとに事務所でまとめて書かれている

多くの小さな整備工場では、整備記録が次のように書かれています。

  1. 整備士が作業をしながら、測った値や交換した部品を紙の端や頭に覚えておく
  2. 何台か作業を終えたあと、事務所でまとめて記録を書く
  3. 1台8分ほどでも、1日に何台もあれば夕方の1時間が記録に消える
  4. 書く人によって言葉がばらばらで、次の点検のときに前回の状態が読みにくい

時間がたってから書くと、測った値を思い出せなかったり、気になったことを書き忘れたりします。お客様への説明や、次の点検の案内に使える情報が、記録に残らないこともあります。

話し、AIが形にし、台帳と照らし、整備士が確かめる

整備士が作業の直後に交換部品・測った値・気になったことをスマホに話し、AIが工場の整備記録の形に下書きする。話していない欄は空け、部品は部品の台帳と照らし、整備士が値と部品を確かめて記録として残す
整備士が作業の直後に交換部品・測った値・気になったことをスマホに話し、AIが工場の整備記録の形に下書きする。話していない欄は空け、部品は部品の台帳と照らし、整備士が値と部品を確かめて記録として残す

仕組みは4つの段でできています。

1. 話す:作業の直後に、スマホに話す。 1台の作業が終わったら、整備士がスマホに1分ほど話します。

  • 車の登録番号か、作業の伝票の番号
  • 交換した部品と数(「エンジンオイル4リットル、オイルフィルター1個」)
  • 測った値(「ブレーキパッドの残り、前4ミリ、後6ミリ」「タイヤの溝、前後とも5ミリ」)
  • 気になったこと(「右前のブーツにひび。次回の点検で交換をすすめる」)

2. 下書きする:AIが工場の記録の形に整える。 AIに、話したことの文字と、工場で使っている整備記録の形を渡し、項目ごとに整えさせます。話していない値の欄は空けたままにし、「話していない」と印を付けさせます。

3. 照らす:部品は部品の台帳と、値は決まった範囲と照らす。 ここはAIの仕事ではありません。次のことを表で確かめます。

  • 交換した部品が、その作業の伝票と部品の出庫の台帳に載っているか
  • 測った値が、工場で決めた「次回の交換をすすめる」範囲に入っているか
  • 空欄になっている必須の項目がないか

4. 確かめて残す:整備士が値と部品を確かめ、記録にする。 整備士が下書きを読み、値と部品が正しいかを確かめて直し、記録として残します。空欄のままの必須の項目は、整備士が埋めます。

記録の形をスキルにし、値と部品の確かめはAIの外に置く

この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

記録の形と工場の言葉を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。

  • 記録の形:工場で使っている整備記録の項目と順番
  • 部品と作業の呼び方:整備士がふだん言う呼び方と、記録に書く正式な名前の対応
  • 気になったことの書き方:場所、状態、すすめること、の順で書く
  • 書いてはいけないこと:話していない値、話していない部品、故障の原因の断定

値と部品の確かめは、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、話していない欄を空けたままにさせること、部品を伝票と出庫の台帳と照らすこと、測った値を工場で決めた範囲と照らすことが、それに当たります。点検や整備の記録は、整備士が責任を持つものです。AIがもっともらしい値で欄を埋めてしまうと、記録の意味がなくなります。

気になったことの記録が、次の案内とお客様への説明に生きる

作業の直後に話すと、気になったことが記録に残りやすくなります。

  • 「右前のブーツにひび」と残っていれば、お客様への説明に使えます
  • 次の点検や車検の案内で、「前回、ブーツにひびがありました」と触れられます
  • 整備士が替わっても、前回の状態が同じ言葉で読めます

前回の整備に触れた車検の案内の作り方は、車検のお客様をほかの工場に取られない。前回の整備に触れた案内をAIで出す仕組みで説明しています。写真を使った見積の説明は、整備の見積に写真で納得してもらう。整備士のメモからAIが説明を下書きにあります。話したことを記録の下書きにする考え方は、介護の例ですが介護記録を話すだけで下書きにする。職員の残業を減らすAIの仕組みも参考になります。

整備士の仕事は、話して確かめることになる

仕組みが入ると、整備記録は次のように変わります(想定です)。

今まで 仕組みが入ったあと
書く時期 夕方に事務所でまとめて 作業の直後に1分話す
測った値 思い出しながら書く 測った直後に話す
言葉 書く人によってばらばら 工場の記録の形にそろう
部品の確かめ 書いた人の記憶 伝票と出庫の台帳と照らす
1台の記録の時間 8分ほど 話して確かめる3分ほど

経営への効果は、同じ人数で受けられる台数が増えること

効果は、前提を置いて計算します。仮に、1台の記録に8分かかっていたものが、話して確かめる3分になれば、1台5分が浮きます。月300台の作業がある工場なら月25時間、1時間あたりの人件費を仮に2,500円として月約6万2,500円分です。

ただ、大きいのは時間だけではありません。浮いた時間を作業に回せば、同じ人数で受けられる台数が増えます。夕方に事務所で記録を書く時間が減れば、残業が減り、整備士が辞めにくくなります。記録の言葉がそろえば、次の点検の案内やお客様への説明にも使えます。

費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月600円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 記録の形と、部品と作業の呼び方の対応と、書いてはいけないことを決める(工場:工場長と整備士、半日)。ここがいちばん大事です
  2. 測った値の「交換をすすめる」範囲と、必須の項目を決める(工場:工場長、半日)
  3. 話したメモを受け取り、AIに記録の形に下書きさせる仕組みを作る(作る人、1人日)
  4. 伝票と出庫の台帳との照らし合わせと、値の範囲の確かめを作る(作る人、0.5人日)
  5. 1か月、整備士1人で試して直す(作る人、0.5人日)

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜5で、作る側の目安は合計2人日です。

毎月の費用

費用 中身 想定の工場での目安
AIの利用料 1台の記録の下書きごとにかかる 月300台で600円ほど(下の計算)
スマホ・整備の管理ソフト すでに使っているもの 追加0円の想定
保守 記録の形と呼び方の対応の更新 月1時間

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1台あたり話した文字とスキルで3,000トークンを読ませ、700トークンを書かせると見積もると、0.013ドル、1ドル150円で約2円です。月300台で600円ほどです。

何か月で取り戻せるか

取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)

仮に作る費用が12万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を約3,100円とすると、月約6万2,500円分が浮く工場でおよそ2か月です。整備士が数人の工場なら、記録の形をスキルにして、工場で契約したAIのチャットに話した文字を貼って下書きさせるやり方で十分です。そのときも、値と部品は整備士が確かめます。

必要な人は3役で、記録に責任を持つのは整備士

役 誰が すること 時間
話して確かめる人 作業をした整備士 作業の直後に話し、下書きの値と部品を確かめて残す 1台3分
範囲を決める人 工場長 記録の形と、値の範囲と、必須の項目を決める 月1時間
作る人 社内の詳しい人か、外の作り手 受け取り、下書き、照らし合わせを作る 最初の2人日

いちばん大事なのは、作業の直後に話す習慣です。何台分かをまとめて話すと、夕方に書くのと同じになります。

1か月で話す習慣がつき、半年で受けられる台数の変化が分かる見込み

どこまでいけるかは、整備士が作業の直後に話す習慣がつくかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の1か月 整備士1人で試す。呼び方の対応に足りないものを足す
3か月 整備士の全員に広がる。記録の言葉がそろう
半年 1日あたりの作業の台数と、整備士の残業の時間を、仕組みの前と比べられる

効果を確かめるには、次の3つを記録します。

  • 1台の記録にかかった時間:整備士が数日分を記録します
  • 1日あたりの作業の台数:月ごとに比べます
  • 整備士の残業の時間:月ごとに比べます

話していない値をAIに埋めさせると失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • 話していない値をAIが埋める。 空欄のままにさせ、整備士が埋めます
  • 部品を照らさずに残す。 伝票と出庫の台帳と照らします
  • 故障の原因をAIが断定する。 原因を決めるのは整備士です。AIには書かせません
  • 何台分かをまとめて話す。 1台ごとに、作業の直後に話します

お客様の名前や車の登録番号は、外に出してはいけない情報です。工場で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、工場の決まりに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。記録の様式と保存のしかたは、法令と運輸局の案内に沿って工場で決めているものをそのまま使います。

まとめ

  • 整備士が作業の直後に、交換した部品、測った値、気になったことをスマホに1分話す
  • AIが工場の整備記録の形に下書きし、話していない欄は空けたままにする
  • 部品は伝票と出庫の台帳と、値は工場で決めた範囲と表で照らす
  • 整備士が値と部品を確かめて記録として残す。故障の原因はAIに書かせない
  • 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は2人日。AIの利用料は月600円ほど

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