取引先ごとの作業時間の集め方|日報からAIが下書きし、週5分で直す
この記事では、取引先ごとの粗利の出し方|同じ売上でも利益が半分の仕事に気づくで、いちばん手間がかかる「取引先ごとの作業の時間」を集める方法を説明します。
一言でいうと、新しい記録の仕組みは増やさない。担当者がふだん書いている日報や予定表をそのまま使い、AIが週に1回、担当者ごと・取引先ごとの時間の下書きを作る。担当者は金曜に5分で確かめて直し、月の初めに経理が表で取引先ごとに合計する。合計した時間は、毎月の粗利の表に入れるという形です。
粗利の差は、材料よりも作業の時間で生まれやすい
取引先ごとの粗利は、「売上−材料・外注の費用−作業の時間×1時間あたりの費用」で出します。売上と材料・外注の費用は、請求書を見れば取引先ごとに分かります。分からないのは、社員の時間がどの取引先にどれだけかかったかです。
親の記事の計算の例(数字はすべて仮定)では、毎月の売上が同じ50万円の取引先Aと取引先Bで、作業の時間が60時間と120時間でした。1時間2,500円で計算すると、時間の費用は15万円と30万円で、粗利は20万円と10万円です。材料・外注の費用の差は5万円ですが、時間の差は15万円の差になっています。細かい注文、打ち合わせ、手直しが多い取引先ほど、時間がかかります。
つまり、作業の時間を集めないと、取引先ごとの粗利の差のいちばん大きな理由が見えません。
今は、時間の記録を始めても続かない
時間の記録は、多くの会社で一度は試され、続かずに終わっています。理由はたいてい次の3つです。
- 記録が細かすぎる。 15分ごとに書く表を配ると、忙しい週から書かれなくなります
- 書く場所が増える。 日報とは別に時間の表を書くことになり、二度手間になります
- 書いても使われない。 集めた時間が何に使われるかが分からず、担当者が書く理由を持てません
この記事の形は、この3つを避けるために、記録を新しく増やさず、AIに下書きさせ、使い道(取引先ごとの粗利)をはっきりさせます。
日報からAIが下書きし、担当者が金曜に直す
1 書く(人)。 担当者は、今までどおり日報を書き、予定表に打ち合わせや訪問を入れます。日報には、その日にした仕事と取引先の名前を書いてもらうことだけを決めます。時間は書かなくてかまいません。
2 下書きする(AI)。 週に1回、1週間分の日報と予定表をAIに渡し、担当者ごとに、取引先ごとの時間の下書きを表の形で作ってもらいます。仕事の種類(作業、打ち合わせ、手直し、移動、見積)も分けます。日報から時間が読めないところは、空けて印を付けてもらいます。
3 直す(人)。 担当者が金曜に下書きを見て、時間を直し、空いているところを埋めます。5分ほどで終わる量にします。
4 合計する(人)。 月の初めに、経理の担当者が4〜5週分の表を、取引先ごとに合計します。合計は表の計算で行い、AIには計算させません。
AIへの頼み方と、返ってくる下書きはこんな形になる
AIに渡す指示(見本。内容は架空です):
下は、当社の担当者1人の1週間分の日報と予定表です。取引先ごと・仕事の種類(作業、打ち合わせ、手直し、移動、見積)ごとに、かかった時間の下書きを表にしてください。時間は30分単位で、日報や予定表から読めるものだけを書き、読めないところは空けて「要確認」と書いてください。1日の合計が日報の勤務時間を超えないようにしてください。
返ってくる下書き(見本の一部):
| 日 | 取引先 | 種類 | 時間 | 根拠 |
|---|---|---|---|---|
| 月 | 取引先B | 打ち合わせ | 1.5 | 予定表「B社 打合せ 10:00-11:30」 |
| 月 | 取引先B | 手直し | 要確認 | 日報「B社の図面を修正」 |
| 火 | 取引先A | 作業 | 4.0 | 日報「A社 製作 午後いっぱい」 |
| 火 | 取引先B | 移動 | 1.0 | 予定表「B社 訪問 15:00」 |
担当者は「要確認」の行を埋め、ずれている時間を直します。根拠の列があるので、直すときに日報を見返さずに済みます。
記録の型をスキルにし、合計はAIの外に置く
記録の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「下書きの表の型(日、取引先、種類、時間、根拠)」「取引先の名前の一覧と呼び方のゆれ(B社、B工業、Bさん)」「仕事の種類の決め方」「書いてはいけないこと(日報にない時間、1日の勤務時間を超える合計)」をスキルにします。取引先の呼び方のゆれをまとめておくと、下書きの取引先名がそろいます。
合計は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、担当者が金曜に直すこと、合計と粗利の計算を表の計算式で行うこと、1日の合計が勤務時間を超えていないかを表で確かめることがそれに当たります。
1時間あたりの費用は、社長が1つの数字に決める
作業の時間をお金に直すには、1時間あたりの費用が要ります。最初は、全員に同じ数字を使います。
1時間あたりの費用 =(1年間の給与+会社が払う社会保険料など)÷ 1年間の働く時間
たとえば、1年間の人件費の合計が1人あたり450万円で、1年間の働く時間が1,800時間なら、1時間2,500円です(数字は仮定です)。社長が自社の数字で計算し、年に1回見直します。担当者ごとに変えると、給与が分かってしまうので、最初は会社で1つの数字にします。
社長の仕事は、使い道を伝え、毎月の粗利を読むことになる
社長がすることは、次の3つです。
- 記録の使い道を社員に伝える。 「取引先ごとの粗利を出し、値上げの相談や仕事の受け方を考えるため」と伝えます。人の評価に使わないことも伝えます。評価に使うと、時間を少なく書くといったゆがみが出やすくなります
- 1時間あたりの費用を決める。 上の式で、会社の数字を1つ決めます
- 毎月の粗利のメモを読む。 集めた時間が、どの取引先で利益が削られているかの判断に使われていることを、社員に見せます
経営への効果は、粗利の差のいちばん大きな理由が見えること
作業の時間が取引先ごとに分かると、次のことができるようになります。
- 時間のかかる取引先が分かる。 打ち合わせや手直しが多い取引先に、注文のまとめ方や仕様の決め方を相談できます
- 値上げの根拠になる。 「この1年で、1回の注文あたりの手直しの時間が増えています」と、数字で説明できます
- 見積の精度が上がる。 似た仕事にかかった時間が分かるので、次の見積の単価に反映できます
費用はAIの利用料が月に数十円ほどで、大半は担当者の時間
| 費用 | 見込み |
|---|---|
| AIの利用料 | 10人分の1週間の日報(入力1万5千トークン・出力3千トークンほど)の下書きが、Claude Sonnet 5.5の料金(入力100万トークンあたり2ドル、出力10ドル、1ドル150円で計算)で1回9円ほど。月に40円ほど |
| 担当者の時間 | 1人あたり週5分 |
| 経理の時間 | 月の初めの合計に1時間ほど |
| 仕組みを作る費用 | チャットに貼るなら不要。日報のシステムから自動で下書きを出す形にするなら、作る費用が加わる |
担当者の時間は、10人なら週に50分です。時間の記録を一から書いてもらうより、下書きを直すほうが短く済みます。
必要な人は4役で、決めるのは社長
- 社長:使い道を伝え、1時間あたりの費用を決め、毎月の粗利を読む
- 担当者:日報に取引先の名前を書き、金曜に下書きを直す
- 経理の担当者:月の初めに合計し、粗利の表に入れる
- 下書きを回す人:週に1回、日報と予定表をAIに渡して下書きを配る。経理の担当者が兼ねてもよい
1か月で記録がそろい、3か月で取引先ごとの差が見える見込み
- 1週目:日報に取引先の名前を書くルールを決め、取引先の名前の一覧を作る
- 2週目:1人分で試し、下書きの形を整えてスキルにまとめる
- 3〜4週目:全員に広げる
- 2か月目:最初の月の合計を粗利の表に入れる
- 3か月目:3か月分がそろい、取引先ごとの時間の差と、その変化が見えるようになる
最初の1〜2か月は、取引先の名前の書き方のゆれや、移動の時間の入れ忘れで、数字がぶれます。3か月ほどで記録が安定してから、値上げの相談などの判断に使います。
細かく集めすぎると、続かずに失敗する
よくある失敗は次の3つです。
- 細かく分けすぎる。 仕事の種類を10種類以上に分けると、直すのに時間がかかり、続きません。5種類ほどにします
- 移動と手直しを入れ忘れる。 取引先ごとの差が出やすいのは、移動と手直しの時間です。下書きの指示に必ず入れます
- AIの下書きをそのまま使う。 日報から読めない時間を、AIが推測で埋めることがあります。「要確認」として空けさせ、担当者が埋めます
集めた時間の使い方は、親の記事の「毎月、表で粗利を計算し、AIが社長向けのメモにする」の節で説明しています。
まとめ
- 取引先ごとの粗利の差は、材料よりも作業の時間で生まれやすく、時間を集めないといちばん大きな理由が見えない
- 新しい記録は増やさず、担当者の日報と予定表から、AIが週に1回、取引先ごと・仕事の種類ごとの時間の下書きを作る
- 担当者は金曜に5分で直し、月の初めに経理が表で合計する。合計と粗利の計算はAIにさせない
- 1時間あたりの費用は、社長が会社で1つの数字に決める
- 記録の使い道を伝え、人の評価には使わない。3か月で取引先ごとの差が見えるようになる