取引先ごとの粗利の出し方|同じ売上でも利益が半分の仕事に気づく
この記事では、取引先ごとの粗利の出し方を、売上はあるのに利益が残らないと感じている社長に向けて説明します。一言でいうと、毎月、取引先ごとの売上と、材料・外注の費用と、かかった作業の時間を表に入れ、取引先ごとの粗利と粗利率を計算する。AIは、その表から粗利率の低い取引先と下がった理由の候補を、社長が読む月のメモにまとめる。値上げの相談や仕事の受け方は、社長が決めるという話です。
AIの価値は、利益を計算することではありません。表で計算した取引先ごとの数字を、社長が毎月5分で読める言葉に直し、「どの取引先で利益が削られているか」に毎月気づけるようにすることです。
経営への効果は、利益を削っている取引先に気づき、手を打てること
取引先ごとの粗利を見るようになると、次のように変わります。
| 今まで | 取引先ごとの表を入れたあと | |
|---|---|---|
| 見ている数字 | 会社全体の売上と利益 | 取引先ごとの粗利と粗利率 |
| 気づくとき | 決算のあと | 毎月 |
| 分かること | 利益が減ったこと | どの取引先で、なぜ減ったか |
| 打つ手 | 全体の経費を削る | 値上げの相談、仕事の受け方の見直し |
| 社長の手間 | 試算表を眺める | 月のメモを5分読む |
計算の例です(数字はすべて仮定です)。取引先Aと取引先Bは、どちらも毎月50万円の売上があります。
| 取引先A | 取引先B | |
|---|---|---|
| 売上 | 50万円 | 50万円 |
| 材料・外注 | 15万円 | 10万円 |
| 作業の時間 | 60時間 | 120時間 |
| 時間の費用(1時間2,500円) | 15万円 | 30万円 |
| 粗利 | 20万円 | 10万円 |
| 粗利率 | 40% | 20% |
売上は同じでも、取引先Bに残る利益はAの半分です。Bは細かい注文や手直しが多く、作業の時間がAの2倍かかっているからです。会社全体の数字だけでは、この差は見えません。
Bに10%の値上げを受け入れてもらえれば、毎月5万円、年に60万円の粗利が増えます。値上げが難しくても、注文のまとめ方や手直しの減らし方を相談すれば、作業の時間を減らせます。
コストの上昇分は、まだ半分ほどしか値段に乗っていない
経済産業省・中小企業庁が2026年6月26日に公表した、2026年3月の「価格交渉促進月間」のフォローアップ調査によると、価格の交渉が行われた割合は90.7%でした(企業実務サポートの解説でも同じ数字を確認)。一方、コストの上昇分のうち値段に乗せられた割合(価格転嫁率)は54.2%です。コストの種類別では、原材料費が55.7%、労務費が50.0%でした。
人件費や材料費の上昇分の半分ほどは、受注側の会社がかぶっていることになります。かぶり方は取引先ごとに違います。値上げを受け入れてくれた取引先もあれば、何年も単価が据え置きの取引先もあります。どこで利益が削られているかを知るには、取引先ごとに見るしかありません。
小さな会社ほど、取引先ごとの数字を持っていない
取引先ごとの粗利を出していない理由は、たいてい次の3つです。
- 作業の時間を取引先ごとに分けていない。 材料や外注の費用は請求書で分かりますが、社員の時間がどの取引先にどれだけかかったかは記録していません
- 会計の数字が取引先ごとに分かれていない。 試算表は会社全体の数字なので、取引先ごとの原価は分かりません
- 表を作っても読む時間がない。 数字の並んだ表を毎月読み解くのは、社長にとって重い仕事です
作業の時間は、最初は大まかでかまいません。担当者が週に1回、「今週はどの取引先に何時間くらい」と書くだけでも、取引先ごとの差は見えてきます。
毎月、表で粗利を計算し、AIが社長向けのメモにする
人がすること(最初に)。 経理の担当者が、取引先ごとの表を用意します。列は、取引先、月、売上、材料・外注の費用、作業の時間、粗利、粗利率です。社長は、1時間あたりの費用(社員の給与に会社が払う社会保険料などを足し、1時間あたりに直したもの)を決めます。
表でする計算。 粗利は「売上−材料・外注の費用−作業の時間×1時間あたりの費用」で、表の計算式で出します。粗利率は「粗利÷売上」です。前の年の同じ月や、3か月前の数字も並べます。
AIに頼むこと。 表を渡し、社長が読む月のメモを下書きしてもらいます。
- 粗利率の低い順に並べた、下から5社の取引先
- 3か月前から粗利率が大きく下がった取引先と、表から読める理由の候補(単価が据え置き、作業の時間が増えた、材料・外注の費用が上がった)
- 値上げや仕事の受け方の相談を考える取引先の候補
人がすること(そのあと)。 社長がメモを読み、どの取引先に、何を相談するかを決めます。
AIへの頼み方と、返ってくる月のメモはこんな形になる
AIに渡す指示(見本。内容は架空です):
下は、当社の取引先ごとの粗利の表です。社長が5分で読める月のメモを下書きしてください。粗利率の低い順に下から5社、3か月前から粗利率が5ポイント以上下がった取引先、それぞれの理由の候補を、表の数字だけから書いてください。計算はし直さず、表の数字をそのまま使ってください。取引先を責める書き方はしないでください。
返ってくるメモ(見本の一部):
粗利率が下がった取引先
- 取引先B:粗利率が3か月前の28%から20%に下がりました。売上は同じで、作業の時間が90時間から120時間に増えています。注文の回数が増えているかを確かめるとよさそうです
- 取引先D:粗利率が35%から29%に下がりました。単価は2年変わっておらず、材料費が上がっています。値上げの相談の候補です
社長は、メモの数字が表と合っているかを確かめてから、相談の中身を決めます。
表の型と点検をスキルにし、計算はAIの外に置く
ここまでの使い方は、そのつどAIのチャットに頼む場合です。毎月続けるなら、もう一段の工夫をしておくと安定します。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
メモの型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「月のメモの型(下から5社、下がった取引先、理由の候補、相談の候補)」「理由の候補の言い方(単価、作業の時間、材料・外注)」「書いてはいけないこと(表にない数字、取引先を責める言い方、値上げ幅の断定)」をスキルにします。
計算は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、粗利と粗利率を表の計算式で出すこと、1時間あたりの費用を社長が決めること、メモの数字を表と照らしてから読むことがそれに当たります。AIは数字を写し間違えることがあるので、計算そのものはさせません。
明日からは、売上の大きい10社の表から始める
- 売上の大きい順に、取引先を10社選ぶ
- 先月の売上と、材料・外注の費用を、請求書から取引先ごとに表に入れる
- 担当者に、先月の作業の時間を取引先ごとに大まかに書いてもらう
- 1時間あたりの費用を決め、表の計算式で粗利と粗利率を出す
- 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランか、取引先の名前を記号に置き換えた形で、上の見本の指示で月のメモを下書きさせる
本格的にやるなら、値上げの相談と見積に表をつなげる
一度できたら、次の形に育てます。
- 値上げの相談の資料にする。 粗利率の低い取引先が分かったら、根拠の資料を作って相談します。資料の作り方は取引先との値上げ交渉|受け入れてもらえる根拠の資料の作り方、全取引先分をそろえる方法は値上げの依頼文と資料の作り方|大口だけで終わらせず、全取引先にお願いするで説明しています
- 見積に反映する。 粗利率の低い仕事の作業時間が分かれば、次の見積の単価に反映できます。見積の下書きの仕組みは見積書をAIで作成する方法|町工場が見積を早く出し、受注の機会を増やすで説明しています
- 作業の時間を減らす。 時間がかかっている仕事の事務を減らす方法は、最低賃金が上がる中小企業の対策|値上げより先に事務の時間を減らすにまとめています
取引先の判断と、計算はAIに任せない
- 取引先との付き合い方は社長が決める。 粗利率が低くても、新しい仕事の入り口になっている取引先や、長い付き合いの取引先もあります。数字だけで切らず、社長が判断します
- 計算は表で行う。 粗利と粗利率は表の計算式で出し、AIには計算させません
- 作業の時間は大まかでよいが、同じ決め方で続ける。 月によって数え方が変わると、比べられなくなります
- 取引先の情報の扱いに気をつける。 取引先の名前や単価は社外秘です。会社で契約した、入力を学習に使わないプランを使うか、名前を記号に置き換えます
まとめ
- 売上が同じでも、材料・外注の費用と作業の時間によって、残る利益が半分になる取引先がある
- 国の調査では、コストの上昇分のうち値段に乗せられたのは54.2%で、労務費は50.0%にとどまる。かぶり方は取引先ごとに違う
- 毎月、取引先ごとの売上と原価と作業の時間を表に入れ、粗利と粗利率は表の計算式で出す
- AIは表から、粗利率の低い取引先と下がった理由の候補を、社長が読む月のメモにまとめる
- 値上げの相談や仕事の受け方は社長が決め、最初は売上の大きい10社から始める