AI×業種

小さな歯科医院の定期検診の案内と事務をAIで回す。広告のルールも守る

この記事で変わる経営指標

この記事では、歯科医師が数人の小さな歯科医院で、AIをどこに使うと効くかを説明します。一言でいうと、定期検診の案内、予約と問い合わせへの返事、ホームページやお知らせの文章、院内の手順書の4つの「書く仕事」をAIの下書きに任せ、診断や治療の説明はAIに任せない。ホームページの文章は、医療広告のルールに沿って人が確かめるという話です。

AIの価値は、診療をすることではありません。受付や歯科衛生士が診療の合間に抱えている連絡と文章の仕事を減らし、その時間を患者さんと向き合う時間に戻すことです。

経営への効果は、定期検診に戻る患者さんが増え、事務が減ること

4つの業務と、それぞれが経営の何に効くかを先にまとめます。

業務 AIで変わること 経営効果 始めやすさ
定期検診の案内 前回の来院から時期が来た患者さんを計算で選び、AIが案内の一言を下書きする 売上(定期検診に戻る人が増える) 始めやすい
予約と問い合わせへの返事 診療時間や料金の決まりをもとに、返事をAIが下書きする 売上(初めての患者さんを逃さない) 始めやすい
ホームページやお知らせの文章 文章の下書きをAIが作り、広告のルールは人が確かめる 業務の無駄(院長の夜の作業が減る) 少し準備が要る
院内の手順書 ベテランのスタッフの話から、手順書の下書きをAIが作る 人手不足(新人が早く一人立ちする) 始めやすい
診断・治療の説明 症状から病名や治療をAIに判断させる 準備と責任が大きい 任せない
小さな歯科医院でAIが効く4つの業務と経営効果。定期検診の案内と予約・問い合わせへの返事は売上、ホームページやお知らせの文章は業務の無駄、院内の手順書は人手不足に効く。診断と治療の説明はAIに任せない
小さな歯科医院でAIが効く4つの業務と経営効果。定期検診の案内と予約・問い合わせへの返事は売上、ホームページやお知らせの文章は業務の無駄、院内の手順書は人手不足に効く。診断と治療の説明はAIに任せない

効果の大きさは、次の式で考えます。

月に戻る時間 = 業務ごとの(今の時間 − AIを使ったあとの時間)の合計

仮に、歯科医師2人、歯科衛生士3人、受付2人ほどの医院で、月に次の量があるとします。

業務 月の量 今 AIを使ったあと 浮く時間
定期検診の案内 150件 1件5分(12.5時間) 1件1分(2.5時間) 10時間
予約と問い合わせへの返事 100件 1件5分(約8.3時間) 1件2分(約3.3時間) 5時間
ホームページやお知らせの文章 8本 1本60分(8時間) 1本20分(約2.7時間) 約5.3時間
院内の手順書 2本 1本3時間(6時間) 1本1時間(2時間) 4時間

合わせて、月に約24時間です。その多くは、受付と院長が診療の前後に使っている時間です。

ただ、大きいのは時間よりも、定期検診の案内が止まらないことです。定期検診に通う患者さんは、医院にとって長く続く関係です。案内が忙しい月に止まると、患者さんはそのまま来なくなることがあります。

2018年から、ホームページも医療広告のルールの対象になった

歯科医院で文章を書くときに気をつけたいのが、医療広告のルールです。

厚生労働省の「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書」によると、2018年(平成30年)6月1日に施行された医療法の改正で、規制の対象が「広告」から「医療を受ける者を誘引するための手段としての表示」に広がり、ウェブサイトなどによる情報提供も規制の対象になりました。事例解説書(第6版、2026年3月。神戸市が掲載している第3版でも同じ)では、次のような例が挙げられています。

  • 患者さんの体験談を、医院への誘引を目的に載せることは、省令で禁止されている(口コミサイトからの転載、スタッフによる記載、体験談の編集なども例として挙げられている)
  • 加工・修正した治療の前後の写真の掲載は、虚偽広告に当たる
  • 治療のあとに定期的な処置が必要なのに、すべての治療が短期間で終わるような表現は、虚偽広告として扱われる

ホームページやお知らせの文章をAIに下書きさせると、AIは一般的な宣伝の言い回し(「痛くない」「1日で終わる」「患者様の声」)を使いがちです。AIの下書きは、医療広告のルールに照らして、院長が必ず確かめます。詳しくは、厚生労働省の医療広告ガイドラインと事例解説書の原文で確かめてください。

定期検診の案内は、時期の来た人を計算で選びAIが一言添える

計算で行うこと。 予約の記録から、前回の定期検診から決めた期間(3か月、6か月など)が過ぎた患者さんと、次の予約が入っていない患者さんを選びます。

AIに頼むこと。 選んだ患者さんごとに、前回の来院の時期と、院内で決めた案内の言葉(歯石の付き方の見直し、季節の一言など)をもとに、案内の下書きを作ってもらいます。病名や治療の内容は書かせません。 人がすること。 受付が確かめて、メッセージやはがきで送ります。 何が変わるか。 1件ずつ患者さんを探して書いていた案内が、確かめて送るだけになります。毎週、時期の来た患者さんの案内が並ぶ仕組みの作り方と費用は、定期検診の時期が来た患者さんに案内が届く。予約の記録からAIで下書きする仕組みで説明しています。

案内を送る相手と、送り方(はがき、メッセージ、電話)は、患者さんが希望した方法に合わせます。前回の来院から時期が来たお客様に案内を送る仕組みは、整備工場の例ですが、車検のお客様をほかの工場に取られない。前回の整備に触れた案内をAIで出す仕組みで、美容室の例は常連が次も来たくなる案内を、いつもの時期に。美容室の再来店をAIで続ける仕組みで説明しています。

予約と問い合わせへの返事は、医院の決まりからAIが下書きする

AIに頼むこと。 ホームページやメールの問い合わせ(予約の変更、診療時間、駐車場、保険と自費の違いなど)に、医院の決まり(診療時間、休診日、料金の目安、持ち物)をもとに返事を下書きしてもらいます。 人がすること。 受付が予約の空きと内容を確かめて送ります。 何が変わるか。 返事が早くなり、初めての患者さんを逃しにくくなります。

症状の相談(「歯が痛いのですが、どうしたらいいですか」)には、AIに診断や対処を書かせません。受診を案内し、急ぎの場合の連絡先を伝える返事にとどめます。

ホームページの文章はAIが下書きし、院長がルールを確かめる

AIに頼むこと。 診療の案内、休診のお知らせ、院内の取り組みの紹介などの文章を、院長のメモから下書きしてもらいます。 人がすること。 院長が、医療広告のルール(体験談を載せない、治療の効果を誇張しない、すべての治療が短期間で終わるような書き方をしない、費用ばかりを強調しない)に照らして確かめ、直して載せます。 何が変わるか。 夜に一から書いていた文章が、確かめて直す仕事になります。

ルールに沿っているかの判断は、AIに任せません。AIは、ルールに触れそうな言い回しに印を付ける手伝いまでにとどめます。

院内の手順書は、ベテランのスタッフの話からAIが下書きする

AIに頼むこと。 器具の洗浄と滅菌の手順、受付の流れ、診療の準備など、ベテランのスタッフが話した手順の録音を文字にしたものから、手順書の下書きを作ってもらいます。 人がすること。 ベテランのスタッフと院長が、手順と注意点が正しいかを確かめます。 何が変わるか。 新人のスタッフが、手順書を見ながら一人で仕事を覚えられるようになり、ベテランが付きっきりになる時間が減ります。

録音から手順書を作る方法は、ベテランの技能をAIで手順書に残し、新人を早く一人立ちさせる方法で説明しています。

診断と治療の説明はAIに任せない

AIで何でもできそうに見えても、次のことはAIに任せません。

  • 症状から病名や治療を判断させる。 診断と治療方針は歯科医師が決めます。AIの答えを患者さんへの説明に使うこともしません
  • 治療の説明文をAIの文のまま渡す。 治療の説明やリスクの説明は、歯科医師が患者さんの状態に合わせて行います
  • 体験談を集めて載せる。 医療広告のルールで禁止されています。口コミへの返信も、治療の効果を宣伝する内容にならないよう気をつけます

まずは、間違えても人がすぐに気づけて直せる、連絡と文章の仕事から始めます。

医院の決まりをスキルにし、時期と予約はAIの外で持つ

ここまでの使い方は、1回ずつ頼んだ場合です。スタッフのみんなが毎日使うなら、もう一段の工夫で、誰が使っても同じ質の文が出るようにします。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

医院の決まりと書き方を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。歯科医院なら、「診療時間、休診日、料金の目安などの医院の決まり」「定期検診の案内の型」「使わない言葉(体験談、効果の誇張、すべてが短期間で終わるような表現)」「症状の相談には受診を案内するという決まり」を、良い見本と一緒にスキルにしておきます。

時期、予約、料金は、AIの外で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。歯科医院では、前回の来院からの期間と次の予約の有無を予約の記録から計算すること、料金と診療時間を医院の決まりの表から差し込むこと、ホームページの下書きに使わない言葉が入っていないかをプログラムで探して印を付けることがそれに当たります。

始める順番は、毎日の量が多く、間違えても直せる仕事から決める

4つのうち、どれから始めるかは、次の基準で決めます。

  1. 毎日の量が多いか:毎日の連絡ほど、浮く時間が大きい
  2. 間違えても直せるか:患者さんに出す前に、人が確かめて直せる仕事から
  3. 材料がそろっているか:予約の記録、医院の決まりの表など、AIに渡すものがすでにあるか
  4. スタッフが面倒だと感じているか:面倒な仕事ほど、使ってもらえる

多くの医院では、予約と問い合わせへの返事と、院内の手順書が始めやすい仕事です。定期検診の案内は、予約の記録から時期の来た患者さんを選ぶ準備をしてから進めます。

費用は、法人向けプランの月数千円から始められる

最初は、AIのチャットの画面に、問い合わせの文や院長のメモを渡して使うだけで試せます。費用は、入力した内容をAIの学習に使わない法人向けプランの利用料で、1人あたり月数千円です。まずは受付と院長の分だけで十分です。

予約の記録から時期の来た患者さんを選んで、案内の下書きを自動で作る、といった仕組みにする場合は、作る費用が加わります。費用の考え方は、AI導入にいくらかかる?月数千円から試せて、元が取れるかも先に分かるにまとめています。

患者さんの名前、来院の記録、病歴は、とても大事な個人情報です。AIに入れてよい情報を先に決めます。定期検診の案内の下書きなら、病名や治療の内容は入れず、名前と来院の時期だけで足ります。社内ルールの決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。

効果は、定期検診に戻る割合と、受付の事務の時間で測る

業務ごとに、次の数字を始める前と後で比べます。

業務 測る数字
定期検診の案内 案内を送った患者さんのうち、予約を入れた割合
予約と問い合わせへの返事 返事までの時間、問い合わせから初診につながった件数
ホームページやお知らせの文章 1本の文章にかかる時間
院内の手順書 手順書の本数、新人が一人で仕事をこなせるまでの日数
全体 受付の残業の時間、定期検診の予約の数

いちばん大事なのは、「定期検診に戻る割合」です。定期検診に通う患者さんが増えれば、医院の予約が安定し、新しい患者さんを集める負担が軽くなります。

最初の1か月は、問い合わせの返事と手順書だけ試す

  1. 受付と院長の分の法人向けプランを用意する。患者さんの情報の扱いを決める
  2. 1週目は、医院の決まりをまとめ、問い合わせへの返事をAIに下書きさせる。症状の相談には受診を案内する
  3. 2週目は、ベテランのスタッフに1つの手順を話してもらい、録音から手順書の下書きを作らせる
  4. 3週目から、予約の記録から定期検診の時期が来た患者さんを選び、10人分の案内をAIに下書きさせて送る
  5. 1か月の終わりに、返事と案内にかかった時間と、案内のあとの予約の数を、始める前と比べる

まとめ

  • 小さな歯科医院では、定期検診の案内、予約と問い合わせへの返事、ホームページやお知らせの文章、院内の手順書の4つでAIが効く。仮に歯科医師2人ほどの医院なら、月に約24時間が受付と院長の手に戻る
  • 2018年6月から、ホームページも医療広告のルールの対象。体験談の掲載は禁止、加工した治療前後の写真は虚偽広告。AIの下書きは院長が必ず確かめる
  • 定期検診の時期と予約、料金は記録と表で持ち、AIにはそれをもとにした言葉だけを書かせる
  • 診断と治療の説明はAIに任せない。症状の相談には受診を案内する
  • 最初の1か月は、問い合わせの返事と手順書から始める

CONTACT

自社の業務にも、AIを組み込めるか

記事のような組み込みを、御社の業務と予算に合わせて設計・実装しています。何から手を付ければいいか分からない段階でも大丈夫です。

AI活用を相談する