設計事務所の施主への説明資料|所長の要点からAIで1枚にまとめる
この記事で変わる経営指標
この記事では、設計事務所のAI活用|打合せの記録と確認申請の書類の手間を減らすの「施主への説明は、やさしい言葉で下書きする」を、打合せのたびに続けられる手順にして説明します。
一言でいうと、所長が、仕様と選んだ理由と費用への影響を箇条で書く。AIが、専門の言葉を言い換えて1枚にまとめる。所長が、要点にないことが足されていないかを見る。所長が打合せで施主と一緒に読み、質問を記録する。法令と性能の判断は建築士が行うという形です。
経営への効果は、施主の納得で打合せの手戻りを減らすこと
断熱の仕様や省エネの話は、施主にとって分かりにくいものです。分からないまま打合せが進むと、あとで「そんなに費用がかかるとは思わなかった」と言われ、仕様を戻すことになります。
1枚の説明資料で、仕様と選んだ理由と費用への影響を先に伝えておけば、施主は家族と相談したうえで次の打合せに来られます。手戻りが減れば、所長は設計そのものに時間を使えます。分かりやすく説明してくれる事務所という評判は、紹介にもつながります。
建築士は、省エネ性能を建築主に説明するよう努める
e-Gov法令検索で建築物省エネ法を確かめると、第6条第3項で、建築士は、建築物の建築や修繕などの設計を行うときは、設計を頼んだ建築主に対し、その建物の省エネ性能や、省エネ性能を高めることにつながる事項を説明するよう努めることになっています。
神奈川県のページ(2026年5月18日更新)によると、2025年4月の改正で、これまでの届出義務制度と説明義務制度は廃止され、全ての新築の住宅と非住宅で省エネ基準への適合が義務になりました。増改築では、増改築をした部分が適合する必要があります。修繕や模様替えは、適合の義務の対象ではありません。
つまり、新築では省エネ基準に適合させることが前提になり、そのうえで、どこまで性能を高めるかを施主と話す場面が増えます。説明の資料が分かりやすいほど、施主は性能と費用の釣り合いを決めやすくなります。2026年10月時点の情報です。
契約の前には、重要事項を書面で説明する
説明資料とは別に、設計を受ける契約の前には、建築士法の決まりがあります。e-Gov法令検索で確かめると、第24条の7で、建築士事務所の開設者は、設計受託契約を結ぶ前に、管理建築士などに書面を渡して説明させることになっています。
| 説明する事項(第24条の7) | 中身 |
|---|---|
| 設計図書の種類 | 作成する設計図書 |
| 従事する建築士 | 氏名と、一級・二級・木造の別 |
| 報酬 | 額と支払の時期 |
| 契約の解除 | 解除に関する事項 |
説明のときは、建築士の免許証などを見せます。建築主の承諾を得れば、書面を電子で渡すこともできます。重要事項の説明の書面は、決まった事項を書く書類です。AIで言い換えるのは、この記事で扱う仕様の説明資料のほうです。
今は、打合せで口頭で説明し、施主があとで忘れる
小さな設計事務所では、断熱や窓の仕様を、打合せで図面を見せながら口頭で説明することが多いものです。その場では分かったつもりでも、家に帰って家族に説明しようとすると、施主は言葉に詰まります。
説明の紙を作ろうとしても、専門の言葉を言い換えるのに時間がかかります。忙しいと、カタログの写しを渡すだけになりがちです。
要点を書き、AIが下書きし、確かめて、説明する
1 要点を書く(所長)。 この家の仕様、それを選んだ理由、費用への影響を箇条で書きます。
2 下書きする(AI)。 要点を渡し、専門の言葉を言い換えて、A4で1枚の説明資料にまとめてもらいます。
3 確かめる(所長)。 要点にないことが足されていないか、言い換えで意味が変わっていないかを見ます。
4 説明する(所長)。 打合せで施主と一緒に読み、出た質問を記録します。
説明資料は、この5つの欄で作る
| 欄 | 中身の例(想定) |
|---|---|
| この家の仕様 | 断熱材の種類と厚さ、窓の種類 |
| 選んだ理由 | 冬の寒さ、日当たり、施主の希望 |
| 暮らしで変わること | 冬の部屋の温度の差、結露 |
| 費用への影響 | 別の仕様と比べた増減の目安(金額は所長が入れる) |
| 決めてほしいこと | 次の打合せまでに家族で相談してほしい点 |
金額は、見積もりの記録から所長が入れます。AIに金額を推し量らせません。
AIへの頼み方と、返ってくる資料はこうなる
AIに渡す指示(見本):
下は、設計事務所の所長が書いた、この家の断熱と窓の仕様の要点です。施主に渡すA4で1枚の説明資料を、「この家の仕様」「選んだ理由」「暮らしで変わること」「費用への影響」「決めてほしいこと」の欄でまとめてください。専門の言葉は、建築に詳しくない人に分かる言葉に言い換え、元の言葉もかっこで残してください。要点にない性能の数字や、省エネ基準に適合していると言い切る文は書かないでください。金額は「〇〇円」と空けてください。
返ってくる資料(見本の一部。内容は架空です):
選んだ理由:北側の部屋が冬に冷えやすい敷地のため、窓を熱の逃げにくい種類(樹脂サッシのペアガラス)にしています。 費用への影響:今の窓と比べて、〇〇円ほど増えます。
元の言葉をかっこで残すと、施主がカタログや見積もりと照らしやすくなります。
確かめるときは、性能の言い切りと数字を見る
AIの下書きは、渡した要点をもとにしています。それでも、言葉を補う中で、要点にない中身が混ざることがあります。
- 性能の数字が足されていないかを見る。 数字は、所長の計算と資料のものだけを使います
- 「基準に適合しています」のような言い切りがないかを見る。 適合の判断は、建築士が計算と審査で確かめるものです
- 言い換えで意味が変わっていないかを見る
- 費用の欄の金額は、見積もりの記録と照らす
打合せで出た質問は、記録して次の資料に生かす
説明資料は、打合せで施主と一緒に読むと伝わります。
- 施主の言葉で質問を記録する。 「結露はどのくらい減るのか」のように、聞かれたまま残します
- 答えを次の打合せで返す。 その場で答えられなかったことは、所長が調べて返します
- よく出る質問は、資料の型に足す。 次の施主の資料では、先に答えを書いておきます
打合せの記録の残し方は親の記事で、初回の相談の要望の整理は、設計事務所の初回相談は要望を1枚で返す|AIで整理し、依頼につなげるで説明しています。
型をスキルにし、法令と性能の判断はAIの外に置く
型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「説明資料の5つの欄の型」「専門の言葉と言い換えの一覧」「書いてはいけないこと(要点にない性能の数字、基準への適合の言い切り、金額、施主の名前と敷地の地番)」をスキルにします。
法令と性能の判断は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、要点を所長が書くこと、金額を見積もりの記録から入れること、省エネ基準への適合を建築士が計算で確かめることがそれに当たります。
費用は、AIの利用料が1回3円ほど
| 費用 | 見込み |
|---|---|
| 説明資料の下書き | 要点と指示(入力3千トークンほど)から説明資料(出力1,500トークンほど)を作ると、Claude Sonnet 5.5の料金(入力100万トークンあたり2ドル、出力10ドル、1ドル150円で計算)で1回3円ほど |
| 法人向けプラン | チャットで使うなら1人あたり月数千円 |
| 所長の時間 | 要点を書いて確かめるのに1回十数分(想定) |
必要な人は1役で、判断は所長が行う
- 所長:要点を書き、AIの資料を確かめ、打合せで説明し、質問を記録する
所員がいる事務所では、質問の記録と資料の型の更新を所員に任せられます。法令と性能の判断は、建築士である所長が行います。
1か月で型ができ、次の施主から使える見込み
- 1週目:説明資料の5つの欄と、専門の言葉の言い換えの一覧を作る
- 2週目:今の案件の要点でAIに資料を下書きさせ、所長が確かめる
- 3週目:型と書いてはいけないことをスキルにまとめる
- 4週目以降:次の施主の打合せから使い、出た質問を型に足す
性能を言い切ったり、金額を推し量らせたりすると失敗する
よくある失敗は次の3つです。
- 「基準に適合します」とAIに書かせる。 適合の判断は建築士の仕事です
- 金額をAIに書かせる。 見積もりと違う金額が施主の手元に残ります
- カタログの写しだけを渡す。 施主は、この家で何が変わるのかが分かりません
まとめ
- 建築物省エネ法第6条第3項で、建築士は設計を頼んだ建築主に省エネ性能などを説明するよう努める
- 2025年4月から、全ての新築の住宅と非住宅で省エネ基準への適合が義務になった
- 設計受託契約の前には、建築士法第24条の7の重要事項を書面で説明する
- 所長が仕様と理由と費用への影響を書き、AIが言い換えて1枚にまとめる
- 性能の数字と適合の判断、金額は、所長が決めて確かめる