設計事務所の初回相談は要望を1枚で返す|AIで整理し、依頼につなげる
この記事では、設計事務所のAI活用|打合せの記録と確認申請の書類の手間を減らすの「初回の相談は、メモから要望を1枚に整理する」を、実際に組んで続ける方法を説明します。
一言でいうと、所長が質問の型に沿って初回の相談を聞き、メモか録音の書き起こしを残す。AIが「ご要望の整理」を1枚に下書きし、まだ決まっていないことと次回までに用意するものも並べる。所長が聞き違いを直し、相談から2営業日以内に施主に送る。施主の返事で直した点は案件の台帳に残すという形です。
初回の相談のあとに何を返すかで、依頼につながるかが変わる
家を建てたい施主は、設計事務所や工務店を何社か回って比べることもあります。初回の相談のあと、施主の手元に残るのは、所長と話した印象と、もらった資料だけです。
ここで「ご要望の整理」を1枚で返すと、施主には次のことが伝わります。
- 話をきちんと聞いてもらえた。 自分の言ったことが、優先の順に整理されて返ってきます
- 次に何が起きるかが分かる。 まだ決まっていないこと、次回までに事務所が用意するもの、施主が考えておくことが書いてあります
- 家族で話し合える。 1枚の紙があれば、相談に来られなかった家族とも同じ内容を共有できます
返事の速さも大切です。問い合わせへの返事の速さが商談につながるかどうかについては、問い合わせ対応をAIで速くする方法|1時間以内の返事で商談を逃さないで説明しています。初回の相談のあとも、記憶が新しいうちに返すほど、施主の印象に残ります。
今は、所長の頭の中にだけ要望が残っている
小さな設計事務所では、所長が相談を受け、メモを取り、そのまま次の設計の仕事に戻ることがよくあります。要望は所長の頭とメモの中にあり、施主に返すのは次の打合せのときです。
この間に、施主はほかの事務所の話も聞き、比べています。所長も、次の打合せまでに聞いたことを忘れたり、記憶が混ざったりします。要望を1枚にまとめる時間がとれないことが、もったいない機会の損失になっています。
型に沿って聞き、AIが下書きし、所長が直して送る
1 聞く(所長)。 質問の型に沿って聞きます。型があると、聞き漏れが減り、AIの下書きもそろいます。録音する場合は、最初に施主の了解を取ります。
2 下書きする(AI)。 メモか書き起こしをAIに渡し、「ご要望の整理」を1枚に下書きしてもらいます。
3 直す(所長)。 聞き違い、ニュアンスの違い、施主に見せないほうがよい所長の覚え書きが混ざっていないかを確かめて直します。
4 送る(所長か事務)。 相談から2営業日以内に、施主にメールで送ります。施主から「ここは違う」と返事が来たら、直した点を案件の台帳に残し、次の打合せの準備に使います。
質問の型と、1枚の型はこうなる
質問の型(見本):
| 項目 | 聞くこと |
|---|---|
| 家族 | 人数、年齢、これからの変化(子どもの成長、親との同居) |
| 敷地 | 場所、広さ、今の状況(更地、建て替え) |
| 予算 | 建物と土地の予算、資金の見通し |
| 時期 | いつまでに住みたいか、その理由 |
| 暮らし方 | 1日の過ごし方、趣味、在宅の仕事、来客 |
| 好み | 好きな雰囲気、写真や雑誌の切り抜き |
| 困りごと | 今の家で困っていること |
1枚の型(見本):
- ご家族と敷地、ご予算、時期
- ご要望(優先の高い順に5つまで)
- まだ決まっていないこと
- 次回までに当事務所が用意するもの
- 次回までにお考えいただきたいこと
AIに渡す指示(見本。内容は架空です):
下は、初回の相談のメモです。施主に送る「ご要望の整理」を、A4で1枚に下書きしてください。上の型の順にまとめ、ご要望は施主の言葉をできるだけ使い、優先の高い順に5つまでにしてください。メモにないことは書かず、設計の提案、金額の見込み、法令についての説明は書かないでください。メモの中の「所長メモ:」で始まる行は、施主向けの文に入れないでください。
返ってくる1枚(見本の一部):
ご要望(優先の高い順)
- 家族が集まれる、明るい居間がほしい
- 在宅の仕事のための、静かな小部屋がほしい
- 今の家で困っている、冬の寒さをなくしたい
まだ決まっていないこと
- お父様との同居の時期
- 駐車場を1台にするか2台にするか
型をスキルにし、送るかの判断はAIの外に置く
型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「質問の型」「1枚の型」「施主向けの言い換え(専門用語とやさしい言葉)」「書いてはいけないこと(設計の提案、金額の見込み、法令の説明、所長の覚え書き)」をスキルにします。
送るかの判断は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、所長が送る前に必ず読むこと、所長の覚え書きを「所長メモ:」で始めて施主向けの文から外す決まり、送った日と施主の返事を案件の台帳に残すことがそれに当たります。
施主の返事は、次の打合せの最初の議題にする
1枚を送るときは、「違うところや足したいことがあれば、このメールにそのまま返信してください」と一言添えます。施主からの返事は、次のように扱います。
- 直した点を台帳に残す。 「優先の2番と3番が逆」「駐車場は2台」といった直しは、案件の台帳に日付と一緒に残します。次の打合せの準備で、所長が最初に読む場所になります
- 直した版を送り直す。 直した点が多いときは、AIに直した版を下書きさせ、所長が確かめてから送り直します。施主の手元に最新の1枚が残るようにします
- 返事がないときは、次の打合せで確かめる。 返事がないことを「了解」と受け取らず、次の打合せの最初に1枚を一緒に読み直します
こうしておくと、2回目の打合せを、前回の確認から始めずに、次の話から始められます。
所長の仕事は、聞くことと、直すことに絞られる
所長がすることは、次の3つです。
- 型に沿って聞く。 型があっても、施主の話を遮らず、最後に型で抜けを確かめます
- 下書きを直す。 聞き違いと、ニュアンスの違いを直します。1件10分ほどで終わる量にします
- 送る期限を守る。 2営業日以内に送ることを、事務所の決まりにします
経営への効果は、相談を依頼につなげる機会を逃さないこと
- 施主の印象に残る。 記憶が新しいうちに、自分の言葉で整理された1枚が届きます
- 次の打合せが早く進む。 要望と未定のことが共有されているので、次の打合せを確認から始めずに済みます
- 所長の記憶に頼らない。 要望が文章で残るので、所長が忙しい時期でも抜けが減ります
どのくらい依頼が増えるかは、事務所と地域によって変わります。始める前の半年と始めたあとの半年で、初回の相談のうち依頼につながった割合を比べます。
費用はAIの利用料が1件5円ほど
| 費用 | 見込み |
|---|---|
| AIの利用料 | 相談のメモか書き起こし(入力6千トークン・出力2千トークンほど)から1枚の下書きが、Claude Sonnet 5.5の料金(入力100万トークンあたり2ドル、出力10ドル、1ドル150円で計算)で1件5円ほど |
| 法人向けプラン | チャットで使うなら1人あたり月数千円 |
| 録音の書き起こし | 録音する場合、書き起こしの道具の費用 |
| 所長の時間 | 1件あたり直す時間10分ほど |
必要な人は2役で、送るかを決めるのは所長
- 所長:型に沿って聞き、下書きを直し、送るかを決める
- 事務の担当者:メモか書き起こしをAIに渡し、直したものを送り、台帳に残す。所長が兼ねてもよい
1か月で型が固まり、半年で依頼の割合を比べられる見込み
- 1週目:質問の型と1枚の型を作る
- 2〜4週目:次の初回の相談から使い、施主の反応を見て型を直す。スキルにまとめる
- 2か月目から:すべての初回の相談で使う
- 半年後:初回の相談のうち依頼につながった割合を、始める前の半年と比べる
提案や金額まで書かせると失敗する
よくある失敗は次の3つです。
- 提案や金額まで書かせる。 初回の相談のあとに、AIが書いた間取りの案や金額の見込みが届くと、施主はそれを事務所の提案と受け取ります。整理だけにとどめます
- 聞いていないことを補わせる。 メモにない要望を、AIがそれらしく補うことがあります。「メモにないことは書かない」と指示し、所長が確かめます
- 録音の了解を取らない。 録音するときは、最初に施主の了解を取り、何に使うかを伝えます
2回目以降の打合せの記録の残し方は、親の記事の「打合せの記録は、決まったことと宿題の一覧にする」で説明しています。
まとめ
- 初回の相談のあとに「ご要望の整理」を1枚で返すと、施主に話を聞いてもらえたことと、次に何が起きるかが伝わる
- 所長が質問の型に沿って聞き、メモか書き起こしからAIが1枚に下書きする。提案、金額、法令の説明は書かせない
- 所長が聞き違いを直し、2営業日以内に送る。施主の返事で直した点は案件の台帳に残す
- 費用はAIの利用料が1件5円ほどで、所長の時間は1件10分ほど
- 半年後に、初回の相談のうち依頼につながった割合を比べる