経営課題×AI

電子帳簿保存法の請求書の保存を、AIで月末の手作業から外す方法

この記事で変わる経営指標

この記事では、電子帳簿保存法で義務になった電子取引データの保存を、AIを使って手間なく回す方法を説明します。一言でいうと、メールで届いた請求書や領収書のPDFから、AIが日付・金額・取引先を読み取り、決まった形のファイル名と台帳(索引簿)の1行を作り、会計の記録と照らして合わないものだけを人が確かめるという話です。その結果、月末にPDFを1つずつ開いて名前を付け直す作業がなくなり、税務調査のときに「あの請求書はどこか」と探し回ることもなくなります。

AIの価値は、法律を理解することではありません。1件2分の「開いて、読んで、名前を付けて、台帳に書く」作業を、確かめるだけの30秒にすることです。

経営への効果は、保存の事務が減り、探す時間がなくなること

電子取引データの保存は、AIを使うと次のように変わります。

人の手で保存する AIで名前と台帳を作る
届いたPDF メールに入ったまま。月末にまとめて保存 届いたらAIが読み、名前を付ける案を出す
ファイル名と台帳 1件ずつ開いて、日付・金額・取引先を手で打つ AIが作り、人は確かめるだけ
読み違い 疲れた月末ほど増える 会計の記録と照らし、合わないものに印
探すとき メールとフォルダを探し回る 日付・金額・取引先でフォルダを検索

手間は、前提を置いて計算します。仮に、受け取ったものと送ったものを合わせて、月に300件の請求書や領収書のPDFがあるとします。1件ずつ開いて読み、名前を付け直し、台帳に書くのに2分かかると、月10時間です。AIが名前と台帳の案を作り、人が30秒で確かめるとすると、月2.5時間になります。AIの利用料は、PDFを読ませて1件2円ほど、月300件で600円ほどです(2026年10月7日時点の Anthropic の料金で計算)。

浮いた時間に加えて、税務調査のときに求められたデータをすぐ出せることも効果です。探すのに半日かかる会社と、検索ですぐ出せる会社では、調査の負担が大きく違います。

2024年1月から、電子でもらった請求書は電子のまま保存する

まず、決まりを押さえておきます。国税庁と大阪国税局のパンフレットによると、2024年(令和6年)1月以降、全ての事業者は、電子取引データをデータのまま保存することが義務化されています(申告所得税・法人税に限る)。

保存が必要なのは、たとえば次のようなデータです。

  • メールで受け取った請求書や領収書のPDF
  • インターネットからダウンロードした請求書や領収書
  • メールで送った請求書や領収書のPDF
  • 自社のホームページで提供した請求書や領収書

受け取った場合だけでなく、送った場合も保存が必要です。保存するときの主な要件は2つです。

  1. 改ざん防止のための措置をとる。 タイムスタンプのほか、システムの費用をかけずに導入できる「改ざん防止に関する事務処理規程」を作って運用する方法もあり、国税庁のホームページにサンプルが掲載されています
  2. 「日付・金額・取引先」で検索できるようにする。 専用のシステムがなくても、表計算ソフトで索引簿を作る方法や、ファイル名に規則性をもって「日付・金額・取引先」を入れて特定のフォルダに集める方法でよいとされています。パンフレットの例では、2023年1月31日に㈱Aから受け取った10万円の請求書なら「20230131_100000_㈱A」です

なお、税務調査のときにデータのダウンロードの求めに応じられるようにしている場合で、2年(期)前の売上高が5,000万円以下の事業者などは、2つ目の検索の要件が不要とされています(大阪国税局のパンフレット。freee の解説でも同じ内容が説明されています)。それでも、自社で探すときのためにも、名前と台帳をそろえておくほうが便利です。自社がどの要件に当たるかは、顧問の税理士に確かめてください。

手で続けると、月末にまとめてやり、漏れと読み違いが残る

ファイル名の付け方や索引簿の作り方は、決まりとしては簡単です。それでも続かないのには理由があります。

  • 件数が多い。 取引先が多い会社では、月に数百件の請求書や領収書がメールで届きます。1件ずつ開いて名前を付け直すと、それだけで丸一日かかります
  • 届く場所がばらばら。 メールの添付、取引先のサイトからのダウンロード、自社の販売ソフトから送ったもの。集めるだけで手間がかかります
  • 月末にまとめてやると、漏れる。 メールの山の中から探して保存するので、保存し忘れが出ます
  • 読み違いが出る。 金額の桁、日付、取引先の正式な名前(「株式会社」か「㈱」か)を手で打つと、間違いが混ざります

AIは、このうち「開いて読む」と「名前と台帳の案を作る」を受け持てます。人は、AIの案が会計の記録と合っているかを確かめるだけにできます。

AIがPDFを読んで名前と台帳を作り、ずれは計算で見つける

電子取引データの保存。今までは届いたPDFを月末にまとめて開き、手で名前と台帳を作っていて、漏れと読み違いが残っていた。AIを入れたあとは、AIが日付・金額・取引先を読み、人が確かめてフォルダへ保存する
電子取引データの保存。今までは届いたPDFを月末にまとめて開き、手で名前と台帳を作っていて、漏れと読み違いが残っていた。AIを入れたあとは、AIが日付・金額・取引先を読み、人が確かめてフォルダへ保存する

AIに頼めることは、大きく3つです。

1. PDFから、日付・金額・取引先と書類の種類を読み取る。 AIに頼むこと:請求書や領収書のPDFを渡し、「取引の日付」「税込の合計金額」「取引先の名前」「書類の種類(請求書、領収書、見積書、納品書)」を読み取ってもらう。 返ってくるもの:4つの値と、読み取りに自信がない箇所の印。 人がすること:印の付いた箇所だけPDFを見て直す。 何が変わるか:1件ずつ開いて読む手間がなくなります。

2. 決まった形のファイル名と、索引簿の1行を作る。 AIに頼むこと:読み取った値から、「日付_金額_取引先」の形のファイル名と、索引簿の1行(連番、日付、金額、取引先、書類の種類、ファイル名)を作ってもらう。 返ってくるもの:ファイル名の案と、台帳の1行。 人がすること:確かめて、決まったフォルダに保存し、台帳に足す。 何が変わるか:全てのPDFが同じ形の名前になり、フォルダの検索で日付・金額・取引先から探せます。

3. 会計の記録と照らし、合わないものに印を付ける。 これはAIではなく計算でします。AIが読み取った金額と日付を、会計ソフトの記録や振込の記録と照らし、同じ取引先・同じ金額の記録がないもの、日付が大きくずれているものに印を付けます。 何が変わるか:AIの読み違いと、会計の入力漏れの両方が、月末を待たずに見つかります。

AIへの頼み方と、返ってくる名前と台帳はこんな形になる

AIに渡す指示(見本。内容は架空です):

添付の請求書のPDFを読み、次の形で答えてください。日付:取引の日付をYYYYMMDDの8けたで。金額:税込の合計金額を、カンマなしの数字で。取引先:スキルの「取引先の正式名の一覧」にある名前で。一覧にない場合は、PDFに書かれた名前のままにして「一覧になし」と書いてください。種類:請求書/領収書/見積書/納品書のどれか。ファイル名:日付_金額_取引先。読み取りに自信がない項目には「要確認」と書いてください。

返ってくる答え(見本):

日付:20261005/金額:132000/取引先:株式会社〇〇工業/種類:請求書 ファイル名:20261005_132000_株式会社〇〇工業.pdf 要確認:なし

この形なら、人は数字とPDFを一目見比べて保存するだけです。

取引先の名前の一覧をスキルにし、形と金額はAIの外で確かめる

AIに頼むだけなら今日からでもできますが、毎月何百件も同じ形で保存し続けるには、もう一段の工夫が要ります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

取引先の正式名と保存の決まりを Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「取引先の正式名の一覧(『㈱〇〇』『株式会社〇〇』『〇〇工業』をどの名前にそろえるか)」「金額は税込の合計を使う」「日付は取引の日付を使い、届いた日は使わない」「見積書や納品書の扱い」をスキルにします。取引先の名前がそろっていないと、フォルダの検索で同じ取引先が探せなくなります。

名前の形と金額は、AIの外で確かめる。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、ファイル名が「8けたの日付_数字_取引先」の形になっているかをプログラムで確かめること、同じファイル名がすでにないかを確かめること、金額と日付を会計の記録と照らすことがそれに当たります。AIは桁を読み違えることがあります。金額だけは、AIの読み取りを信じきらず、会計の記録で確かめます。

明日からは、先月のメールのPDFを20件、AIに読ませてみる

  1. 先月メールで受け取った請求書や領収書のPDFから20件を選ぶ
  2. 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに、上の見本の指示で読み取らせる
  3. 返ってきた日付・金額・取引先を、PDFと見比べる。間違いがあれば、どんな間違いかを書き留める
  4. 取引先の名前の表記がばらばらなら、正式名の一覧を作る
  5. 保存用のフォルダを1つ決め、AIが作った名前で保存し、表計算で索引簿を作る

1時間あれば試せます。20件で読み違いの傾向が分かれば、スキルと点検に何を入れればよいかが見えてきます。

本格的にやるなら、届いたら自動で読み、台帳に案が並ぶ形に

件数の多い会社なら、請求書を受け取るメールアドレスにPDFが届いたら、自動でAIが読み取り、索引簿に案の1行が並び、会計の記録と合わないものに印が付く形にできます。経理の担当者は、毎日、印の付いた行だけを確かめます。

届いた請求書の中身を会計ソフトや支払いの予定に入れる仕組みは、請求書の入力を月25時間から8時間に。AIで読み取り、登録番号まで確かめる方法で、入金を照らして消し込む仕組みは、入金の遅れに翌週気づく。売掛金の消し込みをAIで毎週回す仕組みで説明しています。保存の名前付けと、中身の入力と、消し込みを同じ流れにすると、1つのPDFを1回読むだけで済みます。

仕組みにするときの費用の考え方は、AI導入にいくらかかる?月数千円から試せて、元が取れるかも先に分かるにまとめています。

改ざん防止は別に決め、税の判断は税理士に確かめる

  • 改ざん防止の措置は、別に用意する。 AIで名前と台帳を作っても、それだけでは改ざん防止の要件は満たしません。国税庁のサンプルをもとに事務処理規程を作るなど、自社に合う方法を決めておきます
  • 元のPDFは消さず、中身を変えない。 AIに読ませるのはコピーにし、保存するのは届いたままのPDFです。名前を付け直すだけで、中身は手を加えません
  • 税の判断は、AIではなく税理士に確かめる。 どの書類が保存の対象か、自社がどの要件に当たるかは、顧問の税理士に確かめます。AIは読み取りと名前付けの手伝いにとどめます
  • 取引先の情報の扱いを決める。 請求書には取引先の名前や金額、口座の情報が入っています。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています

まとめ

  • 電子帳簿保存法の電子取引データの保存は、AIで日付・金額・取引先を読み、名前と台帳の案を作れば、月末の手作業から外せる。仮に月300件なら、月10時間が2.5時間に
  • 2024年1月以降、全ての事業者は、電子でやり取りした請求書や領収書をデータのまま保存する。改ざん防止の措置と、「日付・金額・取引先」での検索ができることが要件。ファイル名や表計算の索引簿でもよい
  • AIに、PDFの読み取り、ファイル名と索引簿の1行の作成を任せる。金額と日付は会計の記録と計算で照らし、名前の形はプログラムで確かめる
  • 改ざん防止は事務処理規程などで別に用意し、自社が当たる要件は税理士に確かめる
  • まずは、先月のメールのPDFを20件、AIに読ませてみる

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