去年の今ごろの作業が分かる。話した一言からAIが農作業日誌を整える仕組み
この記事で変わる経営指標
この記事では、小さな農業法人の事務をAIで減らす。人が減っても出荷と販売を回すの「作業の記録は、話した一言からAIが作業日誌にする」を、仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、作業のあとに、働き手がスマホに一言と写真を送る。畑の名前は一覧にそろえ、日付と人は送った時刻と出勤表から入れる。農薬や肥料の言葉には印を付け、量は人が別の表に付ける。AIが作業日誌の形に整え、代表が週に一度確かめる。毎週月曜には、去年の同じ週にした作業の一覧が届くという形です。夜に手帳から写していた日誌を一言で残し、たまった記録を翌年の段取りに使います。
今は日誌が夜の清書になり、去年の記録を見返せない
親の記事でも触れたとおり、農林水産省の統計では、基幹的農業従事者は2020年の136.3万人から2025年は103.6万人に減りました。共同通信は、概数値の段階で5年で25.1%減と報じています。少ない人数で畑を回すほど、記録に割ける時間は減ります。
多くの小さな農業法人では、作業の記録が次のように付けられています。
- 働き手が手帳やメモ帳に作業を書く。忙しい日は書かない
- 代表が夜に手帳から日誌や表に写す
- 畑の呼び方が人によって違い(「下の畑」「3番」「川沿い」)、後から探しにくい
- 来年の同じ時期に「去年はいつ何をしたか」を調べようとしても、手帳をめくるしかない
記録は付けていても、使える形になっていない。そのため、毎年同じ時期に同じ迷いが出ます。
一言を送り、表でそろえ、AIが整え、代表が確かめる
仕組みは4つの段でできています。
1. 話す:作業のあとに一言と写真を送る。 働き手は、作業の区切りに、社内のチャットの「作業記録」の部屋に一言を話して送ります(「下の畑、トマトの芽かき。午前中、田中さんと2人。下の葉に少し斑点あり」)。気になったところは写真を添えます。話した声を文字にする機能を使えば、手で打たなくて済みます。
2. そろえる:畑の名前、日付、人を表でそろえ、農薬と肥料に印を付ける。 ここは決まりと計算です。
- 畑の名前は、畑の一覧(正式な名前と、現場での呼び方を並べたもの)と照らしてそろえます。「下の畑」も「3番」も「第3圃場」になります。一覧にない呼び方は、代表に知らせます
- 日付は送った時刻から、一緒に作業した人は出勤表から入れます
- 「農薬」「消毒」「散布」「肥料」「追肥」などの言葉があれば印を付けます。使った薬や肥料の名前と量と日付は、人が別の表に付けます。AIの文から取りません
3. 整える:AIが作業日誌の形にする。 AIが一言を読み、日誌の形(日付、畑、作物、作業、人数、気づいたこと)に整えます。一言に書かれていないことは書かず、分からない項目は空欄にします。病気や虫についての判断は書かず、「下の葉に斑点あり(写真あり)」のように、見たことだけを残します。
4. 確かめる:代表が週に一度確かめ、去年の同じ週を見る。 代表が、週に一度、その週の日誌を確かめて直します。毎週月曜の朝には、去年の同じ週(前後1週間)の日誌から、畑ごとの作業を一覧にしたものが届きます。「去年は今週、2番の畑で定植していた」「去年はこの時期に斑点が出始めた」が、すぐに分かります。
畑の一覧と日誌の型をスキルにし、日付と農薬の記録はAIの外で持つ
この仕組みが毎日正しく回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の計算で決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
畑の一覧と日誌の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 畑の一覧:正式な名前、現場での呼び方、作っている作物
- 作業の言葉:芽かき、定植、収穫などの言葉と、その意味
- 日誌の型:項目の並び
- 書いてはいけないこと:病気や虫の名前の決めつけ、農薬の名前や量、一言にない作業
日付、人、農薬と肥料の記録は、AIの外で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、畑の名前を一覧と照らしてそろえること、日付と人を表から入れること、農薬と肥料の言葉を決まった一覧で探して印を付けること、去年の同じ週の日誌を日付で選び出すことがそれに当たります。農薬の記録は、決まりに沿って人が付けるものなので、AIに書かせません。
働き手は話して送り、代表は週に一度直すだけになる
仕組みが入ると、作業の記録は次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 働き手 | 手帳に書く。忙しい日は書かない | 一言を話して送る |
| 代表 | 夜に手帳から写す | 週に一度、日誌を確かめて直す |
| 畑の呼び方 | 人によってばらばら | 一覧の名前にそろう |
| 農薬と肥料 | 日誌と混ざる | 印が付き、量は別の表に人が付ける |
| 去年の記録 | 手帳をめくる | 毎週月曜に去年の同じ週が届く |
経営への効果は、去年の経験を今年の段取りに生かすこと
効果は、前提を置いて計算します。仮に、1件の記録に、働き手の手書きと代表の清書で合わせて10分かかっていたものが、一言1分と確認1分の2分になれば、1件8分が浮きます。2人が月25日記録する会社(月50件)なら月約7時間、1時間あたりの人件費を仮に2,000円として月約1万3,000円分です。
ただ、この仕組みの価値は時間よりも、記録が使えるようになることにあります。去年の同じ週に何をしたか、いつ病気の兆しが出たかがすぐに分かれば、作業の段取りや人の手配を早めに決められます。新しく入った働き手も、去年の日誌を見て、この時期に何をするかを知ることができます。
費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月60円ほど
作る順番と、かかる日数
- 畑の一覧と、作業の言葉の一覧を作る(社内:代表、半日)。現場での呼び方を全部書き出します。ここがいちばん大事です
- 農薬と肥料の記録の表を決める(社内:代表、半日)。今使っている記録の様式があれば、それをそのまま使います
- チャットから一言を受け取り、畑の名前と日付と人をそろえ、印を付ける仕組みを作る(作る人、1人日)
- AIの日誌の整え、代表への届け方、去年の同じ週の一覧を作る(作る人、1人日)
- 1か月、代表と働き手1人で試して直す(作る人、0.5人日)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
上の手順3〜5で、作る側の目安は合計2.5人日です。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 1件の日誌と、毎週の去年の一覧 | 月60円ほど(下の計算) |
| 社内のチャット・表計算 | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 保守 | 畑の一覧と言葉の一覧の更新 | 月1時間 |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1件の日誌で1,000トークンを読ませ、300トークンを書かせると見積もると約0.75円(1ドル150円)、月50件で約38円です。毎週の去年の一覧に1回1万トークンを読ませ、1,000トークンを書かせると、月4回で約18円です。合わせて月60円ほどです。
何か月で取り戻せるか
取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)
仮に作る費用が15万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を5,000円とすると、月約1万3,000円分が浮く会社でおよそ18か月です。浮く時間だけで見ると、取り戻すまでに時間がかかります。働き手が少ない会社なら、畑の一覧だけを作り、代表が週に一度、社内のチャットにたまった一言を会社で契約したAIのチャットに貼って日誌に整えるやり方で十分です。仕組みにするのは、働き手が増え、去年の記録を毎週見たくなってからで間に合います。
必要な人は3役で、確かめるのは代表
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 話す人 | 働き手 | 作業の区切りに一言と写真を送る | 1件1分 |
| 確かめる人 | 代表 | 週に一度日誌を直す。農薬と肥料の表を付ける | 週30分ほど |
| 作る人 | 社内の詳しい人か、外の作り手 | 受け取り、そろえ、整え、去年の一覧を作る | 最初の2.5人日 |
いちばん大事なのは、働き手の一言に「どの畑で、何をして、何に気づいたか」が入ることです。外国から来た働き手には、母国語で話してもらい、AIに日本語の日誌に整えてもらうこともできます。その場合も、代表が内容を確かめます。
1か月で記録がたまり、1年で去年の一覧が役に立つ見込み
どこまでいけるかは、一言がどれだけ続くかと、畑の一覧がどれだけ育つかで決まります。目安は次のとおりです。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の1か月 | 一言が続くかを見る。一覧にない呼び方を足す |
| 半年 | 作業の記録が抜けなくたまる。代表の夜の清書がなくなる |
| 1年 | 毎週月曜の「去年の同じ週」が届き始め、段取りを早めに決められる |
効果を確かめるには、次の3つを見ます。
- 代表が記録に使う時間:1週間だけ記録します
- 記録の抜けた日の数:出勤表と日誌を比べて数えます
- 去年の一覧を見て、段取りを前倒しにした回数:代表の振り返りで数えます
病気の判断や農薬の量をAIに書かせると失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- 病気や虫の名前をAIに決めさせる。 写真から病名を書かせると、外れたときに対処を誤ります。日誌には見たことだけを残し、判断は普及指導員や資材の会社に相談します
- 農薬の名前や量をAIに書かせる。 農薬の記録は、ラベルと決まりに沿って人が付けます。AIの文から取りません
- 畑の一覧を更新しない。 新しく借りた畑や、呼び方が変わった畑を足さないと、記録が探せなくなります
- 確かめずに残す。 別の畑の一言が混ざることがあります。代表が週に一度確かめます
社内ルールの決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。一言から日誌を整える考え方は、保育園の例ですが保育日誌は一言で残す。保育士の話した様子からAIが日誌を下書きする仕組みでも説明しています。
まとめ
- 作業のあとに、働き手が一言と写真を送るだけにし、AIが作業日誌の形に整える
- 畑の名前は一覧にそろえ、日付と人は送った時刻と出勤表から入れる。農薬と肥料の言葉には印を付け、量は人が別の表に付ける
- 毎週月曜に、去年の同じ週の作業の一覧を届け、段取りを早めに決める
- 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は2.5人日。AIの利用料は月60円ほど。働き手が少ないうちはチャットで十分
- 病気や虫の判断と、農薬の名前や量はAIに書かせない