小さな農業法人の事務をAIで減らす。人が減っても出荷と販売を回す
この記事で変わる経営指標
この記事では、小さな農業法人がAIを使うと、どの業務がどう変わるかを説明します。一言でいうと、直売やネットの商品の説明、作業の記録、出荷の連絡、外国から来た働き手への説明の4つにAIを入れ、事務と連絡の手間を減らす。病害虫の診断や農薬の使い方の判断は、人が決まりの原本と専門家に確かめて行うという話です。
AIの価値は、畑や田んぼの仕事を代わりにすることではありません。日が暮れてから事務所で抱えている書きものと連絡を軽くし、少ない人数でも出荷と販売を止めないことです。
経営への効果は、販売を増やし、少ない人数で回すこと
小さな農業法人の仕事は、AIを入れると次のように変わります。
| 業務 | 今まで | AIを入れたあと | 効く経営効果 |
|---|---|---|---|
| 商品の説明 | 直売所やネットの説明が短い、または古いまま | 畑の様子とメモから説明の下書き | 売上 |
| 作業の記録 | 夜に手帳から日誌に写す、書きそびれる | 話した一言から作業日誌に | 業務の無駄 |
| 出荷の連絡 | 取引先ごとに電話やファクスで伝える | 出荷表から取引先ごとの連絡を下書き | 業務の無駄 |
| 働き手への説明 | 作業の手順を口で伝え、伝わったか分からない | やさしい日本語と母国語の説明を下書き | 人手不足 |
効果の大きさは、前提を置いて考えます。仮に、代表と事務の担当者が、日誌の清書、出荷の連絡、商品の説明に合わせて1日1時間半かけていたものが、確かめて直す45分になれば、1日45分、月25日で月約19時間が浮きます。1時間あたりの人件費を仮に2,000円とすると、月約3万8,000円分です。
ただ、大きいのは時間ではありません。商品の説明が分かりやすく、旬の時期に間に合えば、直売やネットの売上につながります。作業の手順が働き手に伝われば、教える手間と作業のやり直しが減ります。
農業で働く人は5年で4分の1ほど減った
農林水産省の統計によると、ふだん仕事として主に自営の農業に従事している「基幹的農業従事者」は、2020年の136.3万人から、2025年は103.6万人に減りました(農林業センサス)。速報の段階でも、共同通信は5年で25.1%減り、比べられる1985年以降で最も大きな減り方だったと報じています。
一方で、2025年の農林業センサスの確定値の公表では、農業経営体が減る中で、法人の経営体は5年前より10.1%増えたとされています(京都府の資料も全国の値として同じ数字を載せています)。家族だけで営む農家が減り、法人として人を雇って営む形が増えている、ということです。
法人として人を雇えば、作業の記録、取引先との連絡、働き手への説明といった事務が増えます。働き手が減るなかで、その事務を少ない人数で回すことが、農業法人の経営そのものになっています。
直売やネットの商品の説明は、畑の様子とメモからAIが下書きする
AIに頼むこと。 収穫の時期に、畑の様子の写真と、代表が話したメモ(「今年は雨が少なくて甘みが乗った」「この品種は皮が薄いので生で食べるのがおすすめ」)を渡し、直売所の手書きの札、ネットの商品ページ、飲食店への案内の説明を下書きしてもらいます。
人がすること。 代表が、内容が本当かを確かめます。「無農薬」「有機」などの表示は、決まりがあるので、使ってよいかを原本で確かめてから書きます。
何が変わるか。 毎年同じだった説明が、その年の畑の様子に合った説明になります。旬の時期に間に合います。
食品の表示の決まりに沿って確かめる考え方は、食品工場の例ですが小さな食品工場の記録と表示をAIで回す。人を増やさず品質を守る方法で説明しています。
作業の記録は、話した一言からAIが作業日誌にする
AIに頼むこと。 作業のあとに、働き手や代表がスマホに一言話して送ります(「3番の畑、トマトの芽かき。午前中2人で。下の葉に少し斑点あり」)。AIが、日付、畑、作業、人数、気づいたことの形の作業日誌に整えます。
人がすること。 代表が、週に一度まとめて確かめます。農薬や肥料を使った記録は、使った量と日付を、ラベルと決まりに沿って人が書き、AIの文から取りません。
何が変わるか。 夜に手帳から写していた日誌が、一言で残ります。去年の同じ時期に何をしたかを、すぐに見返せます。
一言から日誌を整え、毎週去年の同じ週の作業を届ける仕組みの作り方は、去年の今ごろの作業が分かる。話した一言からAIが農作業日誌を整える仕組みで説明しています。
出荷の連絡は、出荷表から取引先ごとにAIが下書きする
AIに頼むこと。 出荷表(取引先、品目、数量、出荷日、到着予定)から、取引先ごとの出荷の連絡を下書きしてもらいます。天候で数量が変わるときの連絡や、次の出荷の見込みの案内も、メモから整えてもらいます。
計算で行うこと。 数量、金額、出荷日は、出荷表から差し込みます。AIに書かせません。
人がすること。 事務の担当者が確かめて送ります。
何が変わるか。 取引先ごとに電話やファクスで伝えていた内容が、文章で届き、伝え漏れが減ります。数量が減るときも、早めに知らせられます。
欠品や数量の変更を取引先に知らせる考え方は、卸売の例ですが欠品が分かったその日に取引先へ知らせる。在庫と受注からAIで連絡を下書きで説明しています。
働き手への説明は、やさしい日本語と母国語でAIが下書きする
AIに頼むこと。 作業の手順や注意(「収穫したら日陰に置く」「機械の刃に手を近づけない」)を、代表の話から、やさしい日本語の手順書にしてもらいます。外国から来た働き手には、その人の母国語の訳も添えてもらいます。
人がすること。 代表が、手順と安全の注意が正しいかを確かめます。母国語の訳は、分かる人がいれば読んでもらい、働き手に「分かったか」を実際の作業で確かめます。
何が変わるか。 口で伝えていた手順が、紙やスマホで見返せるようになります。教える手間と、伝わっていなかったことによるやり直しが減ります。
ベテランの技能を手順書に残す方法は、ベテランの技能をAIで手順書に残し、新人を早く一人立ちさせる方法で説明しています。
病害虫の診断と農薬の使い方の判断は、AIに任せない
AIで何でもできそうに見えても、次のことはAIに任せません。
- 病害虫の診断。 葉の写真をAIに見せて「何の病気か」を決めることはしません。外れると、合わない薬を使ったり、広がるのを見逃したりします。普及指導員や、取引のある資材の会社に相談します
- 農薬の使い方。 使える作物、量、回数、収穫前に使える日数は、農薬のラベルと決まりで決まっています。AIの答えではなく、ラベルと原本で確かめます
- 表示の決まり。 「有機」などの表示には決まりがあります。使ってよいかは原本で確かめます
まずは、間違えても人がすぐに気づけて直せる、説明と記録と連絡の下書きから始めます。
畑の言葉と型をスキルにし、数量と農薬の記録はAIの外で持つ
ここまでの使い方は、そのつどAIのチャットに頼む場合です。毎日同じように使うなら、もう一段の工夫をしておくと安定します。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
畑の言葉と型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「畑と品種の一覧」「作業日誌の型」「商品の説明の型と、使ってはいけない表示の言葉」「出荷の連絡の型」をスキルにします。
数量、金額、農薬の記録は、AIの外で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、出荷の数量と金額を出荷表から差し込むこと、農薬と肥料の記録を表で人が付けること、商品の説明に使ってはいけない表示の言葉が混ざっていないかを機械的に確かめることがそれに当たります。
始める順番は、毎日の量が多く、間違えても直せる仕事から
- 作業の記録:毎日出ます。代表が確かめるので、間違いに気づけます
- 出荷の連絡:出荷のたびに出ます。数量は出荷表から入るので、始めやすい仕事です
- 商品の説明:旬の時期にまとめて出ます。売上に直結します
- 働き手への説明:一度作れば、しばらく使えます
費用は、法人向けプランの月数千円から始められる
最初は、会社で契約した、入力をAIの学習に使わない法人向けのプランで、チャットに貼って使うところから始めます。費用は1人あたり月数千円で、代表と事務の担当者の分から始められます。作業の記録や出荷の連絡を自動で整える仕組みにする場合は、作る費用が加わります。費用の考え方はAI導入にいくらかかる?月数千円から試せて、元が取れるかも先に分かるにまとめています。
効果は、夜の事務の時間と、直売とネットの売上で測る
効果を確かめるには、次の3つを始める前と後で比べます。
- 夜の事務の時間:1週間だけ、代表と事務の担当者の時間を記録します
- 直売とネットの売上:説明を変えた品目の売上を、前の年の同じ時期と比べます
- 働き手の作業のやり直し:代表の記録から数えます
最初の1か月は、作業の記録と出荷の連絡だけ試す
- 代表と働き手1人に、作業のあとに一言を送ってもらう
- 会社で契約したAIのチャットで、作業日誌の形に整え、週に一度代表が確かめる
- 出荷表から、取引先ごとの連絡を下書きさせ、事務の担当者が確かめて送る
- 1か月後、日誌と連絡の型を見直し、商品の説明にも広げる
まとめ
- 基幹的農業従事者は2020年の136.3万人から2025年は103.6万人に減った。一方で法人の経営体は5年で10.1%増え、事務を少ない人数で回すことが経営そのものになっている
- 直売やネットの商品の説明、作業の記録、出荷の連絡、働き手への説明の4つにAIを入れる
- 病害虫の診断と農薬の使い方は、AIに任せず、ラベルと原本と専門家で確かめる
- 数量と金額は出荷表から、農薬と肥料の記録は人が表で付ける
- 最初の1か月は、作業の記録と出荷の連絡だけを試す