外国人の社員の質問に、母国語ですぐ答える。会社の決まりからAIが答えを下書き
この記事で変わる経営指標
この記事では、外国人の社員が早く一人で動ける会社に。手順と連絡をやさしい日本語でAIが書くの「質問の窓口を作る」を、仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、外国人の社員からの質問を、1つの窓口に集める。給料や契約、在留資格、けがや体調、困りごとの相談は、言葉の一覧でAIの前に分けて、担当者に回す。それ以外の質問は、会社の決まりの表から関係する行を拾い、AIがやさしい日本語と母国語で答えを下書きし、担当者が確かめて返すという形です。聞きにくい小さな質問にすぐ答え、大事な相談は人が受けます。
外国人の社員は増え、聞きにくい質問がたまりやすい
厚生労働省の「外国人雇用状況」の届出のまとめによると、2025年10月末の外国人労働者数は2,571,037人、外国人を雇う事業所は371,215か所で、どちらも届出が義務になった2007年以降で最も多い数でした(かいけつ!人事労務の解説でも同じ数字が紹介されています)。
働き始めたばかりの社員には、小さな疑問がたくさんあります。休みはどう申し込むのか、給料日はいつか、作業着はどこで替えるのか、遅れそうなときは誰に連絡するのか。日本語を勉強中の社員にとっては、こうしたことを日本語で聞くこと自体が負担です。忙しそうな先輩に何度も聞くのは気が引けて、分からないまま過ごしてしまうこともあります。
出入国在留管理庁と文化庁の「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」は、文を短くする、二重否定を使わない、敬語は丁寧語だけにする、漢字にふりがなをつける、といった書き方を示しています。答えをこの書き方と母国語の2つで返せば、読み返して確かめられます。
今は日本語の分かる社員に、通訳と答えを頼っている
多くの会社では、外国人の社員の質問が次のように扱われています。
- 外国人の社員が、同じ国の日本語の分かる社員に聞く
- その社員が、分かることは答え、分からないことは担当者に聞きに行く
- 担当者の答えを、その社員が訳して伝える
- 同じ質問が、別の社員から何度も来る
日本語の分かる社員は、自分の仕事の手を止めて、通訳と答えの役を担っています。その社員が休んだり辞めたりすると、質問の道がなくなります。
集め、大事な相談を分け、AIが2つで書き、担当者が返す
仕組みは4つの段でできています。
1. 集める:質問を1つの窓口に集める。 連絡の道具に、質問を送る窓口を1つ作ります。社員は、母国語でも、日本語でも送れます。
2. 拾う:大事な相談を分け、決まりの表から行を拾う。 ここはAIの仕事ではありません。
- 「給料」「契約」「ビザ」「在留」「けが」「病気」「体調」「いやなこと」「やめたい」など、会社で決めた言葉(母国語の言い方も入れる)を含む質問は、担当者にすぐ回し、AIの答えは作らない
- それ以外の質問は、会社の決まりの表(よくある質問と答え、休みの申し込み方、連絡先、持ち物)から、関係する行を言葉で探して拾う
3. 下書きする:AIがやさしい日本語と母国語で答えを書く。 AIに、質問と、拾った決まりの行を渡し、答えを下書きさせます。
- 答えは、拾った決まりの行にあることだけで書く
- やさしい日本語と、社員の母国語の2つで書く
- 拾った行がなければ、「担当者が答えます」とだけ書く
4. 確かめて返す:担当者が確かめて返し、表に足す。 担当者が、下書きを決まりの表と照らして返します。表になかった質問には担当者が答え、その答えを決まりの表に足します。表が育つほど、AIが答えられる質問が増えます。
答えの型をスキルにし、大事な相談の仕分けはAIの外に置く
この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
答えの書き方を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- やさしい日本語の決まり:ガイドラインに沿った書き方
- 答えの型:答え、次にすること、分からないときに聞く人、の並べ方
- 会社の言葉の対訳表:手順書や毎日の連絡と同じ言い方
- 書いてはいけないこと:決まりの表にない答え、給料や契約や在留資格についての説明、体調についての助言、相談した社員を責めるような言い方
大事な相談の仕分けは、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、言葉の一覧で大事な相談をAIの前に分けること、決まりの表から行を拾うこと、表にない質問を一覧にして担当者が答えを足すことが、それに当たります。給料や在留資格のように、間違えると本人の生活にかかわる質問に、AIが答えてしまうことを防ぎます。
大事な相談は、人が早く受ける
この仕組みでいちばん大事なのは、AIが答えない質問を、人が早く受けることです。
- 言葉の一覧で分けた相談は、担当者にすぐ届きます。その日のうちに、担当者が本人と話します
- 言葉の一覧は、はじめは広めに作ります。大事でない質問まで回ってきても、担当者が答えれば済みます
- 母国語の言い方も一覧に入れます。日本語の分かる社員に、よく使う言い方を教えてもらいます
困りごとや体調の相談は、文の答えより、直接話すことが大事です。担当者が話す時間を作れるのは、小さな質問をAIの下書きで早く片づけられるからです。
毎日の連絡の仕組みは、シフトの変更が外国人の社員に毎日伝わる。やさしい日本語と母国語でAIが連絡で説明しています。
担当者の仕事は、確かめて返し、大事な相談を受けることになる
仕組みが入ると、外国人の社員の質問への対応は次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 質問の道 | 日本語の分かる社員を通す | 1つの窓口に、母国語でも送れる |
| 小さな質問 | 通訳と担当者を行き来する | 決まりの表から、すぐ下書き |
| 大事な相談 | 小さな質問に埋もれる | 言葉で分け、担当者にすぐ届く |
| 答えの形 | 口頭で、読み返せない | やさしい日本語と母国語の文 |
| 同じ質問 | 何度も一から答える | 決まりの表に足し、次から下書き |
経営への効果は、通訳役の時間を返し、辞めにくくすること
効果は、前提を置いて計算します。仮に、外国人の社員が10人ほどいて、質問が月40件あり、1件あたり、通訳を頼み、担当者が答え、訳して伝えるのに15分かかっていたものが、下書きを確かめて返す3分になれば、1件12分が浮きます。月8時間、1時間あたりの人件費を仮に2,000円として月約1万6,000円分です。
ただ、大きいのは時間ではありません。通訳を頼まれていた日本語の分かる社員は、自分の仕事に戻れます。小さな疑問にすぐ答えが返ってくる職場は、外国人の社員にとって働きやすく、辞めにくい職場です。大事な相談が小さな質問に埋もれず、担当者に早く届くことは、問題が大きくなる前に手を打つことにもつながります。
費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月70円ほど
作る順番と、かかる日数
- 会社の決まりの表(よくある質問と答え)を作る(会社:担当者と、日本語の分かる外国人の社員、半日)。ここがいちばん大事です
- 大事な相談の言葉の一覧を、母国語の言い方も入れて作る(会社:担当者と社長、1時間)
- 質問の窓口と、言葉の一覧での仕分けと、決まりの表からの拾い出しを作る(作る人、0.5人日)
- AIの答えの下書きと、表にない質問の一覧を作る(作る人、0.5人日)
- 1か月、実際の質問で試して直す(作る人、0.5人日)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
上の手順3〜5で、作る側の目安は合計1.5人日です。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 1件の答えの下書きごとにかかる | 月40件で約70円(下の計算) |
| 連絡の道具・表計算 | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 保守 | 決まりの表と言葉の一覧の更新 | 月1時間 |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1件あたり質問と拾った行とスキルで3,000トークンを読ませ、2つの言葉の答えで500トークンを書かせると見積もると、0.011ドル、1ドル150円で約1.7円です。月40件で約70円です。
何か月で取り戻せるか
取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)
仮に作る費用が9万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を約2,100円とすると、月約1万6,000円分が浮く会社でおよそ6.5か月です。外国人の社員が少ない会社なら、決まりの表と言葉の一覧と型だけを作り、会社で契約したAIのチャットに質問と表を貼って下書きさせるやり方で十分です。
必要な人は3役で、大事な相談を受けるのは担当者
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 返す人 | 総務の担当者 | 下書きを確かめて返し、大事な相談をその日に受ける | 1件3分と相談 |
| 表を育てる人 | 担当者と、日本語の分かる外国人の社員 | 表にない質問の答えを決まりの表に足し、訳を確かめる | 月1時間 |
| 作る人 | 社内の詳しい人か、外の作り手 | 窓口、仕分け、拾い出し、下書きを作る | 最初の1.5人日 |
いちばん大事なのは、大事な相談をその日のうちに人が受けることです。
1か月で表が育ち、半年で通訳を頼む回数が減る見込み
どこまでいけるかは、決まりの表がどれだけ育つかで決まります。目安は次のとおりです。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の1か月 | 表にない質問が多く出る。答えを表に足し、言葉の一覧を見直す |
| 3か月 | よくある質問の多くが表から答えられる |
| 半年 | 日本語の分かる社員に通訳を頼む回数が、仕組みの前より減る |
効果を確かめるには、次の3つを記録します。
- 質問から答えまでの時間:件ごとに記録します
- 表から答えられた質問の割合:表の育ち具合を見ます
- 担当者に回した大事な相談の数と、その日に受けた数:月ごとに数えます
給料や在留資格の質問にAIが答えると失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- 給料、契約、在留資格の質問にAIが答える。 言葉の一覧でAIの前に分け、担当者が原文と専門家で確かめて答えます
- 体調やけがの相談に、AIが助言する。 担当者に回し、必要なら受診をすすめます
- 決まりの表にないことをAIが答える。 表の行だけを渡し、なければ「担当者が答えます」と書かせます
- 表を育てない。 表にない質問の答えを、その週のうちに表に足します
社員の名前や国籍、相談の中身は、大事な個人の情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、AIに渡さない情報を社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。
まとめ
- 外国人の社員の質問を、母国語でも送れる1つの窓口に集める
- 給料、契約、在留資格、けが、体調、困りごとの相談は、言葉の一覧でAIの前に分け、担当者がその日に受ける
- それ以外は、会社の決まりの表から行を拾い、AIがやさしい日本語と母国語で答えを下書きする
- 担当者が確かめて返し、表にない質問の答えを表に足して育てる
- 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は1.5人日。AIの利用料は月約70円