経営課題×AI

外国人の社員が早く一人で動ける会社に。手順と連絡をやさしい日本語でAIが書く

この記事で変わる経営指標

この記事では、外国人の社員を雇っている、またはこれから雇う中小企業で、外国人の社員が早く一人で仕事を回せるようにする方法を説明します。一言でいうと、手順書と毎日の連絡を、国のガイドラインに沿った「やさしい日本語」と、社員の母国語の訳でAIに下書きさせる。会社の言葉の対訳表と、安全の注意の言い方は、表で決めて持つ。中身が正しいかは手順を知る社員が確かめ、訳は分かる人に読んでもらうという話です。

AIの価値は、翻訳そのものではありません。ベテランが口で教えてきた仕事を、外国人の社員が一人で読み返せる形にして、教える人の時間と、伝わらなかったことによるやり直しを減らすことです。

経営への効果は、教える時間が減り、一人で動ける人が増えること

外国人の社員への伝え方は、AIを使うと次のように変わります。

今まで やさしい日本語と母国語で、AIが下書き
手順を教える ベテランが横について、口で何度も 手順書を渡し、ベテランは確かめるだけ
手順書 日本人向けの難しい文、または無い やさしい日本語と母国語の2つ
毎日の連絡 伝わったか分からない 短い文と母国語の訳で届く
会社の言葉 人によって言い方が違う 対訳表で同じ言葉にそろう
安全の注意 口頭で伝えて終わり 決めた言い方で、毎回同じに
外国人の社員への伝え方の変化。今まではベテランが横について口で何度も教え、伝わったかが分からなかった。手順と連絡をAIがやさしい日本語と母国語で下書きし、会社の言葉は対訳表でそろえ、手順を知る社員と分かる人が確かめて渡す
外国人の社員への伝え方の変化。今まではベテランが横について口で何度も教え、伝わったかが分からなかった。手順と連絡をAIがやさしい日本語と母国語で下書きし、会社の言葉は対訳表でそろえ、手順を知る社員と分かる人が確かめて渡す

経営の効果は3つあります。

  • 教える人の時間が減る。 ベテランが同じ説明を何度も繰り返す時間が減り、自分の仕事に戻れます
  • 一人で動ける人が早く増える。 手順を自分で読み返せれば、聞きに行かなくても仕事を進められます。少ない人数で回す会社ほど、一人で動ける人が1人増える意味は大きくなります
  • やり直しと事故が減る。 伝わったつもりで伝わっていなかった、というやり直しが減ります。安全の注意を毎回同じ言い方で伝えれば、聞き違いも減ります

外国人労働者は257万人、雇う事業所も37万か所で過去最多

厚生労働省が2026年1月に公表した「外国人雇用状況」の届出のまとめによると、2025年10月末の外国人労働者数は2,571,037人で、前の年より268,450人増えました。外国人を雇う事業所は371,215か所で、前の年より29,128か所増えています。どちらも、届出が義務になった2007年以降で最も多い数です(かいけつ!人事労務の解説でも同じ数字が紹介されています)。

人手が足りない中で、外国人の社員に頼る会社は増えています。ただ、雇ったあとに、仕事をどう教えるか、どう連絡するかで悩む会社は少なくありません。日本人の社員向けに作った手順書や、口で伝える指示は、日本語を勉強中の人には伝わりにくいからです。

伝わらないのは、日本語が難しく、言い方が人ごとに違うから

外国人の社員に伝わらない理由は、主に2つです。

  • 日本語が難しい。 長い文、二重否定(「〜しないわけではない」)、尊敬語や謙譲語、職場だけの言葉や略語が混ざると、日本語を勉強中の人には読み取れません
  • 言い方が人ごとに違う。 ある人は「バラす」、別の人は「分解する」と言う。同じものを違う言葉で呼ぶと、別のものだと思ってしまいます

出入国在留管理庁と文化庁が2020年8月に作った「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」は、多言語の翻訳や通訳のほかに、やさしい日本語を使うことが有効だとしています。文を短くして1つの文で言いたいことを1つにする、二重否定を使わない、敬語は「です・ます」の丁寧語だけにする、漢字の量に気をつけてふりがなをつける、といった書き方が示されています。さらに、書いたものを日本語教師や外国人に確かめてもらうことをすすめています。

この書き方は、決まりがはっきりしているので、AIに頼みやすい仕事です。

AIは手順書と毎日の連絡を、やさしい日本語と母国語で下書きする

AIに頼むこと。 次の3つを、やさしい日本語と、社員の母国語の訳の2つで下書きしてもらいます。

  • 手順書:ベテランが作業をしながら話した手順の記録から、1つの手順を1つの文にした手順書を作る。写真の番号と並べる
  • 毎日の連絡:シフト、作業の変更、注意してほしいことを、短い文で
  • よくある質問の答え:給料の日、休みの取り方、困ったときに誰に聞くかなど、会社の決まりの資料から

人がすること。 手順を知る社員が、手順書の中身が正しいかを確かめます。訳は、その言葉が分かる社員や、日本語の分かる外国人の社員に読んでもらいます。実際の作業で、伝わったかを確かめます。

何が変わるか。 ベテランが口で何度も教えていたことが、読み返せる手順書になります。毎日の連絡が、伝わったかどうか分からないまま流れていくことが減ります。

ベテランの話から手順書を作る考え方は、ベテランの技能をAIで手順書に残し、新人を早く一人立ちさせる方法で、農業の例での作り方は農作業の手順をやさしい日本語と母国語で渡す。代表の話からAIが手順書を下書きで説明しています。

AIへの頼み方と、返ってくる手順書はこんな形になる

AIに渡す指示(見本。内容は架空です):

下は、ベテランが話した「機械の刃を替える手順」の記録と、会社の言葉の対訳表です。これを、国の「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」に沿ったやさしい日本語の手順書にしてください。1つの文で言うことは1つにし、二重否定と尊敬語・謙譲語は使わず、漢字にはふりがなを付けてください。会社の言葉は、対訳表の言い方だけを使ってください。そのあとに、ベトナム語の訳を付けてください。記録にない手順は書かず、分からないところは「確認」と書いてください。

返ってくる手順書(見本の一部):

  1. 機械(きかい)の電源(でんげん)を切(き)ります。
  2. 赤(あか)いボタンを押(お)します。
  3. 刃(は)が止(と)まったことを、目(め)で見(み)ます。
  4. 手袋(てぶくろ)をします。
  5. 刃を外(はず)します。(確認:外す道具の名前)

手順を知る社員が中身を確かめ、「確認」のところを埋めます。ベトナム語の訳は、分かる社員に読んでもらいます。

対訳表と安全の言い方は表で持ち、書き方はスキルにする

ここまでの使い方は、そのつどAIのチャットに頼む場合です。毎日の連絡まで続けるなら、もう一段の工夫をしておくと安定します。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

やさしい日本語の書き方を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「ガイドラインに沿った書き方の決まり」「手順書と連絡の型」「会社で確かめた良い見本」「書いてはいけないこと(記録にない手順、契約や給料の金額、在留資格についての説明)」をスキルにします。

会社の言葉の対訳表と、安全の注意の言い方は、表で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、会社の言葉(道具、場所、作業の名前)を、やさしい日本語と母国語でどう言うかを1つの表に決めて持つことと、安全の注意(「止まってから手を入れる」など)の言い方を、確かめた訳と一緒に表で持つことがそれに当たります。AIには、この表の言い方だけを使わせ、AIの下書きに表にない言い方が混ざっていたら印を付けます。安全の注意は、AIに毎回訳させず、確かめた訳をそのまま差し込みます。

明日からは、いちばん聞かれる手順を1つ選んで試す

  1. 外国人の社員に、「いちばん分かりにくい手順」と「いちばん聞きに行く手順」を1つずつ聞く
  2. ベテランに、その手順を作業しながら話してもらい、スマホで録音して文字にする
  3. 会社の言葉(道具、場所、作業の名前)を10個書き出し、やさしい日本語の言い方を決める
  4. 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに、記録と言葉の一覧を貼り、上の見本の指示で手順書を下書きさせる
  5. ベテランが中身を確かめ、外国人の社員に読んでもらい、分からなかったところを直す

本格的にやるなら、対訳表を育て、連絡も同じ仕組みで出す

手順書が1つできたら、次の形に育てます。

  • 対訳表を育てる。 手順書を作るたびに出てきた会社の言葉を、表に足していきます。表が育つほど、AIの下書きの言い方がそろいます
  • 毎日の連絡も同じ仕組みで出す。 シフトや作業の変更を担当者が一言で入れると、やさしい日本語と母国語の連絡の下書きが出る形にします。安全の注意は、表の言い方を差し込みます。作り方と費用は、シフトの変更が外国人の社員に毎日伝わる。やさしい日本語と母国語でAIが連絡で説明しています
  • 質問の窓口を作る。 会社の決まりの資料をもとに、よくある質問にAIが答える窓口を作り、答えられない質問は担当者に回します。考え方は小さな会社の新人の離職を減らす方法。聞きにくい質問はAIが受けるで説明しています
  • 伝わったかを確かめる。 手順書を渡したあと、実際の作業で手順どおりにできたかを、ベテランが確かめて記録します。つまずいたところを手順書に戻します

契約と在留資格の説明、安全の判断はAIに任せない

  • 契約、給料、在留資格の説明はAIに任せない。 労働条件や在留資格にかかわる説明は、原文と、必要なら社会保険労務士や行政書士などの専門家で確かめます。AIの訳は、読む手助けにとどめます
  • 安全の注意は、確かめた言い方を使う。 毎回AIに訳させると、言い方が変わることがあります。表に決めた言い方を差し込み、変えるときは人が確かめます
  • 訳は分かる人に読んでもらう。 AIの訳は、意味がずれることがあります。ガイドラインがすすめるとおり、外国人の社員や分かる人に確かめてもらいます
  • 社員の個人の情報に気をつける。 名前、国籍、在留カードの情報は、大事な個人の情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、AIに渡さない情報を社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています

まとめ

  • 外国人労働者は2025年10月末で257万人、雇う事業所は37万か所で、どちらも過去最多(厚生労働省)
  • 伝わらないのは、日本語が難しく、会社の中で言い方が人ごとに違うから
  • 国のやさしい日本語ガイドラインに沿って、手順書と毎日の連絡を、やさしい日本語と母国語でAIが下書きする
  • 会社の言葉の対訳表と安全の注意の言い方は表で持ち、AIにはその言い方だけを使わせる
  • 中身は手順を知る社員が、訳は分かる人が確かめる。契約や在留資格の説明はAIに任せない

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