フリーランスとの取引を台帳で毎月点検。期間と期日は表、連絡はAIで
この記事では、フリーランスへの発注を法律に合わせる。条件の明示はAI、期日は計算での「送った日を表に残す」を一歩進め、フリーランスとの取引を1つの台帳で持って毎月点検する仕組みを作る方法を説明します。
一言でいうと、フリーランスへの発注を1つの台帳に1行ずつ残す。取引先ごとの委託の期間、受け取った日、支払期日、支払った日を表で計算し、1か月以上・6か月以上になった取引先と、60日を超えそうな支払いに印を付ける。AIは、月の点検の結果から社長向けのまとめと、取引先への連絡を下書きするという形です。発注のときだけでなく、続けて頼むうちに増える義務にも気づけるようにします。
委託の期間が長くなると、会社の義務が増える
フリーランス法は2024年11月1日に施行され、個人で働くフリーランスに仕事を頼む会社に、取引条件の明示、受け取った日から原則60日以内の報酬の支払いなどを求めています(島根労働局、東京労働局の資料、鮎澤パートナーズの解説による)。
東京労働局の手引きと鮎澤パートナーズの解説によると、義務は委託の期間によって増えます。
| 委託の期間 | 加わる義務 |
|---|---|
| すべての委託 | 取引条件の明示、受け取った日から60日以内の支払期日と期日内の支払い |
| 1か月以上 | 受け取りの拒否、報酬の減額、買いたたきなど7つの禁止行為 |
| 6か月以上 | 育児や介護などとの両立への配慮(申し出に応じて)、途中でやめたり更新しなかったりするときの事前の予告 |
鮎澤パートナーズの解説は、対応の1つとして、6か月以上続く案件の管理台帳を作ることを挙げています。続けて頼んでいるうちに、気づかないまま6か月を超えていることがあるからです。公正取引委員会は、取引条件の明示と支払期日の違反で、大手企業にも勧告をしています(労働新聞による)。細かい中身は、公正取引委員会と厚生労働省の最新の資料で確かめてください。2026年10月時点の情報です。
今は、発注がチャットに散らばり、期間も期日も見えない
多くの小さな会社では、フリーランスとの取引は次のような状態です。
- 担当者ごとに、チャットやメールで発注している
- 同じ人に毎月のように頼んでいても、いつから続いているかを誰も数えていない
- 支払いは経理が社内の締め払いで処理し、受け取った日から何日かは見ていない
- 相手から「子どもの急な発熱で納期をずらしたい」と言われても、決まった返し方がない
これでは、6か月を超えたことにも、60日を超えそうな支払いにも気づけません。台帳にまとめ、毎月同じ形で点検します。
台帳に入れ、表で印を付け、AIが連絡を書く
仕組みは4つの段でできています。
1. 入れる:発注を台帳に1行ずつ残す。 発注のたびに、台帳に1行足します。列は次のとおりです。
- 取引先の番号、業務の内容、報酬の額
- 発注した日、受け取る予定の日、実際に受け取った日
- 支払期日、実際に支払った日
- 発注の条件を送った日(メールの送信日)
2. 選ぶ:表で計算して印を付ける。 ここはAIの仕事ではありません。表の計算で、次のものを出します。
- 取引先ごとの、委託が続いている期間(最初の発注から、または契約の期間から)
- 1か月以上、6か月以上になった取引先の印
- 受け取った日から支払期日までの日数と、60日を超えるか超えそうな支払いの印
- 条件を送った日の空欄(明示の漏れ)
3. 下書きする:AIがまとめと連絡を書く。 AIに、印の付いた結果だけを渡し、次のものを下書きさせます。
- 社長向けの月のまとめ:印の付いた取引先と支払い、すること、期限
- 条件の変更の連絡:納期や内容が変わったときの連絡
- 育児や介護の申し出への返事:申し出を受けて、納期や作業の仕方を調整する返事。調整できないときは、理由を説明する返事
- 委託を終えるときの予告の連絡:6か月以上の委託を終える、または更新しないときに、前もって伝える連絡
4. 送る:担当者が確かめて送る。 担当者が、まとめと連絡の中身が台帳と合っているかを確かめます。委託を終えるかどうか、申し出にどう応えるかは、社長と担当者が決めてから送ります。
連絡の型をスキルにし、期間と期日の計算はAIの外に置く
この仕組みが毎月同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
連絡の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 月のまとめの型:印の種類ごとの件数、取引先の番号、すること、期限
- 連絡の型:条件の変更、申し出への返事、予告の連絡の3つ
- 書いてはいけないこと:台帳にない金額や日付、報酬の減額や受け取りの拒否をにおわせる言い方、申し出を理由に不利に扱う言い方、法律の判断の断定
期間と期日の計算は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、台帳に発注を入れること、委託の期間と支払期日までの日数を表で計算すること、担当者が連絡の中身を台帳と照らすことがそれに当たります。AIは日付の計算を間違えることがあるので、印は表で付けます。
6か月を超えた取引先に、先に気づける
この仕組みでいちばん効くのは、委託の期間を表で数え、6か月を超える前に気づけることです。
- 同じ人に毎月のように頼んでいると、6か月はすぐに過ぎます。表で、5か月を過ぎた取引先に「もうすぐ6か月」の印を付けておけば、配慮や予告の義務に前もって備えられます
- 6か月以上の委託では、育児や介護の申し出に応じた配慮が求められます。申し出への返事の型があれば、担当者が迷わずに応えられます
- 委託を終えるときは、前もって予告する必要があります。いつまでに伝えればよいかを、社会保険労務士や弁護士に確かめ、台帳に予告の期限を入れておきます
支払期日も同じです。受け取った日から60日を超えそうな支払いに、経理が締めの前に気づければ、支払いの日程を前に寄せられます。
担当者の仕事は、台帳に入れ、印を見て連絡することになる
仕組みが入ると、フリーランスとの取引の管理は次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 発注の記録 | チャットに散らばる | 台帳に1行ずつ |
| 委託の期間 | 誰も数えていない | 表で数え、6か月の前に印 |
| 支払期日 | 社内の締め払いのまま | 受け取った日から日数を計算 |
| 申し出への返事 | 担当者がその場で考える | 型から下書きして確かめる |
| 社長への報告 | ない | 月に一度のまとめ |
経営への効果は、うっかりの違反を防ぎ、長く頼める関係を守ること
効果は、前提を置いて考えます。
防げる損 = 勧告と名前の公表による信頼の低下 + 支払いの遅れで失う外部の人 + 行き違いの手直しにかかる時間
違反の多くは、悪意ではなく、記録と計算がないことから起きます。台帳と表があれば、毎月の点検で気づけます。長く頼んでいるフリーランスほど、会社にとって代わりの利かない人です。申し出に丁寧に応え、支払いを早く確実にすることが、関係を守ります。
社長の時間も変わります。担当者ごとに聞いて回る代わりに、月に一度のまとめを読む10分になります。
費用はほとんど要らず、AIの利用料は月10円ほど
作る順番と、かかる日数
- 台帳の表を作り、この1年の発注を入れる(会社:担当者、1日)
- 期間と支払期日の日数を計算し、印を付ける表を作る(会社:担当者か作る人、半日。表計算で作れます)
- 連絡の型を決め、予告の期限などを専門家に確かめる(会社:社長と担当者、2時間)
- 型をスキルにする(作る人、0.5人日。会社で契約したAIのチャットに型を保存して使うなら不要)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
計算の表とスキルを作る側に頼む場合で、目安は1人日です。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 月のまとめと、連絡4件 | 月約11円(下の計算) |
| 表計算 | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 保守 | 法律や指針の見直しに合わせて型を直す | 年に1回 |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。月のまとめに、印の付いた結果とスキルで10,000トークンを読ませ、1,200トークンを書かせると約5円、連絡1件に2,500トークンを読ませ、600トークンを書かせると約1.7円、4件で約7円、合わせて月約11円です(1ドル150円で計算)。
何か月で取り戻せるか
AIの利用料はわずかです。かかるのは最初の台帳づくりの手間です。フリーランスへの発注が年に数件の会社なら、台帳の表だけで十分で、AIは要りません。毎月のように何人ものフリーランスに頼む会社ほど、台帳と印の価値が大きくなります。
必要な人は3役で、決めるのは社長と担当者
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 台帳を保つ人 | 発注の担当者 | 発注のたびに1行足し、受け取った日を入れる | 1件1分 |
| 支払いを見る人 | 経理の担当者 | 支払期日の印を見て、支払いの日程を調整する | 月30分 |
| 決める人 | 社長 | 月のまとめを読み、申し出への応え方や委託を終えるかを決める | 月10分 |
1か月で台帳が回り、半年で6か月の印が役に立つ見込み
どこまでいけるかは、発注のたびに台帳に入れられるかで決まります。目安は次のとおりです。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の1か月 | この1年の発注が台帳に入り、1か月以上・6か月以上の取引先が分かる |
| 3か月後 | 発注のたびに台帳に入り、月のまとめが回る |
| 半年後 | 6か月の前に印が付き、配慮や予告に前もって備えられる |
効果を確かめるには、次の3つを記録します。
- 条件を送った日が空欄の発注の数:ゼロを目指します
- 60日を超えた支払いの数:ゼロを目指します
- 申し出の数と、応えた内容:返事の型を直す材料にします
担当者ごとに別の表で持つと失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- 担当者ごとに別の表で持つ。 同じ取引先への発注が分かれ、期間が数えられません。会社で1つの台帳にします
- 受け取った日を入れない。 支払期日の日数が計算できません。受け取ったらすぐ入れます
- AIに期間や期日を計算させる。 日付の計算を間違えることがあります。印は表で付けます
- 申し出への返事をAIの下書きのまま送る。 応え方は社長と担当者が決め、相手の事情に合わせて直します
取引先の名前や報酬の額、育児や介護の事情は、大事な情報です。AIには取引先の番号と印の結果だけを渡し、申し出の事情は詳しく渡しません。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。
まとめ
- フリーランスへの発注を、会社で1つの台帳に1行ずつ残す
- 委託の期間と支払期日までの日数を表で計算し、1か月以上・6か月以上の取引先と、60日を超えそうな支払いに印を付ける
- AIは、印の付いた結果から、社長向けの月のまとめと、条件の変更、申し出への返事、委託を終えるときの予告の連絡を下書きする
- 期間と期日の計算はAIにさせず、担当者が台帳と照らして確かめて送る
- 6か月の前に気づければ、配慮や予告に前もって備えられ、長く頼める関係を守れる