フリーランスへの発注を法律に合わせる。条件の明示はAI、期日は計算で
この記事では、個人のデザイナー、ライター、カメラマン、講師などに仕事を頼む会社が、フリーランス法(フリーランス・事業者間取引適正化等法)に合わせて発注の仕方を整える方法を説明します。一言でいうと、発注の内容を決まったフォームに入れる。支払期日は、受け取る日から表で計算する。AIは、フォームの内容から、取引条件を漏れなく書いた発注のメールを下書きする。送る前に担当者が項目を確かめ、条件を決めるのは社長と担当者という話です。
AIの価値は、法律を判断することではありません。発注のたびに必要な条件を漏れなく、早く伝え、腕のよいフリーランスに安心して仕事を受けてもらうことです。
経営への効果は、勧告のおそれを減らし、頼れる外部の人を保つこと
フリーランスへの発注は、AIを使うと次のように変わります。
| 今まで | 期日は計算で、条件の明示はAIで | |
|---|---|---|
| 発注の伝え方 | 電話やチャットで「いつものでお願い」 | 条件を書いたメールを毎回送る |
| 書く項目 | 人によって抜ける | フォームの項目から漏れなく |
| 支払期日 | 社内の締め払いのまま | 受け取る日から60日以内を計算 |
| 発注の記録 | チャットに散らばる | 発注の表に1行ずつ |
| 外部の人との関係 | 条件があいまいで行き違い | 先に条件がそろい、頼みやすい |
経営の効果は2つあります。
- 勧告のおそれを減らす。 取引条件を示さない、支払いが遅れる、といった違反には、公正取引委員会が勧告をし、会社の名前が公表されています。発注のたびに条件を示す形にしておけば、うっかりの違反を防げます
- 頼れる外部の人を保つ。 小さな会社にとって、腕のよい個人のデザイナーや職人は、社員と同じくらい大事な戦力です。条件が先にそろい、支払いが早い会社は、また仕事を受けてもらいやすくなります
発注のたびに条件を示し、原則60日以内に払うことが義務
フリーランス法は2024年11月1日に施行されました。個人で働くフリーランスに仕事を頼む会社に、取引条件の明示、給付を受け取った日から原則60日以内の報酬の支払い、ハラスメント対策のための体制の整備などを求めています(島根労働局、東京労働局の資料、鮎澤パートナーズの解説による)。
東京労働局の手引きは、従業員を使っている発注する会社の義務を7つにまとめています。
| 義務 | 中身 |
|---|---|
| 取引条件の明示 | 発注したら直ちに、業務の内容、報酬の額、支払期日、双方の名称、発注した日、受け取る日と場所などを、書面やメールで示す |
| 支払期日と期日内の支払い | 受け取った日から60日以内のできる限り早い日を支払期日にし、期日までに払う |
| 禁止行為 | 1か月以上の委託で、受け取りの拒否、報酬の減額、買いたたきなど7つの行為をしない |
| 募集情報の的確な表示 | 募集の広告で、うそや誤解を与える表示をしない |
| 育児や介護などへの配慮 | 6か月以上の委託で、申し出に応じて必要な配慮をする |
| ハラスメント対策 | 方針の明確化と周知、相談の体制、起きたあとの対応 |
| 途中でやめるときの予告 | 6か月以上の委託を途中でやめたり、更新しなかったりするときは、前もって予告する |
公正取引委員会は、2025年6月に出版大手2社と楽器店に、2026年9月には日本郵便に、取引条件の明示と報酬の支払期日の違反で勧告をしました(かいけつ!人事労務、労働新聞、LNEWSの記事による)。大きな会社でも、発注のたびに条件を示す仕組みがないと違反になるということです。細かい中身は、公正取引委員会と厚生労働省の最新の資料で確かめ、弁護士や社会保険労務士に見てもらってください。2026年10月時点の情報です。
小さな会社ほど、口頭やチャットの「いつもの」で頼んでいる
フリーランスへの発注で、小さな会社が困るのは次の3つです。
- 条件を書いて示していない。 長い付き合いの相手には、電話やチャットで「いつものでお願い」と頼みがちです。報酬の額や支払期日を書いていないと、明示の義務を果たしたことになりません
- 支払いが社内の締め払いのまま。 「月末締め翌々月末払い」のような社内の決まりのままだと、受け取った日によっては60日を超えてしまいます
- 誰に何を頼んだかが残らない。 担当者ごとにチャットで頼んでいると、会社として発注の記録がそろいません
書く項目は決まっています。支払期日は計算で出せます。ここは、表とAIで手伝いやすい仕事です。
期日は表で計算し、AIは条件を書いた発注のメールを書く
人がすること(最初に)。 社長か担当者が、法律の資料から、発注のメールに書く項目の一覧を作ります。発注のフォーム(業務の内容、報酬の額、納期や作業日、受け取る場所、検査の有無、支払方法)を作り、フリーランスの取引先の一覧を表で持ちます。
計算で行うこと。 フォームに入った納期(受け取る日)から、社内の支払いの日程に合わせて、60日を超えない支払期日を表で計算します。超える場合は印を付けます。委託の期間が1か月以上か、6か月以上かも表で出し、該当する義務に印を付けます。
AIに頼むこと。 フォームの内容と、表で計算した支払期日をもとに、次のものを下書きしてもらいます。
- 発注のメール:項目の一覧にあるすべての条件を書いたメール。フォームにない項目は「未定」とせず、空欄として担当者に知らせる
- 条件が変わったときの連絡:納期や内容が変わったときに、変更を伝えるメール
- 募集の文:フリーランスを募集するときに、仕事の中身と条件を正しく書いた文
人がすること(そのあと)。 担当者が、メールの項目がそろっているか、支払期日が表と合っているかを確かめてから送ります。報酬の額や条件は、社長と担当者が相手と話して決めます。
AIへの頼み方と、返ってくる発注のメールはこんな形になる
AIに渡す指示(見本。内容は架空です):
下は、当社の発注フォームの内容と、表で計算した支払期日です。フリーランスのデザイナーの方への発注のメールを下書きしてください。項目の一覧にある条件をすべて書き、フォームにない項目は書かずに、最後に「空欄の項目」として一覧にしてください。報酬の額や期日は、フォームと表のとおりに書いてください。
返ってくる発注のメール(見本の一部):
○○さま いつもありがとうございます。下記のとおり、お仕事をお願いいたします。
- 業務の内容:新商品のチラシのデザイン(A4両面、2案)
- 報酬の額:○○円(税込み)
- 納品日と場所:○月○日、データをメールでお送りください
- 検査の完了日:納品から○日以内にご連絡します
- 支払期日:○月○日(銀行振込)
- 発注日:○月○日 発注者:株式会社○○
担当者は、項目がそろっているかを確かめ、支払期日が表と合っているかを見てから送ります。
期日の計算と記録はAIの外に置き、メールの型はスキルにする
ここまでの使い方は、そのつどAIのチャットに頼む場合です。発注が多いなら、もう一段の工夫をしておくと安定します。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
発注のメールの型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「発注のメールの型(必要な項目の一覧と並び)」「変更の連絡の型」「募集の文の型」「書いてはいけないこと(フォームにない金額や期日、報酬を後から減らすことをにおわせる言い方、無償の作業のお願い)」をスキルにします。
期日の計算と発注の記録は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、受け取る日から支払期日を表で計算すること、委託の期間で該当する義務に印を付けること、送ったメールを発注の表に記録することがそれに当たります。AIは日付の計算を間違えることがあるので、期日は表で出します。
明日からは、フリーランスへの支払いの日程を確かめる
- この1年にフリーランスに仕事を頼んだ取引先を書き出し、表にする
- 社内の支払いの日程(締め日と支払日)で、受け取った日から60日を超えることがないかを確かめる
- 法律の資料から、発注のメールに書く項目の一覧を作る
- 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに、項目の一覧と1件の発注の内容を渡し、上の見本の指示で発注のメールを下書きさせる
- 次の発注から、メールで条件を示し、送った日を表に残す
本格的にやるなら、取適法の発注書とそろえ、支払いを早める
一度できたら、次の形に育てます。
- 取適法の発注書とそろえる。 会社どうしの外注には、取適法(中小受託取引適正化法)の決まりもかかわります。発注書と支払期日を点検する考え方は、外注先への発注を取適法に合わせる。発注書と支払期日をAIと計算で点検するで説明しています
- フォームに入れると発注のメールが整う形にする。 外注の依頼をフォームから受け付け、発注書と支払期日がそろう仕組みは、外注の依頼をフォームに入れると発注書と支払期日が整う。取適法を守る仕組みで説明しています
- 登録番号もあわせて確かめる。 個人の外注先には、インボイスの登録番号のない人もいます。確かめ方は、免税の外注先との取引を見直す。影響額は表で、相談の文はAIでで説明しています
- ハラスメント対策の方針に外部の人を入れる。 社内のハラスメントの決まりに、フリーランスへの言動も含めます
条件の決め方と、法律の判断はAIに任せない
- 報酬の額や条件は人が決める。 AIは、決まった条件を書くまでです。報酬を相手と話さずに決めたり、後から減らしたりしません
- 法律の判断は専門家と確かめる。 相手がフリーランスに当たるか、どの義務がかかるかは、公正取引委員会と厚生労働省の資料で確かめ、弁護士や社会保険労務士に見てもらいます
- 期日は表で計算する。 AIに支払期日を計算させません
- 取引先の情報に気をつける。 取引先の名前や報酬の額は、大事な取引の情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱います。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています
まとめ
- フリーランス法は2024年11月1日に施行され、発注のたびに取引条件を書面やメールで示し、受け取った日から原則60日以内に報酬を払うことが求められる
- 取引条件の明示と支払期日の違反で、大手企業への勧告が続いている
- 発注の内容をフォームに入れ、支払期日は受け取る日から表で計算する
- AIは、フォームの内容から、すべての条件を書いた発注のメールを下書きする。担当者が項目と期日を確かめて送る
- 報酬の額や条件は相手と話して決め、法律の判断は専門家に確かめる