免税の外注先との価格の話し合いを準備する。記録はAIで
この記事では、免税の外注先との取引を見直す。影響額は表で、相談の文はAIでの「話し合いで聞くことの一覧」を、取引先ごとに同じ質で準備し、話し合いを記録に残す仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、免税の外注先ごとの影響額を、控除できる割合が変わる時期ごとに表で出す。話し合う順番は表で決める。AIは、表の数字と取引先の事情のメモから、話し合いで伝える事実と聞くことの一覧、話し合いのあとに送る確認のメールを下書きする。価格や条件は社長が相手と話し合って決め、決めたことと理由をメールで残すという形です。一方的に決めたと受け取られない進め方を、毎回同じ形でとります。
見直しそのものは問題ではないが、一方的な値下げは問題になりうる
インボイスの経過措置で、免税の取引先からの仕入れについて控除できる割合は、2026年10月1日から80%から70%に下がりました。2028年10月1日からは50%、2030年10月1日からは30%に下がります(弥生、山田&パートナーズの解説による)。
| 時期 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 2026年9月30日まで | 80% |
| 2026年10月1日から2年間 | 70% |
| 2028年10月1日から2年間 | 50% |
| 2030年10月1日から1年間 | 30% |
財務省や公正取引委員会などが出した、免税事業者とその取引先向けのQ&Aについて、税務研究会とBUSINESS LAWYERSは次のように解説しています。
- インボイス制度をきっかけに取引条件を見直すことそれ自体は、直ちに問題になるものではない
- 再交渉が形だけで、買う側の都合だけで著しく低い価格を決め、相手が今後の取引を心配して受け入れざるを得ない場合は、優越的地位の濫用として独占禁止法上の問題になりうる
- 一方的に「今後は消費税相当額を払わない」と通告するような行為は、問題になりうる
- 価格を見直すときは、相手と十分に話し合うことが大事
税務研究会の解説によると、Q&Aは、消費税相当額を一度に引き下げるのではなく、経過措置に沿って段階的に見直すのが望ましいという考え方を示しています。BUSINESS LAWYERSの解説によると、価格の引き下げを求める場合は、その合理的な理由を、書面やメールなど形に残る方法で示すことが大事です。細かい当てはめは、公正取引委員会と国税庁の最新の資料で確かめ、税理士や弁護士に見てもらってください。2026年10月時点の情報です。
今は、電話で話し、何を決めたかが残らない
多くの小さな会社では、免税の外注先との話し合いは次のように進みます。
- 社長が、長い付き合いの外注先に電話で「インボイスの件で」と切り出す
- その場の流れで「少しだけ下げてもらえないか」と頼む
- 相手は断りにくく、何となく受け入れる
- 何を、なぜ、いつから変えたかが残らず、あとで行き違いになる
話し合いの前に伝える事実と聞くことをそろえ、話し合いのあとに決めたことと理由をメールで残す。この形を、取引先ごとに同じように回します。
表で影響額と順番を出し、AIが準備と記録の文を書く
仕組みは4つの段でできています。
1. 入れる:影響額を時期ごとに表で出す。 親の記事で作った表に、免税の外注先ごとの1年分の支払額と、控除できる割合が80%、70%、50%、30%のときの影響額を並べます。取引先の事情(登録の予定を聞いているか、取引の量の見込み、その外注先にしか頼めない仕事か)は、担当者がメモの欄に書きます。
2. 選ぶ:話し合う順番を決める。 ここはAIの仕事ではありません。影響額の大きい順に並べ、社長が、話し合う取引先と順番を決めます。影響額が小さい取引先は、今は条件を変えないと決めることもあります。
3. 下書きする:AIが話し合いの準備と記録の文を書く。 AIに、表のその取引先の行(影響額の数字と事情のメモ)だけを渡し、次のものを下書きさせます。
- 伝える事実:制度が変わったこと、控除できる割合が段階的に下がること、当社の負担がどのくらい増えるかを、数字は表のとおりに
- 聞くことの一覧:登録の予定、相手のほかの取引先の状況、取引の量の見込み、相手が考える価格のあり方
- 確認のメール:話し合いのあとに送る、話し合った日、決めたこと、その理由、次に話し合う時期を書いたメール。決まっていないことは「引き続き相談」と書く
4. 話し合う:社長が相手と決め、メールで残す。 社長が、相手の事情を聞きながら話し合います。決めたことは、確認のメールに書き入れて送り、相手の返事とあわせて取引先ごとに保存します。価格を変えるときは、税理士に確かめてもらいます。
話し合いの型をスキルにし、数字と決めることはAIの外に置く
この仕組みが同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
話し合いの型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 伝える事実の型:制度の変化、当社の負担、話し合いたいことの順
- 聞くことの型:相手の事情を先に聞く順番
- 確認のメールの型:日付、決めたこと、理由、次の話し合いの時期
- 書いてはいけないこと:「今後は消費税分を払わない」「この価格でなければ取引できない」のような一方的な通告、表にない数字、登録を強く迫る言い方、取引をやめることをにおわせる言い方
数字と、決めることは、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、影響額を表で計算すること、話し合う順番を社長が決めること、価格や条件を相手と話し合って決めること、確認のメールと相手の返事を取引先ごとに保存することがそれに当たります。AIは計算を間違えることがあるので、数字は表から写すだけにさせます。
決めたことと理由を、相手に届く形で残す
この仕組みでいちばん効くのは、話し合いのあとの確認のメールです。
- 理由を書く。 価格を見直すときは、控除できる割合が下がって当社の負担が増える、という理由と、その額の考え方を書きます
- 段階を書く。 経過措置は2030年まで段階的に下がります。一度に大きく変えるのではなく、割合が下がる時期に合わせて見直す、という形にすると、相手も見通しを持てます
- 相手の言ったことも書く。 相手が登録を考えている、取引の量を増やしたい、といった話も残します。次の話し合いの出発点になります
- 相手に確かめてもらう。 「行き違いがあればお知らせください」と添え、返事をもらいます
割合が下がる時期(2028年10月、2030年10月)の前に、同じ表とメールの記録を使って、もう一度話し合います。
社長の仕事は、相手の事情を聞いて決めることになる
仕組みが入ると、話し合いは次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 話し合う相手と順番 | 思いついた順 | 影響額の表で決める |
| 話し合いの準備 | その場の流れ | 伝える事実と聞くことの一覧 |
| 価格の決め方 | 「少しだけ」と頼む | 相手の事情を聞き、段階を示す |
| 決めたことの記録 | 残らない | 確認のメールと相手の返事 |
| 次の見直し | 考えていない | 割合が下がる時期の前に |
経営への効果は、負担を見通し、外注先との関係を保つこと
効果は、前提を置いて考えます。
話し合いの準備で守れるもの = 経過措置の段階ごとの負担の見通し + 腕のよい外注先との関係 + 一方的と受け取られる危うさを避けること
免税の外注先には、その人にしか頼めない仕事を持つ職人や個人のデザイナーもいます。負担の増え方を数字で示し、相手の事情を聞いて段階的に話し合えば、関係を保ちながら条件を見直せます。
社長の時間も変わります。電話の前に何を言うか考えていた時間が、準備の一覧を確かめ、相手の話を聞く時間になります。
費用はほとんど要らず、AIの利用料は10社で50円ほど
作る順番と、かかる日数
- 影響額の表に、時期ごとの列と事情のメモの欄を足す(会社:経理の担当者、1時間。親の記事の表を使えます)
- 話し合いの型と確認のメールの型を決める(会社:社長と経理の担当者、1時間)
- 型をスキルにする(作る人、0.5人日。会社で契約したAIのチャットに型を保存して使うなら不要)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
スキルにする場合で、作る側の目安は0.5人日です。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 話し合いの準備と確認のメールの下書き | 10社で約50円(下の計算) |
| 表計算 | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 税理士 | 価格を変えるときの確認 | 顧問の契約による |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。話し合いの準備に、表の行とメモとスキルで3,000トークンを読ませ、1,500トークンを書かせると約3円、確認のメールに2,000トークンを読ませ、800トークンを書かせると約2円、1社で約5円です。10社で約50円です(1ドル150円で計算)。
何か月で取り戻せるか
AIの利用料はわずかです。かかるのは、社長が話し合う時間です。免税の外注先が数社の会社は、スキルにする手間をかけず、会社で契約したAIのチャットに型と表の行を貼って頼むだけで十分です。大事なのは、AIではなく、相手の事情を聞き、決めたことと理由を残すことです。
必要な人は3役で、決めるのは社長と相手
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 表を保つ人 | 経理の担当者 | 影響額を時期ごとに出し、メールの記録を保存する | 1社30分 |
| 話し合う人 | 社長 | 相手の事情を聞き、条件を話し合って決める | 1社1時間 |
| 確かめる人 | 税理士、必要なら弁護士 | 価格や条件の変え方を確かめる | 必要なとき |
3か月で主な外注先と話し合い、次の段階の前に見直す見込み
どこまでいけるかは、影響額の大きい取引先から順に進められるかで決まります。目安は次のとおりです(想定です)。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の1か月 | 影響額の表を作り、話し合う順番を決める。1社目と話し合う |
| 3か月後 | 影響額の大きい外注先との話し合いを終え、確認のメールがそろう |
| 2028年の夏 | 50%に下がる前に、同じ表と記録でもう一度話し合う |
効果を確かめるには、次の3つを記録します。
- 話し合った取引先の数と、確認のメールの返事の数:表に残します
- 見直した条件と、その理由:メールの記録で見ます
- 取引が続いている外注先の数:長い目で見ます
一方的な通告をAIに書かせると失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- 通告の文を書かせる。 「消費税分は払えません」のような文は、一方的な通告と受け取られます。スキルで書いてはいけない言い方を決めます
- 電話だけで終える。 決めたことと理由が残らないと、あとで行き違いになります。確認のメールを送り、返事をもらいます
- 一度に大きく下げる。 経過措置は段階的に下がります。割合が下がる時期に合わせて話し合います
- AIに価格を決めさせる。 価格や条件は、社長が相手と話し合って決めます。AIは準備と記録の下書きまでです
取引先の名前や支払額は、大事な取引の情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱います。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。登録番号の確かめ方は取引先の登録番号を毎月照らし合わせる。影響額は表、確認の文はAI、自社が値上げをお願いする側のときの資料の作り方は取引先に値上げを受け入れてもらう方法。根拠の資料をAIで作るで説明しています。
まとめ
- インボイスの経過措置で、免税の取引先からの仕入れの控除できる割合は2026年10月から70%に下がり、2028年10月から50%、2030年10月から30%になる
- Q&Aの解説では、取引条件の見直しそれ自体は直ちに問題ではないが、一方的な値下げの通告などは優越的地位の濫用として問題になりうる
- 免税の外注先ごとの影響額を時期ごとに表で出し、話し合う順番を社長が決める
- AIは、表の行と事情のメモから、伝える事実、聞くことの一覧、確認のメールを下書きする
- 社長が相手の事情を聞いて段階的に決め、決めたことと理由をメールで残す