取引先の登録番号を毎月照らし合わせる。影響額は表、確認の文はAI
この記事では、免税の外注先との取引を見直す。影響額は表で、相談の文はAIでの「登録番号のない取引先を照らし出し、影響額を表で計算する」を、毎月回る仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、取引先の一覧に登録番号の欄を持ち、国税庁の公表サイトのデータと毎月照らし合わせる。登録の有無、失効や取消を表で出し、会計ソフトの支払額から取引先ごとの影響額を計算する。AIは、番号が分からない先への確認の文と、登録のない先への相談の文を下書きする。社長と税理士が確かめてから送るという形です。一度調べて終わりにせず、登録の取りやめや新しい取引先にも気づけるようにします。
控除の割合は2031年まで段階的に下がり続ける
令和8年度税制改正で、登録番号のない免税事業者からの仕入れで控除できる割合は、2026年10月1日から70%、2028年10月1日から50%、2030年10月1日から30%と下がることになりました(弥生、山田&パートナーズの解説による)。割合が下がるたびに、同じ取引でも会社が納める消費税が増えます。
登録の有無は、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで確かめられます。国税庁の提供方針によると、公表サイトには、利用者のシステムから登録番号で情報を取りにいく「Web-API機能」と、前月末時点の公表情報を全件まとめて渡す「データダウンロード機能」があります。全件データには、登録の年月日のほか、失効や取消の年月日の履歴も入っています。マネーフォワード クラウドの解説も、全件データのダウンロードやWeb-API、会計ソフトの一括照会で、まとめて確かめる方法を紹介しています。
取引条件の見直しでは、一方的に消費税相当額を払わないと通告するなどの行為は、公正取引委員会のQ&Aや注意事例で、法律の上で問題になりうるとされています(BUSINESS LAWYERS の解説による)。細かい手続きと取引への当てはめは、国税庁と公正取引委員会の最新の資料で確かめ、税理士に見てもらってください。2026年10月時点の情報です。
今は、請求書が来るたびに一枚ずつ確かめている
多くの小さな会社では、登録番号を次のように確かめています。
- 請求書が届くと、経理の担当者が登録番号が書いてあるかを見る
- 気になったものだけ、公表サイトで1件ずつ検索する
- 番号が書いていない請求書は、そのまま処理してしまうこともある
- 取引先が登録を取りやめても、気づかない
これでは、どの取引先にいくら影響があるのかが、いつまでも分かりません。毎月同じ形で照らし合わせ、表に残しておくことにします。
集めて、表で照らし合わせ、AIが文を書き、人が送る
仕組みは4つの段でできています。
1. 集める:取引先の一覧と支払額をそろえる。 取引先の一覧に、登録番号の欄を足します。番号は、届いた請求書から書き写します。会計ソフトから、取引先ごとの毎月の支払額(税込み)を出し、同じ表に並べます。
2. 照らし合わせる:公表サイトのデータと表で突き合わせる。 ここはAIの仕事ではありません。
- 毎月、公表サイトの全件データ(前月末時点)を取り込むか、会計ソフトの一括照会を使い、取引先の登録番号と突き合わせる
- 取引先ごとに「登録あり」「登録なし」「番号が分からない」「失効・取消」のどれかを表に出す
- 「登録なし」と「失効・取消」の取引先について、支払額のうちの消費税相当額と、控除できる割合ごとの差を計算する
3. 下書きする:AIが確認の文と相談の文を書く。 AIに、区分ごとの取引先の情報(名前は伏せ、取引の年数と区分だけ)を渡し、次の文を下書きさせます。
- 「番号が分からない」先へ:登録番号を教えてほしいというお願いの文
- 「登録なし」先へ:制度の変更を伝え、登録の予定を伺い、今後について話し合いたいという相談の文
- 「失効・取消」先へ:公表サイトで登録の状態が変わっていることを伝え、確かめてほしいというお願いの文
4. 確かめて送る:社長と税理士が見る。 経理の担当者が、表の区分と文の中身が合っているかを確かめます。相談の文は、社長が相手との関係に合わせて直し、方針を税理士に確かめてから送ります。
区分ごとの文の型をスキルにし、照らし合わせはAIの外に置く
この仕組みが毎月同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
区分ごとの文の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 区分ごとの文の型:番号の確認、相談、状態の確認の3つ
- 社長向けの月のまとめの型:区分ごとの件数、影響額の合計、前の月から変わった取引先
- 書いてはいけないこと:一方的な値下げや支払いの打ち切りの通告、登録を強いる言い方、取引をやめることをにおわせる言い方、税額の断定、相手が登録していないと決めつける言い方(番号が分からないだけのこともあるため)
照らし合わせと計算は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、公表サイトのデータや会計ソフトの一括照会で登録番号を突き合わせること、区分を表で出すこと、影響額を表で計算することがそれに当たります。AIは番号や日付を取り違えることがあるので、照合と計算はさせません。
毎月照らし合わせると、登録の取りやめにも気づける
この仕組みでいちばん効くのは、一度だけでなく、毎月照らし合わせることです。
- 全件データには、失効や取消の年月日が入っています。前の月に「登録あり」だった取引先が、登録をやめていれば、表で気づけます
- 新しい取引先が増えたときも、最初の支払いの前に区分を出せます
- 月ごとの影響額の合計を並べると、控除の割合が下がる時期の前に、どれだけ負担が増えるかが見えます
取引先の一覧の名前と、公表サイトの名前は、屋号と本名の違いなどで一致しないことがあるため、名前ではなく登録番号で突き合わせます。番号が分からない取引先は、まず番号を教えてもらうところから始めます。
経理の担当者の仕事は、区分を確かめて文を送ることになる
仕組みが入ると、登録番号の確かめ方は次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 確かめ方 | 請求書ごとに1件ずつ | 毎月、表で一度に |
| 区分 | 頭の中 | 4つの区分を表に |
| 登録の取りやめ | 気づかない | 失効・取消の日付で気づく |
| 影響額 | 分からない | 取引先ごとに毎月計算 |
| 取引先への文 | 言いにくくて後回し | 区分ごとに下書きして送る |
経営への効果は、影響額が毎月見え、相談を早く始められること
効果は、前提を置いて考えます。
取引先ごとの影響額 = 1年分の支払額(税込み)× 10 ÷ 110 ×(80% - その時期に控除できる割合)
仮に、登録番号のない外注先への支払いが年に税込み1,100万円なら、消費税相当額は100万円です。80%のときに比べて、70%の時期は年10万円、50%の時期は年30万円、30%の時期は年50万円、控除できる額が減ります(数字は説明のための想定で、税率は10%で計算しています)。この差が、取引先と話し合う材料になります。
経理の時間も変わります。請求書ごとに確かめていた手間が、月に一度の照らし合わせと、区分の確認にまとまります。
費用はほとんど要らず、AIの利用料は月30円ほど
作る順番と、かかる日数
- 取引先の一覧に登録番号と区分の欄を足す(会社:経理の担当者、2時間)
- 公表サイトのデータか会計ソフトの一括照会で突き合わせる表を作る(会社:経理の担当者か作る人、半日〜1日。会計ソフトに一括照会があればそれを使います)
- 影響額を計算する表を作る(会社:経理の担当者、1時間。表計算で作れます)
- 区分ごとの文の型をスキルにする(作る人、0.5人日。会社で契約したAIのチャットに型を保存して使うなら不要)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
突き合わせの表とスキルを作る側に頼む場合で、目安は1〜1.5人日です。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 取引先20件分の文と月のまとめ | 月約30円(下の計算) |
| 会計ソフト・表計算 | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 保守 | 割合が下がる時期に計算の表を直す | 2年に1回ほど |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。取引先1件の文に、区分の情報とスキルで2,000トークンを読ませ、500トークンを書かせると約1.4円、20件で約27円です。月のまとめに10,000トークンを読ませ、1,000トークンを書かせると約5円、合わせて月約32円です(1ドル150円で計算)。
何か月で取り戻せるか
AIの利用料はわずかです。かかるのは最初の表づくりの手間で、取引先が数社なら、公表サイトで1件ずつ確かめるだけで十分です。取引先が多く、免税の外注先への支払いが大きい会社ほど、毎月の照らし合わせで早く気づく価値が大きくなります。
必要な人は3役で、送る前に社長と税理士が見る
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 表を保つ人 | 経理の担当者 | 番号を書き写し、毎月突き合わせ、区分を確かめる | 月1時間 |
| 決める人 | 社長 | 相談の順番と方針を決め、文を直して送る | 月30分 |
| 確かめる人 | 税理士 | 影響額の計算と、取引条件の方針を確かめる | 必要なとき |
3か月で番号がそろい、割合が下がる前に話し合いが進む見込み
どこまでいけるかは、番号の分からない取引先を減らせるかで決まります。目安は次のとおりです。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の1か月 | 取引先の区分が表に出て、影響額の大きい先が分かる |
| 3か月後 | 「番号が分からない」取引先がほぼなくなる |
| 2028年10月の前 | 影響の大きい取引先との話し合いが進んでいる |
効果を確かめるには、次の3つを記録します。
- 区分ごとの取引先の数:毎月、「番号が分からない」がどれだけ減ったかを見ます
- 影響額の合計:毎月と、割合が下がる時期の前後で比べます
- 相談を始めた取引先の数と、話し合いの結果:登録した、価格を見直した、今のまま、などを残します
名前で照らし合わせると失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- 名前で突き合わせる。 同じ名前の事業者がいたり、屋号と本名が違ったりします。登録番号で突き合わせます
- 一度調べて終わりにする。 登録の取りやめや新しい取引先に気づけません。毎月照らし合わせます
- AIに照合や計算をさせる。 番号や日付の取り違えが起きます。照合と計算は表で行います
- 「登録なし」と決めつけて通告する。 番号が分からないだけのこともあります。まず確かめ、相談は話し合いの形にします
取引先の名前や支払額は、大事な取引の情報です。AIに渡すときは名前を伏せ、会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱います。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。
まとめ
- 取引先の一覧に登録番号の欄を持ち、会計ソフトの支払額と並べる
- 国税庁の公表サイトの全件データ(前月末時点)や会計ソフトの一括照会で、毎月、登録番号で突き合わせ、区分を表で出す
- 「登録なし」と「失効・取消」の取引先は、控除できる割合ごとの影響額を表で計算する
- AIは、区分ごとに確認の文と相談の文を下書きする。照合と計算はさせない
- 社長と税理士が確かめてから送り、取引条件は一方的に決めずに話し合う