AI×業種

美容室の常連を増やす。カルテと再来店の案内をAIで続ける方法

この記事では、スタイリストが数人ほどの小さな美容室で、AIが効く業務を4つ挙げ、それぞれが経営の何に効くかを説明します。一言でいうと、施術のあとのカルテ、再来店の案内、スタイル写真の投稿文、予約と問い合わせへの返事という「書く・思い出す・返す」仕事をAIに下ごしらえさせ、スタイリストがお客様と向き合う時間を守りながら、常連のお客様を増やすという話です。その結果、お店が増え続ける中でも、お客様に「また来たい」と思ってもらえる店にしやすくなります。お客様に合う髪型をAIに決めさせることや、受付を無人にすることは、今はまだ後回しでかまいません。

AIの価値は、髪を切ることではありません。お客様一人ひとりの前回の施術と会話を覚えていて、次の来店につなげる書きものを、忙しい日でも続けられることです。

経営への効果は、常連が増え、施術の時間を守れること

4つの業務と、それぞれが経営の何に効くかを先にまとめます。

業務 AIで変わること 経営効果 始めやすさ
再来店の案内 前回の来店から間が空いたお客様を計算で選び、前回の施術に触れた案内をAIが下書きする 売上(常連が離れにくい) 少し準備が要る
スタイル写真の投稿文 写真とスタイリストのひと言から、投稿の文をAIが下書きする 売上(新しいお客様に見つけてもらう) 始めやすい
予約と問い合わせへの返事 メッセージやメールの返事をAIが下書きする 業務の無駄(施術の手を止めない) 始めやすい
カルテ 施術のあとに話したことから、カルテの下書きをAIが作る 人手不足(記録の時間が減り、担当が変わっても引き継げる) 少し準備が要る
髪型の自動提案・無人の受付 髪型の決定や受付をAIに任せる 準備と責任が大きい 後回しでいい
小さな美容室でAIが効く4つの業務と経営効果。前回の施術に触れた再来店の案内と、写真とメモからの投稿文は売上、予約と問い合わせへの返事は業務の無駄、話したことからのカルテの下書きは人手不足に効く。髪型の自動提案と無人の受付は後回し
小さな美容室でAIが効く4つの業務と経営効果。前回の施術に触れた再来店の案内と、写真とメモからの投稿文は売上、予約と問い合わせへの返事は業務の無駄、話したことからのカルテの下書きは人手不足に効く。髪型の自動提案と無人の受付は後回し

効果の大きさは、次の式で考えます。

月に戻る時間 = 業務ごとの(今の時間 − AIを使ったあとの時間)の合計

仮に、スタイリスト4人で月に400人が来店する店で、月に次の量があるとします。

業務 月の量 今 AIを使ったあと 浮く時間
カルテ 400件 1件4分(約27時間) 1件1分(約7時間) 20時間
予約と問い合わせへの返事 300件 1件3分(15時間) 1件1分(5時間) 10時間
再来店の案内 150件 1件5分(12.5時間) 1件1分(2.5時間) 10時間
投稿文 20本 1本20分(約7時間) 1本5分(約2時間) 5時間

合わせて、月に約45時間です。スタイリスト1人あたり月に10時間ほどが、施術やお客様との会話、練習の時間に戻ります。

美容室は増え続けていて、今のお客様を保つことが効く

厚生労働省の衛生行政報告例によると、美容所(美容室)の数は2024年度末に27万7,752施設で、前の年度より3,682施設(1.3%)増えました。日本エステティック協会のまとめでは、2023年度末は27万4,070店で、前の年度より1.5%増えていて、毎年増え続けていることが分かります。

お店が増えるということは、お客様にとっての選択肢が増えるということです。近くに新しいお店ができれば、一度来てくれたお客様も、次は別のお店を試すかもしれません。

そこで効くのが、今のお客様を保つことです。マーケティングでは「1:5の法則」という経験則が知られています。新しいお客様を1人獲得するには、今のお客様を1人保つ5倍のコストがかかるという考え方で、NTT東日本の用語解説でも紹介されています。2014年の Harvard Business Review の記事では、調査や業種によって5倍から25倍と紹介されています。美容室では、広告やクーポンで新しいお客様を呼ぶより、今のお客様に「また来たい」と思ってもらうほうが、安く売上を守れます。

再来店の案内は、前回の施術に触れてAIが下書きする

今のやり方。 来店の間が空いたお客様に、案内を送れていない店が多いはずです。送っていても、全員に同じ文面のメッセージになりがちです。

AIを使うと。 予約の記録から、お客様ごとのいつもの来店の間隔(たとえば6週間ごと)を計算し、いつもより間が空いているお客様を毎週選びます。AIは、カルテの前回の施術とお客様の好み(「前回はハイライトを細めに入れた」「伸ばしかけ」)に触れた案内を下書きします。スタイリストが確かめて送ります。

何が変わるか。 「この店は私のことを覚えている」と思ってもらえ、ほかの店に移る前に来てもらいやすくなります。組み方・費用・必要な人は、常連が次も来たくなる案内を、いつもの時期に。美容室の再来店をAIで続ける仕組みで説明しています。いつもの間隔から遅れているお客様を計算で選ぶ考え方は、会社どうしの取引の例ですが、取引先の注文が止まる前に気づく。毎月の売上からAIが知らせる仕組みで説明しています。

つまずきどころ。 お客様を選ぶのはAIではなく計算です。メッセージで案内を送るときは、案内を送ってよいかを先に聞いておき、受け取りを断る方法も書いておきます。

スタイル写真の投稿文は、写真とひと言からAIが下書きする

今のやり方。 スタイル写真を撮っても、投稿の文を考える時間がなく、写真だけ、あるいは投稿そのものが止まりがちです。

AIを使うと。 スタイリストが写真と、ひと言(「くせ毛を生かしたショート。乾かすだけでまとまる」)を送ります。AIは、そのひと言をもとに、店の言葉づかいで投稿の文を下書きします。スタイリストが確かめて投稿します。

何が変わるか。 投稿が続き、新しいお客様が店を見つける入り口が増えます。

つまずきどころ。 シャンプーやトリートメントなどの効果を書くときは、表示の決まりがあります。化粧品の広告で言える効能は、厚生労働省の通知で決められた範囲に限られています。決まりの考え方は、小売店の例ですが新商品のPOPを入荷の日に出す。特徴のメモからAIで下書きする仕組みで説明しています。写真にお客様が写る場合は、載せてよいかを必ず先に聞きます。

予約と問い合わせへの返事は、AIが下書きする

今のやり方。 施術の合間に、メッセージやメールの問い合わせ(「明日の午後、カットだけ空いていますか」「縮毛矯正はどのくらい時間がかかりますか」)に返しています。施術中は返せず、返事が夕方になることもあります。

AIを使うと。 問い合わせの文と、メニューと所要時間と料金の表、空いている予約の枠を渡し、返事を下書きさせます。受付かスタイリストが確かめて送ります。

何が変わるか。 施術の合間の短い時間で返せるようになり、予約を逃しにくくなります。返事を早くする考え方は、問い合わせに1時間以内に返す会社が商談を取る。AIで返事を速くする方法で説明しています。

つまずきどころ。 空いている枠と料金は、AIの文をそのまま使わず、予約表と料金表で確かめます。

カルテは、施術のあとに話したことからAIが下書きする

今のやり方。 施術が終わったあと、次のお客様を迎えるまでの短い時間か、閉店後に、カルテを書いています。忙しい日は「カット」としか書けず、次回に前回の細かいことが分からなくなります。

AIを使うと。 スタイリストが施術の直後に、スマホに向かって、使った薬剤とその配合、仕上がりの長さ、お客様の好みや会話(「来月結婚式に出る」「前髪は眉の上が好き」)を話します。AIはそれを、店のカルテの形に整えて下書きします。スタイリストが確かめて保存します。

何が変わるか。 カルテを書く時間が短くなり、中身が詳しくなります。担当のスタイリストが休んだり辞めたりしても、ほかのスタイリストが前回の施術を引き継げます。話したことを記録の下書きにする考え方は、介護の例ですが介護記録を話すだけで下書きにする。職員の残業を減らすAIの仕組みが参考になります。

つまずきどころ。 薬剤の名前と配合は、AIの下書きをそのまま使わず、スタイリストが必ず確かめます。話していないことをAIが埋めないよう、話していない欄は空けておかせます。

髪型の自動提案と無人の受付は後回しでいい

AIで何でもできそうに見えても、次の2つは後回しをすすめます。

  • 髪型の自動提案。 顔の写真からAIに似合う髪型を決めさせる仕組みは、準備が多く要り、外れたときにお客様をがっかりさせます。髪型を決めるのは、お客様と話したスタイリストです。AIは、カウンセリングで聞いた希望を整理する程度にとどめます
  • 無人の受付。 予約や問い合わせにAIだけで答える形は、空いていない枠を案内するなどの間違いがそのままお客様に届きます。まずは、AIが下書きし、人が確かめて送る形から始めます

まずは、間違えても人がすぐに気づけて直せる、書く仕事から始めます。

店の言葉をスキルにし、予約と薬剤はAIの外で確かめる

ここまでの使い方は、1回ずつ頼んだ場合です。スタイリストみんなが毎日使うなら、もう一段の工夫で、誰が使っても同じ質の文が出るようにします。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

店の言葉とカルテの形を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。美容室なら、「店の言葉づかいとお客様の呼び方」「カルテの形」「メニューと所要時間」「再来店の案内の見本」「投稿の文の見本」を、良い見本と一緒にスキルにしておきます。

予約の枠と料金と薬剤は、AIの外で確かめる。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。美容室では、案内するお客様をいつもの来店の間隔から計算で選ぶこと、返事に書く空き枠と料金を予約表と料金表で確かめること、カルテの薬剤と配合をスタイリストが確かめることがそれに当たります。お客様の髪と肌に関わることだけは、AIの文をそのまま使いません。

始める順番は、毎日の量が多く、間違えても直せる仕事から決める

4つのうち、どれから始めるかは、次の基準で決めます。

  1. 毎日の量が多いか:毎日の書きものほど、浮く時間が大きい
  2. 間違えても直せるか:お客様に出す前に、人が確かめて直せる仕事から
  3. 材料がそろっているか:メニューと料金表、予約の記録、スタイル写真など、AIに渡すものがすでにあるか
  4. スタイリストが面倒だと感じているか:面倒な仕事ほど、使ってもらえる

多くの店では、予約と問い合わせへの返事と、投稿文が、この4つを満たします。カルテと再来店の案内は、カルテの形をそろえてから進めます。

費用は、法人向けプランの月数千円から始められる

最初は、AIのチャットの画面に問い合わせの文や写真とひと言を渡して使うだけで試せます。費用は、入力した内容をAIの学習に使わない法人向けプランの利用料で、1人あたり月数千円です。まずは店長の分だけで十分です。

予約の記録から再来店の案内を自動で下書きする、話したことからカルテを自動で下書きする、といった仕組みにする場合は、作る費用が加わります。費用の考え方は、AI導入にいくらかかる?月数千円から試せて、元が取れるかも先に分かるにまとめています。

お客様の名前や連絡先、カルテの中身は個人情報です。社内のルールは先に決めておきます。社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールが参考になります。

効果は、再来店の割合とスタイリストの施術の時間で測る

業務ごとに、次の数字を始める前と後で比べます。

業務 測る数字
再来店の案内 案内したお客様のうち、2か月以内に来店した割合
投稿文 月の投稿の本数、投稿を見て予約した新しいお客様の数
予約と問い合わせへの返事 返事までの時間、問い合わせから予約につながった件数
カルテ カルテ1件にかかる時間
全体 前回の来店から3か月以内にまた来たお客様の割合、スタイリスト1人あたりの施術の売上

いちばん大事なのは、「また来たお客様の割合」です。お店が増え続ける中で、この割合が上がっていれば、新しいお客様を探す費用をかけずに売上を守れています。

最初の1か月は、問い合わせの返事と投稿文だけ試す

  1. 店長の分の法人向けプランを用意する
  2. メニューと所要時間と料金の表を1枚にまとめる
  3. 1週目は、予約と問い合わせへの返事を、AIに下書きさせて送る(空き枠と料金は予約表で確かめる)
  4. 2週目からは、スタイル写真の投稿文も、写真とひと言からAIに下書きさせる
  5. 1か月の終わりに、返事と投稿にかかった時間を、始める前と比べる。効果があれば、カルテの形を決めて、話したことからの下書きを試す

まとめ

  • 小さな美容室のAI活用は、カルテ・再来店の案内・投稿文・返事の書きものを下ごしらえし、スタイリストの施術の時間を守りながら常連を増やすことに効く。仮の前提で、スタイリスト4人の店で月に約45時間が戻る
  • 美容室は2024年度末に27万7,752施設で、毎年増え続けている。新しいお客様を探すより、今のお客様を保つほうが安い(1:5の法則という経験則)
  • AIが効くのは、前回の施術に触れた再来店の案内、写真とひと言からの投稿文、予約と問い合わせへの返事、話したことからのカルテの4つ
  • 案内するお客様は計算で選び、空き枠と料金と薬剤はAIの外で確かめる
  • 髪型の自動提案と無人の受付は後回しでいい

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