保険の面談記録をAIで整える|当初と最終の意向を比べて残す
この記事では、保険代理店のAI活用|満期の案内と見直しの提案で契約を守るの「面談の記録は、意向の聞き取りを整理する」を、毎回の面談で続けられる手順にして説明します。
一言でいうと、担当が、面談のメモを聞いたまま残す。AIが、金融庁の監督指針にある意向の項目に沿って欄に分け、最初に聞いた意向と最終的な意向の違いに印を付ける。担当が、言っていないことが書かれていないかを読んで直し、設計書と意向確認の書面と一緒に保存する。何を勧めるかは、担当が保険会社の資料で決めるという形です。
経営への効果は、記録の時間を減らし、説明の行き違いを防ぐこと
面談のあと、担当者は記録を書きます。面談が続く日は、記録が夜や翌日に回り、聞いたことを思い出しながら書くことになります。思い出して書いた記録は、お客さまが本当に言ったことと少しずつずれます。
記録の型をAIで整えれば、担当者はメモを残して読んで直すだけになります。記録の時間が減れば、その分を次の面談や満期の連絡に回せます。最初の意向と最終的な意向の違いが記録に残っていれば、あとで「そんな話は聞いていない」という行き違いが起きたときにも、何を説明したかを確かめられます。
監督指針では、当初の意向と最終的な意向を比べる方法が示されている
保険業法の第294条の2で、保険を勧めるときは、お客さまの意向を把握し、それに沿った提案と説明をし、契約の前に意向と契約の中身が合っているかをお客さまが確かめる機会を設けることが義務になっています(e-Gov法令検索で確認)。2016年5月末に施行された改正で入った決まりです(政治山の解説)。
金融庁の「保険会社向けの総合的な監督指針」(2026年10月24日に確認)では、意向の把握と確認の方法の例として、次の流れが示されています。
- 意向を把握し、それに沿ったプランを提案して説明する
- 最終的な意向が決まった段階で、最初に把握した主な意向と比べ、違っていればその違いを確かめる
- 契約の前に、意向と申し込む契約の中身が合っているかを確かめる
また、体制の整備として、意向の把握に使った帳票(アンケートや設計書など)のうち、最終的な意向と比べた意向に関するものと、最終的な意向に関するものを保存するなどの措置が挙げられています。既存の契約の更新でも、中身が実質的に変わる場合は、変わる部分について意向の把握と確認をするとされています。
細かな運用は、所属する保険会社の決まりで決まっています。この記事の手順は、その決まりの中で、記録を書く手間を減らすためのものです。
今は、記録が担当者の記憶とメモ書きに頼っている
小さな代理店では、面談の記録の形が担当者ごとに違うことがあります。ある担当者は細かく書き、別の担当者は結論だけを書きます。最初に聞いた意向が書かれず、最後に申し込んだ中身だけが残っていると、意向がどう変わったのかが分かりません。
社長が記録を見ても、担当者によって書き方が違えば、確かめるのに時間がかかります。記録の欄をそろえ、最初の意向と最後の意向を並べて残す形にすることが、手間と行き違いの両方を減らす近道です。
聞き、AIが整理し、確かめて、残す
1 聞く(担当)。 面談のメモを、お客さまの言葉のまま残します。録音するときは、お客さまに断ってからにします。
2 整理する(AI)。 メモをAIに渡し、記録の欄に分けて、最初の意向と最終的な意向の違いに印を付けてもらいます。
3 確かめる(担当)。 AIの記録を読み、言っていないことが書かれていないか、抜けがないかを確かめて直します。
4 残す(担当)。 設計書と意向確認の書面と一緒に、保険会社の決まりに沿って保存します。
記録の欄は、監督指針の意向の項目に合わせる
監督指針では、把握する意向の例として、保険の分野ごとに項目が挙げられています。記録の欄も、これに合わせます。
| 欄 | 損害保険(自動車、火災など)の例 | 生命保険・医療保険の例 |
|---|---|---|
| 望む補償・保障の分野 | 自動車保険、火災保険など | 遺族の保障、医療、がん、介護、老後の資金など |
| 主な中身 | 運転者の限定、車両保険の有無、地震保険の有無など | 貯蓄の部分が要るか |
| 期間・保険料・金額の希望 | 補償の期間、保険料の範囲、優先すること | 保障の期間、保険料の範囲、優先すること |
| 最初に聞いた意向 | 面談の最初に聞いた内容 | 同じ |
| 最終的な意向と、違い | 申し込む前の意向と、最初との違い、違う理由 | 同じ |
最後に「説明したこと」と「次にすること」の欄を足します。欄の名前は、所属する保険会社の帳票に合わせて変えます。
AIへの頼み方と、返ってくる記録はこうなる
AIに渡す指示(見本):
下は、保険の面談のメモです。お客さまの名前は記号にしてあります。次の欄に分けて記録にしてください。「望む補償の分野」「主な中身」「期間・保険料・金額の希望」「最初に聞いた意向」「最終的な意向」「最初と最終の違いと、その理由」「説明したこと」「次にすること」。メモにないことは書かず、分からない欄は「メモになし」と書いてください。最初と最終の意向が違うところには【違い】と印を付けてください。保険料の金額、補償の中身の良し悪し、どの商品がよいかは書かないでください。
返ってくる記録(見本の一部。内容は架空です):
最初に聞いた意向:車両保険は付けず、保険料を下げたい 最終的な意向:車両保険を付ける【違い】 最初と最終の違いと、その理由:面談の中で、通勤で毎日使うこと、修理の費用を自分で払うのは難しいとの話があり、車両保険を付ける意向に変わった(メモより) 次にすること:車両保険を付けた設計書を作り、保険料を説明する
確かめるときは、メモと記録を並べて読む
AIは、メモにないことを補って書くことがあります。担当者は、次の3点を確かめます。
- メモにない言葉が入っていないか。 「お客さまは〇〇に納得した」のように、言っていない気持ちが書かれていないかを見ます
- 【違い】の印が正しいか。 最初と最終の意向が違うのに印がない、違わないのに印がある、を見ます
- 違いの理由が、お客さまの言葉になっているか。 担当者が勧めた理由ではなく、お客さまが考えを変えた理由を書きます
直したら、お客さまに意向確認の書面で確かめてもらうときに、記録と書面の中身が合っているかも見ます。
お客さまの情報は、記号にしてから渡す
面談のメモには、名前、住所、家族のこと、病歴など、外に出してはいけない情報が入ります。
- 名前と連絡先は記号にする。 「Aさん」「Bさんの配偶者」のように置き換えてからAIに渡します
- 病歴は、記録に要る範囲だけにする。 告知の中身そのものは、AIに渡しません
- 会社で契約したプランで使う。 入力をAIの学習に使わない、法人向けのプランで使います。保険会社から使ってよい道具の決まりが示されている場合は、それに従います
第294条の3にあるとおり、保険募集の業務で得たお客さまの情報の適正な扱いは、代理店の義務です。
型をスキルにし、判断はAIの外に置く
型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「記録の8つの欄」「【違い】の印の付け方」「損害保険と生命保険の欄の違い」「書いてはいけないこと(保険料の金額、商品の良し悪し、言っていない気持ち、名前、告知の中身)」をスキルにします。
判断は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、名前を記号にしてからAIに渡すこと、担当がメモと記録を並べて読むこと、保存を保険会社の決まりに沿って行うこと、何を勧めるかを担当が資料で決めることがそれに当たります。
費用は、AIの利用料が1件4円ほど
| 費用 | 見込み |
|---|---|
| 1件の記録の整理 | 面談のメモ(入力6千トークンほど)から記録(出力1,500トークンほど)を作ると、Claude Sonnet 5.5の料金(入力100万トークンあたり2ドル、出力10ドル、1ドル150円で計算)で1件4円ほど |
| 法人向けプラン | チャットで使うなら1人あたり月数千円 |
| 担当者の時間 | 記録を読んで直すのに、1件数分(想定) |
必要な人は2役で、勧める中身を決めるのは担当
- 担当:面談のメモを残し、AIの記録を読んで直し、保存する。何を勧めるかを保険会社の資料で決める
- 社長(管理する人):記録の欄とスキルを決め、月に1回、記録を何件か読んで、欄が埋まっているか、【違い】の理由が書かれているかを確かめる
1か月で記録の型がそろい、3か月で全員に広がる見込み
- 1週目:記録の8つの欄を、保険会社の帳票に合わせて決める
- 2〜4週目:担当者1人が、自分の面談でAIの整理を試し、直した箇所を書き留める
- 2か月目:直した箇所をもとに指示を直し、スキルにまとめる
- 3か月目:ほかの担当者にも広げ、社長が月に1回、記録を何件か読む
AIの記録をそのまま保存すると失敗する
よくある失敗は次の3つです。
- 読まずに保存する。 AIが補った言葉がそのまま残ると、お客さまが言っていないことが記録になります
- 最初の意向を書かない。 最終的な意向だけでは、意向がどう変わったのかが分かりません。面談の最初に聞いたことを、メモに必ず残します
- AIに商品を選ばせる。 記録の整理と、何を勧めるかは別の仕事です。比べて勧めるのは担当が行います
まとめ
- 保険業法で意向の把握と確認が義務になっており、監督指針では最初の意向と最終的な意向を比べる方法が示されている
- 記録の欄は、監督指針の意向の項目(分野、主な中身、期間・保険料・金額の希望)に合わせる
- AIはメモを欄に分け、最初と最終の意向の違いに印を付けるところまでにする
- 担当がメモと記録を並べて読み、言っていないことを消してから、設計書と意向確認の書面と一緒に保存する
- 名前は記号にしてからAIに渡し、何を勧めるかは担当が保険会社の資料で決める