保険代理店のAI活用|満期の案内と見直しの提案で契約を守る
この記事では、小さな保険代理店を営む社長に向けて、AIが効く業務を4つ挙げ、どう使うかを説明します。一言でいうと、満期の案内、面談の記録の整理、生活の変化に合わせた見直しの提案、台風や雪の前の補償の確認の案内を、AIに下書きさせる。どの商品を勧めるか、保険料と補償の中身は、人が保険会社の資料で決めるという話です。
AIの価値は、保険を勧める代わりをすることではありません。満期の案内や面談の記録のように、件数が多く後回しになりがちな書く仕事を減らし、お客さまと話す時間を増やすことです。
経営への効果は、満期の契約を逃さず、見直しで補償を合わせること
小さな代理店の売上は、毎年の満期で続けてもらう契約が支えています。満期の案内が遅れたり、担当者が忙しくて連絡が後回しになったりすると、お客さまはほかの窓口で入り直すことがあります。
案内の文と面談の記録をAIで下書きすれば、担当者は確かめて送るだけになります。浮いた時間で、お客さまの暮らしや仕事の変化を聞き、補償が今に合っているかを話せます。続けてもらう契約が守られ、見直しで補償が合えば、お客さまの信頼も深まります。
保険業法で、意向の把握と情報の提供が義務になっている
政治山(企業法務ナビ)の解説によると、2014年5月に改正された保険業法が2016年5月末に施行され、保険を勧めるときの基本のルールが法律に入りました。e-Gov法令検索で今の条文を確かめると、次のように定められています。
- 情報の提供(第294条):保険契約の内容など、お客さまの参考になる情報を提供する
- 意向の把握(第294条の2):お客さまの意向を把握し、それに沿った提案と説明をし、契約の前に、意向と契約の中身が合っているかをお客さまが確かめる機会を設ける
- 業務運営の措置(第294条の3):重要な事項の説明、お客さまの情報の適正な扱い、複数の保険会社の商品を比べて示すときの措置などを整える
- 禁止行為(第300条):うそを告げること、重要な事項を告げないこと、不利益を告げずに乗り換えさせること、誤解させるおそれのある比べ方、将来の金額が確かでないことを断定することなどをしてはならない
細かな中身は、内閣府令と金融庁の監督指針で決まっています。所属する保険会社の決まりもあわせて確かめてください。2026年10月時点の情報です。
AIを使うときも、この決まりの中で使います。AIに下書きさせるのは、記録や案内の文です。何を勧めるか、補償と保険料をどう説明するかは、人が保険会社の資料で決めます。
満期の案内は、契約の一覧から下書きする
満期の前には、お客さまに案内を送ります。契約が増えると、案内の文を一件ずつ書く手間が重くなります。
- 契約の一覧から、来月と再来月の満期を抜き出す。 抜き出しは、保険会社の管理画面や表計算で人が行います
- AIに、案内の文の型を作らせる。 「〇月〇日に満期を迎えます」「前回からの変わりごとがあればお聞かせください」「面談の日をご相談させてください」という流れの文です
- 担当者が名前と日付を差し込み、確かめて送る。 保険料や補償の中身は、AIの文に書かせず、保険会社の資料から人が入れます
お客さまの名前と契約の番号は、AIに渡さずに、型の文を作らせてから差し込みます。
面談の記録は、意向の聞き取りを整理する
第294条の2の意向の把握では、お客さまの意向を聞き、提案と説明をし、意向と中身が合っているかを確かめる機会を設けます。そのやりとりを記録に残すのは、担当者の手間がかかる仕事です。
- 面談のメモを、聞いたまま残す。 手書きのメモでも、録音の文字起こしでも構いません。録音するときは、お客さまに断ってからにします
- AIに、記録の型に沿って整理させる。 「お客さまの意向」「提案した内容」「説明したこと」「お客さまが確かめたこと」「次にすること」の欄に分けます
- 担当者が読み、聞いていないことが書かれていないかを確かめる。 AIが言葉を補って、言っていないことを書くことがあります
お客さまの名前や病歴などの情報は、記号に置き換えてからAIに渡します。会社で契約した、入力をAIの学習に使わない法人向けのプランで使うことが前提です。第294条の3にあるとおり、お客さまの情報の適正な扱いは代理店の義務です。
最初に聞いた意向と最終的な意向を比べて残す記録の作り方は、保険の面談記録をAIで整える|当初と最終の意向を比べて残すで説明しています。
見直しの提案は、生活の変化から下書きする
結婚、子どもの誕生、家の購入、退職、事業を広げたとき。お客さまの暮らしや仕事が変わると、今の補償が合わなくなることがあります。
- 面談の記録に、変わりごとを書いておく。 「来春に子どもが進学」「店を移転する予定」のように書きます
- AIに、確かめる点の一覧を作らせる。 「家族が増えたときに、確かめるとよい補償の種類」のように、話すきっかけの一覧にします
- 担当者が、保険会社の資料で中身を決める。 補償の金額、保険料、比べる商品は、担当者が保険会社の資料で決めます
AIの一覧は、話を始めるきっかけにとどめます。第300条にあるとおり、不利益を告げずに乗り換えさせることや、誤解させるおそれのある比べ方は禁止されています。乗り換えを話すときは、今の契約をやめることで失うものも、担当者が説明します。
季節の確認は、台風や雪の前に案内する
台風や大雪の季節の前に、火災保険や車の保険の補償を確かめてもらう案内を送れば、お客さまが自分の契約を見直すきっかけになります。
- AIに、季節ごとの案内の型を作らせる。 「台風の季節の前に、建物と家財の補償をご確認ください」「雪の季節の前に、車の補償をご確認ください」のような文です
- 補償の中身は書かせない。 「この補償で必ず支払われます」のような文は書かせません。支払いの可否は保険会社が決めます
- 担当者が、地域と契約に合う人に送る。 送る先を選ぶのは人です
案内を読んだお客さまから「うちの補償はどうなっているか」と問い合わせがあれば、それが見直しの面談のきっかけになります。問い合わせへの返事の文もAIに下書きさせ、補償の中身は担当者が保険会社の資料を見て答えます。
比べて勧める判断と、保険料の説明はAIに任せない
AIに任せないことを、先に決めておきます。
- どの商品を勧めるか。 複数の保険会社の商品を扱う代理店では、比べて勧める理由の説明が求められます。比べるのも、決めるのも人です
- 保険料と補償の中身。 保険料、保険金額、支払いの条件は、保険会社の資料だけを使います。AIは古い情報や、もっともらしい間違いを書くことがあります
- 告知の内容。 病歴などの告知について、お客さまに「書かなくてよい」と勧めることは禁止されています(第300条)。告知の相談は、担当者が保険会社の決まりに沿って受けます
- 将来の金額の断定。 配当や返戻金など、将来の金額が確かでないことを断定しません
案内と記録の型をスキルにし、判断はAIの外に置く
型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「満期の案内の文の型」「面談の記録の5つの欄」「季節の案内の型」「書いてはいけないこと(保険料、支払いの可否、将来の金額の断定、告知についての助言、お客さまの名前)」をスキルにします。
判断は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、満期の抜き出しを保険会社の管理画面で人が行うこと、保険料と補償の中身を資料から人が入れること、送る前に担当者が確かめること、名前を記号にしてからAIに渡すことがそれに当たります。
費用は、法人向けプランの月数千円から始められる
案内の文と記録の整理は、会社で契約した、入力をAIの学習に使わない法人向けのプランのチャットで足ります。費用は1人あたり月数千円です。保険会社から使ってよい道具の決まりが示されている場合は、その決まりを先に確かめます。
明日からは、来月の満期の一覧を作り、案内の型を1つ作る
- 来月と再来月に満期を迎える契約を、一覧にする
- AIに満期の案内の文の型を作らせ、担当者が自分の言葉に直す
- 直した型で、来月分の案内を送る
面談の記録の整理は、その次に始めます。最初の1か月は、記録の5つの欄を決め、担当者1人で試します。
効果は、満期の継続と、見直しの面談の数で測る
| 測るもの | 見方 |
|---|---|
| 満期の継続 | 満期を迎えた契約のうち、続けてもらえた割合を、始める前の同じ月と比べる |
| 見直しの面談 | 1か月に、見直しの面談ができた数 |
| 記録の時間 | 面談1件の記録にかかった時間(担当者が測る) |
数字は、始める前の月を測っておかないと比べられません。始める前の1か月を、先に測っておきます。
まとめ
- 保険業法で、意向の把握、情報の提供、業務運営の措置が義務になっており、AIもその決まりの中で使う
- 満期の案内は型をAIに作らせ、名前と保険料と補償の中身は人が保険会社の資料から入れる
- 面談の記録は聞いたまま残し、AIに5つの欄に整理させ、言っていないことが書かれていないかを担当者が確かめる
- 見直しの提案と季節の案内は、話すきっかけの一覧と文の型にとどめる
- どの商品を勧めるか、保険料、告知、将来の金額の説明はAIに任せない