経営課題×AI

社員が休んでも仕事が止まらない会社にする。休む前の引き継ぎをAIで5分に

この記事で変わる経営指標

この記事では、社員が気兼ねなく有給休暇を取れる会社にするために、休む前の引き継ぎをAIで手軽にする方法を説明します。一言でいうと、休む前日に残業して書いていた引き継ぎ書を、予定表と進行中の仕事のメモからAIが下書きし、本人は5分で確かめて休み、休み中に同僚が困ったら、引き継ぎ書からAIが答えの案を出すという話です。その結果、休む人も残る人も負担が減り、年5日の有給休暇の取得義務を守りやすくなり、「休める会社」として人が定着しやすくなります。

社員が休まない理由は、休みたくないからではありません。休むと、周りに迷惑がかかると思っているからです。AIの価値は、その迷惑の中身である「引き継ぎ」と「休み中の問い合わせ」を軽くすることにあります。

経営への効果は、休みを取らせる義務を守り、人が辞めにくくなること

休む前の引き継ぎは、AIを使うと次のように変わります。

人の手で引き継ぐ AIで引き継ぎ書を下書きする
休む人の手間 前日に残業して引き継ぎ書を書く 予定表とメモを渡し、AIの下書きを5分で確かめる
引き継ぎ書の中身 人によって書き方がばらばら 決まった形で、抜けが少ない
休み中の同僚 分からないことは、休んでいる人に電話する 引き継ぎ書からAIが答えの案を出し、分からないことだけ連絡する
社員の受け止め方 「休むと迷惑がかかる」 「準備すれば休める」

手間は、前提を置いて計算します。仮に、社員10人の会社で、1人あたり年に10日の有給休暇を取るとします。休むたびに、本人が引き継ぎに30分、休み中に同僚が確かめたり電話したりするのに30分かかるとすると、年に100日分で100時間です。AIを使って、本人の確かめが10分、同僚の手間が10分になれば、年に約33時間になり、約67時間が浮きます。

浮く時間以上に大きいのは、休みを取りやすくなることそのものです。有給休暇を取りにくい職場は、求人で選ばれにくく、入った人も辞めやすくなります。

年5日の有給休暇を取らせるのは、会社の義務になっている

まず、決まりを押さえておきます。厚生労働省の解説によると、2019年4月から、すべての企業で、年10日以上の年次有給休暇が与えられる社員に対し、そのうち年5日は、会社が時季を指定してでも取らせることが必要になりました(労働基準法39条7項)。中小企業も対象です。違反には、30万円以下の罰金の決まりがあります(マネーフォワードの解説でも同じ内容が説明されています)。

同じ厚生労働省の解説では、有給休暇の取得が進まない理由として、職場への配慮やためらいが挙げられています。休むと同僚に仕事を押しつけることになる、休み中に何かあったら困る、という気持ちが、社員に休みを取らせないのです。

つまり、年5日を確実に取らせるには、「休んでください」と言うだけでは足りません。休んでも仕事が止まらない準備を、会社として用意する必要があります。その準備の中心が、引き継ぎです。

引き継ぎが重いと、社員は休みを言い出せない

多くの会社で、休む前の引き継ぎが重くなっているのには理由があります。

  • 何を書けばいいか、毎回考える。 引き継ぎ書の決まった形がないので、休むたびに一から書きます。抜けがあると、休み中に電話がかかってきます
  • 前日に残業して書く。 休む前の日は、休み中の分の仕事を前倒しで片づけるうえに、引き継ぎ書も書くので、遅くまで残ることになります
  • 休み中も気が休まらない。 「あのお客様から連絡があったらどうしよう」と、休み中にメールを見てしまいます
  • 残る人も困る。 引き継ぎ書に書かれていないことは、休んでいる人に聞くしかなく、電話をためらいます

AIは、このうち「引き継ぎ書を書く」と「休み中の質問に答える」を手伝えます。休む人は確かめるだけ、残る人は分からないことだけを聞けばよくなります。

AIは予定とメモから引き継ぎ書を下書きし、休み中の質問に答える

休む前の引き継ぎ。今までは休みが決まると、前日に残業して引き継ぎを書き、休み中も電話がかかってきた。AIを入れたあとは、予定と進行中の仕事からAIが引き継ぎ書を下書きし、本人が5分で確かめて休む
休む前の引き継ぎ。今までは休みが決まると、前日に残業して引き継ぎを書き、休み中も電話がかかってきた。AIを入れたあとは、予定と進行中の仕事からAIが引き継ぎ書を下書きし、本人が5分で確かめて休む

AIに頼めることは、大きく3つです。

1. 予定と進行中の仕事のメモから、引き継ぎ書を下書きする。 AIに頼むこと:休む日の前後の予定表、進行中の仕事のメモ(担当のお客様、案件ごとの今の状況、次にすること)、最近のお客様とのやり取りの要点を渡し、決まった形の引き継ぎ書を下書きしてもらう。 返ってくるもの:「休み中に起きそうなこと」「お客様ごとの今の状況と、連絡があったときの答え方」「判断が要るときの連絡先」「休み明けにすること」を並べた1枚。 人がすること:本人が5分で確かめ、抜けを足して、代わりの担当に渡す。 何が変わるか:前日の残業がなくなり、引き継ぎ書の抜けが減ります。

2. 休み中に同僚が困ったら、引き継ぎ書から答えの案を出す。 AIに頼むこと:同僚が「〇〇様から納期の問い合わせが来た。どう答えればいい?」と聞くと、引き継ぎ書と社内の資料から答えの案を出してもらう。引き継ぎ書にないことは「引き継ぎ書にありません」と答えさせる。 返ってくるもの:答えの案と、その根拠になった引き継ぎ書の箇所。 人がすること:同僚が答えの案を確かめて対応する。引き継ぎ書にないことだけ、休んでいる人か上司に連絡する。 何が変わるか:休んでいる人への電話が減ります。社内の資料からAIが答える仕組みは、先輩が同じ質問に答える時間を減らす。社内の資料からAIが答える仕組みで説明しています。

3. 休み明けに、休み中のできごとをまとめる。 AIに頼むこと:休み中に代わりの担当が残したメモと、届いたメールの要点を渡し、「休み中に起きたこと」「自分がすること」をまとめてもらう。 返ってくるもの:休み明けの朝に読む1枚。 人がすること:読んで、すぐにすることから手をつける。 何が変わるか:休み明けに、たまったメールを1通ずつ読む時間が短くなります。

AIへの頼み方と、返ってくる引き継ぎ書はこんな形になる

AIに渡す指示(見本。内容は架空です):

私は来週の月曜と火曜に休みます。下の「予定表」と「進行中の仕事のメモ」から、代わりの担当の佐藤さんに渡す引き継ぎ書を、次の形で下書きしてください。①休み中にある予定、②お客様ごとの今の状況と、連絡があったときの答え方、③判断が要るときの連絡先、④休み明けに私がすること。メモにないことは書かず、分からないところは【要確認】と書いてください。

返ってくる引き継ぎ書(見本の一部):

①休み中の予定 ・月曜10時 〇〇工業様から見積の回答の連絡が来る予定 ②お客様ごとの状況と答え方 ・〇〇工業様:見積は先週金曜に提出済み。値引きの相談があれば「担当が水曜に戻り次第、改めてご連絡します」と答える。金額の約束はしない ・△△商店様:納品は来週木曜の予定どおり。納期の問い合わせには「予定どおりです」と答えてよい ③判断が要るときの連絡先 ・値引き、納期の変更:田中部長 ④休み明けにすること ・〇〇工業様の値引きの相談への回答【要確認:社内で値引きの幅を決める】

この1枚があれば、代わりの担当は「何を答えてよくて、何を答えてはいけないか」が分かります。

引き継ぎの形をスキルにし、約束と数字はAIの外で確かめる

AIに頼むだけなら今日からでもできますが、社員のみんなが休むたびに同じ質で引き継ぐには、もう一段の工夫が要ります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

引き継ぎ書の形を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「引き継ぎ書の4つの見出し」「お客様への答え方で、約束してよいことといけないこと(金額や納期の変更は約束しない)」「判断が要るときの社内の連絡先の一覧」を、良い見本と一緒にスキルにしておきます。誰が休むときも、同じ形の引き継ぎ書ができあがります。

約束と数字は、AIの外で確かめる。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、引き継ぎ書に入った日付と金額を予定表や見積と照らすこと、休み中にAIが出した答えの案は代わりの担当が確かめてからお客様に伝えること、引き継ぎ書にないことはAIに推測で答えさせないことがそれに当たります。休み中のお客様への答えは、人が責任を持ちます。

有給休暇の取得の記録は、AIではなく勤怠の記録で管理します。誰がまだ5日に届いていないかは、表計算や勤怠のソフトで計算し、上司が早めに声をかけます。

明日からは、次に休む人の引き継ぎ書を1枚、AIで作ってみる

  1. 次に有給休暇を取る予定の社員を1人選ぶ
  2. その人に、休む日の前後の予定表と、進行中の仕事を箇条書きでメモしてもらう(お客様ごとに1〜2行)
  3. 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに、上の見本の指示で引き継ぎ書を下書きさせる
  4. 本人が確かめて直し、代わりの担当に渡す。かかった時間を書き留める
  5. 休み明けに、休み中に電話がかかってきたか、引き継ぎ書に何が足りなかったかを聞き、指示とスキルに足す

1時間あれば試せます。1回でうまくいかなくても、足りなかったことを足していけば、次の人からはもっと楽になります。

本格的にやるなら、休みの申請で引き継ぎ書の下書きが届く形に

社員の多い会社なら、休みの申請を出したら、その人の予定表と担当の一覧から引き継ぎ書の下書きが自動で作られて届き、本人が確かめて代わりの担当に回す形にできます。休み中は、代わりの担当が社内のチャットでAIに聞けば、引き継ぎ書と社内の資料から答えの案が返ってきます。

引き継ぎの考え方は、社長自身の引き継ぎにも使えます。社長の頭の中にある判断の基準を書き残す方法は、事業を継ぐ人が困らない会社にする。社長の頭の中をAIで書き残すで説明しています。残業を減らす考え方は、残業を減らしても売上を落とさない。夜の書きものをAIで削る順番にまとめています。

仕組みにするときの費用の考え方は、AI導入にいくらかかる?月数千円から試せて、元が取れるかも先に分かるにまとめています。

休みを取らない人を責めず、お客様の情報の扱いを先に決める

  • 休みを取らない人を責めない。 取らない理由は、引き継ぎの重さや職場への遠慮です。責めるより、引き継ぎを軽くする仕組みを先に用意します
  • 休み中にAIの答えをそのままお客様に伝えない。 代わりの担当が確かめてから伝えます。金額や納期の約束は、引き継ぎ書に書かれた範囲だけにします
  • 休んでいる人に連絡しない決まりを作る。 引き継ぎ書にないことは、まず上司に聞く、と決めておきます。休み中の電話が減ってはじめて、社員は休めるようになります
  • お客様の情報の扱いを決める。 引き継ぎ書には、お客様の名前や取引の中身が入ります。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています

まとめ

  • 休む前の引き継ぎ書をAIが下書きし、本人が5分で確かめ、休み中の質問には引き継ぎ書からAIが答えの案を出す。休む人も残る人も負担が減る。仮に社員10人が年10日ずつ休むなら、年に約67時間が浮く
  • 2019年4月から、年10日以上の有給休暇がある社員には、年5日を会社が取らせる義務がある。違反には30万円以下の罰金の決まりがある
  • 取得が進まない理由には、職場への配慮やためらいがある。休んでも仕事が止まらない準備が要る
  • 引き継ぎ書の形と約束してよいことはスキルにまとめ、日付と金額と5日の取得状況はAIの外で確かめる
  • まずは、次に休む人の引き継ぎ書を1枚、AIで作ってみる

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