残業を減らしても売上を落とさない。夜の書きものをAIで削る順番
この記事で変わる経営指標
この記事では、売上を落とさずに残業を減らす方法を、AIを使う前提で説明します。一言でいうと、残業の中身を1週間だけ記録し、その中で大きな割合を占める「夜の書きもの」(日報、見積、報告書、メール)をAIの下書きに置きかえ、残業の時間は計算で毎週見るという話です。現場の仕事や接客の時間は削らないので、売上は落とさずに、残業代と、上限を超える心配と、社員の疲れが減ります。
AIの価値は、仕事を速くすることそのものではありません。昼に終わらず夜に回っていた書きものを、本人が確かめるだけの仕事に変え、昼の仕事の量はそのままで帰る時間を早めることです。
経営への効果は、残業代と上限の心配が同時に減ること
残業を減らす取り組みは、AIを使うと次のように変わります。
| 人の手だけで減らす | AIで夜の書きものを削る | |
|---|---|---|
| 減らし方 | 「早く帰ろう」と呼びかける。ノー残業デーを作る | 夜に回っていた書きものを、AIの下書きに置きかえる |
| 仕事の量 | 変わらないので、翌朝や休日に回る | 書きものの時間そのものが減る |
| 売上への影響 | 現場や営業の時間を削ると落ちる | 現場や営業の時間は削らない |
| 残業の見え方 | 月末の給与計算で初めて分かる | 毎週、計算で一人ずつ見る |
効果の大きさは、残業代で考えます。2023年4月から、中小企業でも、月60時間を超える時間外労働には50%以上の割増賃金を払う決まりになっています(厚生労働省の法律の概要、ジンジャーの解説)。60時間までは25%以上です。
仮に、1時間あたりの賃金が2,000円の社員が、月に70時間の時間外労働をしているとします。割増の率を25%と50%で計算すると、残業代は月18万円です。これを月45時間まで減らせれば、残業代は月11万2,500円になり、1人あたり月6万7,500円、年81万円減ります。同じ状態の社員が5人いれば、年に405万円です。
減った分の時間で売上が落ちなければ、この差はそのまま利益に残ります。
残業の上限には罰則があり、超えた時間はより高くつく
残業を減らす理由は、残業代だけではありません。法律で上限が決まっています。
厚生労働省の働き方改革特設サイトによると、残業の上限は原則として月45時間・年360時間です。臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、年720時間以内、2〜6か月の平均で月80時間以内(休日労働を含む)、単月で100時間未満(休日労働を含む)を超えることはできず、月45時間を超えられるのは年6か月までです。違反すると罰則の対象になります。中小企業には2020年4月から適用されています(中小企業基盤整備機構の J-Net21 でも同じ内容が説明されています)。
上限を超えないように管理するには、月末の給与計算で気づくのでは遅すぎます。月の途中で、誰がどこまで来ているかが見えている必要があります。
そして、上限の手前の残業も、60時間を超えると割増が50%になり、高くつきます。残業を減らすことは、法律を守ることと、人件費を抑えることの両方に効きます。
残業が減らないのは、昼の仕事を削れず、夜の書きものが残るから
多くの会社で、残業を減らそうとしてもうまくいかないのには理由があります。
- 昼は現場や接客で埋まっている。 製造、工事、運送、店舗、介護など、昼は人が直接手を動かす仕事で埋まります。ここを削ると売上が落ちます
- 書きものは夜に回る。 日報、見積書、お客様への報告、メールの返事、社内の報告書は、昼の仕事が終わってから書くことになります。これが残業の大きな部分を占めている会社は多いはずです
- 呼びかけだけでは、仕事の量が変わらない。 「早く帰ろう」と言っても、書きものの量が同じなら、翌朝早く来るか、家に持ち帰るだけです
- 誰がどれだけ残業しているか、月末まで分からない。 気づいたときには、上限の手前まで来ています
AIは、このうち「夜の書きもの」を減らすのが得意です。昼の現場の仕事には手を出さず、夜の時間だけを削れます。
AIは書きものの中身を仕分け、下書きを作り、残業を見える化する
AIに頼めることは、大きく3つです。
1. 残業の中身を仕分ける。 AIに頼むこと:社員が1週間、残業の時間に何をしたかを一言ずつ書いたメモ(「見積を3件作った」「日報を書いた」「お客様に工事の報告を書いた」)を渡し、「書きもの」「調べもの」「数えもの」「現場の仕事」「そのほか」に仕分けてもらう。 返ってくるもの:メモ1行ごとの仕分け。 人がすること:仕分けの結果を表計算で時間ごとに足し、どの書きものが多いかを見る。 何が変わるか:「なんとなく忙しい」が、「残業の4割が見積と報告だった」のように、削る順番の分かる数字になります。
2. 多い書きものから、AIの下書きに置きかえる。 AIに頼むこと:仕分けで多かった書きものについて、材料(現場のメモ、写真、注文の内容、前回の文書)から下書きを作ってもらう。 返ってくるもの:日報、見積の説明、報告書、メールの返事の下書き。 人がすること:数字と事実を確かめ、言い回しを直して出す。 何が変わるか:1通30分かかっていた書きものが、確かめる数分になります。日報なら日報をAIで毎朝まとめ、社長が5分で現場の困りごとをつかむ方法、メールならメール返信をAIが自動で下書きし、問い合わせに当日中に返す方法で、仕組みにする方法を説明しています。
3. 残業の時間を毎週見る。 残業の時間は、AIではなく計算で見ます。勤怠の記録から、一人ずつ、今月ここまでの時間外労働と、このままのペースで月末に何時間になるかを表計算で出します。AIには、その表をもとに「今週、上限に近づいている人と、その人の残業の中身」を短い文にまとめてもらいます。 何が変わるか:月の途中で、誰の書きものを先に減らすかを決められます。運送業の例ですが、時間を毎日表にして上限に近い人を先に知らせる仕組みは、拘束時間の超過を月の途中で止める。運転日報をAIで毎日表にする方法で説明しています。
AIへの頼み方と、返ってくる仕分けはこんな形になる
AIに渡す指示(見本。内容は架空です):
下は、社員が1週間、残業の時間にしたことのメモです。1行ずつ、「書きもの」「調べもの」「数えもの」「現場の仕事」「そのほか」のどれか1つに仕分け、表にしてください。メモに書かれた時間はそのまま写し、足し算はしないでください。どれに当たるか迷うものは「そのほか」にして、理由を一言書いてください。
返ってくる仕分け(見本):
名前 メモ 時間 仕分け 佐藤 見積を2件作った 1.5 書きもの 佐藤 部品の在庫を数えた 0.5 数えもの 鈴木 お客様に工事の報告を書いた 1.0 書きもの 鈴木 明日の段取りを職人さんに連絡した 0.5 書きもの 田中 機械の調子が悪く直していた 2.0 現場の仕事
足し算は表計算でします。この例なら、5.5時間のうち3時間が書きものです。書きものから先にAIの下書きに置きかえれば、現場の仕事に手をつけずに残業を減らせます。
頼み方をスキルにし、残業の時間はAIの外で数える
AIに頼むだけなら今日からでもできますが、社員のみんなが毎日使い、残業を毎週確かめるには、もう一段の工夫が要ります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
書きものの型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「日報の形」「見積の説明の型」「お客様への報告の見本」「メールの言い回し」を、社内で評判の良かった見本と一緒にスキルにしておきます。誰が頼んでも同じ形の下書きが出るので、確かめる時間も短くなります。
残業の時間は、AIに数えさせない。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、時間外労働の時間を勤怠の記録から表計算で出すこと、月末の見込みを計算で出すこと、上限の45時間や、割増が上がる60時間に近い人に印を付けることがそれに当たります。AIは足し算を間違えることがあります。法律の上限と給与に関わる時間だけは、AIに任せません。
明日からは、1週間だけ残業の中身を一言ずつ記録する
- 残業の多い部署で、1週間だけ、残業の時間にしたことを一言ずつ書いてもらう(「何を」「何時間」)
- 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに、上の見本の指示で仕分けさせる
- 表計算で、仕分けごとの時間を足す。書きもののうち、いちばん多いものを1つ選ぶ
- その書きものを、次の1週間、AIに下書きさせてから確かめて出す
- 2週間後、その書きものにかかった時間と、部署の残業の時間を、始める前と比べる
1つの書きものから始めれば、社員の手間は増えません。効果が見えたら、次に多い書きものに広げます。
本格的にやるなら、書きものが発生したところで下書きが届く形にする
書きものの多い会社なら、現場のメモや写真を送ったら日報の下書きが届く、問い合わせが届いたらメールの下書きができている、見積の依頼が来たら過去の見積から下書きが作られている、という形にできます。社員は、夜に机に向かって書くのではなく、届いた下書きを昼のすき間に確かめるだけになります。
同じ考え方で、事務の時間を減らして人件費の上昇に備える方法は、最低賃金が上がっても利益を守る、AIで事務の時間を減らす方法で、社長自身の時間を減らす方法は、社長の仕事を週10時間減らすAIの使い方。事務から先に手放すで説明しています。仕組みにするときの費用の考え方は、AI導入にいくらかかる?月数千円から試せて、元が取れるかも先に分かるにまとめています。
残業の記録を責める材料にせず、数字と事実は人が確かめる
- 残業の記録を、社員を責める材料にしない。 1週間の記録は、どの書きものを減らすかを決めるためのものです。「誰が遅いか」を責めると、正直に書かれなくなり、削る順番を間違えます
- AIの下書きの数字と事実は、人が確かめる。 見積の金額、日報の数量、報告書の日付は、AIが取り違えることがあります。本人が元の記録と見比べてから出します
- 書きものを減らした時間を、別の仕事で埋めない。 浮いた時間に新しい仕事を足すと、残業は減りません。浮いた時間は、まず帰る時間を早めることに使います
- 社員の情報の扱いを決める。 勤怠の記録や残業のメモは、社員の個人情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています
まとめ
- 残業を減らしても、現場や営業の時間を削らず、夜の書きものだけをAIの下書きに置きかえれば、売上は落とさずに残業代が減る。仮に時給2,000円で月70時間の残業を45時間にすれば、1人あたり年81万円
- 残業の上限は原則として月45時間・年360時間。特別条項でも年720時間、複数月平均80時間、単月100時間未満を超えられない。月60時間を超えた分は、中小企業でも2023年4月から50%以上の割増
- AIに、残業の中身の仕分け、多い書きものの下書き、残業の状況の文章化を任せる。残業の時間そのものは表計算で数える
- まずは1週間、残業の中身を一言ずつ記録し、いちばん多い書きものを1つ、AIの下書きに置きかえる