法要の時期に忘れず声をかける。施行の台帳からAIが案内を下書きする仕組み
この記事で変わる経営指標
この記事では、小さな葬儀社の事務をAIで減らす。遺族と向き合う時間と法要の案内を増やすの「法要の案内とその後の連絡は、台帳から時期を出してAIが下書きする」を、仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、施行の台帳から、四十九日や一周忌などの法要が近い家を、社内で決めた数え方で毎月計算して一覧にする。連絡を控えてほしいと言われた家は除く。AIが打ち合わせの記録から家ごとの案内を下書きし、担当者が事情を確かめて手紙や電話で届けるという形です。担当者の記憶に頼っていた法要の案内を、漏れなく、一軒一軒に合った形で届けます。
今は法要の案内が、担当者の記憶と手帳に頼っている
親の記事でも触れたとおり、2025年の死亡数は158万9,489人で、前の年の160万5,378人から減りました(厚生労働省、栃木県の報道資料)。件数が大きく伸びない中で、葬儀社が続けていくには、葬儀のあとも法要や相談で頼られることが大事になります。
ところが多くの小さな葬儀社では、法要の案内が次のように進んでいます。
- 担当者が、自分の担当した家の四十九日を手帳やカレンダーに書いておく
- 忙しい時期や担当者が替わったときに、案内が漏れる
- 一周忌や三回忌は、時期が離れているので、さらに漏れやすい
- 案内の文面は毎回、過去の手紙を探して直している
遺族は、葬儀のあとの手続きや片付けで忙しく、法要の準備をどこに頼むかを決めていないことも多くあります。案内が届かなければ、別の会社に頼んだり、準備が遅れて困ったりします。
台帳から時期を計算し、AIが案内を書き、担当者が届ける
仕組みは4つの段でできています。
1. 集める:施行の台帳に、案内に要ることを残す。 葬儀を受けるたびに、施行の台帳に次のことを残します。
- 亡くなった日、故人と喪主の名前、続き柄、連絡先
- 宗派とお寺(分かる範囲で)
- 担当者
- 案内の可否(「法要の案内は不要」「電話は控えてほしい」と言われたかどうか)
2. 計算する:法要が近い家を、社内で決めた数え方で出す。 ここはすべて計算です。毎月の初めに、台帳から次の法要が近い家を出します。
- 四十九日、百か日、一周忌、三回忌、七回忌などの日付を、亡くなった日から計算する
- 法要の日付の2か月前(四十九日は葬儀のあとすぐ)に案内の一覧に入れる
- 案内の可否が「不要」の家、すでに別の会社に頼んだと分かっている家は除く
法要の日の数え方は、地域やお寺、宗派によって違います(四十九日を亡くなった日から数えるか、その前の日から数えるか、三回忌は亡くなってから満2年に行う、など)。数え方は社内で決め、表に書いておきます。迷う家は、担当者がお寺や遺族に確かめます。
3. 下書きする:AIが家ごとの案内を書く。 AIが、一覧の家ごとに、打ち合わせの記録(故人の人柄、遺族の希望、気にしていたこと)を読み、法要の案内の手紙を下書きします。法要の準備の流れ、会場や料理や引き物の相談ができること、仏壇やお墓、相続などの相談先の情報を添えます。名前と日付は台帳から入れます。
4. 送る:担当者が事情を確かめて届ける。 担当者が、その家の事情を確かめ、手紙を直して送ります。長い付き合いの家や、葬儀のときに特別な事情があった家には、手紙の前に電話をかけます。
数え方と案内の型をスキルにし、日付と名前はAIの外で持つ
この仕組みが毎月正しく回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の計算で決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
案内の型と言葉づかいを Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 法要ごとの案内の型:四十九日、一周忌、三回忌などで変わる書き出しと準備の流れ
- 宗派ごとの言葉づかい:社内で確かめた、使う言葉と避ける言葉
- 書いてはいけないこと:金額、遺族を急かす言い方、確かめていないしきたり、故人についての推測
- 担当者が直した良い案内の見本(名前を消したもの)
日付、名前、案内の可否は、AIの外で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、社内で決めた数え方で法要の日付を計算すること、案内の可否で家を除くこと、名前と日付を台帳から差し込むこと、案内に台帳と違う名前や日付が混ざっていないかを機械的に確かめることがそれに当たります。名前の字や日付の間違いは、遺族にとって大きな失礼になります。
担当者の仕事は、毎月届く一覧を見て、事情を確かめて送ることになる
仕組みが入ると、法要の案内は次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 時期の把握 | 担当者の手帳とカレンダー | 毎月、計算で一覧が届く |
| 担当者が替わったとき | 案内が漏れやすい | 台帳に残るので漏れない |
| 文面 | 過去の手紙を探して直す | 打ち合わせの記録に沿った下書きが届く |
| 連絡を控える家 | 担当者が覚えている | 台帳の印で除かれる |
| 担当者の仕事 | 思い出して、探して、書く | 事情を確かめて直し、送る |
経営への効果は、法要と相談で頼られ続けること
効果は、前提を置いて計算します。仮に、法要の案内1件に、台帳を探して手紙を書くまで15分かかっていたものが、一覧と下書きを確かめて送る5分になれば、1件10分が浮きます。月60件の案内を送る会社なら月10時間、1時間あたりの人件費を仮に2,500円として月約2万5,000円分です。
ただ、この仕組みの価値は時間ではありません。法要の時期に忘れずに声がかかれば、遺族は準備で困らず、法要を頼んでもらいやすくなります。案内が届いて法要の依頼が月に何件増えるかは、地域や会社で違うので、自社の1件あたりの粗利を当てはめて考えます。
費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月60件で80円ほど
作る順番と、かかる日数
- 法要の数え方と、案内の時期を決める(社内:社長と担当者、半日)。地域とお付き合いのあるお寺の考え方を確かめ、表にします。ここがいちばん大事です
- 施行の台帳に、案内の可否と担当者の欄を足し、過去の分を埋める(社内:事務、1日)
- 法要の日付の計算と、案内の一覧を作る(作る人、1人日)
- AIの下書きと、名前と日付の差し込み、点検を作る(作る人、1.5人日)
- 1か月、過去の台帳で試して直す(作る人、0.5人日)。計算した日付が、実際に行われた法要の日と合うかを確かめます
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
上の手順3〜5で、作る側の目安は合計3人日です。施行の台帳が表計算や業務のソフトにあれば、読み込みは早く作れます。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 1件の案内の下書きごとにかかる | 月60件で80円ほど(下の計算) |
| 台帳・郵送 | すでに使っているもの | 郵送の費用は今と同じ |
| 保守 | 数え方の表とスキルの見直し | 月1時間 |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1件あたり打ち合わせの記録とスキルで1,500トークンを読ませ、600トークンを書かせると見積もると、約0.009ドル、1ドル150円で約1.4円です。月60件で80円ほどです。
何か月で取り戻せるか
取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)
仮に作る費用が20万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を5,000円とすると、浮く時間だけで見て、月60件の会社ではおよそ10か月です。ここに法要の依頼が増えた分の粗利が加わります。施行が月に数件の会社なら、台帳に案内の可否の欄を足し、表計算で法要の日付を出して、会社で契約したAIのチャットで案内を下書きするやり方で十分なことが多いはずです。
必要な人は3役で、送るのは担当者
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 送る人 | 担当者 | 一覧の家の事情を確かめ、案内を直して送る。必要なら電話する | 1件5分 |
| 台帳を守る人 | 事務 | 施行のたびに台帳を埋める。遺族から言われた案内の可否を残す | 1件5分 |
| 作る人 | 社内の詳しい人か、外の作り手 | 計算、下書き、差し込み、点検を作る | 最初の3人日 |
いちばん大事なのは、台帳の「案内の可否」を必ず埋めることです。案内を控えてほしいと言われた家に手紙が届けば、信頼を失います。
1か月で漏れがなくなり、1年で法要の依頼の変化が分かる見込み
どこまでいけるかは、台帳がどれだけ正しく埋まっているかで決まります。目安は次のとおりです。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の1か月 | 過去の台帳で、計算した日付と実際の法要の日を比べ、数え方を直す |
| 3か月 | 毎月の一覧から案内が漏れなく出る。担当者が替わっても止まらない |
| 1年 | 案内を送った家のうち法要を頼まれた割合を、仕組みの前と比べられる |
効果を確かめるには、次の3つを導入の前と後で比べます。
- 案内の漏れ:法要の時期が来たのに案内を送らなかった家の数を数えます
- 法要の依頼の数:案内を送った家のうち、法要を頼まれた数を数えます
- 紹介で依頼を受けた数:受付のときに聞いて数えます
案内を控える家に送ったり、日付を間違えたりすると失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- 案内を控えてほしい家に送る。 台帳の印を必ず見て除きます。迷う家は、担当者が確かめてから送ります
- 日付をAIに計算させる。 AIは日付の計算を間違えることがあります。法要の日付は、社内で決めた数え方で計算します
- 確かめずに自動で送る。 引っ越しや、別の会社に頼んだなど、台帳にない事情があります。担当者が確かめてから送ります
- 金額や、しきたりを決めつけて書く。 案内には金額を書かず、しきたりはお寺や遺族と相談する形にします
故人と遺族の情報は、とても大事な個人の情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。時期を計算して一人ずつ案内を届ける考え方は、整備工場の例ですが車検のお客様をほかの工場に取られない。前回の整備に触れた案内をAIで出す仕組みでも説明しています。
まとめ
- 施行の台帳に、亡くなった日、喪主、宗派、担当者、案内の可否を残す
- 法要の日付は社内で決めた数え方で毎月計算し、法要の2か月前に一覧に入れる。案内を控える家は除く
- AIが打ち合わせの記録から家ごとの案内を下書きし、担当者が事情を確かめて手紙や電話で届ける
- 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は3人日。AIの利用料は月60件で80円ほど。施行が少ない会社は表計算とチャットで十分
- 効果は、案内の漏れ、法要の依頼の数、紹介の数で確かめる