小さな葬儀社の事務をAIで減らす。遺族と向き合う時間と法要の案内を増やす
この記事で変わる経営指標
この記事では、小さな葬儀社がAIを使うと、どの業務がどう変わるかを説明します。一言でいうと、打ち合わせの記録と見積の説明、会葬礼状と案内文、法要の案内とその後の連絡、求人と新人の手引きの4つにAIを入れ、事務の時間を減らす。宗派のしきたり、金額、遺族の気持ちに関わる最後の言葉は、担当者と社長が決めるという話です。
AIの価値は、葬儀の仕事そのものを代わりにすることではありません。担当者が夜に抱えている書きものと連絡を軽くし、遺族と向き合う時間を守ること。そして、葬儀のあとの法要や相談の時期に、一軒一軒へ忘れずに声をかけられるようにすることです。
経営への効果は、紹介と再度の依頼が増え、担当者が続くこと
小さな葬儀社の仕事は、AIを入れると次のように変わります。
| 業務 | 今まで | AIを入れたあと | 効く経営効果 |
|---|---|---|---|
| 見積の説明 | 打ち合わせのあと、担当者が夜に整理する | 打ち合わせの記録から、説明と確認事項の下書き | 売上 |
| 礼状と案内 | 毎回、過去の文面を探して直す | 決まった型と打ち合わせの記録から下書き | 業務の無駄 |
| 法要の案内 | 担当者の記憶に頼り、案内が漏れる | 台帳から時期の近い家を出し、案内を下書き | 売上 |
| 求人と手引き | 求人票が古いまま。新人への説明が口頭 | 現場の1日を求人票に。手引きを下書き | 人手不足 |
効果の大きさは、前提を置いて考えます。仮に、1件の葬儀で打ち合わせの整理、見積の説明、礼状や案内文の作成に担当者が合わせて3時間かけていたものが、確かめて直す1時間半になれば、1件1時間半が浮きます。月20件の葬儀社なら月30時間、1時間あたりの人件費を仮に2,500円とすると、月7万5,000円分です。
ただ、大きいのは時間ではありません。説明が分かりやすく、法要の時期に忘れずに声がかかれば、遺族は「またお願いしよう」「知り合いに紹介しよう」と思いやすくなります。葬儀社にとって、紹介と再度の依頼は大事な売上の柱です。
亡くなる人の数は減り、一軒一軒に選ばれ続けることが大事になる
厚生労働省の人口動態統計(概数)によると、2025年の死亡数は158万9,489人で、5年ぶりに減りました(厚生労働省、栃木県の報道資料)。前の年は160万5,378人でした。
葬儀の件数そのものが大きく伸びるわけではない中で、地域の葬儀社が続けていくには、一軒一軒の家に選ばれ、その後も法要や相談で頼られることが大事になります。一方で、葬儀は夜も休日も急に入る仕事で、担当者の負担は重くなりがちです。事務の時間を減らすことは、遺族と向き合う時間を守ることと、担当者に長く働いてもらうことの両方に効きます。
打ち合わせの記録と見積の説明は、AIが下書きする
AIに頼むこと。 打ち合わせのあと、担当者がスマホに話したメモ(日程、式の形、参列の人数の見込み、遺族の希望、気にしていること)から、打ち合わせの記録と、遺族に渡す説明の下書きを作ってもらいます。説明には、決まったこと、まだ決めていないこと、遺族に用意してもらうもの、当日までの流れを書きます。
人がすること。 担当者が、内容を確かめます。見積の金額は、見積のソフトや料金表から入れます。AIに金額を書かせません。
何が変わるか。 夜に整理していた打ち合わせの内容が、確かめて直す仕事になります。遺族が、何が決まっていて何をすればよいかを、紙で見返せるようになります。
見積の説明を分かりやすくする考え方は、工事店の例ですが工事の必要性が伝わる見積にする。現地調査の写真からAIで説明書で説明しています。
会葬礼状と案内文は、決まった型と記録からAIが下書きする
AIに頼むこと。 会葬礼状、通夜や葬儀の案内、香典返しの挨拶状などを、社内で決めた型と、打ち合わせの記録(故人の名前、喪主の名前、日程)から下書きしてもらいます。故人の人柄を一言添えたい場合は、遺族から聞いた話のメモを渡します。
人がすること。 担当者が、名前、日付、続き柄、宗派に合った言葉づかいを確かめ、遺族に見てもらいます。
何が変わるか。 過去の文面を探して直していた時間が減ります。名前や日付は記録から入れるので、書き写しの間違いが減ります。
法要の案内とその後の連絡は、台帳から時期を出してAIが下書きする
計算で行うこと。 施行の台帳(亡くなった日、喪主、連絡先、宗派)から、四十九日、一周忌、三回忌などが近い家を、日付の計算で毎月出します。
AIに頼むこと。 時期が近い家ごとに、法要の案内と、仏壇やお墓、相続の相談先などの情報を添えた手紙の下書きを作ってもらいます。
人がすること。 担当者が、その家の事情(すでに別の会社に頼んでいる、連絡を控えてほしいと言われた)を確かめてから送ります。
何が変わるか。 担当者の記憶に頼っていた案内が、漏れなく届きます。遺族にとっては、次に何をすればよいかを思い出すきっかけになります。
台帳から法要の時期を計算し、案内を下書きする仕組みの作り方は、法要の時期に忘れず声をかける。施行の台帳からAIが案内を下書きする仕組みで説明しています。案内の時期を計算で出して一人ずつ届ける考え方は、整備工場の例ですが整備士が足りなくても車を回す。整備工場の事務をAIに任せる方法でも説明しています。
求人票と新人の手引きは、現場の1日からAIが下書きする
AIに頼むこと。 求人票に、担当者の1日(搬送、打ち合わせ、準備、式の進行、夜間の当番)と、働き方の工夫を書くために、社長の話から下書きを作ってもらいます。新しく入った人に渡す「式の流れと気をつけること」の手引きも、ベテランの話から下書きします。
人がすること。 社長とベテランが、内容が実態と合っているかを確かめます。
何が変わるか。 求人票に仕事の中身が具体的に書かれ、応募する人が想像しやすくなります。新人が手引きを読んで、式の流れを先に覚えられます。
求人票の書き方は、求人の応募をAIで増やす方法。現場の1日を求人票に書くだけで変わるで説明しています。
宗派のしきたり、金額、遺族への最後の言葉はAIに任せない
AIで何でもできそうに見えても、次のことはAIに任せません。
- 宗派や地域のしきたりの判断。 宗派、地域、家ごとに決まりが違います。AIの答えは一般論で、外れることがあります。お寺や遺族に確かめ、社内の記録に残します
- 金額の決定と説明。 見積の金額は、料金表と見積のソフトから入れます。AIに金額を出させません
- 遺族への最後の言葉。 礼状や案内の文面は、遺族の気持ちに関わります。下書きはAIでも、送る前に担当者が読み、遺族に見てもらいます
まずは、間違えても人がすぐに気づけて直せる、記録と文面の下書きから始めます。
社内の型と言葉づかいをスキルにし、名前と日付はAIの外で持つ
ここまでの使い方は、そのつどAIのチャットに頼む場合です。毎日同じように使うなら、もう一段の工夫をしておくと安定します。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
型と言葉づかいを Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「会葬礼状・案内・挨拶状の型」「宗派ごとに避ける言葉と使う言葉(社内で確かめたもの)」「打ち合わせの記録の型」「書いてはいけないこと(金額、確かめていないしきたり、遺族を急かす言い方)」をスキルにします。
名前、日付、金額は、AIの外で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、故人と喪主の名前、日付を台帳から差し込むこと、法要の時期を日付の計算で出すこと、文面に台帳と違う名前や日付が混ざっていないかを機械的に確かめることがそれに当たります。名前の字の間違いは、遺族にとって大きな失礼になります。
始める順番は、毎回の量が多く、間違えても直せる仕事から
4つの業務のうち、どれから始めるかは、毎回の量の多さと、間違えたときに直せるかで決めます。
- 打ち合わせの記録:葬儀ごとに必ず出ます。担当者が確かめるので、間違いに気づけます
- 会葬礼状と案内文:型が決まっているので、始めやすい仕事です
- 法要の案内:台帳が整っていれば、毎月決まった時期に回せます
- 求人票と手引き:一度作れば、しばらく使えます
費用は、法人向けプランの月数千円から始められる
最初は、会社で契約した、入力をAIの学習に使わない法人向けのプランで、チャットに貼って使うところから始めます。費用は1人あたり月数千円です。法要の案内を台帳から自動で出す、打ち合わせのメモから記録を自動で作るといった仕組みにする場合は、作る費用が加わります。費用の考え方はAI導入にいくらかかる?月数千円から試せて、元が取れるかも先に分かるにまとめています。
効果は、事務の時間と、法要の依頼と紹介の数で測る
効果を確かめるには、次の3つを始める前と後で比べます。
- 1件の葬儀にかかる事務の時間:1か月だけ、担当者の時間を記録します
- 法要の案内を送った数と、法要の依頼の数:台帳から数えます
- 紹介で依頼を受けた数:受付のときに「どこでお知りになりましたか」を聞いて数えます
最初の1か月は、打ち合わせの記録と礼状だけ試す
- 担当者1人に、打ち合わせのあとにスマホでメモを話してもらう
- 会社で契約したAIのチャットで、打ち合わせの記録と遺族への説明の形に整える
- 担当者が確かめ、遺族に渡す
- 会葬礼状を、社内の型と記録から下書きし、担当者と遺族が確かめる
- 1か月後、型と言葉づかいを見直し、ほかの担当者にも広げる
故人と遺族の情報は、とても大事な個人の情報です。社内ルールの決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。
まとめ
- 2025年の死亡数は158万9,489人で、前の年より減った。件数が大きく伸びない中で、一軒一軒に選ばれ、法要や紹介で頼られ続けることが大事
- 打ち合わせの記録と見積の説明、会葬礼状と案内文、法要の案内、求人と手引きの4つにAIを入れ、事務の時間を減らす
- 宗派のしきたり、金額、遺族への最後の言葉はAIに任せず、担当者と社長が決める
- 名前と日付は台帳から入れ、法要の時期は日付の計算で出す
- 最初の1か月は、打ち合わせの記録と会葬礼状だけを、担当者1人で試す