業務への組み込み例

残業が上限に近い人を月の途中で知る。勤怠から毎週、社長に届く仕組み

この記事で変わる経営指標

この記事では、残業を減らしても売上を落とさない。夜の書きものをAIで削る順番の「残業の時間を毎週見る」を、仕組みとして作る方法を説明します。

一言でいうと、毎週月曜の朝に、勤怠の記録から一人ずつ、今月ここまでの時間外労働と月末の見込みを計算し、上限に近い人に印を付ける。印の付いた人について、本人が残した残業の中身のメモからAIが短いまとめを添え、社長と部門長に届けるという形です。時間の計算はすべて表と計算で行い、AIは「なぜ残業が増えているか」を読みやすくするところだけを受け持ちます。

今は残業の時間が、月末の給与計算で初めて分かる

厚生労働省の働き方改革特設サイトによると、残業の上限は原則として月45時間・年360時間です。特別な事情があって労使が合意する場合でも、年720時間以内、2〜6か月の平均で月80時間以内(休日労働を含む)、単月で100時間未満(休日労働を含む)を超えることはできず、月45時間を超えられるのは年6か月までです(中小企業基盤整備機構の J-Net21 でも同じ内容が説明されています)。さらに、2023年4月からは中小企業でも、月60時間を超える時間外労働には50%以上の割増賃金がかかります(厚生労働省の資料、ジンジャーの解説)。

ところが多くの会社では、残業の時間は次のように扱われています。

  1. 社員は毎日、勤怠のシステムやタイムカードで出退勤を記録する
  2. 月末に、総務が給与計算のために集計する
  3. そこで初めて、「〇〇さんが今月70時間を超えていた」と分かる
  4. 月45時間を超えた月が年に何回あったか、2〜6か月の平均がいくつかは、誰も追いかけていない

月末に分かっても、その月の残業はもう戻せません。上限を守り、割増の高い時間を減らすには、月の途中で、誰がどこまで来ているかが見えている必要があります。

勤怠から毎週計算し、AIが中身を添えて社長に届く

毎週月曜の朝に勤怠の記録を集め、今月ここまでの時間外労働と月末の見込み、2〜6か月の平均、45時間を超えた月の回数を計算する。上限に近い人は赤くなり、AIが本人の残業の中身のメモから短いまとめを添える。社長と部門長が一覧を見て、仕事の振り分けを決める
毎週月曜の朝に勤怠の記録を集め、今月ここまでの時間外労働と月末の見込み、2〜6か月の平均、45時間を超えた月の回数を計算する。上限に近い人は赤くなり、AIが本人の残業の中身のメモから短いまとめを添える。社長と部門長が一覧を見て、仕事の振り分けを決める

仕組みは4つの段でできています。

1. 集める:勤怠の記録と、残業の中身のメモを読み込む。 毎週月曜の朝に、勤怠のシステムから社員ごとの出退勤と休日出勤の記録を書き出して読み込みます。あわせて、親の記事で紹介した「残業の時間に何をしたかの一言のメモ」(見積を作った、日報を書いた、機械の修理をした)も読み込みます。メモは、残業をした日に本人がフォームから残します。

2. 計算する:今月ここまでと、月末の見込みを出す。 ここはすべて計算です。社員ごとに、次の数字を出します。

  • 今月ここまでの時間外労働と、休日労働
  • 月末の見込み(今月ここまでの時間 ÷ 今日までの出勤日数 × 今月の出勤予定日数)
  • 前の月までを含めた、2〜6か月の平均(休日労働を含む)
  • 今年、月45時間を超えた月の回数
  • 今年の時間外労働の合計

3. 照らす:上限に近い人に印を付け、AIが中身をまとめる。 計算した数字を、会社で決めた線と比べ、近い人を赤くします。たとえば、月末の見込みが45時間を超える人、60時間を超える人、2〜6か月の平均が80時間に近い人、45時間を超えた月がすでに5回ある人です。線は、自社の36協定の中身に合わせて決めます。 赤くなった人について、AIが今月の残業のメモを読み、「何に時間を使っているか」を2〜3行でまとめます。たとえば、「残業の6割が見積の作成。新しい取引先からの見積の依頼が先週から増えている」のような形です。

4. 届ける:社長と部門長が一覧を見て、手を打つ。 社長と部門長に、赤い人の一覧(計算した数字と、AIのまとめ)が届きます。部門長は、仕事の振り分けを変える、見積の下書きをAIに任せる、応援を頼む、といった手を週の初めに決めます。

月末の見込みと上限の線は、AIの外で計算する

この仕組みでいちばん大事なのは、時間の計算と上限の判定をAIにさせないことです。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

時間と線は、表と計算で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、勤怠の記録から時間外労働と休日労働を分けて足すこと、月末の見込みと2〜6か月の平均を計算すること、45時間を超えた月の回数を数えること、会社で決めた線と比べて赤くすることがそれに当たります。AIは足し算や平均の計算を間違えることがあります。法律の上限と給与に関わる数字は、AIに任せません。

まとめ方の決まりを Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。

  • まとめの形:残業の中身を「書きもの」「調べもの」「現場の仕事」「そのほか」に分け、多いものから2〜3行で書く
  • 書いてはいけないこと:本人の能力や態度についての評価。「仕事が遅い」のような言い方をしない
  • メモにないことは書かない:メモがない日は「メモなし」とし、理由を推測しない
  • 手の打ち方の例:書きものが多いならAIの下書き、現場の仕事が多いなら応援、のような例(決めるのは部門長)

社長と部門長の仕事は、届いた一覧で手を打つことになる

仕組みが入ると、残業の管理は次のように変わります(想定です)。

今まで 仕組みが入ったあと
分かる時期 月末の給与計算のとき 毎週月曜の朝
見る数字 その月の合計だけ 月末の見込み、2〜6か月の平均、45時間超の回数
中身 分からない。本人に聞いて回る AIのまとめで、何に時間を使っているかが分かる
手の打ち方 「早く帰って」と呼びかける 中身に合わせて、仕事の振り分けや下書きの任せ方を変える
年の管理 誰も追いかけていない 45時間超の回数と年の合計が毎週そろう

社長は、毎週の一覧で、どの部門の誰が上限に近いかを見て、部門長と相談します。部門長は、残業の中身を見て、仕事の振り分けを決めます。

経営への効果は、上限と割増を超える前に手を打てること

効果は、前提を置いて考えます。親の記事と同じく、1時間あたりの賃金を仮に2,000円とします。月60時間を超えた時間外労働には、25%ではなく50%以上の割増がかかるので、超えた時間1時間あたり500円以上多くかかります。仮に、月70時間になりそうな社員を月の途中で見つけて60時間に抑えられれば、残業代そのものが10時間分(割増を含めて約3万円)減り、高い割増の時間がなくなります。

ただ、この仕組みの価値は、残業代よりも上限を超えないことにあります。上限を超えると罰則の対象になり、社員の健康にも関わります。月末に気づいても手遅れですが、毎週見ていれば、月の半ばで仕事の振り分けを変えられます。

もう1つの効果は、総務の手間です。月末に勤怠を集計して、上限に近い人を探す作業がなくなります。

費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月数十円

作る順番と、かかる日数

  1. 会社の線を決める(社内:社長と総務、半日)。36協定の中身を確かめ、月末の見込みが何時間を超えたら赤くするかを決めます。社会保険労務士に確かめてもらうと安心です
  2. 残業の中身のメモを残すフォームを用意する(社内:総務、半日)
  3. 勤怠の記録の読み込みと、時間の計算、線との比較を作る(作る人、1.5人日)
  4. AIのまとめと、社長と部門長への届け方を作る(作る人、1人日)
  5. 1か月、過去の勤怠の記録で計算が合っているかを確かめる(作る人と総務、0.5人日)。給与計算の結果と、計算した時間外労働が一致するかを見ます

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜5で、作る側の目安は合計3人日です。勤怠のシステムが記録の書き出しに対応していれば、読み込みは早く作れます。

毎月の費用

費用 中身 想定の会社での目安
AIの利用料 赤い人のまとめごとにかかる 月数十円(下の計算)
勤怠のシステム すでに使っているもの 追加0円の想定
保守 社員の入退社の反映、線の見直し 月1時間

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。仮に、毎週10人が赤くなり、1人あたりメモとスキルを合わせて2,000トークンを読ませ、150トークンを書かせると、1週あたり約0.055ドル、1ドル150円で約8円です。月に4〜5回で数十円です。

AIの利用料が小さいので、費用のほとんどは作る費用と保守の時間です。残業代の削減だけで取り戻すかどうかは、上限に近い社員の数によって大きく変わります。上限を超えないことと、総務の集計の手間が減ることを合わせて判断してください。

必要な人は3役で、手を打つのは部門長

役 誰が すること 時間
メモを残す人 残業をした社員 残業の時間に何をしたかを一言残す 1回30秒
手を打つ人 部門長と社長 毎週の一覧を見て、仕事の振り分けを決める 週15分
作る人・守る人 社内の詳しい人か外の作り手、総務 計算と届け方を作る。入退社と線を更新する 最初の3人日、月1時間

1か月で毎週届き、3か月で超えた人の数を比べられる見込み

どこまでいけるかは、勤怠の記録がどれだけ正確に付いているかと、部門長が一覧を見て手を打つかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の1か月 毎週月曜に一覧が届く。計算が給与計算と合っているかを確かめる
3か月 月60時間を超えた人の数、45時間を超えた人の数を、仕組みの前と比べられる
半年 残業の中身の傾向(どの書きものが多いか)から、AIの下書きに置きかえる業務を決められる

効果を確かめるには、次の3つを導入の前と後で比べます。

  • 月45時間、60時間を超えた人の数:給与計算の記録から数えます
  • 時間外労働の合計と残業代:給与計算の記録から出します
  • 総務が残業の集計に使った時間:1か月だけ記録します

残業を責めたり、時間をAIに計算させると失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • 一覧を、社員を責める材料にする。 赤い人の一覧は、仕事の振り分けを変えるためのものです。本人を責めると、メモを書かなくなり、残業を隠すようになります
  • 時間の計算をAIに任せる。 AIが足し算を間違えると、上限を超えているのに気づかない、ということが起こります。時間はすべて計算で出し、給与計算の結果と照らします
  • 勤怠の記録が実際と違う。 記録の外で残業している(持ち帰り、記録の後の作業)と、計算は正しくても実際の残業は見えません。記録を正しく付けることを、先に社内で確かめます
  • 線を法律の上限そのものにする。 上限ぎりぎりで赤くしても、手を打つ時間がありません。月末の見込みが45時間を超えそうな時点など、余裕のある線にします

勤怠の記録や残業のメモは、社員の個人情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、AIに渡すのは赤くなった人のメモだけにします。社内ルールの決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。運送業で運転日報から拘束時間を毎日見る方法は、拘束時間の超過を月の途中で止める。運転日報をAIで毎日表にする方法で説明しています。

まとめ

  • 毎週月曜の朝に、勤怠の記録から一人ずつ、今月ここまでの時間外労働、月末の見込み、2〜6か月の平均、45時間を超えた月の回数を計算し、会社で決めた線に近い人を赤くする
  • 赤い人について、本人の残業のメモからAIが「何に時間を使っているか」を2〜3行でまとめ、社長と部門長に届ける。時間の計算と上限の判定はAIにさせない
  • 上限は原則月45時間・年360時間、特別条項でも年720時間・2〜6か月平均80時間・単月100時間未満、45時間超は年6か月まで。月60時間超は中小企業でも50%以上の割増
  • 作る費用の目安は3人日、AIの利用料は月数十円。効果は残業代よりも、上限を超える前に手を打てること
  • 一覧は社員を責める材料にせず、仕事の振り分けを変えるために使う

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