賃上げ促進税制の1.5%、決算前に届くか分かる?|給与総額の伸び率の出し方
この記事で変わる経営指標
この記事では、賃上げ促進税制の使い方|給与総額を1.5%増やすと増えた分の15%を控除の「給与の伸びを表で計算する」を、毎月回る仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、期の初めからの給与の総額を、前の年の同じ時期と並べて毎月表に入れる。残りの月の見込みを足して、期末の伸び率の見込みを計算する。1.5%と2.5%まであといくらかを表で出し、AIは社長が読む月ごとのメモと、税理士に確かめることの一覧を下書きする。冬の賞与などで届かせるかは、社長が税理士と相談して決めるという形です。決算のあとで「あと少しだった」と知るのを防ぎます。
1.5%と2.5%の線は、期末の給与の総額で決まる
中小企業向けの賃上げ促進税制は、会社の給与の総額が前の年より1.5%以上増えると、増えた分の15%を法人税から差し引ける仕組みです。2.5%以上なら30%になり、女性の活躍や子育ての支援の認定があれば最大35%です(マネーイズム、補助金ポータルの解説による)。差し引ける額は法人税の額の20%が上限で、中小企業は差し引けなかった分を5年間繰り越せます(税務研究会、e-人材の解説による)。
伸び率は、事業年度が終わったときの給与の総額で決まります。つまり、期の途中で伸び率の見込みが分かっていれば、冬の賞与や昇給の時期を考えるときに、線に届くかどうかを判断の材料にできます。
給与の総額に何を含めるか(役員や役員の親族の給与の扱いなど)、雇用保険の対象の社員かどうかといった細かい要件は、国税庁と中小企業庁の最新の資料で確かめ、税理士に見てもらってください。2026年10月時点の情報です。
今は、決算のあとで伸び率を知る
多くの小さな会社では、給与の総額の伸びは次のように分かります。
- 決算が終わり、税理士が申告書をつくる
- 給与の総額を前の年と比べ、「今年は1.2%でした」と言われる
- 「あと少し増やしていれば使えた」と分かる
- 次の年も、同じことを繰り返す
給与の総額は、毎月の給与の計算で決まっています。前の年と並べて表にすれば、期の途中でも見込みを出せます。
毎月の表で見込みを出し、AIが社長向けのメモを書く
仕組みは4つの段でできています。
1. 入れる:毎月の給与の総額を表に入れる。 給与の締めが終わったら、経理の担当者が、給与ソフトからその月の給与の総額(賞与を含む)を出し、前の年の同じ月と並べて表に入れます。給与の総額に含めないもの(役員の報酬など)は、税理士と決めた範囲で除いておきます。
2. 計算する:期末の見込みと、線までの差を出す。 ここはAIの仕事ではありません。表の計算で、次のものを出します。
- 期の初めから今月までの累計と、前の年の同じ時期の累計
- 残りの月の見込み(今の月額 × 残りの月数 + 予定している賞与)
- 期末の給与の総額の見込みと、前の年と比べた伸び率の見込み
- 1.5%と2.5%に届くために、あといくら要るか
3. 下書きする:AIが社長向けのメモを書く。 AIに、表の数字だけを渡し、次のものを下書きさせます。社員一人ひとりの給与は渡しません。
- 社長が読む月ごとのメモ:今月までの伸び率、期末の見込み、線までの差、決める必要があることと時期
- 税理士への確認事項:給与の総額の範囲、見込みの前提、決算期と申告の段取り
4. 決める:社長が税理士と相談する。 社長が、メモを見て、冬の賞与や昇給の時期と額を考えます。税理士に、見込みと要件を確かめてもらってから決めます。
見込みが2.0%なら、あと25万円で30%の線に届く
表の数字は、たとえば次のようになります(想定です。金額は架空です)。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 前の年の給与の総額 | 5,000万円 |
| 今年の期末の見込み | 5,100万円 |
| 伸び率の見込み | 2.0% |
| 1.5%の線(5,075万円)まで | 届いている |
| 2.5%の線(5,125万円)まで | あと25万円 |
このままなら、増えた100万円の15%で、15万円を差し引ける見込みです。冬の賞与を全体で25万円多く払って2.5%に届けば、増えた125万円の30%で37.5万円になり、差し引ける額は22.5万円増えます。
ただし、賞与を増やせば、会社が負担する社会保険料も増えます。法人税の額の20%という上限もあります。賞与を増やすかどうかは、税の控除だけでなく、社員への還元と会社の資金の見通しを合わせて、社長が決めます。計算は表と税理士で確かめます。
メモの型をスキルにし、計算はAIの外に置く
この仕組みが同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
メモの型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 月ごとのメモの型:今月までの伸び率、期末の見込み、線までの差、決めることと時期の順。A4で半分
- 税理士への確認事項の型:給与の総額の範囲、見込みの前提、申告の段取り
- 書いてはいけないこと:表にない数字、控除の額を確定のように書くこと、個人の給与、「賞与を増やすべき」のような判断
計算は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、給与の総額を給与ソフトから表に写すこと、伸び率と線までの差を表の式で計算すること、控除の額と要件を税理士と確かめることがそれに当たります。AIは計算を間違えることがあるので、数字は表から写すだけにさせます。
見込みの前提を、毎月そろえる
この仕組みでいちばん効くのは、見込みの前提を毎月同じ形で書いておくことです。
- 残りの月の月額:今月の給与の総額を使うのか、昇給の予定を入れるのかを決めておきます
- 賞与の予定:決まっていない賞与は「未定」として、入れた場合と入れない場合の両方を出します
- 人の増減:入社や退職の予定がある月は、その分を足し引きします
- 前の年の範囲:前の年の給与の総額の範囲を、今年と同じにそろえます
前提がそろっていれば、月ごとの見込みの変わり方を比べられます。メモの冒頭に前提を書かせ、税理士にも同じ前提で見てもらいます。
社長の仕事は、見込みを見て、賞与と昇給の時期を決めることになる
仕組みが入ると、賃上げと税の控除の扱いは次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 伸び率が分かる時期 | 決算のあと | 毎月の給与の締めのあと |
| 線までの差 | 分からない | あといくら要るかが分かる |
| 賞与の決め方 | 前の年と同じ | 伸び率の見込みも材料にする |
| 税理士との相談 | 申告の直前 | 期の途中で、前提をそろえて |
| 控除の使い忘れ | 起きる | 期の途中で気づける |
経営への効果は、賃上げの判断に必要な数字を前倒しで持つこと
効果は、前提を置いて考えます。
期中に見込みを持つ効果 = 線に届かせたときに増える控除 + 使い忘れを防ぐこと + 賃上げの判断を数字で行えること
上の例では、期の途中で見込みが分かっていたから、賞与を25万円増やすかどうかを、控除が22.5万円増える見込みと合わせて考えられました。決算のあとでは、選ぶことすらできません。
費用はほとんど要らず、AIの利用料は年に25円ほど
作る順番と、かかる日数
- 前の年と今年の月ごとの給与の総額を並べた表を作る(会社:経理の担当者、2時間。給与ソフトから写します)
- 見込みと線までの差を出す式を入れる(会社:経理の担当者、1時間)
- 給与の総額の範囲と見込みの前提を税理士と決める(会社:社長と経理の担当者、1時間)
- メモの型をスキルにする(作る人、0.5人日。会社で契約したAIのチャットに型を保存して使うなら不要)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
スキルにする場合で、作る側の目安は0.5人日です。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 社長が読む月ごとのメモと税理士への確認事項 | 年に約25円(下の計算) |
| 表計算 | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 税理士 | 見込みと要件の確認 | 顧問の契約による |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。月ごとのメモに、表の数字とスキルで3,000トークンを読ませ、800トークンを書かせると約2円、年に12回で約25円です(1ドル150円で計算)。
何か月で取り戻せるか
AIの利用料はわずかです。かかるのは、表を最初に作る数時間と、毎月の数字を入れる15分ほどです。上の例のように、線に届くかどうかを期の途中で判断できれば、取り戻せる額は大きくなりえます。社員が少ない会社は、スキルにする手間をかけず、会社で契約したAIのチャットに型と表の数字を貼って頼むだけで十分です。
必要な人は3役で、決めるのは社長
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 表を保つ人 | 経理の担当者 | 毎月の給与の総額を入れ、見込みを出し、メモを用意する | 月15分 |
| 決める人 | 社長 | メモを見て、賞与や昇給の時期と額を決める | 月10分 |
| 確かめる人 | 税理士 | 給与の総額の範囲、見込み、要件を確かめる | 期中に1〜2回 |
3か月で見込みの形ができ、冬の賞与の前に判断できる見込み
どこまでいけるかは、毎月の数字を入れ続けられるかで決まります。目安は次のとおりです(想定です)。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の月 | 前の年と今年の表を作り、今月までの伸び率を出す |
| 3か月後 | 見込みの前提がそろい、月ごとの変わり方を比べられる |
| 冬の賞与の前 | 線までの差を見て、税理士と相談して賞与を決める |
効果を確かめるには、次の3つを記録します。
- 毎月の伸び率の見込み:表に残します
- 決算のときの実際の伸び率と、見込みとの差:次の年の見込みの直し方に使います
- 差し引けた額:申告のあとに税理士から聞きます
給与の総額の範囲をそろえないと失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- 範囲がそろっていない。 前の年と今年で、給与の総額に含めるものが違うと、伸び率がずれます。範囲は税理士と決めます
- 賞与の予定を入れ忘れる。 冬の賞与を入れないと、見込みが低く出ます。入れた場合と入れない場合の両方を出します
- 控除のために賞与を決める。 控除は、賃上げの負担を軽くする仕組みです。賞与の額は、社員への還元と会社の資金の見通しで決めます
- AIに計算させる。 伸び率と線までの差は、表の式で計算します
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まとめ
- 中小企業向けの賃上げ促進税制は、給与の総額が前の年より1.5%以上増えると増えた分の15%、2.5%以上で30%を差し引ける。伸び率は期末の給与の総額で決まる
- 期の初めからの給与の総額を、前の年の同じ時期と並べて毎月表に入れ、残りの月の見込みを足して期末の伸び率を計算する
- 1.5%と2.5%まであといくらかを表で出し、AIは社長が読む月ごとのメモと税理士への確認事項を下書きする
- 賞与や昇給は、控除の見込みだけでなく、社員への還元と会社の資金の見通しで社長が決め、税理士に確かめる
- 給与の総額の範囲と見込みの前提を毎月そろえ、個人の給与はAIに渡さない