評価の時期に部下ごとの事実の一覧が届く。日々の記録からAIで下書きする仕組み
この記事で変わる経営指標
この記事では、人事評価の面談を社員が納得する場にする。日々の記録と準備をAIでの「評価の時期には、記録からAIが事実の一覧とコメントを下書きする」を、仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、上司が日々スマホのフォームから部下の良かった行動や困りごとを一言ずつ残す。毎月の初めには、記録の少ない部下を計算で上司に知らせる。評価の時期になると、部下ごとに項目別の事実の一覧と評価のコメントの下書きをAIが作り、上司に届けるという形です。評価の点数と昇給の額は、これまでどおり上司と社長が決めます。
今は記録が続かず、評価の時期に手作業でまとめている
親の記事では、上司が部下の行動を一言ずつ記録し、評価の時期にAIのチャットで一覧とコメントを下書きするやり方を紹介しました。部下が数人なら、これで回ります。
部下が多い会社や上司が何人もいる会社では、手で回すやり方に次のような限りがあります。
- 記録の場所が上司ごとにばらばら(スマホのメモ、手帳、表計算)で、評価の時期に集めるのに手間がかかる
- 忙しい時期に記録が止まり、気づいたら3か月何も書いていない部下がいる
- 評価の時期に、部下1人ずつ記録をAIのチャットに貼り付けて下書きを作り、評価の表に写す
- 上司によって記録の量とコメントの質がばらつく
記録が続かないと、評価の時期にまた「思い出せることだけ」の評価に戻ってしまいます。仕組みにすると、記録の場所が1つになり、記録が止まっている部下に月の初めに気づけます。
日々の記録がたまり、評価の時期に下書きが届く
仕組みは4つの段でできています。
1. 集める:上司がスマホのフォームから一言ずつ記録する。 フォームには、部下の名前を選ぶ欄、「良かった行動」「困っていたこと」「本人が話していたこと」から選ぶ欄、一言を書く欄があります。日付は自動で入ります。1回30秒で書けるようにします。記録は1つの表にたまり、見られるのはその上司と社長だけにします。
2. 数える:毎月の初めに、記録の少ない部下を知らせる。 ここは計算です。毎月の初めに、上司ごとに、部下ごとの先月の記録の数を数え、記録が0件の部下、「困っていたこと」しか記録がない部下に印を付けて上司に知らせます。記録の少ない部下は、上司がよく見ていない部下です。評価の時期になってから気づくのでは遅すぎます。
3. 読む:評価の時期に、AIが部下ごとの下書きを作る。 評価の時期になると、部下ごとに、評価の期間の記録をAIに渡し、会社の評価の項目ごとに当てはまる事実を日付つきで並べ、項目ごとの評価のコメントを下書きさせます。記録の困りごとからは、次の目標の案と、面談で聞きたい質問の候補も作らせます。点数や順位は書かせません。
4. 確かめる:上司が直し、点数を決める。 上司のところに、部下ごとの下書きが届きます。上司は、事実を記録と見比べ、コメントを自分の言葉に直し、評価の点数を決めます。点数と昇給の額は、社長と最終的に決めます。面談のあとには、話したことをフォームに一言残し、次の評価の材料にします。
評価の項目と書き方をスキルにし、記録の数と点数はAIの外で持つ
この仕組みが上司によらず同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の計算で決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
評価の項目とコメントの書き方を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 会社の評価の項目と、それぞれで見ていること(例:「チームへの貢献」は、ほかの人を手伝った、教えた、引き継いだ)
- コメントの書き方:事実 → 良かった点 → 次に期待すること。本人に伝える言葉で
- 書いてはいけないこと:性格の決めつけ、ほかの社員との比較、私生活、記録にない出来事、点数や順位
- 上司が直した良いコメントの見本:直す前と後を並べて足していく
記録の数、点数、昇給は、AIの外で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、部下ごとの記録の数を数えて記録の少ない部下に印を付けること、AIの下書きに出てきた日付と事実が記録の表にあるかを照らすこと、点数と昇給の額を上司と社長が評価の表に入れることがそれに当たります。AIの下書きに、記録にない日付が出てきたら赤くします。
上司の仕事は、日々の一言と、届いた下書きを直すことになる
仕組みが入ると、人事評価の仕事は次のように変わります(想定です)。
| 手で回す(親の記事のやり方) | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 記録の場所 | 上司ごとにばらばら | 1つのフォームと表 |
| 記録が止まったとき | 評価の時期まで気づかない | 毎月の初めに、記録の少ない部下が知らされる |
| 下書き | 部下1人ずつ、AIのチャットに貼り付ける | 評価の時期に、部下ごとの下書きが届く |
| 確かめ | 記録と見比べる | 記録にない日付が赤くなる |
| 面談のあと | 記録が残らないことが多い | フォームに一言残し、次の評価の材料になる |
上司は、日々30秒の記録と、評価の時期に届いた下書きを直す時間だけで、部下ごとに半年分の事実をもとにした評価ができます。
経営への効果は、記録が続き、評価が上司によってぶれにくくなること
効果は、前提を置いて計算します。親の記事のやり方では、評価の時期に部下1人あたり、記録を集めてAIのチャットに貼り付け、下書きを評価の表に写すまでに30分ほどかかるとします。仕組みが入ると、届いた下書きを直す10分になるとすると、1人あたり20分の短縮です。
仮に社員30人・年2回の評価なら、年に20時間、1時間あたりの人件費を仮に2,500円として年5万円分です。社員60人なら、年10万円分です。時間だけで見ると、大きな額ではありません。
この仕組みの価値は、時間よりも記録が続くことと、上司によって評価がぶれにくくなることにあります。毎月の初めに記録の少ない部下が知らされるので、評価の時期に「思い出せることだけ」に戻りません。コメントの書き方がスキルでそろうので、どの上司の部下も、同じように事実をもとにした評価を受けられます。評価に納得できない社員が黙って辞めていく損は、上司の時間よりずっと大きくなります。
費用は作る費用が中心で、AIの利用料は30人で1回90円ほど
作る順番と、かかる日数
- 評価の項目と、それぞれで見ていることを言葉にする(社内:社長と上司、1日)。ここがいちばん大事です。項目があいまいだと、AIも上司も事実を振り分けられません
- 記録のフォームと表、見られる人の設定を作る(作る人、0.5人日)
- 毎月の記録の数の計算と、上司への知らせを作る(作る人、0.5人日)
- 評価の時期の、部下ごとのAIの下書きと、記録との照らし合わせを作る(作る人、1人日)
- 1回の評価で試して直す(作る人、0.5人日)。上司が直したコメントを、スキルの見本に足します
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
上の手順2〜5で、作る側の目安は合計2.5人日です。フォームと表はすでに使っている道具で作れることが多く、作る費用は大きくなりません。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 評価の時期に、部下1人の下書きごとにかかる | 30人で1回90円ほど(下の計算) |
| フォーム・表 | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 保守 | 社員の入退社の反映、項目とスキルの見直し | 評価のたびに2時間 |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。部下1人あたり、半年分の記録とスキルを合わせて4,000トークンを読ませ、1,200トークンを書かせると見積もると、約0.02ドル、1ドル150円で約3円です。30人で1回90円ほどです。
何か月で取り戻せるか
取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)
上の時間の効果だけで見ると、社員30人の会社では取り戻すのに何年もかかります。社員が数十人までで上司が1〜2人なら、仕組みを作らず、親の記事のやり方(記録の場所を1つの表に決め、評価の時期にAIのチャットで下書き)で十分です。上司が何人もいて、評価の質をそろえたい会社や、記録が続かずに困っている会社に向いた仕組みです。
必要な人は3役で、点数を決めるのは上司と社長
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 記録する人 | 部下を持つ上司 | 日々、部下ごとに一言ずつ記録する。評価の時期に下書きを直す | 1回30秒、評価の時期に1人10分 |
| 決める人 | 社長 | 評価の項目を決める。点数と昇給の額を上司と決める | 評価のたびに |
| 作る人 | 社内の詳しい人か、外の作り手 | フォーム、数える計算、下書き、照らし合わせを作る | 最初の2.5人日 |
上司には、「良かった行動を多めに書く」「本人に見せられることだけを書く」と最初に伝えておきます。
1か月で記録がたまり、2回目の評価で納得感の変化が分かる見込み
どこまでいけるかは、上司が日々の記録を続けられるかで決まります。目安は次のとおりです。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の1か月 | 上司ごとに記録がたまり始める。月の初めの知らせで、記録の少ない部下が分かる |
| 最初の評価 | 部下ごとの下書きが届く。上司がコメントの半分ほどを直す。直したものをスキルに足す |
| 2回目の評価 | 社員に評価の納得感を聞き、仕組みの前と比べられる |
効果を確かめるには、次の3つを比べます。
- 部下1人あたりの記録の数:月ごとに数えます
- 評価のコメントを書くのにかかった時間:1回だけ記録します
- 評価への納得感:面談のあと、社員に「評価の理由が分かったか」を簡単に聞きます
点数をAIに出させたり、記録で監視したりすると失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- 点数や順位をAIに出させる。 AIの下書きに点数が入ると、上司がそのまま使ってしまうことがあります。点数は書かせず、上司と社長が決めます
- 失敗ばかり記録する。 記録が監視の道具になると、社員は記録されることを嫌がります。良かった行動を多めに書くよう、毎月の知らせで「良かった行動の記録が0件の部下」も伝えます
- 記録を誰でも見られるようにする。 評価の記録は社員の大事な個人情報です。見られる人をその上司と社長に限ります
- 項目があいまいなまま始める。 「積極性」のような項目は、事実を振り分けられません。「何をしたら、その項目で良い評価になるか」を先に言葉にします
評価の記録は、会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。
まとめ
- 上司が日々スマホのフォームから部下ごとに一言ずつ記録し、評価の時期にAIが部下ごとの項目別の事実の一覧とコメントの下書きを作って上司に届ける
- 毎月の初めに、記録の少ない部下を計算で知らせる。記録が続くことが、この仕組みのいちばんの価値
- 点数と昇給は上司と社長が決める。AIの下書きに記録にない日付が出てきたら赤くする
- 作る費用の目安は2.5人日、AIの利用料は30人で1回90円ほど。時間だけで見ると効果は小さく、上司が数人までなら手で回すやり方で十分。上司が多く評価の質をそろえたい会社に向く
- 評価の項目を先に言葉にし、記録は本人に見せられることだけを書く