調剤薬局のAI活用|服薬のフォローと記録の手間を減らし、選ばれる薬局に
この記事では、小さな調剤薬局を営む経営者に向けて、AIが効く業務を4つ挙げ、どう使うかを説明します。一言でいうと、問い合わせの返事、薬剤師の指導の記録の整理、服薬期間中のフォローの連絡、保管や飲み方の説明の紙を、AIに下書きさせる。調剤、疑義照会(処方の内容を医師に問い合わせること)、指導の中身は薬剤師が決めるという話です。
AIの価値は、薬剤師の代わりをすることではありません。記録や連絡のように、閉局後まで残っている書きものを減らし、患者さんと話す時間を増やすことです。
経営への効果は、患者さんに頼られ、通い続けてもらうこと
処方箋をどの薬局に持っていくかは、患者さんが選びます。近さや待ち時間だけでなく、「話を聞いてくれる」「あとで様子を気にかけてくれる」薬局は選ばれやすくなります。
ところが小さな薬局では、薬剤師が調剤と服薬指導をしながら、記録や連絡、問い合わせの返事まで受け持っています。書きものが閉局後に残ると、フォローの電話まで手が回りません。AIで書きものを減らせば、患者さんと向き合う時間が戻ります。
| 業務 | 今のやり方(よくある形) | AIで変わること | 経営効果 |
|---|---|---|---|
| 問い合わせの返事 | 調剤の合間に電話やメールで返す | 受付の決まりから返事を下書き | 売上 |
| 指導の記録 | 閉局後に思い出して書く | 薬剤師のメモを記録の欄に整える | 業務の無駄 |
| 服薬のフォロー | 気になった患者さんにだけ電話 | 薬剤師が決めた中身で連絡を下書き | 売上 |
| 説明の紙 | 口頭で伝え、紙は既製品 | 保管や飲み方の紙を下書き | 売上 |
2020年9月から、調剤後のフォローも薬剤師の義務になった
e-Gov法令検索で薬剤師法を確かめると、第25条の2で、薬剤師は調剤したときに、患者さんに必要な情報を提供し、薬学的知見に基づく指導を行わなければならないとされています。さらに第2項で、薬の適正な使用のために必要があると認める場合には、患者さんの薬の使用の状況を継続的かつ的確に把握し、情報を提供し指導を行わなければならないとされています。
厚生労働省の検討会の資料によると、この第2項を含む改正法は2020年9月1日に施行され、調剤時に加えて、調剤後の服薬指導や継続的な服薬状況の把握も義務として定められました。徳島県の案内でも、薬剤師が必要と判断した場合に使用状況を把握して指導を行うこと、情報提供や指導の内容は記録が必要なことが説明されています。
フォローが必要かを判断するのは薬剤師です。そして、行ったフォローは記録に残します。電話をかけ、記録を書く手間は、小さな薬局ほど重くなります。2026年10月時点の情報です。
調剤と疑義照会は薬剤師だけが行い、患者さんの情報は慎重に扱う
薬剤師法第19条では、薬剤師でない者は販売や授与の目的で調剤してはならないとされています。AIは調剤も、処方の判断もしません。
また、病歴は個人情報保護法第2条第3項の「要配慮個人情報」に含まれます。患者さんの名前や処方の内容をAIに渡すときは、会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱うか、名前を記号に置き換えます。何をAIに渡してよいかは、経営者が先に決めておきます。
問い合わせの返事は、受付の決まりから下書きする
電話やメールの問い合わせは、営業時間、処方箋の送り方、在庫の有無、駐車場など、同じ内容がくり返されます。
人がすること(最初に)。 営業時間、休みの日、処方箋の受け付け方、支払いの方法、駐車場を、受付の決まりとして1枚にします。
AIに頼むこと。 届いた問い合わせと受付の決まりを渡し、返事を下書きしてもらいます。薬の飲み方や副作用の相談には答えず、「薬剤師がお電話でお答えします」と書かせます。
人がすること(そのあと)。 事務の担当が確かめて送ります。在庫は在庫の表で確かめてから書きます。
指導の記録は、薬剤師のメモを欄に整える
服薬指導のあと、薬剤師は話した内容を記録します。調剤が続く日は、閉局後にまとめて思い出して書くことになりがちです。
人がすること(最初に)。 薬剤師が、指導のすぐあとに短いメモを残します。患者さんから聞いたこと、伝えたこと、次に確かめることを箇条で書きます。
AIに頼むこと。 メモを渡し、薬局で決めている記録の欄に分けて整えてもらいます。メモにないことは足させません。
人がすること(そのあと)。 薬剤師が読み、直してから記録に入れます。調剤録は第28条で3年間の保存が決められています。
メモの欄、AIへの頼み方、調剤録に書く指導の要点の残し方は、服薬指導の記録|薬剤師のメモからAIで要点を整え、調剤録に残すで説明しています。
AIへの頼み方と、返ってくる記録はこうなる
AIに渡す指示(見本):
下は、薬剤師が服薬指導のあとに書いたメモです。「患者さんから聞いたこと」「伝えたこと」「次に確かめること」の欄に分けて整えてください。メモにないことは足さないでください。薬の効き目や副作用の説明を書き足さないでください。患者さんの名前は書かないでください。
返ってくる記録(見本の一部。内容は架空です):
患者さんから聞いたこと:朝の薬を飲み忘れることが週に2回ほどある 伝えたこと:飲み忘れたときの考え方を、薬剤師の説明どおりに伝えた 次に確かめること:次の来局のときに、飲み忘れが減ったかを聞く
薬剤師は、メモと照らして、足された言葉がないかを確かめてから記録に入れます。
服薬のフォローは、薬剤師が決めた中身で連絡を下書きする
フォローが必要な患者さんと、何を確かめるかは、薬剤師が決めます。
- フォローの一覧を作る。 薬剤師が、フォローする患者さん、連絡の時期、確かめることを決めます
- AIに、連絡の文を下書きさせる。 電話で聞くことのメモや、メッセージで送る短い文にします
- 答えを聞いて判断するのは薬剤師。 副作用のような訴えがあれば、薬剤師が判断し、必要なら処方した医師に伝えます
厚生労働省の資料では、服薬状況などを処方医などに伝えることは努力義務とされています。
フォローの一覧の欄、聞くことのメモと送る文の頼み方、記録の残し方は、薬局の服薬フォローの連絡|薬剤師が決めた中身からAIで下書きし、記録に残すで説明しています。
説明の紙は、保管や飲み方を薬剤師の中身から下書きする
薬の保管の仕方、飲み忘れたときの考え方、残った薬の扱いなど、口で説明しても家で忘れてしまうことがあります。
AIに頼むこと。 薬剤師が伝えたいことを箇条で渡し、読みやすい言葉の紙に整えてもらいます。
人がすること(そのあと)。 薬剤師が、中身が正しいか、患者さんによって違う注意が混ざっていないかを確かめます。薬ごとの注意は、添付文書や薬剤師の判断に沿って書きます。AIに薬の効き目や副作用を書き足させません。
調剤と疑義照会と指導の中身は、AIに任せない
AIに任せないことを、先に決めておきます。
- 調剤と、処方の確認。 処方の内容に疑問があれば、薬剤師が医師に問い合わせます
- 服薬指導の中身。 何を伝えるかは、薬剤師が患者さんを見て決めます
- フォローが必要かの判断と、訴えへの対応
- 副作用や飲み合わせの相談への答え。 電話や窓口で薬剤師が答えます
型をスキルにし、判断はAIの外に置く
型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「受付の決まりと返事の型」「指導の記録の欄」「フォローの連絡の型」「説明の紙の型」「書いてはいけないこと(薬の効き目や副作用の書き足し、相談への答え、患者さんの名前)」をスキルにします。
判断は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、薬剤師がフォローの一覧と中身を決めること、在庫を在庫の表で確かめること、薬剤師が記録と紙を読んで直してから使うことがそれに当たります。
費用は、法人向けプランの月数千円から始められる
返事と記録と連絡の下書きは、会社で契約した、入力をAIの学習に使わない法人向けのプランのチャットで足ります。費用は1人あたり月数千円です。薬局の記録の仕組みとつなぐ場合は、その仕組みの会社に、つなげるかと費用を確かめます。
明日からは、指導のあとの短いメモを1週間続ける
- 薬剤師が、指導のすぐあとに3行のメモを残す(聞いたこと、伝えたこと、次に確かめること)
- 1週間分のメモを、AIに記録の欄に整えさせる
- 閉局後に記録にかけていた時間と比べる
受付の決まりと返事の型は、その次に作ります。
効果は、記録の時間とフォローの数で測る
| 測るもの | 見方 |
|---|---|
| 記録の時間 | 閉局後に記録を書いた時間(薬剤師が測る) |
| フォローの数 | 薬剤師が必要と判断し、実際に連絡した患者さんの数 |
| 問い合わせの返事 | 届いてから返すまでの時間 |
始める前の1か月を、先に測っておきます。
まとめ
- 薬剤師法第25条の2第2項で、2020年9月から、必要と認めるときは調剤後も使用状況を把握して指導することが薬剤師の義務になり、内容は記録に残す
- AIが効くのは、問い合わせの返事、指導の記録の整理、服薬期間中のフォローの連絡、説明の紙の4つ
- 記録とフォローの連絡は、薬剤師のメモと決めた中身から下書きさせ、書き足させない
- 病歴は要配慮個人情報にあたるので、AIに渡す情報を経営者が先に決める
- 調剤、疑義照会、指導の中身、相談への答えはAIに任せない