社会保険の保険料調整制度|50人以下の会社が使う前に確かめること
この記事で変わる経営指標
この記事では、パートの社会保険の適用拡大|106万円の壁の撤廃で中小企業がする対応の続きとして、2026年10月に始まった「保険料調整制度」を、50人以下の会社が使うかどうか決めるまでの手順を説明します。
一言でいうと、社長が、自社が対象の事業所か、申出の期限はいつかを確かめる。AIが、パートへの説明の文と、確かめる点の一覧を下書きする。担当が、軽くなる額と、会社が一時的に立て替える額を表で計算する。社長が使うかを決め、期限内に開始の申出書を出す。一度使い始めたら、途中でやめることはできないという形です。
経営への効果は、パートが働く時間を減らさずに済むこと
社会保険に入ると、パートの手取りは保険料の分だけ減ります。手取りが減るのを避けようと、働く時間を週20時間未満に抑える人が出れば、会社はシフトの穴を埋める人を探すことになります。
保険料調整制度を使えば、新しく加入するパートの保険料を、通算3年間軽くできます。会社が立て替えた分はあとで戻るので、最終的に会社が納める保険料は増えないと、日本年金機構は説明しています。働く時間を抑える理由を一つ減らせることが、人手の見通しにつながります。
2026年10月から、会社の立て替えで保険料を軽くできる
厚生労働省の「主な制度変更(令和8年10月)」には、企業規模要件の撤廃などに伴う経過措置として、短時間労働者の保険料の負担を軽くできる制度を設けると書かれています。日本年金機構の案内(2026年10月24日に確認)によると、仕組みは次のとおりです。
- 会社が一時的に立て替える。 対象のパートの健康保険料と厚生年金保険料の一部を、会社が上乗せして納めます
- 立て替えた分は3か月後に戻る。 3か月後の保険料の額から、立て替えた分が全額差し引かれます。最終的に会社が納める保険料は増えません
- 通算3年間、軽くなる。 申し出た月から通算3年間です。3年目は、軽くなる割合が1〜2年目の半分になります
- 将来の年金は減らない。 保険料が軽くなっても、パートが将来受け取る年金の額は減りません
賞与にかかる保険料、介護保険料、子ども・子育て支援金は、この制度の対象外です。
対象になるのは、これから新しく加入対象になる事業所
日本年金機構の案内によると、対象になる事業所は、たとえば次のような事業所です。
| 対象になる事業所の例 | 申出の期限 |
|---|---|
| 2026年10月1日〜2035年9月30日に、労使の合意で任意に短時間労働者を加入対象にした事業所(任意特定適用事業所) | 加入対象にした日から2年を経過した日が属する月の前月まで |
| 2027年10月以降の段階的な拡大で、新しく特定適用事業所になった事業所(2027年10月に36〜50人、2029年10月に21〜35人、2032年10月に11〜20人、2035年10月に10人以下) | 特定適用事業所になった日から2年を経過した日が属する月の前月まで |
一方で、2026年10月1日の時点ですでに特定適用事業所(任意特定適用事業所を含む)になっている事業所は対象外です。個人事業所の扱いなど、ほかの条件もあるので、自社がどれに当たるかは日本年金機構の案内と、管轄の年金事務所で確かめてください。2026年10月時点の情報です。
対象のパートは、標準報酬月額12.6万円以下の人
日本年金機構の案内によると、対象になるのは、短時間労働者として健康保険と厚生年金保険に加入している人のうち、標準報酬月額が12万6,000円以下の人です。
- 事業所単位で決まる。 制度を使う事業所では、対象のパート全員に適用されます。希望した一部の人だけに使うことはできません
- 対象外の人もいる。 複数の事業所で加入している人、産前産後休業や育児休業などで保険料が免除されている人などは対象外です
軽くなる割合は、標準報酬月額で決まっています。標準報酬月額が8万8,000円以下なら、1〜2年目は保険料の25%、3年目は12.5%が軽くなります。12万6,000円の人は、1〜2年目が2%、3年目が1%です。
今は、パートに聞かれても、制度の説明ができない
小さな会社では、社会保険の手続きを社会保険労務士に任せている場合、新しい制度の中身を社長が知らないことがあります。パートから「保険料が軽くなる制度があると聞いた」と言われても、答えられません。
加入を前にしたパートは、手取りがいくら減るのかを気にしています。制度を使うかどうかを会社が先に決め、使うなら手取りがどう変わるかを説明できるようにしておくことが、パートが働く時間を抑えずに済むようにする備えになります。
確かめ、AIが下書きし、計算して、申し出る
1 確かめる(社長)。 日本年金機構の案内で、自社が対象の事業所か、申出の期限はいつかを確かめます。迷ったら年金事務所か社会保険労務士に聞きます。
2 下書きする(AI)。 日本年金機構の案内を渡し、パートへの説明の文と、社長が確かめる点の一覧を下書きしてもらいます。
3 計算する(担当)。 対象のパートごとに、軽くなる額と、会社が一時的に立て替える額を表で計算します。
4 申し出る(社長)。 使うと決めたら、期限内に保険料調整開始申出書を年金事務所か事務センターに出します。
軽くなる額は、日本年金機構の表から計算する
日本年金機構の案内では、軽くなる額は「標準報酬月額×保険料率×軽減割合」で計算します。案内に載っている例では、標準報酬月額8万8,000円の人の厚生年金保険料(保険料率18.3%)は、1〜2年目に月4,026円、3年目に月2,013円軽くなります。健康保険料は、保険料率10%の例で、1〜2年目に月2,200円軽くなります。
| 計算すること | どこで計算するか |
|---|---|
| 対象のパートの一覧 | 給与の表から、短時間労働者で標準報酬月額12.6万円以下の人を出す |
| 1人ずつの軽くなる額 | 日本年金機構の保険料額表と、自社の健康保険の保険料率で計算する |
| 会社が立て替える額の合計 | 毎月の合計を出し、3か月分を手元に持っておく |
立て替えた分は3か月後の保険料から差し引かれるので、最初の3か月は立て替えた分だけ支払いが増えます。資金繰りの表に入れておきます。計算は表計算で行い、AIには計算させません。協会けんぽ以外の健康保険組合の場合は、各組合に保険料率を確かめます。
AIに渡すと、説明の文と確かめる点が返ってくる
AIに渡す指示(見本):
下は、日本年金機構の保険料調整制度の案内の文です。当社のパートの方に配る説明の文を、A4で1枚に下書きしてください。「どんな制度か」「誰が対象か」「いつから、何年間か」「将来の年金は減らないこと」を、パートの方が読んで分かる言葉で書いてください。保険料の金額は書かず、「一人ひとりの額は別にお知らせします」と書いてください。案内にないことは書かないでください。あわせて、社長が使うかを決める前に確かめる点の一覧を作ってください。
返ってくる確かめる点(見本の一部。内容は案内にもとづく例です):
- 当社は、2026年10月1日の時点で特定適用事業所になっていないか
- 申出の期限はいつか
- 途中でやめられないことを承知したか
- 最初の3か月の立て替えの額を、資金繰りに入れたか
- 保険料を納付期限までに納める体制があるか
途中でやめられず、納付が遅れると戻らない
使うと決める前に、次の点を確かめます。
- 途中でやめられない。 日本年金機構の案内によると、事業主からの申し出でやめることはできず、利用期間中は決まった割合の上乗せを必ず行います
- さかのぼって使えない。 制度を使い始めるのは、申出書が受け付けられた月からです
- 納付が遅れると戻らない。 保険料を納付期限(翌月末)までに納めず、督促状の期限までにも納めなかった月は、立て替えた分が戻りません
- 対象のパートが0人になると止まる。 申出の期限内に対象の人が0人になると自動で止まり、続けるには停止解除の申出書が要ります
型をスキルにし、計算と決定はAIの外に置く
型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「パートへの説明の文の型」「確かめる点の一覧」「書いてはいけないこと(保険料の金額、案内にない条件、手取りの約束)」をスキルにします。
計算と決定は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、軽くなる額を日本年金機構の表と表計算で出すこと、対象の事業所かを年金事務所で確かめること、使うかを社長が決めることがそれに当たります。
費用は、制度そのものは追加の負担がなく、立て替えの資金が要る
日本年金機構の案内によると、立て替えた分は3か月後に戻るので、最終的に会社が納める保険料は増えません。要るのは、最初の3か月分の立て替えの資金です。説明の文の下書きは、会社で契約した、入力をAIの学習に使わない法人向けのプランのチャットで足ります。費用は1人あたり月数千円です。社会保険労務士に手続きを頼む場合は、その費用が加わります。
必要な人は3役で、使うかを決めるのは社長
- 社長:対象の事業所かと期限を確かめ、使うかを決める
- 担当(給与の担当):対象のパートの一覧と、軽くなる額、立て替えの額を計算し、届書を早めに出す
- 社会保険労務士(頼むなら):対象かどうかと手続きを確かめる
日本年金機構の案内では、資格取得届や報酬月額変更届などの届書を、速やかに正しく出すよう求めています。軽くなる額の計算に影響するからです。
1か月で使うかが決まり、加入の前に説明できる見込み
- 1週目:日本年金機構の案内で、自社が対象か、申出の期限はいつかを確かめる
- 2週目:対象のパートの一覧と、軽くなる額、立て替えの額を表で計算する
- 3週目:AIで説明の文を下書きし、社長が使うかを決める
- 4週目:使うなら開始の申出書を出し、パートに説明の文と一人ひとりの額を渡す
パートとの面談の進め方は、パートの働き方の希望を面談で先に聞く|来年のシフトに穴を開けないで説明しています。
まとめ
- 2026年10月に、新しく社会保険の加入対象になるパートの保険料を、会社の立て替えで通算3年間軽くできる制度が始まった
- 立て替えた分は3か月後に戻り、最終的に会社が納める保険料は増えず、パートの将来の年金も減らない
- 対象は2026年10月以降に任意で加入対象にした事業所や、2027年10月以降に新しく特定適用事業所になる事業所で、すでに特定適用の事業所は対象外
- 軽くなる額は日本年金機構の表と表計算で出し、AIにはパートへの説明の文と確かめる点を下書きさせる
- 途中でやめられず、納付が遅れた月は戻らないので、使うかは社長が確かめてから決める