経営課題×AI

賃上げ促進税制の使い方|給与総額を1.5%増やすと増えた分の15%を控除

この記事で変わる経営指標

この記事では、中小企業が賃上げをするときに、その一部を法人税から取り戻せる「賃上げ促進税制」の使い方を説明します。一言でいうと、月ごとの給与の総額を表で持ち、前の年と比べた伸びを計算で見張る。賃上げを決めたら、AIに社員への説明と、税理士に相談するときの準備の一覧を下書きさせる。使えるかどうかと控除の額は、税理士と確かめるという話です。

AIの価値は、税金を計算することではありません。賃上げの判断に必要な数字を早くそろえ、社員に賃上げの意味を分かりやすく伝え、人を採り、辞めさせない会社にすることです。

経営への効果は、賃上げの負担を軽くし、人を採りやすくすること

賃上げの進め方は、表とAIを使うと次のように変わります。

今まで 給与は表で、説明はAIで
給与の伸び 決算のあとで税理士に言われて知る 月ごとに前の年と比べて見張る
賃上げの決め方 勘で決める 伸びの率と控除の見込みを見て決める
社員への伝え方 給与明細で知らせるだけ 賃上げの理由と金額を文で伝える
税理士への相談 決算の直前 準備の一覧を持って期の途中で
税の控除 使えたのに使っていない 使えるかを早めに確かめる
賃上げと税の控除の進め方の変化。今までは決算のあとで給与の伸びを知り、控除を使えていないこともあった。月ごとの給与の総額を表で持って前の年との伸びを計算し、AIが社員への賃上げの説明と税理士への相談の準備を下書きし、使えるかどうかと控除の額は税理士と確かめる
賃上げと税の控除の進め方の変化。今までは決算のあとで給与の伸びを知り、控除を使えていないこともあった。月ごとの給与の総額を表で持って前の年との伸びを計算し、AIが社員への賃上げの説明と税理士への相談の準備を下書きし、使えるかどうかと控除の額は税理士と確かめる

経営の効果は2つあります。

  • 賃上げの負担を軽くする。 給与の総額が前の年より増えれば、増えた分の一部を法人税から差し引けます。賃上げをするなら、使える仕組みは使います
  • 人を採り、辞めさせない。 賃上げの理由と中身を社員にきちんと伝えると、賃上げが社員の気持ちに届きます。採用の求人でも、賃上げに取り組む会社だと示せます

中小企業向けは、2027年3月までに始まる年度まで使える

賃上げ促進税制は、会社の給与の総額が前の年より増えたときに、増えた分の一部を法人税から差し引ける仕組みです。2026年度の税制改正で、大企業向けは廃止されましたが、中小企業向けは続いています(税務研究会、マネーイズム、補助金ポータルの解説による)。

中小企業向けの主な中身は、次のとおりです(マネーイズム、補助金ポータルの解説による)。

給与の総額の伸び(前の年と比べて) 増えた分のうち差し引ける割合
1.5%以上 15%
2.5%以上 30%
さらに女性の活躍や子育ての支援の認定(くるみん・えるぼしなど)がある 最大35%

法人は、2024年4月1日から2027年3月31日までの間に始まる事業年度が対象です(マネーイズム、安田公認会計士事務所による)。2026年4月1日以後に始まる事業年度からは、教育訓練費を増やしたときの上乗せがなくなりました(税務研究会、補助金ポータル、マネーイズムによる)。

差し引ける額は、その年の法人税の額の20%が上限です。中小企業は、赤字などで差し引けなかった分を5年間繰り越せます(税務研究会、e-人材の解説による)。細かい要件と計算は、国税庁と中小企業庁の最新の資料で確かめ、税理士に見てもらってください。2026年10月時点の情報です。

計算の例(想定)。 前の年の給与の総額が5,000万円の会社が、1.5%増やして75万円増えると、その15%の約11万円を差し引けます。2.5%増やして125万円増えると、その30%の37.5万円を差し引けます。ただし、法人税の額の20%が上限です。

小さな会社ほど、使えたのに使っていない

賃上げと税の控除で、小さな会社が困るのは次の3つです。

  • 給与の伸びを見ていない。 給与の総額を前の年と比べるのは決算のときで、期の途中では分かりません
  • 使えることを知らない。 賃上げをしていても、税理士との話に出ないまま、控除を使わずに終わることがあります
  • 賃上げが社員に伝わらない。 給与明細の金額が少し変わるだけでは、会社が何を考えて賃上げをしたかが伝わりません

給与の伸びは、給与ソフトの数字から表で計算できます。社員への説明と、税理士への相談の準備は、AIで下書きできます。

給与の伸びは表で計算し、AIは説明と相談の準備を書く

人がすること(最初に)。 社長と経理の担当者が、給与ソフトから、月ごとの給与の総額(賞与を含む)を前の年の分と並べて表にします。役員の報酬など、給与の総額に入れないものの扱いは、税理士に確かめます。

計算で行うこと。 表で、期の初めからの給与の総額の合計を前の年の同じ時期と比べ、伸びの率を出します。賃上げを決めるときは、上げる額から、期の終わりの伸びの率と、差し引ける額の見込みを計算します。毎月の表の作り方は、賃上げ促進税制の1.5%、決算前に届くか分かる?|給与総額の伸び率の出し方で説明しています。

AIに頼むこと。 社長が決めた賃上げの中身と、表で出した数字(伸びの率の見込み)をもとに、次のものを下書きしてもらいます。

  • 社員への賃上げの説明:賃上げの理由、いつから、どのくらい、会社がこれから目指すこと。個人の金額は書かない
  • 税理士に相談するときの準備の一覧:給与の総額の比べ方、決算期、認定の有無、確かめたいこと
  • 社長が読む1枚:伸びの率の見込みと、差し引ける額の見込み、決めることと期限

人がすること(そのあと)。 社長が、税理士と、使えるかどうかと控除の額を確かめます。社員への説明は、朝礼や面談で社長が自分の言葉で伝えます。

AIへの頼み方と、返ってくる説明はこんな形になる

AIに渡す指示(見本。内容は架空です):

下は、当社が来月から行う賃上げの中身です。社員に向けた説明を、A4で1枚、分かりやすい言葉で下書きしてください。賃上げの理由、いつから、全体でどのくらい上げるかを書き、個人の金額や税の話は書かないでください。

返ってくる説明(見本の一部):

来月から、給与を上げます

  • 物の値段が上がるなかで、皆さんの暮らしを支えるため、来月の給与から基本給を上げます
  • 全体では、給与の総額で前の年より2.5%ほど増える見込みです
  • 一人ひとりの金額は、来月の給与明細と面談でお伝えします
  • これからも、仕事の効率を上げ、その分を皆さんに返していきます

社長は、自分の言葉に直してから伝えます。

給与の表と判断はAIの外に置き、説明の型はスキルにする

ここまでの使い方は、そのつどAIのチャットに頼む場合です。毎年の賃上げで同じように使うなら、もう一段の工夫をしておくと安定します。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

説明と相談の準備の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「社員への賃上げの説明の型」「税理士への相談の準備の型」「社長が読む1枚の型」「書いてはいけないこと(個人の金額、税の控除を賃上げの理由のように書くこと、表にない数字、約束できない将来の賃上げ)」をスキルにします。

給与の表と判断は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、給与の総額を給与ソフトから表に写すこと、伸びの率と控除の見込みを表で計算すること、使えるかどうかと控除の額を税理士と確かめることがそれに当たります。社員一人ひとりの給与は、AIに渡しません。

明日からは、給与の総額を前の年と並べる

  1. 給与ソフトから、前の年と今の年の、月ごとの給与の総額(賞与を含む)を出し、表に並べる
  2. 期の初めから今月までの合計を比べ、伸びの率を出す
  3. 賃上げを考えているなら、上げる額から期の終わりの伸びの率を計算する
  4. 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに、決めた賃上げの中身を渡し、上の見本の指示で社員への説明を下書きさせる
  5. 税理士に、表と準備の一覧を持って、使えるかどうかを相談する

本格的にやるなら、賃上げの原資を仕事の効率から生む

一度できたら、次の形に育てます。

税の判断と、個人の給与はAIに任せない

  • 使えるかどうかは税理士と。 要件に当たるか、給与の総額に何を含めるかは、税理士に確かめます
  • 控除の額は税理士と計算する。 AIに控除の額を計算させません
  • 個人の給与をAIに渡さない。 一人ひとりの給与は、大事な個人の情報です。AIに渡すのは、全体の伸びの率と、賃上げの中身だけです
  • 賃上げの決定は社長が行う。 AIは説明の下書きまでです。決め方は生成AIの社内ルールの作り方|A4で1枚、社員が安心して使える3つの決めごとの考え方で、会社の決まりとしてそろえます

まとめ

  • 中小企業向けの賃上げ促進税制は、給与の総額が前の年より1.5%以上増えると増えた分の15%、2.5%以上で30%、認定があれば最大35%を法人税から差し引ける
  • 法人は2027年3月31日までに始まる事業年度が対象。2026年4月以後に始まる事業年度から教育訓練費の上乗せはなくなった。控除は法人税の額の20%が上限で、5年間繰り越せる
  • 月ごとの給与の総額を表で持ち、前の年と比べた伸びの率と控除の見込みを計算する
  • AIは、社員への賃上げの説明、税理士への相談の準備、社長が読む1枚を下書きする
  • 使えるかどうかと控除の額は税理士と確かめ、個人の給与はAIに渡さない

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