経営課題×AI

パートの社会保険の加入拡大に慌てない。対象者は表で出し、本人への説明はAIで

この記事で変わる経営指標

この記事では、パートやアルバイトを雇っている中小企業が、社会保険(健康保険と厚生年金保険)の加入拡大に慌てずに備える方法を説明します。一言でいうと、国の資料から、自社に関係する要件と時期を、人が1枚の要点の一覧にまとめる。加入の対象になる社員は、勤怠の表から計算で出す。AIは、その要点の一覧から、本人向けの説明資料と、働き方の希望を聞く面談の準備を下書きする。加入の判断と手続きは、担当者と社会保険労務士が行うという話です。

AIの価値は、制度を判断することではありません。制度の変わり目に、社員一人ひとりに分かる言葉で早めに伝え、働き方の希望を聞いて、人手と費用の見通しを立てる時間を作ることです。

経営への効果は、人手の見通しと費用の見通しが立つこと

加入拡大への備えは、AIを使うと次のように変わります。

今まで 対象者は表で、説明はAIで
対象になる社員 時期が来てから調べる 勤怠の表から計算で一覧に
本人への説明 口頭で、人によって違う 要点の一覧から説明資料を下書き
働き方の希望 聞かないまま年末に相談が来る 面談で聞くことを用意して聞く
会社の費用 加入してから気づく 対象者の一覧から見通しを計算
手続き 慌てて調べる 社会保険労務士とまとめて確かめる
パートの社会保険の加入拡大への備えの変化。今までは時期が来てから調べ、口頭で人によって違う説明をしていた。人が国の資料から要点の一覧を作り、対象者は勤怠の表から計算で出し、AIが本人向けの説明資料と面談で聞くことを下書きし、加入の判断と手続きは担当者と社会保険労務士が行う
パートの社会保険の加入拡大への備えの変化。今までは時期が来てから調べ、口頭で人によって違う説明をしていた。人が国の資料から要点の一覧を作り、対象者は勤怠の表から計算で出し、AIが本人向けの説明資料と面談で聞くことを下書きし、加入の判断と手続きは担当者と社会保険労務士が行う

経営の効果は2つあります。

  • 人手の見通しが立つ。 社会保険に入ることを避けるために働く時間を減らす人もいれば、加入して長く働きたい人もいます。早めに本人の希望を聞いておけば、来年のシフトと人手の見通しが立ちます
  • 費用の見通しが立つ。 社会保険料は、会社と本人が負担します。対象になる社員が分かれば、会社の負担がどれだけ増えるかを前もって計算し、価格や人の配置を考えられます

106万円の壁は2026年10月に撤廃、人数の要件も下がる

厚生労働省の資料(令和8年1月作成)によると、パートやアルバイトなどの短い時間で働く人が社会保険に入る要件は、次の4つです。

  1. 決まった賃金が月8.8万円以上(賃金要件。いわゆる106万円の壁)
  2. 週の決まった働く時間が20時間以上
  3. 勤め先の従業員数が51人以上(企業規模要件)
  4. 学生ではない

同じ資料は、すべての都道府県で最低賃金が時給1,016円を超えたため、週20時間以上働けば月の賃金が8.8万円以上になり、賃金要件を自動的に満たすと説明しています。そのうえで、2025年に成立した年金制度改正法に基づき、2026年10月に賃金要件を撤廃する予定としています(オフィスステーション、マネーフォワード クラウドの解説も同じ時期を示しています)。

企業規模要件も、段階的に下がっていきます(厚生労働省の資料、オフィスステーションの解説による)。

時期 対象になる会社の従業員数
現在 51人以上
2027年10月から 36人以上
2029年10月から 21人以上
2032年10月から 11人以上
2035年10月から 人数の要件なし

今は対象でない小さな会社も、数年のうちに順に対象になります。従業員の数え方や、そのほかの細かい要件、施行の状況は、日本年金機構と厚生労働省の最新の資料で確かめ、社会保険労務士に見てもらってください。2026年10月時点の情報です。

小さな会社ほど、説明と希望の聞き取りが後回しになる

加入拡大への備えで、小さな会社が困るのは次の3つです。

  • 誰が対象になるかを、すぐに出せない。 週の働く時間が月によって違うパートが多いと、対象者の一覧を作るのに手間がかかります
  • 本人への説明が人によって違う。 「入ると手取りが減るのか」「将来の年金はどうなるのか」と聞かれても、担当者がその場で答えられず、言うことがばらつきます
  • 働き方の希望を聞かないまま進む。 加入を避けたい人が年末に急に働く時間を減らすと、シフトに穴が開きます

制度そのものは決まっているので、説明の中身は前もって作れます。ここは、AIと計算で手伝いやすい仕事です。

対象者は表から計算し、AIは要点の一覧から説明資料を下書きする

人がすること(最初に)。 厚生労働省と日本年金機構の資料から、自社に関係する要件と時期、加入すると変わること(保険料が給与から引かれること、将来の年金や病気のときの手当にかかわることなど)を、1枚の要点の一覧にまとめます。社会保険労務士に確かめてもらいます。

計算で行うこと。 勤怠の表から、パートやアルバイトの社員ごとに、週の決まった働く時間を出し、要件に当たる人と、当たりそうな人(20時間の前後)を一覧にします。自社の従業員数から、企業規模要件で対象になる時期も出します。

AIに頼むこと。 要点の一覧をもとに、次のものを下書きしてもらいます。

  • 本人向けの説明資料:制度が変わること、いつから、加入すると何が変わるかを、A4で1枚、分かりやすい言葉で
  • 面談で聞くことの一覧:これからの働き方の希望、働く時間を増やしたいか減らしたいか、心配なこと
  • よくある質問と答え:要点の一覧にあることだけで。個人の手取りや年金の額は書かず、「担当者に相談を」と書く

人がすること(そのあと)。 担当者が、説明資料を確かめて渡し、面談で希望を聞きます。加入の手続きと、個人の手取りの計算は、担当者と社会保険労務士が行います。

AIへの頼み方と、返ってくる説明資料はこんな形になる

AIに渡す指示(見本。内容は架空です):

下は、社会保険労務士に確かめてもらった、社会保険の加入拡大の要点の一覧と、当社の対象の時期です。パートの社員向けの説明資料を、A4で1枚、分かりやすい言葉で下書きしてください。要点の一覧に書かれていないことは書かず、個人の手取りや年金の額、加入するかどうかの判断は「担当者に相談してください」と書いてください。そのあとに、面談で聞くことを5つ作ってください。

返ってくる説明資料(見本の一部):

社会保険の加入のしくみが変わります

  • 週20時間以上働く人は、社会保険の加入の対象になります
  • 当社では、○年○月から対象になります
  • 加入すると、保険料が給与から引かれます。病気やけがで休んだときの手当や、将来の年金にもかかわります
  • あなたの場合にどうなるかは、○月の面談でお話しします。それまでに分からないことは、担当の○○に聞いてください

担当者は、要点の一覧と照らして中身を確かめ、面談の日を入れて渡します。

要点の一覧と対象者の計算はAIの外に置き、説明の型はスキルにする

ここまでの使い方は、そのつどAIのチャットに頼む場合です。人数の要件が下がるたびに続けるなら、もう一段の工夫をしておくと安定します。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

説明資料と面談の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「本人向けの説明資料の型」「面談で聞くことの型」「よくある質問の型」「書いてはいけないこと(要点の一覧にないこと、個人の手取りや年金の額、加入するかどうかの判断、働く時間を減らすようすすめる言い方)」をスキルにします。

要点の一覧と、対象者の計算は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、国の資料から人が作り、社会保険労務士が確かめた要点の一覧だけをAIに渡すこと、勤怠の表から対象者を計算すること、会社の保険料の負担の見通しを給与ソフトや表で計算することがそれに当たります。AIは制度の細かい条件を間違えることがあるので、判断と金額の計算はさせません。

明日からは、勤怠の表から週20時間の前後の人を出す

  1. 勤怠の表から、パートやアルバイトの社員ごとに、ここ数か月の週の働く時間を出す
  2. 週20時間以上の人と、20時間の前後の人を一覧にする。自社の従業員数から、企業規模要件で対象になる時期を確かめる
  3. 厚生労働省と日本年金機構の資料から要点の一覧を作り、社会保険労務士に確かめてもらう
  4. 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに要点の一覧を渡し、上の見本の指示で説明資料と面談で聞くことを下書きさせる
  5. 対象になりそうな社員と面談し、働き方の希望を聞いて、来年のシフトの見通しを立てる。希望の時間を表に残してシフトの見通しを計算する作り方は、パートの希望を先に聞き、来年のシフトに穴を開けない。面談の準備と記録をAIでで説明しています

本格的にやるなら、人数の要件が下がる時期ごとに見直す

一度できたら、次の形に育てます。

  • 人数の要件が下がる時期の前に見直す。 自社の従業員数と、要件が下がる時期を表で持ち、対象になる半年前に知らせが出るようにします。期限を表で管理する考え方は、許可や資格の期限切れで仕事を止めない。更新の期限は表で持ち、準備はAIでで説明しています
  • 会社の負担の見通しを計算する。 対象者の一覧と賃金から、会社の保険料の負担を給与ソフトや表で計算し、価格や人の配置を考える材料にします
  • よくある質問を育てる。 面談で実際に出た質問を記録し、要点の一覧と照らして答えを足します
  • 年末調整の案内とそろえる。 所得税の基準と社会保険の基準は別です。年末調整の案内と一緒に説明すると、社員の混乱が減ります。考え方は年末調整を11月に慌てない。178万円の壁の案内と書類の確認をAIで手伝うで説明しています

加入の判断と手続き、個人の手取りの計算はAIに任せない

  • 加入の判断と手続きは人が行う。 要件に当たるかの判断と、日本年金機構への届け出は、担当者と社会保険労務士が行います
  • 個人の手取りや年金の額は計算しない。 AIに個人の金額を計算させません。必要なら給与ソフトと専門家で計算します
  • 働く時間を減らすよう、すすめない。 本人の希望を聞き、本人が決められるように情報を伝えます
  • 社員の情報に気をつける。 賃金や家族の状況は、大事な個人の情報です。AIに渡すのは要点の一覧だけにし、対象者の一覧は社内の表で持ちます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています

まとめ

  • 社会保険の加入の賃金要件(106万円の壁)は2026年10月に撤廃される予定で、週20時間以上働けば加入の対象になる(厚生労働省の資料)
  • 企業規模要件も、2027年10月に36人以上、2029年10月に21人以上、2032年10月に11人以上と下がり、2035年10月になくなる
  • 対象になる社員は、勤怠の表から計算で出し、会社の負担の見通しも表で計算する
  • AIは、国の資料から人が作り専門家が確かめた要点の一覧から、本人向けの説明資料と面談で聞くことを下書きする
  • 加入の判断と手続き、個人の手取りの計算は、担当者と社会保険労務士が行う

CONTACT

自社の業務にも、AIを組み込めるか

記事のような組み込みを、御社の業務と予算に合わせて設計・実装しています。何から手を付ければいいか分からない段階でも大丈夫です。

AI活用を相談する