免税の外注先との取引を見直す。影響額は表で、相談の文はAIで
この記事では、インボイスの登録番号を持たない個人の外注先や仕入先と取引のある会社が、経過措置の見直しに慌てずに備える方法を説明します。一言でいうと、取引先の一覧と1年分の支払いから、登録番号のない取引先を照らし出し、取引先ごとの影響額を表で計算する。AIは、その表をもとに、取引先への相談の文と、社内向けの説明を下書きする。価格は一方的に決めず、税理士と確かめたうえで取引先と話し合うという話です。
AIの価値は、税金の計算をすることではありません。影響の大きい取引先から順に、早めに、失礼のない形で相談を始め、大事な外注先との関係を守りながら利益の目減りを抑えることです。
経営への効果は、利益の目減りを知り、外注先を失わないこと
免税の取引先への備えは、AIを使うと次のように変わります。
| 今まで | 影響額は表で、相談の文はAIで | |
|---|---|---|
| 登録番号のない取引先 | 請求書が来るたびに気づく | 一覧と照らして一度に出す |
| 影響額 | 分からないまま決算で気づく | 取引先ごとに表で計算 |
| 相談の順番 | 思いついた先から | 影響の大きい先から |
| 相談の文 | 言いにくくて後回し | 失礼のない形で下書き |
| 価格の話し合い | 一方的な通告になりがち | 根拠を示して話し合う |
経営の効果は2つあります。
- 利益の目減りを前もって知る。 控除できる割合が下がると、同じ金額を払っていても、会社が納める消費税が増えます。取引先ごとの影響額が分かれば、価格や発注の見直しを、決算の前に考えられます
- 大事な外注先を失わない。 腕のよい個人の職人やデザイナーは、代わりが見つかりにくい相手です。一方的に値下げを迫れば、関係が壊れるだけでなく、法律の上でも問題になりえます。早めに、根拠を示して相談すれば、登録の検討や価格の見直しを一緒に考えられます
2026年10月から、控除の割合は80%から70%に
インボイス制度では、登録番号のない免税事業者からの仕入れは、本来、消費税の仕入税額控除ができません。ただ、経過措置として、一定の割合を控除できるようになっています。令和8年度税制改正で、この割合と期間が見直されました(弥生、山田&パートナーズの解説による)。
| 期間 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 2023年10月1日から2026年9月30日まで | 80% |
| 2026年10月1日から2028年9月30日まで | 70% |
| 2028年10月1日から2030年9月30日まで | 50% |
| 2030年10月1日から2031年9月30日まで | 30% |
改正前は、2026年10月から50%になり、2029年9月で終わる予定でした(弥生の解説による)。改正で下がり方はゆるやかになりましたが、割合は段階的に下がり続けます。弥生の解説によると、1つの免税事業者からの仕入れでこの経過措置を使える上限も、2026年10月1日以後に始まる課税期間から、税込み1億円に下がりました。
取引条件の見直しには注意が要ります。公正取引委員会は、免税事業者とその取引先向けのQ&Aや注意事例で、発注する側が一方的に「消費税相当額を払わない」と通告するなどの行為は、独占禁止法や下請けの取引の法律の上で問題になりうるとしています(BUSINESS LAWYERS、税務研究会の解説による)。細かい計算と取引への当てはめは、国税庁と公正取引委員会の最新の資料で確かめ、税理士に見てもらってください。2026年10月時点の情報です。
小さな会社ほど、言いにくくて後回しになる
免税の取引先への備えで、小さな会社が困るのは次の3つです。
- どの取引先が該当するか、すぐに出せない。 請求書に登録番号があるかを、一枚ずつ見ないと分かりません。取引先が多いと、全体の影響が見えません
- 影響額が分からない。 年にいくら払っているか、そのうち消費税相当はいくらか、割合が下がるといくら増えるかを、取引先ごとに計算していないと、手を打つ順番が決まりません
- 相談しにくい。 長く付き合ってきた個人の外注先に、登録や価格の話を切り出すのは気が重く、後回しになりがちです
照らし出しと計算は、表でできます。相談の文の下書きは、AIで手伝いやすい仕事です。
照らし出しと計算は表で、AIは相談の文と説明を書く
人がすること(最初に)。 経理の担当者が、取引先の一覧に登録番号の欄を足し、国税庁の公表サイトで登録の有無を確かめます。会計ソフトから、取引先ごとの1年分の支払額を出します。
計算で行うこと。 登録番号のない取引先について、表で次のものを計算します。
- 1年分の支払額(税込み)と、そのうちの消費税相当額
- 控除できる割合が80%のときと、70%、50%、30%のときの差
- 影響額の大きい順の並び
AIに頼むこと。 表の結果をもとに、次のものを下書きしてもらいます。
- 取引先への相談の文:制度が変わったこと、登録の予定があるかを伺うこと、今後の取引について話し合いたいこと。一方的に価格を決める言い方はしない
- 社内向けの説明:影響額の合計と大きい取引先、相談の順番、決めることを、社長が読む1枚に
- 話し合いで聞くことの一覧:登録の予定、取引の量の見込み、価格の考え方
人がすること(そのあと)。 社長が、相談の順番と方針を決め、税理士に確かめてもらいます。取引先とは、相手の事情を聞きながら話し合います。
AIへの頼み方と、返ってくる相談の文はこんな形になる
AIに渡す指示(見本。内容は架空です):
下は、当社が長く仕事をお願いしている個人のデザイナーへの相談の前提です(取引の年数、年間の発注の目安、登録番号がないこと、経過措置の割合が2026年10月から70%に下がったこと)。この方に送る相談のメールを下書きしてください。これまでの感謝を伝え、制度の変更を短く説明し、登録の予定があるかを伺い、今後について一度話し合いたいとお願いする内容にしてください。価格を下げる、消費税分を払わないなど、一方的に条件を決める言い方は書かないでください。
返ってくる相談の文(見本の一部):
いつも丁寧なお仕事をありがとうございます。 インボイス制度の経過措置が、2026年10月から見直されました。登録番号のない方からの仕入れで当社が控除できる割合が、これまでの80%から70%に下がっています。 つきましては、今後の登録のご予定があるかを伺えますでしょうか。今後のお取引について、○○さまのご事情もお聞きしながら、一度ご相談させていただければ幸いです。
社長は、相手との関係に合わせて言い回しを直し、税理士に方針を確かめてから送ります。
計算はAIの外に置き、相談の文の型はスキルにする
ここまでの使い方は、そのつどAIのチャットに頼む場合です。取引先が多い会社なら、もう一段の工夫をしておくと安定します。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
相談の文と説明の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「相談の文の型(感謝、制度の説明、登録の予定の確認、話し合いのお願い)」「社内向けの説明の型」「話し合いで聞くことの型」「書いてはいけないこと(一方的な値下げや支払いの打ち切りの通告、登録を強いる言い方、取引をやめることをにおわせる言い方、税額の断定)」をスキルにします。
照らし出しと影響額の計算は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、国税庁の公表サイトで登録の有無を確かめること、会計ソフトの支払額から影響額を表で計算すること、税理士が方針を確かめることがそれに当たります。AIは割合の時期や税額を取り違えることがあるので、数字は表で出し、AIには計算させません。
明日からは、1年分の支払いが多い取引先10社を調べる
- 会計ソフトから、外注費と仕入れの取引先ごとの1年分の支払額を出し、多い順に並べる
- 上位10社について、請求書と国税庁の公表サイトで、登録番号があるかを確かめる。毎月照らし合わせる表の作り方は、取引先の登録番号を毎月照らし合わせる。影響額は表、確認の文はAIで説明しています
- 登録番号のない取引先について、消費税相当額と、割合が80%と70%のときの差を表で計算する
- 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに、取引先の名前を伏せた前提を渡し、上の見本の指示で相談の文を下書きさせる
- 税理士に方針を確かめ、影響の大きい取引先から相談を始める
本格的にやるなら、割合が下がる時期ごとに見直す
一度できたら、次の形に育てます。
- 割合が下がる時期の前に見直す。 2028年10月の50%、2030年10月の30%の前に、表を更新して影響額を出し直します。期限を表で管理する考え方は、許可や資格の期限切れで仕事を止めない。更新の期限は表で持ち、準備はAIでで説明しています
- 請求書を受け取るときに確かめる。 請求書を読み取るときに、登録番号の有無も確かめる形にします。作り方は請求書の入力を月25時間から8時間に。AIで読み取り、登録番号まで確かめる方法で説明しています
- 発注書とそろえる。 外注先への発注の条件は、取適法の決まりにも合わせます。考え方は外注先への発注を取適法に合わせる。発注書と支払期日をAIと計算で点検するで説明しています
- 自社の価格も見直す。 納める消費税が増える分は、自社の売値の見直しの材料にもなります。考え方は取引先に値上げを受け入れてもらう方法。根拠の資料をAIで作るで説明しています
税額の判断と、価格の決め方はAIに任せない
- 税額は税理士と確かめる。 経過措置の当てはめや、課税期間ごとの上限は、税理士に確かめます。AIに税額を断定させません
- 価格を一方的に決めない。 取引条件は、相手の事情を聞いて話し合って決めます。一方的な値下げや支払いの打ち切りは、法律の上で問題になりえます
- 登録を強いない。 登録するかどうかは、取引先が決めることです。会社は、制度の変更と自社の事情を伝えるまでにします
- 取引先の情報に気をつける。 取引先の名前や支払額は、大事な取引の情報です。AIに渡すときは名前を伏せ、会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱います。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています
まとめ
- 令和8年度税制改正で、免税事業者からの仕入れで控除できる割合は、2026年10月から70%、2028年10月から50%、2030年10月から30%と下がる(弥生、山田&パートナーズの解説)
- 登録番号のない取引先は、取引先の一覧と国税庁の公表サイトで照らし出し、影響額は表で計算する
- AIは、計算した表をもとに、取引先への相談の文と社内向けの説明を下書きする
- 一方的に価格を決める行為は、法律の上で問題になりうる。相手の事情を聞いて話し合う
- 税額の判断と方針は、税理士に確かめる