動物病院の診療簿をAIで整える|決められた6項目を漏れなく書く
この記事で変わる経営指標
この記事では、動物病院のAI活用|説明の紙と予防の案内で飼い主の信頼を深めるの「診療の記録は、獣医師のメモを整える」を、毎日の診療で続けられる手順にして説明します。
一言でいうと、獣医師が、診療のメモをそのまま残す。AIが、獣医師法の施行規則で決められた6つの項目の欄に分け、空いている欄に印を付ける。獣医師が読んで、診ていないことが足されていないかを確かめて直す。院長が決めた保存の決まりに沿って残す。診断と処方は獣医師が決めるという形です。
経営への効果は、閉院後の記録の時間を減らし、記録の抜けを防ぐこと
診療が続く日は、診療簿を書く時間が閉院後に回ることがあります。疲れたなかで思い出しながら書くと、書く時間がかかるうえに、症状や飼い主から聞いたことが抜けがちです。
獣医師のメモから、決められた項目の欄に分けた下書きがすぐにできれば、獣医師は読んで直すだけになります。空いている欄に印が付けば、書き忘れにもその場で気づけます。記録の時間が減れば、そのぶん診療や飼い主への説明に時間を回せます。
獣医師法で、診療簿の記載と保存が決まっている
e-Gov法令検索で獣医師法を確かめると、第21条で、獣医師は診療をした場合には、診療に関する事項を診療簿に遅滞なく記載しなければならないとされています。診療簿は、3年以上で農林水産省令で定める期間、保存しなければなりません。電子的な記録で作ったり保存したりしている場合も、検査の対象になると書かれています。
獣医師法施行規則の第11条では、診療簿に少なくとも次の事項を書くことになっています。
| 項目 | 中身 |
|---|---|
| 1 診療の年月日 | 診療した日 |
| 2 動物について | 種類、性、年齢(分からないときは推定年齢)、名号、頭羽数、特徴 |
| 3 飼い主について | 所有者または管理者の氏名または名称、住所 |
| 4 病名と主要症状 | 診断した病名と、主な症状 |
| 5 稟告(りんこく) | 飼い主から聞いた経過や様子 |
| 6 治療方法 | 処方と処置 |
第11条の2では、保存の期間が決められています。牛、水牛、しか、めん羊、山羊の診療簿は8年間、それ以外の動物(犬や猫など)の診療簿は3年間です。2026年10月時点の情報です。
今は、記録の書き方が獣医師ごとに違う
小さな動物病院では、獣医師ごとに記録の書き方が違うことがあります。ある獣医師は稟告を細かく書き、別の獣医師は処方だけを書きます。紙のカルテと電子カルテが混ざっていることもあります。
書き方がばらばらだと、ほかの獣医師が次の診療で前回の記録を読むときに、必要なことが見つかりません。施行規則の6つの項目を欄にして、誰が書いても同じ形にすることが、記録の手間と抜けの両方を減らす近道です。
メモし、AIが整え、確かめて、残す
1 メモする(獣医師)。 診療中や診療の直後に、思いついた順でメモを残します。声で入力した文でも構いません。
2 整える(AI)。 メモを渡し、6つの項目の欄に分け、空いている欄に印を付けてもらいます。
3 確かめる(獣医師)。 下書きを読み、診ていないことや言っていないことが足されていないかを確かめて直します。
4 残す(院長)。 院長が決めた保存の決まりに沿って、紙か電子カルテに残します。
AIへの頼み方と、返ってくる下書きはこうなる
AIに渡す指示(見本):
下は、獣医師の診療のメモです。飼い主の名前と住所は記号にしてあります。次の6つの欄に分けて、診療簿の下書きにしてください。「1 診療の年月日」「2 動物(種類、性、年齢、名号、特徴)」「3 飼い主(記号)」「4 病名と主要症状」「5 稟告」「6 治療方法(処方と処置)」。メモにないことは書かず、空いている欄には【メモになし】と書いてください。病名や処方を推測で補わないでください。
返ってくる下書き(見本。内容は架空です):
1 診療の年月日:10月25日 2 動物:犬、雄、5歳、名号「A」、茶色の短毛 3 飼い主:記号B 4 病名と主要症状:【メモになし】(症状:右の耳をかゆがる、赤み) 5 稟告:3日前から右耳を後ろ足でかく。食欲はある 6 治療方法:耳の洗浄、点耳薬を処方(薬名と量は【メモになし】)
獣医師は、【メモになし】のところに病名と薬名と量を書き足し、ほかの欄に診ていないことが入っていないかを確かめます。
稟告は、飼い主の言葉のまま残す
6つの項目のうち、稟告は飼い主から聞いた経過や様子です。次の診療や、ほかの獣医師が診るときに大事な手がかりになります。
- 飼い主の言葉をそのまま書く。 「3日前から」「夜になるとかく」のように、聞いたままを残します
- AIに言い換えさせない。 「慢性的な掻痒」のように専門の言葉に言い換えると、飼い主が何と言ったのかが分からなくなります。指示で「稟告は言い換えない」と決めておきます
- 獣医師の見立ては別の欄に書く。 稟告と、獣医師が診て分かったことを混ぜないようにします
受付で聞いたことを、看護師がメモにしてから獣医師に渡す病院もあります。その場合も、メモは聞いたままにしておきます。
飼い主の名前と住所は、AIに渡さずに残す
施行規則では、飼い主の氏名と住所を診療簿に書くことになっています。けれども、AIには渡しません。
- AIには記号で渡す。 「飼い主B」のように置き換えてから渡します
- 名前と住所は、受付の台帳から人が入れる。 電子カルテなら、飼い主の欄は受付で登録したものを使います
- 会社で契約したプランで使う。 入力をAIの学習に使わない、法人向けのプランで使います
動物の病気の情報も、飼い主にとっては大事な情報です。院内の決まりで、AIに渡してよい範囲を決めておきます。
保存の期間は、動物の種類で分けて持つ
保存の期間は、施行規則で動物の種類ごとに決まっています。
- 犬や猫などは3年間。 小さな動物病院の多くは、こちらが中心です
- 牛、水牛、しか、めん羊、山羊は8年間。 産業動物を診る場合は、分けて管理します
- 捨てる前に表で確かめる。 保存の期間が過ぎたかどうかは、最後の診療の日から表計算で出し、院長が確かめてから処分します
保存の起算や、電子カルテでの保存の方法で迷うときは、獣医師会や都道府県の担当窓口に確かめてください。
型をスキルにし、診断と処方はAIの外に置く
型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「6つの項目の欄」「【メモになし】の付け方」「院内でよく使う言葉の言い換え」「書いてはいけないこと(推測の病名、推測の薬名や量、飼い主の名前と住所)」をスキルにします。
診断と処方は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、病名と処方を獣医師が書くこと、薬の量を処方の記録と照らすこと、飼い主の名前と住所を受付の台帳から入れること、保存の期間を表計算で出すことがそれに当たります。
費用は、AIの利用料が1件2円ほど
| 費用 | 見込み |
|---|---|
| 1件の診療簿の下書き | 診療のメモ(入力3千トークンほど)から下書き(出力1千トークンほど)を作ると、Claude Sonnet 5.5の料金(入力100万トークンあたり2ドル、出力10ドル、1ドル150円で計算)で1件2円ほど |
| 法人向けプラン | チャットで使うなら1人あたり月数千円 |
| 電子カルテとつなぐ場合 | 電子カルテの会社に、つなげるかと費用を確かめる |
必要な人は2役で、記録に責任を持つのは獣医師
- 獣医師:診療のメモを残し、AIの下書きを読んで直し、病名と処方を書く
- 院長:6つの項目の欄とスキルを決め、保存の期間と処分の決まりを管理する
1か月で欄がそろい、閉院後の記録の時間が見える見込み
- 1週目:6つの項目の欄を決め、院内の紙か電子カルテの形に合わせる
- 2週目:獣医師1人が、1日の診療でAIの整えを試し、直した箇所を書き留める
- 3週目:直した箇所をもとに指示を直し、スキルにまとめる
- 4週目:ほかの獣医師にも広げ、閉院後に記録を書いた時間を始める前と比べる
AIの下書きをそのまま残すと失敗する
よくある失敗は次の3つです。
- 読まずに残す。 AIが言葉を補って、診ていない所見が残ることがあります
- 【メモになし】を埋めずに残す。 病名や処方の欄が空いたままでは、決められた事項を書いたことになりません
- 飼い主の名前をそのままAIに渡す。 記号に置き換えてから渡します
まとめ
- 獣医師法で、診療をしたら診療簿に遅滞なく記載し、施行規則で決まった期間(犬や猫などは3年間)保存することになっている
- 施行規則では、診療の年月日、動物、飼い主、病名と主要症状、稟告、治療方法の6つを少なくとも書く
- AIには獣医師のメモを6つの欄に分けさせ、空いている欄に【メモになし】と印を付けさせる
- 病名と処方は獣医師が書き、飼い主の名前と住所は受付の台帳から人が入れる
- 保存の期間は動物の種類で分け、処分の前に表計算で確かめる