AIに計算させず、式を書かせる。表計算の関数をAIに作ってもらう方法
この記事で変わる経営指標
この記事では、AIに数字の計算をそのまま答えさせるのではなく、表計算の式(関数)を書いてもらい、計算は表計算にさせる方法を説明します。一言でいうと、表の列の名前と、欲しい結果と、見本の数行をAIに伝えて、式を書いてもらう。式を表に入れて計算させ、数行だけ手で確かめる。一度合っていれば、毎月同じ式で計算できるという話です。
AIの価値は、計算の答えを出すことではありません。表計算の式を知らなくても、「こういう数字が欲しい」と言葉で言えば、正しく何度でも計算できる式が手に入ることです。
経営への効果は、数字を間違えずに、早く出せること
数字の出し方は、AIとの分け方を変えると次のように変わります。
| AIに答えさせる | AIに式を書かせる | |
|---|---|---|
| やり方 | 表をAIに貼り、「合計は?」「前年比は?」と聞く | 欲しい結果を言い、表計算の式を書いてもらう |
| 正しさ | 合っているか分からない。行を読み飛ばすこともある | 表計算が計算する。数行を手で確かめれば済む |
| 来月 | また貼って聞き直す | 同じ式に、新しい行を足すだけ |
| 説明 | 「AIがそう言った」 | 「この式で計算した」と言える |
経営の数字は、間違えると判断を誤ります。売上の前年比、入金の遅れの日数、粗利率、在庫の日数。どれも、表計算の式なら正しく何度でも出せます。ところが、式を書ける人が社内にいないと、毎月手で計算するか、誰かに頼むことになります。AIに式を書いてもらえば、社長や事務の担当者でも、自分で数字を出せるようになります。
企業が生成AIで最も心配しているのは、答えの正確さ
帝国データバンクが2026年3月に行った調査では、業務で生成AIを使っている企業は34.5%でした。懸念の最多は「情報の正確性」で50.4%でした(ITmedia NEWS、ビジネス+ITの報道)。
AIは、文章を書くのは得意でも、数字の計算はときどき間違えます。長い表を貼ると、途中の行を読み飛ばしたり、桁を取り違えたりすることがあります。しかも、間違えた答えも、自信のある書き方で返ってきます。
だからといって、数字の仕事にAIを使えないわけではありません。計算は表計算に任せ、AIには「どう計算するか」を書いてもらう。この分け方で、正確さの心配はかなり減ります。
AIには、列の名前と欲しい結果と見本の数行を伝える
AIに頼むこと。 表のどの列に何が入っているか、どんな結果が欲しいか、見本の数行を伝えて、式を書いてもらいます。使っている表計算のソフト(Excel か、Googleスプレッドシートか)も伝えます。
人がすること。 書いてもらった式を表に入れ、結果を見ます。
何が変わるか。 関数の名前や書き方を覚えていなくても、言葉で言えば式が手に入ります。
頼むときに伝えることは、次の4つです。
- どの列に何が入っているか:「A列に取引先、B列に請求日、C列に入金予定日、D列に入金日(まだなら空欄)」
- 欲しい結果:「E列に、入金予定日から何日遅れているかを出したい」
- 決まりごと:「入金済みなら、遅れた日数。まだなら、今日までの日数。遅れていなければ0」
- 見本の数行:実際の表から3〜5行。名前や金額は消すか、置き換えてかまいません
AIへの頼み方と、返ってくる式はこんな形になる
AIに渡す指示(見本。内容は架空です):
Excel で、入金の遅れの日数を出す式を書いてください。A列に取引先、C列に入金予定日、D列に入金日があります。D列が空欄のときはまだ入金されていません。E列に、入金済みなら入金予定日から何日遅れたか、まだなら今日までに何日遅れているかを出してください。遅れていなければ0にしてください。2行目に入れる式と、その式が何をしているかの説明を、短く書いてください。
返ってくる式(見本):
E2に入れる式:
=MAX(0, IF(D2="", TODAY()-C2, D2-C2))説明:D2が空欄なら今日の日付からC2を引き、空欄でなければD2からC2を引きます。結果がマイナス(予定より早く入金)なら0にします。
この式を下の行にもコピーすれば、すべての取引先の遅れの日数が出ます。
式は、手で計算できる数行で確かめる
人がすること。 式を入れたら、結果が合っているかを、手で計算できる数行で確かめます。
- 遅れていない行が0になっているか
- 入金済みで遅れた行の日数が、カレンダーで数えた日数と合うか
- まだ入金されていない行が、今日までの日数になっているか
- 空欄や、日付でない文字が入った行で、おかしな結果になっていないか
何が変わるか。 数行が合っていれば、残りの何百行も同じ式で計算されているので、全部を確かめる必要はありません。AIに答えさせた場合は、全部の行を確かめないと安心できません。
おかしな結果が出たら、その行をAIに見せて「この行でこうなった。こうなってほしい」と伝え、式を直してもらいます。
よく使う式は、言葉で頼めばすぐに作れる
経営の数字でよく使う式の頼み方の例です。
- 売上の前年比:「B列に今年の月の売上、C列に去年の同じ月の売上。D列に、去年より何%増えたか減ったかを出したい」
- 粗利率:「B列に売上、C列に原価。D列に粗利率を%で出したい。売上が0の行は空欄にしたい」
- 準備を始める日:「B列に期限の日付、C列に準備にかかる日数。D列に、期限から準備の日数と余裕の10日を引いた日を出したい」
- 取引先ごとの合計:「別の表に取引先の一覧がある。その横に、売上の表から取引先ごとの今月の合計を出したい」
- 条件に合う行に色を付ける:「遅れの日数が30日以上の行を赤くしたい」(式ではなく、表計算の設定の手順を聞きます)
取引先ごとの入金の遅れを毎月の一覧にする方法は、取引先の倒産に巻き込まれない。売掛金と入金の変化からAIで兆しを知る、期限から準備を始める日を出す方法は許可や資格の期限切れで仕事を止めない。更新の期限は表で持ち、準備はAIでで説明しています。
自動で動く仕掛けは、試しの表で動かしてから使う
AIは、表計算の中で自動で動く仕掛け(マクロなど)も書けます。ボタン一つで表を並べ替えたり、別の表に写したりできて便利ですが、次のことに気をつけます。
- 元の表を直接書き換える仕掛けは、必ず写しで試す。 間違えると、元の数字が消えたり上書きされたりします
- 何をする仕掛けかを、AIに説明させる。 説明を読んで分からないものは使いません
- 会社の決まりを確かめる。 会社によっては、自動で動く仕掛けを使ってよいか決まりがあります
まずは、表の中の式から始めるのが安全です。
式の頼み方をスキルにし、確かめる数行を決めておく
ここまでの使い方は、そのつどAIのチャットに頼む場合です。毎月同じ表を作るなら、もう一段の工夫をしておくと安定します。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
表の作り方と式の頼み方を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「会社でよく使う表の列の並び」「使っている表計算のソフト」「式と一緒に説明を書く決まり」「計算の答えそのものは書かず、式だけを書く決まり」をスキルにします。
確かめは、AIの外で決めておく。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、式を入れたら必ず確かめる数行(遅れのない行、遅れた行、空欄の行など)を表に残しておくこと、合計が元の表の合計と合うかを確かめる式を別に置いておくことがそれに当たります。
明日からは、毎月手で計算している数字を1つ式にする
- 毎月、手で計算したり電卓を叩いたりしている数字を1つ選ぶ(前年比、入金の遅れ、粗利率など)
- その表の列の名前と、欲しい結果と、見本の数行を書き出す
- 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに、上の見本のように頼んで式を書いてもらう
- 式を表に入れ、手で計算できる数行で確かめる
- 来月は、新しい行を足すだけで計算されるかを確かめる
数字の答えそのものは、AIの文から取らない
- AIに「合計はいくら」と聞かない。 答えが合っているか確かめるには、結局全部を計算し直すことになります。式を書いてもらいます
- 式を入れたら、必ず数行を確かめる。 式が合っていなければ、全部の行が間違えます
- 見本の数行には、名前や金額を置き換えたものを使ってもよい。 取引先や社員の情報は、会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱います。社内ルールの決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています
- AIの答えの確かめ方を決めておく。 決め方はAIの答えの間違いを社員が見つける。仕事で使う前に決める確かめ方で説明しています
まとめ
- AIは数字の計算をときどき間違える。表を貼って答えさせるのではなく、表計算の式を書いてもらう
- 頼むときは、どの列に何が入っているか、欲しい結果、決まりごと、見本の数行の4つを伝える
- 式を入れたら、手で計算できる数行で確かめる。合っていれば、毎月同じ式で計算できる
- 自動で動く仕掛けは、写しの表で試してから使う。まずは表の中の式から始める
- 明日からは、毎月手で計算している数字を1つ選んで、式にしてみる