ランサムウェアで仕事を止めない。機器の台帳と初動の1枚をAIで整える
この記事では、ランサムウェア(会社のデータを暗号化して使えなくし、元に戻す代わりに身代金を求める攻撃)で仕事を止めないために、中小企業の社長が整えておくことを説明します。一言でいうと、外とつながる機器とバックアップを台帳で持ち、更新と確認の期限は表で計算する。AIは、被害に気づいたときに誰が何をするかの初動の1枚と、取引先への第一報の文を、前もって下書きする。守りの設定や調べる作業は、保守を頼んでいる業者と専門の窓口が行うという話です。
AIの価値は、攻撃を防ぐことではありません。社長と社員が慌てずに動けるように、決めておくことを1枚にまとめ、止まる時間と取引先への迷惑を小さくすることです。
経営への効果は、止まる時間を縮め、取引先の信頼を守ること
ランサムウェアへの備えは、AIを使うと次のように変わります。
| 今まで | 台帳は表で、初動の1枚はAIで | |
|---|---|---|
| 外とつながる機器 | 何がどこにあるか分からない | 台帳に機器と更新日 |
| バックアップ | 取っているはずだが確かめていない | 確認した日を表に残す |
| 被害に気づいたとき | 誰に連絡するか、その場で探す | 初動の1枚に沿って動く |
| 取引先への連絡 | 何を言えばよいか分からず遅れる | 第一報の型から下書き |
| 年に一度の見直し | しない | 台帳と1枚を見直す日を決める |
経営の効果は2つあります。
- 止まる時間を縮める。 被害に遭うと、受注、出荷、請求、給与の計算が止まります。初動で何をするかが決まっていて、使えるバックアップがあれば、元に戻すまでの時間を縮められます
- 取引先の信頼を守る。 自社が止まると、取引先の仕事も止まります。早く正直な第一報があれば、取引先は代わりの手を打てます。前もって準備していることは、取引先からセキュリティ対策を聞かれたときの答えにもなります
2026年上半期のランサムウェア被害は123件と、半期で過去最多
警察庁が2026年9月に公表した「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」によると、2026年上半期に国内で認知したランサムウェアの被害は123件でした。統計を取り始めた2020年下半期以降、半期ごとでは過去最多です(警察庁のCyber Police Agency Letter、栃木県警察の資料、DXマガジンの記事による)。
警察庁のLetterは、対策の情報として、政府広報オンラインの動画「中小企業で被害多数 ランサムウェア」や、情報処理推進機構(IPA)の「ランサムウェア被害から学ぶ教訓集 経営者のためのランサムウェア対策ハンドブック」を紹介しています。被害に遭ったら、警察に通報・相談するよう呼びかけています。
ランサムウェアは大企業だけの話ではありません。取引先を通じて大企業につながる中小企業も、狙われる側にいます。細かい対策は、IPAの資料や警察の相談窓口、保守を頼んでいる業者に確かめてください。2026年10月時点の情報です。
小さな会社ほど、機器とバックアップの状態が分からない
ランサムウェアへの備えで、小さな会社が困るのは次の3つです。
- 外とつながる機器が把握できていない。 テレワーク用の機器(VPN装置など)や、社外から入れるパソコンの設定が、導入したときのまま放置されていることがあります。何がいつ更新されたかが分かりません
- バックアップが使えるかを確かめていない。 バックアップを取っていても、同じネットワークにつながっていて一緒に暗号化されたり、戻し方を誰も知らなかったりします
- 被害に気づいたときの動き方が決まっていない。 画面に身代金の要求が出たとき、誰に連絡し、何をしてはいけないかが分からず、時間が過ぎます
機器とバックアップの状態は、台帳と表で管理できます。動き方の1枚と連絡の文は、前もって作れます。ここは、表とAIで手伝いやすい仕事です。
台帳と期限は表で、AIは初動の1枚と第一報を書く
人がすること(最初に)。 社長が、保守を頼んでいる業者と一緒に、外とつながる機器(VPN装置、ルーター、社外から使うパソコン、クラウドのサービス)と、バックアップの取り方(何を、いつ、どこに)を書き出します。
計算で行うこと。 台帳に、機器ごとの型番、最後に更新した日、次に確かめる日を入れ、期限が近いものに印が付くようにします。バックアップは、戻せるかを試した日を入れ、3か月など決めた間隔を過ぎたら印が付くようにします。
AIに頼むこと。 社長と業者が決めたことをもとに、次のものを下書きしてもらいます。
- 初動の1枚:被害に気づいたら最初にすること(ネットワークから外す、電源の扱いは業者の指示に従う)、連絡する順番(社長、保守の業者、警察の相談窓口、必要に応じて専門の窓口)、してはいけないこと(独断で身代金の相手と連絡を取らない、勝手に消さない)
- 取引先への第一報:分かっていること、分からないこと、次に連絡する時刻だけを書いた短い文
- 社員への説明:怪しいメールや画面に気づいたら、誰に、どう伝えるか
人がすること(そのあと)。 社長と業者が、初動の1枚の中身を確かめ、社員に配ります。守りの設定、被害の調査、復旧は、業者と専門の窓口が行います。
AIへの頼み方と、返ってくる初動の1枚はこんな形になる
AIに渡す指示(見本。内容は架空です):
下は、当社と保守の業者が決めた、ランサムウェアの被害に気づいたときの決まりごとのメモです(連絡する人と電話番号の欄、してはいけないこと、業者の連絡先の欄)。社員全員が壁に貼って使える初動の1枚を、A4で1枚、短い文で下書きしてください。メモにないことは書かず、技術的な判断は「保守の業者の指示に従う」と書いてください。
返ってくる初動の1枚(見本の一部):
画面に身代金の要求や、ファイルが開けない表示が出たら
- そのパソコンのLANケーブルを抜き、無線を切る(電源は切らずに、業者の指示を待つ)
- すぐに社長(○○)に電話する
- 社長は、保守の業者(○○)に電話する
- 画面を写真に撮っておく
- してはいけないこと:相手に連絡する、ファイルを消す、ほかのパソコンで同じファイルを開く
社長は、業者と中身を確かめてから配り、年に一度、連絡先と中身を見直します。
台帳と期限はAIの外に置き、初動の1枚の型はスキルにする
ここまでの使い方は、そのつどAIのチャットに頼む場合です。毎年見直すなら、もう一段の工夫をしておくと安定します。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
初動の1枚と連絡の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「初動の1枚の型」「取引先への第一報の型」「社員への説明の型」「書いてはいけないこと(メモにない技術的な手順、身代金の支払いをすすめる言い方、分かっていない被害の範囲の断定、責任の所在の断定)」をスキルにします。
台帳と期限は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、機器とバックアップの台帳を表で持つこと、更新と確認の期限を表で計算して印を付けること、初動の1枚の中身を業者が確かめることがそれに当たります。AIに機器の安全性や設定の良し悪しを判断させません。それは業者と専門の窓口の仕事です。
明日からは、保守の業者と外とつながる機器を書き出す
- 保守を頼んでいる業者に連絡し、外とつながる機器(VPN装置、ルーターなど)と、それぞれ最後に更新した日を教えてもらう
- バックアップの取り方(何を、いつ、どこに)を確かめ、ネットワークから切り離した控えがあるかを聞く
- 台帳の表を作り、次に確かめる日を入れる。毎月の点検と業者への依頼の回し方は、外とつながる機器とバックアップを台帳に。期限は表、業者への依頼はAIで説明しています
- 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに、業者と決めたことのメモを渡し、上の見本の指示で初動の1枚を下書きさせる
- 業者に中身を確かめてもらい、社員に配って壁に貼る
本格的にやるなら、戻す練習をし、取引先への答えとそろえる
一度できたら、次の形に育てます。
- バックアップから戻す練習をする。 年に一度、業者と一緒に、バックアップから実際にファイルを戻してみます。戻すのにかかった時間を台帳に残します
- 取引先への第一報を練習する。 仕事が止まったときの第一報の作り方は、仕事が止まった朝、取引先への第一報を1時間で出す。受注の表からAIが下書きで説明しています
- 事業継続の計画に入れる。 ランサムウェアで止まったときの代わりの手段(紙の受注、手書きの伝票など)を、事業継続の計画に入れます。考え方は災害の翌日も取引先への供給を止めない。事業継続の計画をAIで1枚から作るで説明しています
- 社員の気づきを続ける。 怪しいメールに気づく力は、短い確認を続けることで育ちます。作り方は怪しいメールに社員がだまされない会社に。月1回の注意と3問の確認をAIで作るで説明しています
- 取引先からの質問に答える。 台帳と初動の1枚は、取引先からセキュリティ対策を聞かれたときの答えの材料にもなります。答え方は取引先にセキュリティ対策を聞かれても困らない。社内の決まりと回答をAIで整えるで説明しています
守りの設定と、被害の調査はAIに任せない
- 機器の設定と更新は業者が行う。 AIに設定の良し悪しを判断させません。台帳と期限で、更新が漏れないようにするまでが会社の仕事です
- 被害の調査と復旧は専門家が行う。 被害に気づいたら、保守の業者と警察の相談窓口に連絡し、指示に従います
- 身代金の相手と独断で連絡を取らない。 支払いや交渉の判断は、専門家と相談して社長が行います
- 法律で決まった手続きを確かめる。 個人情報が漏れたおそれがあるときの国への報告などは、専門家と確かめて行います
- 社内の情報に気をつける。 機器の型番や設定は、攻撃する側にとっても役に立つ情報です。AIに渡すのは、決まりごとのメモだけにします。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています
まとめ
- 警察庁の資料では、2026年上半期のランサムウェア被害は123件と、半期で過去最多だった。中小企業も狙われる側にいる
- 外とつながる機器とバックアップを台帳で持ち、更新と確認の期限は表で計算して印を付ける
- AIは、業者と決めたことから、初動の1枚、取引先への第一報、社員への説明を下書きする
- 守りの設定、被害の調査、復旧は、保守の業者と専門の窓口が行う。身代金の相手と独断で連絡を取らない
- 年に一度、バックアップから戻す練習をし、台帳と初動の1枚を見直す