経営課題×AI

ランサムウェアで仕事を止めない。機器の台帳と初動の1枚をAIで整える

この記事で変わる経営指標

この記事では、ランサムウェア(会社のデータを暗号化して使えなくし、元に戻す代わりに身代金を求める攻撃)で仕事を止めないために、中小企業の社長が整えておくことを説明します。一言でいうと、外とつながる機器とバックアップを台帳で持ち、更新と確認の期限は表で計算する。AIは、被害に気づいたときに誰が何をするかの初動の1枚と、取引先への第一報の文を、前もって下書きする。守りの設定や調べる作業は、保守を頼んでいる業者と専門の窓口が行うという話です。

AIの価値は、攻撃を防ぐことではありません。社長と社員が慌てずに動けるように、決めておくことを1枚にまとめ、止まる時間と取引先への迷惑を小さくすることです。

経営への効果は、止まる時間を縮め、取引先の信頼を守ること

ランサムウェアへの備えは、AIを使うと次のように変わります。

今まで 台帳は表で、初動の1枚はAIで
外とつながる機器 何がどこにあるか分からない 台帳に機器と更新日
バックアップ 取っているはずだが確かめていない 確認した日を表に残す
被害に気づいたとき 誰に連絡するか、その場で探す 初動の1枚に沿って動く
取引先への連絡 何を言えばよいか分からず遅れる 第一報の型から下書き
年に一度の見直し しない 台帳と1枚を見直す日を決める
ランサムウェアへの備えの変化。今までは外とつながる機器もバックアップの状態も分からず、被害に気づいてから連絡先を探していた。人が機器とバックアップを台帳で持ち、更新と確認の期限を表で計算し、AIが初動の1枚と取引先への第一報を下書きし、守りの設定と調査は業者と専門の窓口が行う
ランサムウェアへの備えの変化。今までは外とつながる機器もバックアップの状態も分からず、被害に気づいてから連絡先を探していた。人が機器とバックアップを台帳で持ち、更新と確認の期限を表で計算し、AIが初動の1枚と取引先への第一報を下書きし、守りの設定と調査は業者と専門の窓口が行う

経営の効果は2つあります。

  • 止まる時間を縮める。 被害に遭うと、受注、出荷、請求、給与の計算が止まります。初動で何をするかが決まっていて、使えるバックアップがあれば、元に戻すまでの時間を縮められます
  • 取引先の信頼を守る。 自社が止まると、取引先の仕事も止まります。早く正直な第一報があれば、取引先は代わりの手を打てます。前もって準備していることは、取引先からセキュリティ対策を聞かれたときの答えにもなります

2026年上半期のランサムウェア被害は123件と、半期で過去最多

警察庁が2026年9月に公表した「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」によると、2026年上半期に国内で認知したランサムウェアの被害は123件でした。統計を取り始めた2020年下半期以降、半期ごとでは過去最多です(警察庁のCyber Police Agency Letter、栃木県警察の資料、DXマガジンの記事による)。

警察庁のLetterは、対策の情報として、政府広報オンラインの動画「中小企業で被害多数 ランサムウェア」や、情報処理推進機構(IPA)の「ランサムウェア被害から学ぶ教訓集 経営者のためのランサムウェア対策ハンドブック」を紹介しています。被害に遭ったら、警察に通報・相談するよう呼びかけています。

ランサムウェアは大企業だけの話ではありません。取引先を通じて大企業につながる中小企業も、狙われる側にいます。細かい対策は、IPAの資料や警察の相談窓口、保守を頼んでいる業者に確かめてください。2026年10月時点の情報です。

小さな会社ほど、機器とバックアップの状態が分からない

ランサムウェアへの備えで、小さな会社が困るのは次の3つです。

  • 外とつながる機器が把握できていない。 テレワーク用の機器(VPN装置など)や、社外から入れるパソコンの設定が、導入したときのまま放置されていることがあります。何がいつ更新されたかが分かりません
  • バックアップが使えるかを確かめていない。 バックアップを取っていても、同じネットワークにつながっていて一緒に暗号化されたり、戻し方を誰も知らなかったりします
  • 被害に気づいたときの動き方が決まっていない。 画面に身代金の要求が出たとき、誰に連絡し、何をしてはいけないかが分からず、時間が過ぎます

機器とバックアップの状態は、台帳と表で管理できます。動き方の1枚と連絡の文は、前もって作れます。ここは、表とAIで手伝いやすい仕事です。

台帳と期限は表で、AIは初動の1枚と第一報を書く

人がすること(最初に)。 社長が、保守を頼んでいる業者と一緒に、外とつながる機器(VPN装置、ルーター、社外から使うパソコン、クラウドのサービス)と、バックアップの取り方(何を、いつ、どこに)を書き出します。

計算で行うこと。 台帳に、機器ごとの型番、最後に更新した日、次に確かめる日を入れ、期限が近いものに印が付くようにします。バックアップは、戻せるかを試した日を入れ、3か月など決めた間隔を過ぎたら印が付くようにします。

AIに頼むこと。 社長と業者が決めたことをもとに、次のものを下書きしてもらいます。

  • 初動の1枚:被害に気づいたら最初にすること(ネットワークから外す、電源の扱いは業者の指示に従う)、連絡する順番(社長、保守の業者、警察の相談窓口、必要に応じて専門の窓口)、してはいけないこと(独断で身代金の相手と連絡を取らない、勝手に消さない)
  • 取引先への第一報:分かっていること、分からないこと、次に連絡する時刻だけを書いた短い文
  • 社員への説明:怪しいメールや画面に気づいたら、誰に、どう伝えるか

人がすること(そのあと)。 社長と業者が、初動の1枚の中身を確かめ、社員に配ります。守りの設定、被害の調査、復旧は、業者と専門の窓口が行います。

AIへの頼み方と、返ってくる初動の1枚はこんな形になる

AIに渡す指示(見本。内容は架空です):

下は、当社と保守の業者が決めた、ランサムウェアの被害に気づいたときの決まりごとのメモです(連絡する人と電話番号の欄、してはいけないこと、業者の連絡先の欄)。社員全員が壁に貼って使える初動の1枚を、A4で1枚、短い文で下書きしてください。メモにないことは書かず、技術的な判断は「保守の業者の指示に従う」と書いてください。

返ってくる初動の1枚(見本の一部):

画面に身代金の要求や、ファイルが開けない表示が出たら

  1. そのパソコンのLANケーブルを抜き、無線を切る(電源は切らずに、業者の指示を待つ)
  2. すぐに社長(○○)に電話する
  3. 社長は、保守の業者(○○)に電話する
  4. 画面を写真に撮っておく
  • してはいけないこと:相手に連絡する、ファイルを消す、ほかのパソコンで同じファイルを開く

社長は、業者と中身を確かめてから配り、年に一度、連絡先と中身を見直します。

台帳と期限はAIの外に置き、初動の1枚の型はスキルにする

ここまでの使い方は、そのつどAIのチャットに頼む場合です。毎年見直すなら、もう一段の工夫をしておくと安定します。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

初動の1枚と連絡の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「初動の1枚の型」「取引先への第一報の型」「社員への説明の型」「書いてはいけないこと(メモにない技術的な手順、身代金の支払いをすすめる言い方、分かっていない被害の範囲の断定、責任の所在の断定)」をスキルにします。

台帳と期限は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、機器とバックアップの台帳を表で持つこと、更新と確認の期限を表で計算して印を付けること、初動の1枚の中身を業者が確かめることがそれに当たります。AIに機器の安全性や設定の良し悪しを判断させません。それは業者と専門の窓口の仕事です。

明日からは、保守の業者と外とつながる機器を書き出す

  1. 保守を頼んでいる業者に連絡し、外とつながる機器(VPN装置、ルーターなど)と、それぞれ最後に更新した日を教えてもらう
  2. バックアップの取り方(何を、いつ、どこに)を確かめ、ネットワークから切り離した控えがあるかを聞く
  3. 台帳の表を作り、次に確かめる日を入れる。毎月の点検と業者への依頼の回し方は、外とつながる機器とバックアップを台帳に。期限は表、業者への依頼はAIで説明しています
  4. 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに、業者と決めたことのメモを渡し、上の見本の指示で初動の1枚を下書きさせる
  5. 業者に中身を確かめてもらい、社員に配って壁に貼る

本格的にやるなら、戻す練習をし、取引先への答えとそろえる

一度できたら、次の形に育てます。

守りの設定と、被害の調査はAIに任せない

  • 機器の設定と更新は業者が行う。 AIに設定の良し悪しを判断させません。台帳と期限で、更新が漏れないようにするまでが会社の仕事です
  • 被害の調査と復旧は専門家が行う。 被害に気づいたら、保守の業者と警察の相談窓口に連絡し、指示に従います
  • 身代金の相手と独断で連絡を取らない。 支払いや交渉の判断は、専門家と相談して社長が行います
  • 法律で決まった手続きを確かめる。 個人情報が漏れたおそれがあるときの国への報告などは、専門家と確かめて行います
  • 社内の情報に気をつける。 機器の型番や設定は、攻撃する側にとっても役に立つ情報です。AIに渡すのは、決まりごとのメモだけにします。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています

まとめ

  • 警察庁の資料では、2026年上半期のランサムウェア被害は123件と、半期で過去最多だった。中小企業も狙われる側にいる
  • 外とつながる機器とバックアップを台帳で持ち、更新と確認の期限は表で計算して印を付ける
  • AIは、業者と決めたことから、初動の1枚、取引先への第一報、社員への説明を下書きする
  • 守りの設定、被害の調査、復旧は、保守の業者と専門の窓口が行う。身代金の相手と独断で連絡を取らない
  • 年に一度、バックアップから戻す練習をし、台帳と初動の1枚を見直す

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