経営課題×AI

クレームには早く応え、カスハラからは社員を守る。義務化とAIの使い方

この記事で変わる経営指標

この記事では、2026年10月1日から義務になったカスタマーハラスメント(カスハラ)の防止の措置と、正当なクレームへの対応を、AIを使ってどう回すかを説明します。一言でいうと、対応の方針とマニュアルの下書き、申し出の記録の整理、正当なクレームへの返事の下書き、原因の仕分けをAIに手伝わせる。カスハラに当たるかどうか、警察や弁護士に相談するか、返金や補償をどうするかは、人が決めるという話です。

AIの価値は、お客様を裁くことではありません。正当なクレームには早く誠実に応えてお客様を失わず、行き過ぎた言動からは社員を守る。その両方を、記録と手順で支えることです。

経営への効果は、お客様を失わず、社員が辞めないこと

クレームとカスハラへの対応は、AIを使うと次のように変わります。

業務 AIで変わること 経営効果
正当なクレームへの返事 申し出の内容と事実から、お詫びと対応の返事をAIが下書きする 売上(お客様が離れにくい)
原因の仕分け 月の申し出を、商品・接客・説明不足などに仕分ける 売上(同じクレームが減る)
申し出の記録の整理 現場のメモや電話の書き起こしから、事実と経緯を時系列に整える 業務の無駄(記録と共有の手間が減る)
対応の方針とマニュアル 指針の例をもとに、自社の言葉で方針とマニュアルを下書きする 人手不足(社員が安心して働ける)
カスハラかどうかの判断 AIに判断させる 後回しではなく、人が決める
クレームとカスハラへの対応でAIが効く4か所と経営効果。正当なクレームへの返事と原因の仕分けは売上、申し出の記録の整理は業務の無駄、対応の方針とマニュアルは人手不足に効く。カスハラかどうかの判断はAIに任せず人が決める
クレームとカスハラへの対応でAIが効く4か所と経営効果。正当なクレームへの返事と原因の仕分けは売上、申し出の記録の整理は業務の無駄、対応の方針とマニュアルは人手不足に効く。カスハラかどうかの判断はAIに任せず人が決める

効果の大きさは、前提を置いて考えます。仮に、月に20件のクレームの返事を書き、そのうち10件は記録を残して社内で共有しているとします。返事の下書きで1件20分が7分に、記録の整理で1件30分が10分になれば、月に約7.7時間が浮きます。

ただ、大きいのは時間ではありません。正当なクレームに早く応えればお客様が残り、原因を直せば同じクレームが減ります。行き過ぎた言動から社員を守る手順があれば、接客や電話の担当者が辞めずに働けます。人手が足りない中で、接客の担当者が辞める損は、クレーム1件の損よりずっと大きくなります。

2026年10月から、カスハラ対策は全事業主の義務になった

山口労働局の案内によると、改正された法律により、2026年(令和8年)10月1日から、カスタマーハラスメントの防止のための措置が事業主の義務になりました。措置の中身は、2026年2月26日に公布された厚生労働省の指針で定められています。freeeの解説でも、労働者を1人でも雇うすべての事業主が対象で、中小企業も例外ではないと説明されています。

指針によると、職場におけるカスタマーハラスメントは、次の3つをすべて満たすものです。

  1. 顧客、取引先、施設の利用者などの言動であること
  2. 労働者の業務の性質などに照らして、社会通念上許容される範囲を超えていること
  3. それによって労働者の就業環境が害されること

指針は、苦情のすべてがカスハラに当たるわけではなく、社会通念上許容される範囲で行われたものは正当な申し入れであるとしています。範囲を超える例として、要求に理由がない、契約を著しく超えるサービスの要求、不当な損害賠償の要求といった「中身」の問題と、暴行、脅迫、暴言、土下座の強要、SNSへの投稿をほのめかす脅しといった「手段や態様」の問題が挙げられています。

事業主が講じる措置の柱は、freeeの解説によると3つです。方針を明確にして社員に周知すること、相談に応じる体制を整えること、起きたときに迅速かつ適切に対応して被害を受けた社員に配慮することです。指針は、起きたときの対処の例として、上司にすぐ報告して指示を仰ぐ、可能な限り一人で対応させない、やり取りを録音・録画する(個人情報の扱いに注意する)、犯罪に当たり得る言動は警察に通報する、といったことを挙げています。また、必要に応じて事案の内容と対応の経緯を記録し、再発防止に生かすことも示されています。

正当なクレームとカスハラを、現場が一人で見分けるのは難しい

小さな会社で、クレーム対応が難しくなる理由は次のとおりです。

  • 見分けが難しい。 強い口調のお客様の中には、正当な不満を持つ人もいれば、行き過ぎた要求をする人もいます。現場の社員が一人でその場で見分けるのは難しく、すべてに謝り続けるか、正当な申し出まで突き放すかのどちらかになりがちです
  • 記録が残らない。 電話や店頭でのやり取りは、記録が残らないことが多く、上司に伝えるときに事実と感想が混ざります。あとで「言った、言わない」になります
  • 返事が遅れる。 正当なクレームへの返事を書くのに時間がかかり、お客様の不満が大きくなります
  • 原因が直らない。 1件ずつ対応して終わり、同じ原因のクレームが繰り返されます

AIは、このうち「記録を整える」「返事を下書きする」「原因を仕分ける」「方針とマニュアルを下書きする」を手伝えます。見分けて決めるのは人です。

申し出の記録は、現場のメモからAIが時系列に整える

AIに頼むこと。 対応した社員のメモや、電話の録音を文字にしたものを渡し、「いつ、誰が、何を求め、こちらは何を説明し、どう終わったか」を時系列に整えてもらいます。事実と、社員の受け止め(怖かった、長時間だった)は分けて書かせます。 人がすること。 対応した社員が事実と合っているかを確かめ、上司が読みます。 何が変わるか。 上司への報告と社内での共有が速くなり、同じお客様から再び申し出があったときに経緯がすぐ分かります。メモを送ると記録が整って上司に届く仕組みの作り方と費用は、クレームとカスハラの記録をその日のうちに残す。メモからAIで整える仕組みで説明しています。

記録には、お客様の名前や連絡先、社員の名前が入ります。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、記録の保存場所と見られる人を決めておきます。

正当なクレームへの返事は、事実と方針からAIが下書きする

AIに頼むこと。 整えた記録と、自社の対応の方針(交換、返金、修理の基準)を渡し、お詫びと、これからの対応を伝える返事を下書きしてもらいます。 人がすること。 担当者と上司が、事実、約束する内容、言い回しを確かめて送ります。返金や補償の額は、AIに決めさせません。 何が変わるか。 返事が早くなり、お客様の不満が大きくなる前に応えられます。

正当なクレームへの誠実な返事は、お客様を失わないための一番の手です。届いた声をすべて読み、離れる兆しに気づく方法は、黙って離れるお客様を減らす。アンケートの声をAIで全部読む方法で説明しています。

原因の仕分けは、毎月の記録からAIが行い、直すのは人

AIに頼むこと。 1か月分の申し出の記録を渡し、原因を「商品の不具合」「接客の言葉づかい」「説明不足」「待ち時間」「料金」などに仕分けてもらいます。 計算で行うこと。 仕分けごとの件数は表計算で数えます。 人がすること。 多い原因から、商品、手順、説明の仕方を直します。 何が変わるか。 指針も、カスハラの原因や背景となった商品・サービス・接客の問題や、お客様とのコミュニケーションの不足を改善することを、再発防止の措置として挙げています。原因を直せば、正当なクレームも、カスハラのきっかけも減ります。

対応の方針とマニュアルは、指針の例からAIが下書きする

AIに頼むこと。 指針に挙げられた対処の例(上司への報告、一人で対応させない、録音、退店を求める・電話を切る基準、警察への通報、本部や弁護士への相談)と、自社の業務の様子を渡し、自社の言葉で対応の方針とマニュアルの下書きを作ってもらいます。 人がすること。 社長が中身を決め、必要に応じて社会保険労務士や弁護士に確かめてもらいます。社員に周知し、研修で読み合わせます。 何が変わるか。 一から書くより早く、現場の言葉に近い形で方針とマニュアルがそろいます。

カスハラかどうかの判断、警察や弁護士に相談するかどうか、相手との取引をやめるかどうかは、AIに決めさせません。AIは、記録と下書きを作るところまでです。

対応の型をスキルにし、件数と期限はAIの外で持つ

ここまでの使い方は、1回ずつ頼んだ場合です。社員のみんなが同じ質で使うには、もう一段の工夫が要ります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

記録と返事の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「記録の形(事実と受け止めを分ける、時系列)」「返事の型(お詫び、事実の確認、対応、連絡先)」「約束してはいけないこと(返金額、補償、責任の認め方)」「原因の仕分けの区分」をスキルにしておきます。

件数と期限と決まりは、AIの外で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、申し出を表に1行ずつ記録して原因ごとの件数を計算で数えること、返事の期限を表で管理すること、返金や交換の基準を社内の規程から差し込むことがそれに当たります。

明日からは、先月の申し出を3件、記録の形に整えてみる

  1. 先月あったクレームや強い要求を3件選ぶ。対応した社員のメモを集める
  2. 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに、メモを時系列の記録に整えさせる。事実と受け止めを分けさせる
  3. 対応した社員と上司で、記録が事実と合っているかを確かめる
  4. 指針の対処の例を読み、自社で決まっていないもの(一人で対応させない、電話を切る基準、相談の窓口)を書き出す
  5. 書き出したものをもとに、AIに方針とマニュアルの下書きを作らせ、社長が中身を決める

AIに判定させたり、お客様を一律に疑ったりしない

  • カスハラかどうかをAIに判定させない。 指針は、個別の事案の状況によって判断が異なり得るとしています。判断は、記録を読んだ上司と社長が行います
  • お客様を一律に疑わない。 指針のとおり、苦情の多くは正当な申し入れです。カスハラ対策を理由に、正当なクレームまで突き放すと、お客様を失います
  • 社員を一人にしない。 記録や返事の下書きが速くなっても、強い言動を受けた社員への配慮は人が行います。相談の窓口を決め、相談したことで不利益に扱わないことを伝えておきます
  • 記録の扱いに気をつける。 録音や記録には個人情報が入ります。保存の期間と見られる人を決めます。社内ルールの決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています

まとめ

  • 2026年10月1日から、カスタマーハラスメントの防止の措置がすべての事業主の義務になった。柱は、方針の明確化と周知、相談の体制、起きたときの迅速で適切な対応と社員への配慮
  • 指針では、カスハラは「顧客等の言動」「社会通念上許容される範囲を超える」「就業環境が害される」の3つをすべて満たすもの。苦情のすべてがカスハラではなく、正当な申し入れもある
  • AIに、申し出の記録の整理、正当なクレームへの返事の下書き、原因の仕分け、方針とマニュアルの下書きを手伝わせる。件数と期限と返金の基準は表と規程で持つ
  • カスハラかどうかの判断、警察や弁護士への相談、返金や補償は、人が決める
  • まずは、先月の申し出を3件、記録の形に整え、自社で決まっていない対処を書き出す

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