カスハラ対策の方針とマニュアルを自社の言葉で作る。指針の例からAIが下書き
この記事で変わる経営指標
この記事では、クレームには早く応え、カスハラからは社員を守る。義務化とAIの使い方の「対応の方針とマニュアルは、指針の例からAIが下書きする」を、手順として説明します。
一言でいうと、厚生労働省の指針に挙げられた対処の例と、自社の業務の様子、過去の申し出の記録を集める。報告先や、警察・弁護士への連絡先、対応を打ち切る基準は社長が決める。AIが自社の言葉で対応の方針とマニュアルを下書きする。社長が中身を決め、必要に応じて社会保険労務士や弁護士に確かめてもらい、社員に周知して読み合わせるという形です。一から書くと何日もかかる文書を、決めることに集中して作ります。
2026年10月から、方針を決めて社員に知らせる義務がある
親の記事で触れたとおり、山口労働局の案内によると、2026年(令和8年)10月1日から、カスタマーハラスメントの防止のための措置が事業主の義務になりました。freeeの解説では、労働者を1人でも雇うすべての事業主が対象と説明されています。
措置の柱は3つです(freeeの解説による)。
- 方針を明確にして、社員に周知すること
- 相談に応じる体制を整えること
- 起きたときに迅速かつ適切に対応し、被害を受けた社員に配慮すること
指針は、起きたときの対処の例として、上司にすぐ報告して指示を仰ぐ、可能な限り一人で対応させない、やり取りを録音・録画する(個人情報の扱いに注意する)、犯罪に当たり得る言動は警察に通報する、といったことを挙げています。また、指針は、苦情のすべてがカスハラに当たるわけではなく、社会通念上許容される範囲で行われたものは正当な申し入れであるとしています。
つまり、小さな会社でも、会社としての方針を決めて文書にし、社員に知らせ、起きたときにどう動くかを決めておくことが求められています。
今は方針もマニュアルもなく、現場が一人で抱えている
多くの小さな会社では、カスハラへの対応が次のようになっています。
- 方針も、対応のマニュアルもない
- 現場の社員が、その場の判断で一人で対応する
- 社長に伝わるのは、社員が辞めると言い出してから
- 方針を作ろうと思っても、何から書けばいいか分からず、後回しになる
文書を一から書くのは、社長にとって大きな負担です。指針を読み、自社の業務に当てはめ、社員に分かる言葉にする作業は、何日もかかります。
集め、社長が決め、AIが書き、専門家に確かめる
手順は4つの段でできています。
1. 集める:指針の対処の例と、自社の業務と、過去の記録を集める。 次のものを1つにまとめます。
- 厚生労働省の指針の本文(対処の例が書かれているところ)
- 自社の業務の様子(店頭での接客、電話、訪問、どんなお客様が多いか)
- 過去の申し出の記録(正当なクレームと、行き過ぎた言動の例。お客様の名前は消す)
過去の申し出の記録の残し方は、クレームとカスハラの記録をその日のうちに残す。メモからAIで整える仕組みで説明しています。
2. 決める:報告先、連絡先、打ち切る基準は社長が決める。 ここは社長の仕事です。AIには決めさせません。
- 現場で困ったときに、誰に報告するか(店長、社長)
- 相談を受ける窓口を誰にするか
- 警察、弁護士、本部の連絡先
- 電話を切る、退店を求める、取引を見直すといった、対応を打ち切る基準
- 社員を守るために会社が約束すること(一人で対応させない、後で話を聞く)
3. 下書きする:AIが自社の言葉で方針とマニュアルを書く。 AIが、指針の対処の例と、社長が決めたこと、自社の業務の様子から、次の2つを下書きします。
- 社員とお客様に示す方針:会社としてカスハラに毅然と対応すること、正当なクレームには誠実に応えること、社員を守ること
- 社員向けの対応マニュアル:場面ごと(店頭、電話、訪問)の対応の手順、報告の流れ、記録の残し方、打ち切る基準、相談の窓口
4. 周知する:専門家に確かめてもらい、社員と読み合わせる。 社長が中身を確かめ、必要に応じて社会保険労務士や弁護士に確かめてもらいます。できあがった方針は社員に知らせ、マニュアルは研修で読み合わせます。
指針の例と自社の言葉をAIに渡し、判断はAIの外で持つ
この手順で良い文書ができるかどうかは、AIに渡すものと、AIに任せないことの線引きで決まります。
AIに渡すもの。 指針の本文、社長が決めたこと、自社の業務の様子、社内の文書の書き方の見本です。社内の他の決まり(就業規則など)の書き方を見本として渡すと、自社の文書らしい形になります。見本の渡し方はAIの文が毎回ばらつくなら、良い見本を3つ見せる。言葉で説明するより早いで説明しています。
AIに任せないこと。 次のことは、社長と専門家が決めます。
- ある言動がカスハラに当たるかどうかの基準の最終的な線引き
- 警察や弁護士に相談するかどうか
- 相手との取引をやめるかどうか
- 法律の解釈(指針の読み方に迷うところ)
AIは、指針の例を自社の言葉に置き換え、文書の形に整えるところまでです。AIが指針にない対応や、自社で決めていない約束を書き足していないかを、社長が必ず確かめます。
正当なクレームを門前払いにしない方針にする
方針を作るときに気をつけたいのは、正当なクレームまで遠ざける書き方にしないことです。親の記事で触れたとおり、指針は、苦情のすべてがカスハラに当たるわけではないとしています。
方針には、「正当なご意見やご要望には誠実にお応えします」と「社員の尊厳を傷つける言動には毅然と対応します」の両方を書きます。お客様の声は、商品や接客を良くする材料です。正当なクレームへの返事を早くする仕組みは、親の記事で説明しています。
社長の仕事は、線を引いて、社員に伝えることになる
この手順を使うと、方針とマニュアルづくりは次のように変わります(想定です)。
| 今まで | この手順を使ったあと | |
|---|---|---|
| 書き始め | 何から書けばいいか分からない | 指針の例から下書きが出る |
| 言葉 | 指針の言葉のままで社員に伝わらない | 自社の業務の言葉になる |
| 社長の時間 | 文書を書くことに何日も | 線引きを決めることに集中する |
| 専門家への相談 | 一から作ってもらう | 下書きを確かめてもらう |
| 社員 | 一人で抱える | 報告の流れと相談の窓口が分かる |
経営への効果は、社員を守り、辞めさせないこと
この手順は、毎月繰り返すものではなく、方針とマニュアルを一度作り、見直すときに使うものです。仮に、社長が方針とマニュアルを一から書くのに2日かかっていたものが、線引きを決めて下書きを確かめる半日になれば、1日半が浮きます。
ただ、この手順の価値は時間だけではありません。方針とマニュアルがあれば、現場の社員は「困ったら報告すればいい」「一人で抱えなくていい」と分かります。人が足りない会社ほど、カスハラで社員が辞めることの痛手は大きくなります。社員を守る仕組みがあることは、長く働いてもらう理由になり、採用のときにも伝えられます。
費用は小さく、AIの利用料は1回20円ほど
この手順は、会社で契約したAIのチャットで進められます。特別な仕組みを作る必要はありません。
AIの利用料の目安は、次のとおりです。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。指針の本文と社長が決めたことで30,000トークンを読ませ、方針とマニュアルで6,000トークンを書かせると見積もると、0.12ドル、1ドル150円で約18円です。会社で契約したプランのチャットで使うなら、追加の費用はかかりません。
費用として大きいのは、社長の時間と、社会保険労務士や弁護士に確かめてもらう費用です。下書きがあれば、専門家に何を確かめてほしいかがはっきりします。
必要な人は3役で、線を引くのは社長
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 線を引く人 | 社長 | 報告先、窓口、打ち切る基準、会社の約束を決める | 半日 |
| 確かめる人 | 社会保険労務士や弁護士 | 下書きが指針と法律に沿っているかを確かめる | 必要に応じて |
| 読み合わせる人 | 店長や職長 | 社員とマニュアルを読み合わせる | 研修で1時間 |
いちばん大事なのは、社長が自分で線を引くことです。AIの下書きは、その線を文書にする道具です。
1か月で方針がそろい、半年で相談の変化が分かる見込み
目安は次のとおりです。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の1か月 | 方針とマニュアルを作り、社員に知らせ、読み合わせる |
| 3か月 | 実際に起きた申し出の記録から、マニュアルの足りないところを足す |
| 半年 | 相談の件数と、一人で対応した件数、辞めた社員の理由を、作る前と比べられる |
効果を確かめるには、次の3つを導入の前と後で比べます。
- 相談の窓口に来た件数:相談が来るようになったかを見ます
- 一人で対応した件数:記録から数えます
- カスハラを理由に辞めた社員の数:辞めた理由を記録します
線引きや法律の判断をAIに任せると失敗する
よくある失敗は次の4つです。
- カスハラかどうかの線引きをAIに決めさせる。 線引きは社長が決め、専門家に確かめてもらいます
- AIが指針にない対応を書き足す。 指針の例と、社長が決めたことだけを文書にします
- 正当なクレームを遠ざける方針にする。 誠実に応えることと、毅然と対応することの両方を書きます
- 作って終わりにする。 社員に知らせ、読み合わせ、記録から見直します
過去の申し出の記録には、お客様の情報が含まれます。名前を消し、会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱います。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。なお、措置の詳しい中身は、厚生労働省の指針の原文で必ず確かめてください。
まとめ
- 2026年10月から、カスハラ対策の方針を決めて社員に知らせることなどが、すべての事業主の義務になった
- 指針の対処の例、自社の業務の様子、過去の申し出の記録を集め、報告先や打ち切る基準は社長が決める
- AIが自社の言葉で方針とマニュアルを下書きし、社長が確かめ、必要に応じて専門家に確かめてもらう
- 方針には、正当なクレームに誠実に応えることと、行き過ぎた言動に毅然と対応することの両方を書く
- 社員に知らせ、読み合わせ、記録から見直す。AIの利用料は1回20円ほどで、会社で契約したチャットで進められる