はじめの一歩

AIを仕事に入れる前に社内の表を整える。取引先・商品・単価の3つから

この記事で変わる経営指標

この記事では、AIを仕事に入れる前にやっておくと効く、社内の表の整え方を説明します。一言でいうと、取引先の正式名、商品の品番と呼び方、いつからの単価かの3つの表をそろえておく。そうすれば、注文書の読み取りでも、見積でも、請求書の点検でも、取引先への連絡でも、AIの間違いが減り、確かめる時間が短くなるという話です。

AIの価値は、散らかった情報を魔法のように整えることではありません。整った表があれば、AIはその表を見て書き、人とプログラムは表と照らして確かめられる。表の質が、そのままAIの仕事の質になるということです。

経営への効果は、どの業務にAIを入れても早く確かに動くこと

表を整えてからAIを入れると、次のように変わります。

表がばらばらのまま 3つの表を整えてから
取引先の名前 「㈱〇〇」「〇〇工業」「〇〇さん」が混ざる 正式名の一覧に呼び方が紐づいている
商品 同じ品が担当者ごとに違う名前で呼ばれる 品番に、品名と現場の呼び方が紐づいている
単価 どの単価が今の値段か分からない いつからの値段かが残っている
AIの下書き 名前や単価を取り違え、確かめるのに時間がかかる 表を見て書くので取り違えが減る
確かめ方 人が全部読む 表と照らすプログラムで、合わないものだけ赤くなる

この記事でこれまで紹介してきた仕組みの多くは、この3つの表を前提にしています。FAXの注文書の読み取りは商品の一覧と、請求書のPDFの保存は取引先の正式名の一覧と、値上げの案内は単価の表と照らします。表が整っていないと、仕組みを作っても赤い行ばかりになり、人が確かめるのをやめてしまいます。

データの品質管理には、「1-10-100の法則」と呼ばれる経験則があります。誤ったデータを入力の段階で防ぐ手間を1とすると、入ったあとで直す手間は10、誤ったまま仕事が進むと100になる、という考え方です(MarTech、Power Retail の解説)。測った値ではなく目安ですが、表の揺れを先に直しておくほど、あとの手間が小さくなるという順番は、AIを使う仕事にもそのまま当てはまります。

AIの答えの質は、渡す表の質で決まる

AIは、渡された情報をもとに文を書きます。渡す表に揺れがあると、AIはその揺れをそのまま文に持ち込みます。

  • 取引先の名前が揺れていると。 注文書の「〇〇工業」と台帳の「株式会社〇〇工業所」が同じ会社かどうか、AIは推測で決めます。推測が外れると、違う会社の注文として入ります
  • 商品の呼び方が揺れていると。 現場が「青いやつ」「Bタイプ」と呼んでいる品が、商品の一覧のどれに当たるか、AIには分かりません
  • 単価が古いと。 値上げ前の単価が表に残っていると、AIはその単価で見積の説明を書きます

どれも、AIの性能の問題ではありません。人が見ても迷う表は、AIも迷います。逆に、表が整っていれば、AIに「この一覧にある名前で書いてください」と頼むだけで、取り違えが大きく減ります。

取引先の表は、正式名と呼び方を1行にそろえる

作る表。 取引先ごとに1行で、次の欄を作ります。

  • 取引先の番号(会計ソフトや販売管理の番号があればそれを使う)
  • 正式名(登記上の名前。「株式会社」の位置まで正しく)
  • 呼び方(社内やFAXで使われている呼び方を、すべて並べる。例:「〇〇工業」「〇〇さん」「㈱〇〇」)
  • 担当者の名前、送り先のアドレス、送ってよい理由(取引あり、名刺、同意)

ポイント。 呼び方の欄が大事です。AIに「呼び方の欄にある名前が出てきたら、正式名に置きかえてください」と頼めます。新しい呼び方が出てきたら、その日に足します。

商品の表は、品番と品名と現場の呼び方をそろえる

作る表。 商品ごとに1行で、次の欄を作ります。

  • 品番
  • 正式な品名と規格(サイズ、量、色)
  • 現場の呼び方(「青いやつ」「Bタイプ」「いつもの」)
  • 分類(代わりに出せる品を探すときに使う)
  • 注意すること(アレルゲン、取り扱いの注意など)

ポイント。 品番を中心にします。同じ品に品番が2つ付いていたら、1つにまとめます。廃番になった品は消さずに「廃番」と書いておくと、古い注文書を読むときに迷いません。

単価の表は、いつからの値段かを残す

作る表。 品目ごと、必要なら取引先ごとに、次の欄を作ります。

  • 品番、取引先(取引先ごとに単価が違う場合)
  • 単価
  • いつからの値段か(適用開始日)
  • 値上げや値下げの理由(原材料、物流費など)

ポイント。 単価を上書きせず、新しい行を足して「いつから」を書きます。そうすれば、「この見積は、いつの単価で作ったか」をあとから確かめられます。見積や請求書の点検で、計算で今の単価と照らせるようになります。

表の揺れはAIに探させ、直すのは人

表を整えるのは手間がかかりますが、揺れを探すところはAIに手伝わせられます。

AIに渡す指示(見本。内容は架空です):

下は、当社の取引先の一覧と、過去3か月の請求書と注文書に出てきた取引先の名前の一覧です。同じ会社だと思われる名前のまとまりを作り、それぞれ一覧のどの正式名に当たりそうかを表にしてください。一覧のどれにも当たらない名前は「一覧になし」と書いてください。同じ会社かどうか自信がないものは「要確認」と書いてください。決めつけないでください。

返ってくる表(見本):

出てきた名前 当たりそうな正式名 判断
〇〇工業 株式会社〇〇工業所 要確認
㈱〇〇工業所 株式会社〇〇工業所 同じと思われる
〇〇商店 一覧になし 一覧になし

人がすること。 「要確認」と「一覧になし」を、担当の営業や事務が確かめて、表を直します。同じ会社かどうかを決めるのは人です。AIの推測だけで表を書きかえると、別の会社をまとめてしまうことがあります。

商品の呼び方の揺れも、同じように、過去の注文書と商品の一覧を渡して探させられます。

整えた表を、スキルとAIの外の点検の両方に使う

表が整ったら、AIに頼む仕事のすべてで使います。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

表を Skills に入れる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。取引先の正式名と呼び方、商品の品番と呼び方をスキルに入れておけば、どの業務の下書きでも、AIは同じ名前で書きます。

表と照らす点検を、AIの外に作る。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、AIの下書きに出てきた取引先の名前が一覧にあるか、品番が商品の一覧にあるか、単価が今の単価の表と合っているかを、プログラムで照らすことがそれに当たります。表が整っていれば、この点検は単純な照らし合わせで作れます。

送る前の書類を点検する仕組みは、送る前の書類のミスを止める。AIを「二人目の確認者」にする方法で、AIの答えの確かめ方は、AIの答えの間違いを社員が見つける。仕事で使う前に決める確かめ方で説明しています。

明日からは、取引先の表の揺れを1時間で洗い出す

  1. 会計ソフトや販売管理から、取引先の一覧を書き出す
  2. 過去3か月の請求書と注文書から、出てきた取引先の名前を書き出す(AIに読ませてもよい)
  3. 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに、上の見本の指示で、同じ会社と思われる名前のまとまりを作らせる
  4. 「要確認」と「一覧になし」を、担当者が確かめて表を直す
  5. 呼び方の欄を足し、新しい呼び方が出たらその日に足す決まりを作る

1時間あれば、取引先の揺れの大半が見えます。取引先の表が整ったら、商品の表、単価の表と進めます。

表を1つにし、直す人を決めておく

  • 表を1つにする。 同じ取引先の一覧が、会計ソフト、販売管理、営業の表計算に別々にあると、どれが正しいか分からなくなります。正とする表を1つ決め、ほかはそこから写します
  • 直す人を決める。 表を誰でも直せると、揺れがまた増えます。取引先の表は事務、商品の表は仕入れの担当者、単価の表は社長か営業の責任者、のように直す人を決めます
  • AIに表を書きかえさせない。 AIは揺れを探して候補を出すまでです。表を直すのは人です
  • 表の扱いを決める。 取引先の一覧や単価は会社の大事な情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています

AIを使い始めたばかりの会社は、最初の1週間の進め方をAIを使ったことがない社長が、最初の1週間でやることに、導入でつまずく型をAIの導入でつまずく会社の5つの型。契約したのに使われない前に知ることにまとめています。

まとめ

  • AIの答えの質は、渡す表の質で決まる。人が見ても迷う表は、AIも迷う
  • 最初に整えるのは、取引先の正式名と呼び方、商品の品番と品名と現場の呼び方、いつからの値段かが残る単価の3つの表
  • 表の揺れはAIに探させ、同じものかどうかを決めて表を直すのは人
  • 整えた表は、スキルに入れてAIの下書きをそろえ、AIの外の点検で照らす相手にする
  • 表は1つにして、直す人を決める。まずは取引先の表の揺れを1時間で洗い出す

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