業務への組み込み例

出荷の連絡と数量の変更を早く伝える。出荷表からAIが取引先ごとに下書き

この記事で変わる経営指標

この記事では、小さな農業法人の事務をAIで減らす。人が減っても出荷と販売を回すの「出荷の連絡は、出荷表から取引先ごとにAIが下書きする」を、仕組みとして作る方法を説明します。

一言でいうと、出荷表(取引先、品目、数量、出荷日、到着予定)から、取引先ごとの出荷の連絡をAIが下書きする。天候や生育で数量が変わりそうなときは、見込みの表で予定との差を計算し、差が出る取引先に早めの知らせを下書きする。数量、金額、日付は表から差し込み、事務の担当者が確かめて送るという形です。電話やファクスで1社ずつ伝えていた連絡を、まとめて、漏れなく、早く届けます。

働き手が減り、法人が増えるなかで、取引先との連絡が増えている

親の記事で触れたとおり、農林水産省の統計では、基幹的農業従事者(個人経営体)は2020年の136.3万人から2025年には103.6万人に減りました。一方で、2025年農林業センサスの確定値の公表では、法人の経営体は5年前より10.1%増えています(京都府の公表資料にも同じ数字が掲載されています)。

法人として規模が大きくなると、スーパー、飲食店、加工業者、直売所と、取引先の数も増えます。取引先ごとに、何をどれだけ、いつ出すかを伝える連絡も増えます。人が減るなかで、この連絡を少ない人数で、漏れなく回すことが、取引を続けるうえで欠かせません。

今は出荷の連絡が、1社ずつの電話とファクスで行われている

多くの小さな農業法人では、出荷の連絡が次のように行われています。

  1. 前日か当日の朝に、出荷表を見ながら取引先に1社ずつ電話するかファクスを送る
  2. 天候で収穫が減りそうでも、確かになるまで伝えず、当日になって「今日は半分しか出せません」と知らせる
  3. 担当者が畑に出ていると連絡が遅れ、取引先から「まだですか」と電話が来る
  4. 誰に何を伝えたかが記録に残らない

数量が減ることを当日に知った取引先は、代わりの仕入れ先を急いで探すことになります。それが重なると、取引先からの信頼が下がり、次の注文に響きます。

表から計算し、AIが書き、担当者が確かめて送る

出荷表から取引先ごとの出荷の連絡をAIが下書きし、天候や生育で数量が変わりそうなときは見込みの表で予定との差を計算して早めの知らせを下書きする。数量・金額・日付は表から差し込み、事務の担当者が確かめて送る
出荷表から取引先ごとの出荷の連絡をAIが下書きし、天候や生育で数量が変わりそうなときは見込みの表で予定との差を計算して早めの知らせを下書きする。数量・金額・日付は表から差し込み、事務の担当者が確かめて送る

仕組みは4つの段でできています。

1. まとめる:出荷表と、数量の見込みの表を整える。 出荷表には、取引先、品目、規格、数量、単価、出荷日、到着予定を1行ずつ入れます。あわせて、品目ごとに、この先1〜2週間の収穫の見込み(畑ごとの見込み量)を、現場の責任者が週に一度、更新します。

2. 計算する:予定と見込みの差を出す。 ここはAIの仕事ではありません。表計算で、次のことを出します。

  • 今日と明日の出荷の、取引先ごとの品目と数量
  • この先1〜2週間の出荷の予定の合計と、収穫の見込みの合計の差
  • 見込みが予定を下回る品目と、その品目を受け取る取引先

3. 下書きする:AIが取引先ごとの連絡を書く。 AIに、取引先ごとの出荷の内容と、数量が変わりそうな品目の情報を渡し、次のものを下書きさせます。

  • 出荷の連絡(品目、規格、数量、出荷日、到着予定は表から差し込む)
  • 数量が変わりそうなときの早めの知らせ(理由、変わりそうな量の見込み、確定する時期、代わりに出せる品目があればその案内)
  • 次の出荷の見込みの案内

4. 送る:事務の担当者が確かめて送る。 事務の担当者が、下書きの数量と日付が出荷表と合っているかを確かめ、取引先が使っている方法(メール、FAX、メッセージ)で送ります。送ったことを表に記録します。

連絡の型をスキルにし、数量と日付はAIの外で持つ

この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

連絡の型と取引先ごとの決まりを Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。

  • 連絡の型:出荷の連絡、数量が変わるときの知らせ、次の見込みの案内、それぞれの順番と言葉
  • 取引先ごとの決まり:呼び方、品目の呼び方(取引先ごとに名前が違うことがある)、連絡の締め切り時刻
  • 会社の言葉づかい:代表や担当者が実際に送っている連絡の見本を3つ
  • 書いてはいけないこと:表にない数量や価格、値引きの約束、確かでない天気の予想を断定する言い方

数量と日付は、AIの外で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、数量、単価、日付を出荷表から差し込むこと、予定と見込みの差を表計算で出すこと、AIの下書きに入った数量と日付が出荷表と一致しているかを機械的に照らすことが、それに当たります。数量を書き間違えた連絡は、取引先の仕入れをそのまま狂わせます。

数量が減るときは、確定を待たずに見込みで伝える

この仕組みでいちばん効くのは、数量が減りそうなときの知らせです。

  • 確定してからではなく、見込みの段階で「来週の〇〇は、予定の7割ほどになる見込みです。確定は〇日にお知らせします」と伝えます
  • 減る理由(天候、生育の遅れ)を短く書きます
  • 代わりに出せる品目や規格があれば、一緒に案内します

取引先は、早く分かれば、ほかの仕入れ先に声をかけたり、売り場の計画を変えたりできます。欠品や数量の変更を知らせる考え方は、卸売の例ですが欠品が分かったその日に取引先へ知らせる。在庫と受注からAIで連絡を下書きでも説明しています。収穫の見込みを立てるには、去年の今ごろの作業や収穫の記録が役に立ちます。記録の残し方は、去年の今ごろの作業が分かる。話した一言からAIが農作業日誌を整える仕組みで説明しています。

事務の担当者の仕事は、下書きを確かめて送ることになる

仕組みが入ると、出荷の連絡は次のように変わります(想定です)。

今まで 仕組みが入ったあと
出荷の連絡 1社ずつ電話とファクス 取引先ごとの下書きを確かめて送る
数量が減るとき 当日に伝える 見込みの段階で、確定の時期と一緒に伝える
品目の呼び方 担当者が覚えている 取引先ごとの決まりに入っている
送った記録 残らない 表に残る
担当者が畑にいるとき 連絡が遅れる 事務の担当者が下書きから送れる

経営への効果は、取引先に頼られ、次の注文が続くこと

効果は、前提を置いて計算します。仮に、1通の連絡に5分かかっていたものが、下書きを確かめて送る1分半になれば、1通3分半が浮きます。月200通の連絡がある法人なら月約12時間、1時間あたりの人件費を仮に2,000円として月約2万3,000円分です。

ただ、大きいのは時間だけではありません。数量が減ることを早く伝えてくれる生産者は、取引先にとって計画が立てやすい相手です。品質だけでなく、連絡の確かさも、取引を続けてもらう理由になります。人が減るなかで、少ない人数でも取引先を増やせる体制が、法人として伸びる土台になります。

費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月300円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 連絡の型と、取引先ごとの決まりと、書いてはいけないことを決める(法人:代表と事務の担当者、半日)。ここがいちばん大事です
  2. 出荷表と、収穫の見込みの表の形を決める(法人:代表と現場の責任者、半日)
  3. 出荷表から取引先ごとに分け、予定と見込みの差を計算する表を作る(作る人、1人日)
  4. AIの連絡の下書きと、数量と日付の照らし合わせを作る(作る人、0.5人日)
  5. 1か月、実際の出荷で試して直す(作る人、0.5人日)

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜5で、作る側の目安は合計2人日です。

毎月の費用

費用 中身 想定の法人での目安
AIの利用料 1通の連絡の下書きごとにかかる 月200通で300円ほど(下の計算)
表計算・連絡の道具 すでに使っているもの 追加0円の想定
保守 連絡の型と取引先の決まりの更新 月1時間

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1通あたり出荷の内容とスキルで2,500トークンを読ませ、500トークンを書かせると見積もると、0.01ドル、1ドル150円で約1.5円です。月200通で300円ほどです。

何か月で取り戻せるか

取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)

仮に作る費用が12万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を約2,300円とすると、月約2万3,000円分が浮く法人でおよそ5.7か月です。取引先が数社の法人なら、出荷表と連絡の型だけ作り、法人で契約したAIのチャットに出荷表を貼って下書きさせるやり方で十分です。

必要な人は3役で、見込みを決めるのは現場の責任者

役 誰が すること 時間
見込みを入れる人 現場の責任者 品目ごとの1〜2週間の収穫の見込みを週に一度更新する 週30分
確かめて送る人 事務の担当者 下書きの数量と日付を確かめて送り、記録する 1通1分半
作る人 法人の詳しい人か、外の作り手 取引先ごとの分け方、差の計算、下書き、照らし合わせを作る 最初の2人日

いちばん大事なのは、収穫の見込みを週に一度更新することです。見込みが古ければ、早めの知らせは出せません。

1か月で連絡がそろい、半年で取引先の反応が分かる見込み

どこまでいけるかは、出荷表と見込みの表がどれだけ正しく入るかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の1か月 実際の出荷で試す。取引先から聞き返されたことを型に足す
3か月 見込みの更新が定着し、数量が減るときの知らせを早く出せる
半年 取引先からの問い合わせの数と、取引先ごとの注文の続き方を、仕組みの前と比べられる

効果を確かめるには、次の3つを記録します。

  • 数量の変更を知らせた時期:出荷日の何日前に知らせたかを記録します
  • 取引先からの「まだですか」「どうなっていますか」の問い合わせの数:月ごとに数えます
  • 取引先ごとの注文の続き方:半年ごとに比べます

数量や約束をAIに書かせると失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • 数量や価格をAIに書かせる。 出荷表から差し込み、照らし合わせで確かめます
  • 天気の予想を断定する。 「見込みです」「確定は〇日に」と書きます
  • 見込みの表を更新しない。 現場の責任者が週に一度更新します
  • 取引先ごとの品目の呼び方を間違える。 取引先ごとの決まりに入れておきます

取引先の名前や取引の条件は、外に出してはいけない情報です。法人で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内の決まりに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。

まとめ

  • 出荷表に取引先、品目、規格、数量、単価、出荷日、到着予定を入れ、収穫の見込みを週に一度更新する
  • 予定と見込みの差を表計算で出し、数量が減りそうな品目と取引先を拾う
  • AIが取引先ごとの出荷の連絡と、数量が変わりそうなときの早めの知らせを下書きする。数量と日付は表から差し込む
  • 数量が減るときは、確定を待たずに見込みと確定の時期を伝え、代わりに出せる品目も案内する
  • 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は2人日。AIの利用料は月300円ほど

CONTACT

自社の業務にも、AIを組み込めるか

記事のような組み込みを、御社の業務と予算に合わせて設計・実装しています。何から手を付ければいいか分からない段階でも大丈夫です。

AI活用を相談する
出荷の連絡と数量の変更を早く伝える。出荷表からAIが取引先ごとに下書き|AI図鑑