業務への組み込み例

直売とネットの商品説明を、その年の畑の様子で書く。代表の話からAIで

この記事で変わる経営指標

この記事では、小さな農業法人の事務をAIで減らす。人が減っても出荷と販売を回すの「直売やネットの商品の説明は、畑の様子とメモからAIが下書きする」を、仕組みとして作る方法を説明します。

一言でいうと、収穫の時期に、代表が品目ごとに畑の様子を一言ずつ話す。品種や量目、値段、保存の仕方は品目の台帳から、農薬や肥料の使い方は作業日誌から、計算でそろえる。AIが直売所の札、ネットの商品ページ、飲食店への案内の3つを下書きし、使ってはいけない言葉の一覧で照らしてから、代表が確かめて出すという形です。毎年同じだった説明を、その年の畑の様子に合った説明にします。

人が減る中で、売り方の手間を代表1人で抱えない

農林水産省の農林業センサスによると、ふだん仕事として主に自営の農業に従事している「基幹的農業従事者」は、2020年の136.3万人から、2025年は103.6万人に減りました。速報の段階でも、共同通信は5年で25.1%減り、比べられる1985年以降で最も大きな減り方だったと報じています。

人が減る中で、直売所やネットで自分で値段を決めて売ることは、農家にとって大事な売り方の一つです。ただ、その説明を書くのは、たいてい代表です。収穫の時期は畑の仕事がいちばん忙しい時期でもあり、説明は去年と同じものを使い回すか、書かずに並べることになりがちです。

その年の甘さや、食べ方のすすめを書いた説明は、買う人が選ぶ手がかりになります。書く手間をAIに渡し、代表は中身が本当かを確かめることに時間を使います。

説明には、使ってはいけない言葉がある

農産物の説明を書くときに、いちばん気をつけるのは言葉の決まりです。

農林水産省の「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」は、「無農薬栽培農産物」「減農薬栽培農産物」などの表示を、表示禁止事項にしています。同じ省のQ&Aは、その理由を次のように説明しています。

  • 「無農薬」は、土に残った農薬やまわりの畑から飛んできた農薬も含めて、一切含まないと受け取られ、実際より良いものと誤解させていた
  • 「減農薬」は、何と比べて、どれだけ、何を減らしたのかがはっきりしない

農薬を使っていない農産物は「農薬:栽培期間中不使用」と表示するとされています(Q&AのQ6)。

「有機」も同じです。農林水産省は、有機JASマークがない農産物に「有機」「オーガニック」などの名前や、紛らわしい表示を付けることは、法律で禁止されていると案内しています。

AIは、売れる文章を書こうとして、こうした言葉を使いがちです。だから、この仕組みでは、言葉の決まりをAIの外の一覧で守ります。

話し、台帳と日誌からそろえ、AIが書き、代表が確かめる

収穫の時期に代表が品目ごとに畑の様子を一言ずつ話し、品種や量目は品目の台帳から、農薬や肥料の使い方は作業日誌からそろえる。AIが直売所の札とネットの商品ページと飲食店への案内を下書きし、使ってはいけない言葉の一覧で照らしてから、代表が確かめて出す
収穫の時期に代表が品目ごとに畑の様子を一言ずつ話し、品種や量目は品目の台帳から、農薬や肥料の使い方は作業日誌からそろえる。AIが直売所の札とネットの商品ページと飲食店への案内を下書きし、使ってはいけない言葉の一覧で照らしてから、代表が確かめて出す

仕組みは4つの段でできています。

1. 話す:代表が品目ごとに一言ずつ話す。 収穫の時期に、代表が畑を回りながら、スマホに品目ごとの様子を話します(「今年は雨が少なくて甘みが乗った」「皮が薄いので生で食べるのがおすすめ」)。畑や実の写真も1、2枚撮ります。1品目1分ほどです。

2. そろえる:台帳と日誌から事実をそろえる。 ここはAIの仕事ではありません。

  • 品目の台帳から、品種、量目、値段、保存の仕方、届け方をそろえる
  • 作業日誌から、その品目に使った農薬と肥料の記録を拾う
  • 有機JASの認証を受けているかを台帳の欄で持ち、受けていない品目には「有機」「オーガニック」を使えない印を付ける

3. 下書きする:AIが3つの説明を書く。 AIに、代表の話と、そろえた事実を渡し、3つの下書きを作らせます。

  • 直売所の札:品目の名前と、その年の様子と、食べ方を3行で
  • ネットの商品ページ:畑の様子、品種の特徴、食べ方、保存の仕方、届け方
  • 飲食店への案内:今年の出来、出せる量と時期、料理に合う使い方

代表が話していないこと(味の数字、受賞、体に良いという話)は書かせません。

4. 照らして確かめる:言葉の一覧で照らし、代表が確かめて出す。 下書きを、使ってはいけない言葉の一覧で照らし、当たった言葉に印を付けます。代表が、印の言葉を直し、中身が本当かを確かめてから、札を書き、ページに載せ、案内を送ります。

書き方をスキルにし、言葉の決まりはAIの外で守る

この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

3つの説明の型と農園の言葉を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。

  • 説明の型:札、商品ページ、飲食店への案内、それぞれの長さと並べ方
  • 農園の言葉:品目の呼び方、畑のある土地の名前、農園らしい言葉づかいの見本を3つ
  • 書いてはいけないこと:話していない味や数字、受賞の話、体に効くという言い方、ほかの農家と比べる言い方

使ってはいけない言葉の一覧は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、品目の台帳と作業日誌から事実をそろえること、使ってはいけない言葉の一覧で下書きを照らすことが、それに当たります。一覧には、「無農薬」「減農薬」「無化学肥料」「減化学肥料」と、認証を受けていない品目の「有機」「オーガニック」を入れます。スキルに「書かない」と書いても、AIが書いてしまうことがあるので、最後は一覧で照らします。

栽培の書き方は、日誌の記録と合っているものだけにする

農薬や肥料の使い方を説明に書くときは、作業日誌の記録と合っているものだけにします。

  • 日誌にその品目への農薬の記録がなければ、ガイドラインの言い方(「農薬:栽培期間中不使用」)を使えるか、代表がガイドラインの原本で確かめてから書きます
  • 日誌に記録がある品目は、栽培の書き方に触れない説明にします
  • 特別栽培の表示をするときは、ガイドラインが決めた表示の仕方があります。この仕組みでは、その表示はAIに書かせず、代表が原本に沿って書きます

作業日誌を話した一言から作る仕組みは、去年の今ごろの作業が分かる。話した一言からAIが農作業日誌を整える仕組みで説明しています。日誌が残っていると、説明に書いてよいことを確かめる材料にもなります。

代表の仕事は、中身が本当かを確かめることになる

仕組みが入ると、商品の説明は次のように変わります(想定です)。

今まで 仕組みが入ったあと
説明の中身 去年と同じものを使い回す その年の畑の様子が入る
書く手間 代表が夜に一から書く 1品目1分話して、下書きを確かめる
3つの売り先 札だけ、またはどれかが抜ける 札、ページ、案内がそろう
言葉の決まり 書いた人の知識に頼る 言葉の一覧で照らす
栽培の書き方 記憶で書く 作業日誌の記録と照らす

経営への効果は、自分で値段を決める売り先を育てること

効果は、前提を置いて計算します。仮に、収穫の時期に、10品目について3つの説明を書いていて、1本に20分かかっていたものが、確かめて直す7分になれば、1本13分が浮きます。月30本で約6.5時間、1時間あたりの人件費を仮に2,000円として月約1万3,000円分です。収穫の時期だけの効果です。

ただ、大きいのは時間ではありません。直売所やネット、飲食店は、市場に出すのと違い、自分で値段を決めて売れる売り先です。その年の様子が書かれた説明は、買う人が選ぶ手がかりになり、飲食店には今年の出来を早く伝えられます。代表が説明を書く夜の時間が減れば、畑と売り先との話に時間を使えます。言葉の決まりを守ることは、売り先からの信頼を守ることでもあります。

費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月30円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 3つの説明の型と、書いてはいけないことを決める(農園:代表、半日)。ここがいちばん大事です
  2. 使ってはいけない言葉の一覧と、品目の台帳の欄(認証の有無を含む)を決める(農園:代表、1時間)
  3. 代表の話と台帳と日誌をそろえる仕組みを作る(作る人、0.5人日)
  4. AIの下書きと、言葉の一覧での照らし合わせを作る(作る人、0.5人日)
  5. ひと月、実際の品目で試して直す(作る人、0.5人日)

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜5で、作る側の目安は合計1.5人日です。

毎月の費用

費用 中身 想定の農園での目安
AIの利用料 1品目の3つの説明の下書きごとにかかる 月10品目で30円ほど(下の計算)
台帳・日誌・スマホ すでに使っているもの 追加0円の想定
保守 型と言葉の一覧と台帳の更新 月1時間

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1品目あたり代表の話とそろえた事実とスキルで3,000トークンを読ませ、3つの説明で1,200トークンを書かせると見積もると、0.018ドル、1ドル150円で約2.7円です。月10品目で約30円です。

何か月で取り戻せるか

取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)

仮に作る費用が9万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を約2,000円とすると、月約1万3,000円分が浮く農園で、収穫の時期のおよそ8.2か月分です。収穫の時期が年に数か月の農園では、時間だけで取り戻すには年をまたぎます。品目が少ない農園なら、型と言葉の一覧だけを作り、農園で契約したAIのチャットに話したメモと台帳を貼って下書きさせ、言葉の一覧を見ながら確かめるやり方で十分です。

必要な人は3役で、本当かを決めるのは代表

役 誰が すること 時間
話して確かめる人 代表 品目ごとに話し、下書きの中身と印の言葉を確かめて出す 1品目1分と1本7分
台帳を保つ人 事務の担当者 品目の台帳と言葉の一覧を保つ 月30分
作る人 社内の詳しい人か、外の作り手 そろえる仕組み、下書き、言葉の照らし合わせを作る 最初の1.5人日

いちばん大事なのは、作業日誌を毎日残すことです。日誌がないと、栽培の書き方が本当かを確かめられません。

1か月で型がそろい、1年で売り先ごとの変化が分かる見込み

どこまでいけるかは、品目の台帳と作業日誌がどれだけそろうかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の1か月 実際の品目で試す。印が付いた言葉と、代表が直した言い回しを型に足す
収穫の時期を1回 3つの説明がそろって出せる。飲食店への案内が収穫の前に届く
1年 直売所とネットの売れ行きと、飲食店からの注文を、品目ごとに前の年と比べられる

効果を確かめるには、次の3つを記録します。

  • 説明を出すまでの時間:品目ごとに記録します
  • 品目ごとの直売所とネットの売れ行き:前の年の同じ時期と比べます
  • 言葉の一覧で印が付いた数:型と一覧を見直す材料にします

言葉の決まりをAIに任せると失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • AIが「無農薬」「有機」と書く。 言葉の一覧で照らし、認証のない品目の「有機」も止めます
  • 話していない味や数字をAIが書く。 糖度などの数字は、測った記録がある品目だけ、台帳から差し込みます
  • 体に良いという言い方をする。 スキルの「書いてはいけないこと」に入れ、代表も確かめます
  • 去年の台帳のまま説明を作る。 品種や量目、値段が変わったら、その日に台帳を直します

売り先の飲食店の名前や担当者の連絡先は、外に出してはいけない情報です。農園で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、どこまでAIに渡すかを農園の決まりに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。

まとめ

  • 収穫の時期に、代表が品目ごとに畑の様子を一言ずつ話し、写真を撮る
  • 品種や量目、値段は品目の台帳から、農薬や肥料の使い方は作業日誌から、計算でそろえる
  • AIが直売所の札、ネットの商品ページ、飲食店への案内を下書きする
  • 「無農薬」「減農薬」と、認証のない「有機」は、使ってはいけない言葉の一覧で照らして止め、代表が中身を確かめて出す
  • 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は1.5人日。AIの利用料は月30円ほど

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