警備の依頼に当日中に提案を返す。現場の条件からAIが提案の文を下書き
この記事で変わる経営指標
この記事では、小さな警備会社の人手不足をAIで補う。配置の連絡と報告書を速くするの「見積と提案は、現場の条件からAIが下書きする」を、仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、工事会社やイベントの主催者から依頼が来たら、現場の条件を受付の表に入れる。検定に合格した警備員を置く必要がある道路かどうかは、路線の一覧で確かめる。人数と金額は、過去の実績の表と単価表から社長が決める。そのうえで、AIが提案の文を下書きし、社長が確かめて送るという形です。夜に書いていた提案を、依頼の当日に返せるようにします。
小さな警備会社が多く、依頼への返事の速さで差がつく
親の記事で触れたとおり、警察庁の「令和7年における警備業の概況」によると、2025年末の警備員は59万6,985人です。警備員が100人未満の業者が9,885業者で、全体の90.3%を占めています(ALSOKが掲載する同じ資料でも確かめられます)。ほとんどの警備会社は小さな会社です。
工事会社やイベントの主催者は、何社かに声をかけて比べることもあります。小さな警備会社では、社長が現場の配置と隊員の連絡を回しながら、合間に提案と見積を書いています。返事が数日後になれば、その間にほかの会社に決まってしまうかもしれません。提案の質をそろえたまま、返事を早くすることが、受注を増やす近道です。
今は提案が、社長の頭の中の相場と夜の書きものになっている
多くの小さな警備会社では、依頼への返事が次のように作られています。
- 電話やメールで依頼を受け、場所、期間、時間帯をメモする
- 社長が現場を思い浮かべ、必要な人数を頭の中で決める
- 夜に、過去の提案を探して書き直し、見積の金額を入れる
- 翌日以降に返事をする。急ぎの依頼には間に合わないことがある
提案の言い回しが毎回違い、会社として何を大事にしているかが伝わりにくくなります。社長が休むと、依頼への返事が止まります。
条件を入れ、決まりを確かめ、人数と金額を決め、AIが書く
仕組みは4つの段でできています。
1. 入れる:現場の条件を受付の表に入れる。 依頼を受けた人が、決まった項目を表に入れます。
- 依頼主、場所(道路の名前と区間、施設の名前)
- 期間、時間帯(昼か夜か、何日か)
- 業務の種類(工事の交通誘導、イベントの雑踏、施設)
- 現場の様子(車線を減らすか、片側を通行止めにするか、人の流れ、駐車場の出入り)
- 依頼主の希望(「近隣への配慮を重視」「夜間の照明が心配」)
2. 確かめる:検定に合格した警備員が要る道路かを確かめる。 ここはAIの仕事ではなく、一覧との照らし合わせです。警備業法に基づく規則では、高速自動車国道や自動車専用道路のほか、都道府県の公安委員会が認める道路で交通誘導の警備をする場合、交通誘導警備業務の1級か2級の検定に合格した警備員を、警備をする場所ごとに1人以上置くことになっています(警視庁の配置基準の案内による)。広島県警察の案内でも、置かずに警備をした場合は行政処分の対象になると説明されています。
公安委員会が認める道路(認定路線)は都道府県ごとに決まっていて、見直されることもあります。社内に、営業する地域の認定路線の一覧を置き、受付の表の場所と照らして、該当するものに印を付けます。
3. 決める:人数と金額は、実績の表と単価表から社長が決める。 過去の似た現場の人数を実績の表から引き、社長が今回の人数を決めます。金額は単価表から計算します。検定合格者が要る現場では、その分の単価も反映します。
4. 下書きする:AIが提案の文を書き、社長が確かめて送る。 AIに、受付の表と、社長が決めた人数と配置の考え方(金額は入れずに)と、過去の提案の見本を渡し、提案の文を下書きさせます。社長が読んで直し、見積書と一緒に送ります。
提案の型をスキルにし、資格の確かめと金額はAIの外に置く
この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
提案の型と会社の言葉を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 提案の型:現場の理解、配置の考え方、安全と近隣への配慮、当日の連絡の体制、見積の前提、の順で書く
- 過去の提案の見本:業務の種類ごとに、社長が良いと思う提案を3つずつ
- 会社の言葉:業務の呼び方、配置図の書き方、安全の取り組みの言い方
- 書いてはいけないこと:人数と金額、資格者の有無の断定、事故が起きないという約束、他社を下げる言い方
資格の確かめと金額は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、検定合格者が要る道路かを路線の一覧で照らすこと、人数と金額を実績の表と単価表から入れること、提案の文に入った人数が社長の決めた人数と一致しているかを照らすことが、それに当たります。資格の要る現場を見落とせば、行政処分につながりかねません。AIの一般論に頼らず、公安委員会の告示をもとにした一覧で確かめます。
提案の文は、依頼主の心配に答える形にする
提案の文で大事なのは、依頼主の心配に一つずつ答えることです。
- 「近隣への配慮を重視」と言われたら、出入りの時間帯の誘導の仕方と、近隣からの声への対応の仕方を書きます
- 「夜間の照明が心配」と言われたら、隊員の装備と、立つ位置の考え方を書きます
- 見積の前提(時間帯、日数、雨の日の扱い、追加になる条件)をはっきり書きます
社長が現場を見に行けたときは、その写真とメモも渡すと、提案が具体的になります。配置が決まったあとの隊員への連絡は、翌日の配置が隊員に夕方届く。配置表からAIが一人ずつ連絡を下書きする仕組みで説明しています。
社長の仕事は、人数と金額を決め、下書きを確かめることになる
仕組みが入ると、依頼への返事は次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 条件の聞き取り | その場のメモ | 受付の表の決まった項目 |
| 資格の要る道路か | 社長の記憶 | 路線の一覧で照らし、印が付く |
| 人数と金額 | 社長の頭の中の相場 | 実績の表と単価表から社長が決める |
| 提案の文 | 夜に過去の提案を書き直す | AIの下書きを確かめて直す |
| 返事の時期 | 翌日以降 | 依頼の当日 |
経営への効果は、取りこぼす依頼が減ること
効果は、前提を置いて計算します。仮に、1件の提案を書くのに60分かかっていたものが、下書きを確かめて直す20分になれば、1件40分が浮きます。月20件の依頼がある会社なら月約13時間、1時間あたりの人件費を仮に2,500円として月約3万3,000円分です。
ただ、大きいのは時間だけではありません。依頼の当日に提案が返れば、比べている依頼主に先に検討してもらえます。提案の言い方がそろえば、会社として何を大事にしているかが伝わります。受付の表と実績の表があれば、社長以外の人でも依頼を受け付けられます。警備報告書を早く届ける仕組みは、警備報告書は勤務のあと1分で。隊員の一言からAIが下書きする仕組みで説明しています。
費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月100円ほど
作る順番と、かかる日数
- 受付の表の項目と、提案の型と、書いてはいけないことを決め、過去の提案の見本を選ぶ(会社:社長、半日〜1日)。ここがいちばん大事です
- 営業する地域の認定路線の一覧と、過去の現場の人数の実績の表を作る(会社:社長と事務、1日)
- 受付の表と路線の一覧の照らし合わせと、人数と金額の差し込みを作る(作る人、1人日)
- AIの提案の下書きと、人数の照らし合わせを作る(作る人、1人日)
- 1か月、実際の依頼で試して直す(作る人、0.5人日)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
上の手順3〜5で、作る側の目安は合計2.5人日です。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 1件の提案の下書きごとにかかる | 月20件で100円ほど(下の計算) |
| 表計算 | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 保守 | 提案の型と見本、認定路線の一覧の更新 | 月1時間 |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1件あたり受付の表と見本とスキルで8,000トークンを読ませ、1,500トークンを書かせると見積もると、0.031ドル、1ドル150円で約4.7円です。月20件で100円ほどです。
何か月で取り戻せるか
取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)
仮に作る費用が15万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を約2,600円とすると、月約3万3,000円分が浮く会社でおよそ4.9か月です。依頼が月に数件の会社なら、受付の表と提案の型だけ作り、会社で契約したAIのチャットに表を貼って下書きさせるやり方で十分です。そのときも、資格の要る道路の確かめと、人数と金額は社長が行います。
必要な人は3役で、人数と金額を決めるのは社長
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 受け付ける人 | 事務か社長 | 受付の表に条件を入れる | 1件10分 |
| 決めて確かめる人 | 社長 | 資格の要る道路の印を見て、人数と金額を決め、下書きを直して送る | 1件20分 |
| 作る人 | 社内の詳しい人か、外の作り手 | 照らし合わせ、差し込み、下書きを作る | 最初の2.5人日 |
いちばん大事なのは、認定路線の一覧を新しく保つことです。公安委員会の告示で路線が見直されたら、その月のうちに一覧を直します。
1か月で受付の表がそろい、半年で受注の変化が分かる見込み
どこまでいけるかは、実績の表と提案の見本がどれだけそろうかで決まります。目安は次のとおりです。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の1か月 | 実際の依頼で試す。受付の表に足りない項目を足す |
| 3か月 | 業務の種類ごとの見本がそろう。社長以外も受け付けられる |
| 半年 | 返事までの日数と、提案から受注になった割合を、仕組みの前と比べられる |
効果を確かめるには、次の3つを記録します。
- 依頼から提案を返すまでの時間:件ごとに記録します
- 提案から受注になった件数:月ごとに数えます
- 断られた理由:聞けたものは一覧に残します
資格の確かめや金額をAIに任せると失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- 検定合格者が要る道路かをAIに判断させる。 公安委員会の告示をもとにした路線の一覧で照らします
- 人数と金額をAIに書かせる。 実績の表と単価表から社長が決めて入れます
- 安全を約束する言い方が混ざる。 「事故は起きません」などは書いてはいけないことに入れます
- 認定路線の一覧を更新しない。 告示の見直しを確かめ、一覧を直します
依頼主の情報や現場の場所は、外に出してはいけない情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内の決まりに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。
まとめ
- 依頼が来たら、場所、期間、時間帯、業務の種類、現場の様子、依頼主の希望を受付の表に入れる
- 検定に合格した警備員が要る道路かは、認定路線の一覧で照らして印を付ける
- 人数と金額は、過去の実績の表と単価表から社長が決める
- AIが依頼主の心配に答える形で提案の文を下書きし、社長が確かめて見積書と一緒に当日中に送る
- 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は2.5人日。AIの利用料は月100円ほど