退去の報告を立会いの日に送る。写真とメモからAIがオーナー報告を下書き
この記事で変わる経営指標
この記事では、小さな賃貸管理会社の事務をAIで減らす。入居者の対応とオーナー報告を速くの「退去の報告は、立会いの写真とメモからAIが下書きする」を、仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、退去の立会いで、部屋ごとに決まった順番で写真を撮り、気づいたことをスマホに話して残す。AIが写真とメモから、部屋ごとの傷みの一覧と、オーナーへの報告と、入居者への説明の下書きを作る。原状回復の費用を誰が負担するかは、契約とガイドラインを確かめて担当者と社長が決め、金額は見積から入れるという形です。夜に事務所で整理していた立会いの記録を、立会いの日のうちに報告の形にします。
退去の精算は、説明の仕方でもめごとになりやすい
民法では、賃借人(入居者)は、借りたあとに生じた損傷を、退去のときに元に戻す義務を負います。ただし、ふつうに住んでいて生じた傷みと、年数がたって生じた傷みは除かれます(民法第621条)。国土交通省の資料でも、2020年4月に施行された改正民法でこのルールが明文化されたと説明されています。
国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で、費用の負担の一般的な考え方を示しています。ガイドラインは使用を強制するものではなく、最終的には契約の内容や使い方によって個別に判断されるものとされています。年数がたった設備ほど、入居者の負担の割合を下げるのが適当とも書かれています。
つまり、退去の精算は、「どの傷みが、ふつうに住んで生じたものか」を一つずつ確かめ、根拠をつけて説明する仕事です。説明が足りないと、入居者からもオーナーからも不満が出ます。管理会社にとっては、両方からの信頼に関わる仕事です。
今は立会いの記録を、夜に事務所で整理している
多くの小さな賃貸管理会社では、退去の立会いが次のように進みます。
- 担当者が立会いに行き、部屋を見て回りながら写真を撮り、紙にメモする
- 事務所に戻り、夜に写真を部屋ごとに整理し、メモを清書する
- 修繕の見積を取り、オーナーに報告を書き、入居者に精算の説明を書く
- 立会いから報告まで数日かかり、その間にオーナーから「どうなっていますか」と電話が来る
写真が多く、どの写真がどの傷みのものか、あとで分からなくなることもあります。説明の書き方が担当者ごとに違い、入居者への説明に差が出ます。
撮り、話し、AIが書き、人が負担を決める
仕組みは4つの段でできています。
1. 撮る:部屋ごとに、決まった順番で写真を撮る。 玄関、台所、洋室、浴室、トイレ、と部屋の順番を決めておき、その順番で撮ります。部屋に入るたびに、まず全体を1枚撮ってから、傷みのあるところを近くで撮ります。こうしておくと、どの写真がどの部屋のものかが分かります。
2. 話す:気づいたことを、その場でスマホに話す。 写真を撮りながら、担当者が気づいたことを話して残します。
- どこに、どんな傷みがあるか(「洋室の壁紙、家具の跡が2か所」「台所の床、焦げ跡1か所、直径3センチほど」)
- 入居者がその場で話したこと(「焦げ跡は鍋を落としたと話していた」)
- 設備の動き(「エアコン、動作は問題なし」)
3. 下書きする:AIが傷みの一覧と、報告と説明を書く。 AIに、写真とメモと、物件の情報(入居の年月、設備を入れた年)を渡し、次のものを下書きさせます。
- 部屋ごとの傷みの一覧(場所、中身、写真の番号)
- オーナーへの報告(立会いの日、部屋の様子、修繕が要りそうなところ)
- 入居者への説明の下書き(傷みの一覧と、精算の進め方)
4. 決める:負担と金額は、人が決めて入れる。 担当者と社長が、傷みの一覧を見て、どれを誰が負担するかを、契約とガイドラインを確かめて決めます。金額は修繕の見積から入れます。決まったものだけを、報告と説明に書き足して送ります。
傷みの言葉をスキルにし、負担の判断はAIの外に置く
この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
報告の型と傷みの言葉を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 報告の型:オーナーへの報告と、入居者への説明の見出しと順番
- 傷みの言葉:壁紙、床、建具、設備の傷みの書き方(「汚れ」「傷」「へこみ」「焦げ」「破れ」など)。会社で言葉をそろえる
- 書いてはいけないこと:負担を誰がするかの判断、金額、入居者の使い方の決めつけ(「乱暴に使った」など)、メモにないこと
負担の判断と金額は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、負担の欄を空けたまま下書きさせ、担当者と社長が決めたものだけを入れること、金額は見積の表から入れること、入居の年月と設備を入れた年は物件の台帳から入れることが、それに当たります。設備の年数は、ガイドラインの考え方で負担の割合に関わります。AIに推測させず、台帳の数字を使います。
入居者への説明は、傷みの事実と根拠から書く
入居者への説明で大事なのは、事実と根拠を分けて書くことです。
- 傷みの事実は、写真の番号と一緒に書きます(「洋室の壁紙、家具の跡2か所。写真5、6」)
- 負担の判断は、契約のどの条文と、ガイドラインのどの考え方によるかを書きます
- ふつうに住んで生じた傷みや、年数がたって生じた傷みは、入居者の負担にならないことも、はっきり書きます
説明がそろうと、入居者が納得しやすくなり、問い合わせや行き違いが減ります。オーナーへの毎月の報告の作り方は、オーナー報告を月末の夜に書かない。台帳と対応の記録からAIが下書きで説明しています。
担当者の仕事は、撮って話し、負担を決めることになる
仕組みが入ると、退去の報告は次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 写真の整理 | 夜に事務所で部屋ごとに分ける | 決まった順番で撮るので分かれている |
| メモ | 紙に書いて清書する | その場で話して残す |
| オーナーへの報告 | 数日後 | 立会いの日に第一報、見積のあとに確定 |
| 入居者への説明 | 担当者ごとに書き方が違う | 型がそろい、写真の番号と根拠がつく |
| 負担の判断 | 担当者が決める | 担当者と社長が、契約とガイドラインを確かめて決める |
経営への効果は、オーナーと入居者の両方からの信頼
効果は、前提を置いて計算します。仮に、1件の退去の報告と説明を書くのに60分かかっていたものが、下書きを確かめて負担と金額を入れる20分になれば、1件40分が浮きます。月20件の退去がある会社なら月約13時間、1時間あたりの人件費を仮に2,500円として月約3万3,000円分です。
ただ、大きいのは時間だけではありません。立会いの日に第一報が届けば、オーナーは次の募集の準備を早く始められ、空室の期間を短くできます。入居者への説明が根拠つきでそろえば、精算をめぐる行き違いが減ります。管理会社にとって、オーナーからの信頼は管理を任され続けることに、入居者からの評判は次の入居者の紹介や口コミにつながります。写真とメモから報告を作る考え方は、工務店の例ですが現場写真からAIが施主への報告を書き、監督の残業を減らす方法でも説明しています。
費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月200円ほど
作る順番と、かかる日数
- 撮る順番と、報告の型と、傷みの言葉と、書いてはいけないことを決める(会社:社長と担当者、半日)。ここがいちばん大事です
- 物件の台帳に、入居の年月と設備を入れた年が入っているかを確かめる(会社:事務、半日〜1日)
- 写真と話したメモを受け取り、台帳の情報と合わせてAIに渡す仕組みを作る(作る人、1人日)
- AIの下書きと、負担の欄を空けたままの報告と説明の形と、見積からの金額の差し込みを作る(作る人、1人日)
- 1か月、担当者1人で試して直す(作る人、0.5人日)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
上の手順3〜5で、作る側の目安は合計2.5人日です。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 1件の退去の下書きごとにかかる | 月20件で200円ほど(下の計算) |
| スマホ・台帳 | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 保守 | 報告の型と傷みの言葉の更新 | 月1時間 |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。写真は1枚あたり、横1,000×縦750の大きさで約1,000トークンです。1件あたり写真20枚とメモとスキルで24,000トークンを読ませ、2,000トークンを書かせると見積もると、0.068ドル、1ドル150円で約10円です。月20件で200円ほどです。
何か月で取り戻せるか
取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)
仮に作る費用が15万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を約2,700円とすると、月約3万3,000円分が浮く会社でおよそ4.9か月です。退去が月に数件の会社なら、報告の型と傷みの言葉をスキルにして、会社で契約したAIのチャットに写真とメモを貼って下書きさせるやり方で十分です。
必要な人は3役で、負担を決めるのは担当者と社長
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 撮って話す人 | 担当者 | 決まった順番で撮り、気づいたことを話す。下書きを確かめる | 1件20分 |
| 負担を決める人 | 担当者と社長 | 契約とガイドラインを確かめ、負担と金額を決める | 1件10分ほど |
| 作る人 | 社内の詳しい人か、外の作り手 | 受け取り、台帳との合わせ、下書きの形を作る | 最初の2.5人日 |
いちばん大事なのは、負担の判断を担当者一人で決めず、社長と一緒に確かめることです。判断がそろえば、入居者ごとの説明の差がなくなります。
1か月で型がそろい、半年で行き違いの変化が分かる見込み
どこまでいけるかは、撮る順番と話すメモが定着するかで決まります。目安は次のとおりです。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の1か月 | 担当者1人で試す。下書きで直したところを型と言葉に足す |
| 3か月 | 担当者の全員に広がる。立会いの日の第一報が当たり前になる |
| 半年 | 立会いから報告までの日数と、精算での行き違いの件数を、仕組みの前と比べられる |
効果を確かめるには、次の3つを記録します。
- 立会いからオーナーへの第一報までの日数:件ごとに記録します
- 報告と説明にかかった時間:担当者の時間を記録します
- 精算で入居者から問い合わせや異議があった件数:仕組みの前と比べます
負担や金額をAIに決めさせると失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- 負担を誰がするかをAIに決めさせる。 負担の欄は空けたまま下書きさせ、担当者と社長が契約とガイドラインを確かめて決めます
- 金額をAIに書かせる。 金額は見積の表から入れます
- 設備の年数を推測させる。 入居の年月と設備を入れた年は、台帳から入れます
- 入居者の使い方を決めつける言葉を書かせる。 事実と写真の番号だけを書き、評価の言葉は使いません
入居者の名前や写真には、外に出してはいけない情報が含まれます。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内の決まりに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。
まとめ
- 退去の立会いで、部屋ごとに決まった順番で写真を撮り、気づいたことをその場で話して残す
- AIが写真とメモから、部屋ごとの傷みの一覧と、オーナーへの報告と、入居者への説明を下書きする
- 原状回復の費用を誰が負担するかは、民法とガイドラインと契約を確かめて担当者と社長が決め、金額は見積から、設備の年数は台帳から入れる
- 入居者への説明は、傷みの事実と写真の番号と根拠を分けて書く
- 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は2.5人日。AIの利用料は月200円ほど